突きつけられた非情な現実
あれ!?俺の腕が無い?
いや、違う…ずっと腕枕で寝ていたから腕がしびれて、感覚が無くなってるだけだった…。
自分の腕が自分のものじゃないみたいだ…。
俺はそっと自分の腕から麻未の頭をずらして、枕に乗せる…
麻未は寝返りをしながら布団に抱きつく…なんとなくいたずらしたくなって
麻未の鼻をツンツンと突っついてみる。
鼻をモソモソとさせながらクシャミしそうな顔になる。
クククク…可愛いな…
布団から出た肩から腕、そして背中にカーテンから透けた日差しが当たって、より一層白い肌を白く輝かせていた。
左手の薬指にはしっかりと指輪がはめられている…。
それを見て俺は自然と微笑んでいる自分に気付く。
これから麻未と結婚して一緒の生活していく…麻未のとぼけた笑顔を見ながら暮らせる…。
それを考えるだけで、自然と顔が緩んでいくのが自分でもわかった。
「う…ん…」
麻未が目を擦りながら、俺の方に寝が返りをうつ…
「優介…おはよう…」
麻未は寝ぼけた声でそう言いながら、上半身を起こす。
布団が下にずり落ちて、麻未の小さな胸が露になる。
朝日を浴びて、髪の毛から覗く白い肌が、とても色っぽく見えた。
「さあ、もっとゆっくりしてたいけど、仕事だからな…」
俺はそう言って、麻未の額にキスをするとベッドから降りてシャワーを浴びに行く。
この時、シャワーの音でベッドの上にいた麻未の異変にすぐに気づく事が出来なかった。
俺はシャワーを浴び終ると、腰にタオルを巻いてバスルームを出た…
そして目の前の光景に息を呑む!
麻未が血だらけで倒れていた…。
麻未の下半身が血だらけになっていて、腹部を押さえながら苦痛に顔を歪めていた!
「麻未!?」
名前を呼ぶけれど、麻未からの応答は無い。
とにかくこのままじゃ駄目だ!服を着せてあげないと…俺はパニックになりそうになるのを自分に必死に言い聞かせながらなんとか冷静さを保っていた。
「待ってろ!今救急車呼ぶからな!」
俺はそう叫びながら急いで自分も服を着た。
急いでロビーに電話をして救急車を呼んでもらった!
俺は麻未の傍でどうすることも出来ないでいた…ただただ苦痛に歪む表情を見ながら麻未の手を握って
「大丈夫…大丈夫だからな…」
そう言うしかなかった。
救急車の音が聞こえてきて、すぐに部屋に救急隊員が入ってきた。
麻未をタンカに乗せて運んでいく。
俺も付き添って、救急車に乗り込む。
隊員に色々な事を聞かれた。
生年月日、名前、血液型、症状とそして…中絶の有無…。
この最後の質問の重大さは後になってハッキリする。
病院までの距離が長く感じた。
それまでの間にも麻未の顔色は悪くなっていくし、意識もハッキリしなくなってくる。
そんな中でも麻未はうわごとの様に
「仕事に行って…」
俺にそればかり言っていた…
こんな状態の麻未をほったらかして仕事にいけるはずが無い。
病院に着くとすぐに処置室へと運ばれた。
俺はただ廊下でたたずむ…
処置室から医者が出てきて、俺の方に険しい顔で近付いてくる。
「ご家族の方ですか?」
「婚約者です」
そう俺が言うと、医者は眉間にしわを寄せて口を開いた。
「子宮外妊娠ですね!出血も多くてかなり危険な状態です、これから子宮の摘出手術を行います…よろしいですね?」
その問いは答えはもう決まってるってゆう問いかけだよな?
俺は麻未の症状の説明を把握できないままただ頷いた。
子宮外妊娠…危険な状態だって?
子宮を摘出?…子宮を摘出って?…
俺は事の重大さに愕然となる…
あまりにも非情な現実が不安となって俺の中に入り込んできて、立ってることも出来ずその場に崩れるように座り込んでしまった…。
心臓はもの凄い勢いで動き、耳の血管までが心臓の動きと連動して脈打つのがわかるくらいだった。
想像していなかった現実に、どうしていいか分からず、吐き気すらおぼえる。
助けてくれ…お願いだ…死なないでくれ…お願いします…どうかどうかお願いします。
俺は手を組みただただ祈る事しかできなかった。
手術の時間がとてつもなく長く感じた…。
どれくらいの時間が過ぎただろう…
やっと手術が終わり、麻未がストレッチャーで出てくる。
麻未は静かに目を閉じ眠っていた。
医者が俺の前に立つ…心臓が嫌になるほど高鳴っていた。
「大丈夫ですよ。出血が多くて危険な状態でしたが…手術は成功です」
医者のその言葉に俺の心臓の鼓動も少し落ち着く。
「ただ、先ほども言いましたが、子宮を摘出しましたので、これからの精神的なケアが重要となります…」
医者はそう言いながら目を伏せる。
何故だ?何故、麻未がこんな目に遭うんだ?
「なぜ子宮外妊娠なんて…」
俺は医者にそう聞いた
「一概には言えませんが…中絶の経験があるならそれが要因の一つにはなります」
医者のその言葉が俺の頭の中をグルグルを回る。
中絶…
麻未の義父の事が思い出される!
クソ!!
俺の中から沸々と麻未の義父に対しての怒りが込み上げ、血液が沸騰して鼻血が出るんじゃないかと思うくらい行き場の無い怒りが俺を支配する。
自分でも無意識にもの凄い声を張り上げていたような気がする。
それでも怒りは納まらず、拳を床に何度も叩き付けた。
医者と看護師に羽交い絞めにされながら止められた。
「いいですか!あなたの気持ちもわからなくはありませんが、一番辛いのは本人なんですよ!それを忘れてはいけません…目を覚ました時に貴方が傍にいてあげなければ…誰が心の支えになると言うんですか!しっかりしなさい!」
医者にそう怒鳴られて、一気に頭の先から氷水をかけられたように怒りが冷めていき、冷静になっていく…
頬を伝って涙が流れた…
自分でも何で泣いてるのかがよくわからなかった…自分が辛くて泣いてるのか、麻未の事を考えると苦しくて泣いてるのか…
ただとてつもない怒りと悲しみが入り混じって、自分でも処理し切れなかった。
俺は必死で一歩一歩踏みしめながら麻未の病室へと向った。
病室に入ると、麻未はまだ穏やかな表情で寝ていた…
俺は麻未の傍らに座ると、麻未の手を握った…。
助かってくれた…よかった…本当によかった…。
次から次へと自分の心の中で処理しきれない感情が涙になって溢れ出る。
俺は涙でぐちゃぐちゃになった顔で麻未を見つめてた。
握った手の薬指には指輪が濁りのない光を放ちながら輝いていた。
いきなりの急展開についてきていただけたかしら…
ちょっと不安なのですが…。
子宮外妊娠…人工中絶のリスクの一つですね。
子宮摘出によって、麻未の心に動きが…
優介と麻未はどうなっていくのか…
人を愛するとゆう事はどうゆう事なのか…。
そろそろクライマックスに近付きつつあります…。
どうかどうか、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。