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過去への罪と罰

瞼が重い…こんなに目を開けるのが大変なんて…

下半身がなんだかものすごく重い…

無理矢理こじ開けるように、私は目を開ける。

目の前に優介が泣きはらした顔をして私を見ていた。

「気がついたか?」

優介の言葉に、私はしばらく状況が把握できなかった。

記憶を手繰り寄せながら考える。

そして、今朝、いきなり下腹部に激痛を感じて倒れてしまった事を思い出した。

「私、どうなったの?」

私のその質問に、優介は悲しく苦しい表情を見せる。

この表情から想像すると、あまりいい状態ではない事は確か…よね!?

「私の体、そんなに悪いの?」

自分の体なんかどうでもいい…でも残される優介が心配だった。

「…大丈夫だよ、命に関わる事はないから」

優介はそこまで言うと、口をつぐんでしまう。

どうして?死ぬような病状じゃないんだとしたら、その表情はどうしてなの?

「優介、はっきり言ってよ」

私は次に優介の口から発せられる非情な現実の事など何も知らずに軽く聞いた。

優介は私の手を力強く握って俯くと、深呼吸をして顔を上げた

「子宮外妊娠だった…それで…それでな…子宮を摘出したんだ」

優介の瞳は私の心の奥底を心配するかのように震えていた。

私は優介の言葉を把握するのに数秒かかった。

子宮外妊娠!?…子宮摘出!?…

う…そ…

心臓がズシーンと重くなって、胃が押し潰されそうな感覚に陥る…吐き気がする。

そして記憶の隅っこに隠れていた知識が蘇る…人工中絶のリスク

ああ…そうか…ここにきてあの時の罰が下った。

心はもの凄く重い、喉の奥が締め付けられるように苦しい…

体は悲鳴をあげてるのに不思議と涙が出なかった。

「大丈夫か?」

優介の優しい声が耳元で響く。

泣きはらした顔は、そうゆう事だったのか…優介をまた苦しめてしまった…。

「大丈夫、私は大丈夫だから、だから優介は仕事に行って」

私はできるだけ気丈に振舞った。

せっかく服部の事がおちついて仕事が心置きなくできるようになったのに、今のチャンスを逃して欲しくなかった。

そう…これは表向きの理由

本当は、辛かった…ごめん…優介に傍にいられる事が辛かった。

「心配するな、仕事の事はちゃんと電話で理由を話しておいたから」

そうだよね。私が反対の立場だったら、優介を放っておけるわけがない。

だから優介の気持ちも十分すぎるほど分かっていた、だけど今の私にはその気持ちが重くて、どうにもならないほど辛かった。

「…参っちゃたな…ここにきて罰があたるなんて」

私はなんとなくそんな言葉を口にしていた。

「罰?罰ってなんだ?」

優介は私の顔を覗き込んでそう聞いてきた。

「一つの命を故意に消してしまった罰…」

乗り越えたはずの過去がここにきて、自分に重くのしかかってくる。

優介が私の手に口づけをする

「そんな事を言うな…お前は…悪くないんだから」

優介はそう言いながら私の髪の毛を掻き揚げる

「そもそもの原因は、あのヤロウだろう」

優介は唇を噛み締めながら、横に目を逸らす。怒りに包まれてるように見えた。

私は優介の手を握る、すると優介が私の表情を伺うようにこっちを見た

「ねえ、義父の事はもう忘れて!と言っても難しい事かもしれないけれど、人を恨む事はとても辛くて苦しいことよ、それは私がよく知っている、恨んでも何の解決にもならないもの、だからお願い」

私は優介の手を力一杯に握り締めて言った。

優介は私の顔を見つめながらため息を一つつき、悲しい笑みを浮かべていた。

「過去は変えられない、変えられるのは未来だけ、だから未来のことを考えて行こう!…お前ならこう言うよな?わかった…わかったから」

優介の言葉、未来を考えよう…そうだね、未来を考えなくちゃね…。

「そう未来の事を考えて、今を生きなくちゃいけないのよね」

今までと違う状況の中で、私の思いが少し変わろうとしていた…。

私の未来、優介の未来、何が一番いい選択なのか、このまま結婚してもいいのか、優介と一緒にいる事が私の幸せなのか、今までそれが幸せだと信じていたものに対して自信をなくしつつあった。


麻酔が切れてきて少しずつ痛みが増してくる。

「優介、悪いんだけど、今日は1人にしてくれないかな…私は大丈夫だから」

私はそう言ったけれど、優介はなかなか帰ろうとはしなかった。

でも少し1人になって色々と考えたかった…それに痛みが増してきてそんな痛がる姿を見せたくなかった…

だって、優介が心配するでしょう…だから傍にいてほしくなかった…。

優介をなんとか説得して、やっと優介が重い腰を上げる

「メールするから、かならず返事しろよ!約束だぞ!」

優介が私の小指と自分の小指を結んで無理矢理指切りをする。

イタタタ…痛くなってきた…

私は無理矢理笑みを作って、優介を送り出す。


優介がいなくなった病室の天井を見つめる。

大きく深呼吸をしてみる。

今まで必死に堪えていた何かが一気に噴出して来てそれを止める事ができない。

頬を伝って、涙が流れ落ちた…。


これから…どうしたらいいの…

私の中にそれは大きな課題として重くのしかかってきた。

子宮外妊娠の要因は色々あり、一つに特定することは難しい、だが麻未のように人工中絶をした経験があるとその可能性は高くなる…

麻未の中で、一つの命を故意に消してしまったとゆう過去はずっと自分の中で罪として感じていた。

これから麻未と優介はどうなるのだろう…


麻未の心の中にどんな動きがあるのか…

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