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今のまま ありのままで…

佐倉はベッドの上で静かに寝ていた…。

ナイフは肩から胸にかけて突き刺さっていたが、幸い命に関わるものではなかった…。

まったく…いきなり飛び込んでいたと思ったら、俺を庇うなんて…

お前ってヤツは…心の中に言いようのない気持ちが込み上げる

佐倉の気持ちを知ってるだけに、今回の行動は理解できる…だけど俺の気持ちは…

はぁ〜…ため息の回数が無意識に増える…。


佐倉が眉間にしわを寄せながら目を開ける…

「優介…」

か細い声で佐倉は俺の名前を言う

「なぜ、お前があそこにいた?」

俺のその問いに、佐倉は弱々しく微笑む

「心配だったから…様子を見にいったの…でも良かった…優介に怪我がなくて」

佐倉のその言葉に俺の胸は締め付けられように痛んだ…

佐倉がどんなに俺の事を思ってくれているのか…それはわかる…だけど俺にはその気持ちに答えてやる事はできない…。

佐倉は俺の表情を見て苦笑する…。

「優介、帰って…もういいから…」

佐倉はそう言うと、真っ直ぐに天井を見上げた…。

「だけど…」

俺がそう言いかけた言葉を、佐倉は遮るように言葉を発する。

「なんのために此処にいるの?…優介が此処にいてくれるのは…私に悪いって思ってるから?それとも同情?…どっちにしても私が求めてる気持ちとは違うもの…そんな気持ちで傍にいてもらっても…辛いだけ…」

佐倉はそう言って、俺のいる方と反対の方に顔をそむける…微かに震えているように見えた…。

「佐倉…今日は…ありがとう…」

俺はそれだけ言うと、病室を後にした…。


 ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


佐倉さんの怪我が命に関わるものじゃなくて本当に良かった…。

私は病院のロビーでテレビを見ていた…。

昼間の事件がニュースでやっていた…服部の狂気に満ちたその写真が公開されていた。

記者達があんなに大勢いる中であんな事件を起こしてしまっては、もみ消す事など無理に違いない…本当に父親がもみ消してくれると思っていたんだろうか…。

あの時、服部は言っていた…優介が共演を断ったって…それが優介を恨む原因になったのかしら…

自分の仕事を全部とられたって…それは違う…ただ自分の演技が未熟なために周りが認めてくれなかっただけ…なまじ挫折を知らないから…自分の能力の無さを人のせいにしたかっただけ…たまたまそこに自分の思い通りにならなかった優介が存在した…。


え!?

不意に私の視界が手で塞がれる!

「…優介?」

「あったり〜!」

優介はそう言って、私の目を塞いでいた手を離す

そして一本の缶コーヒーを差し出す…私はそれを受け取る…温かかった…。

「佐倉さんは大丈夫?」

私がそう聞くと、優介は私たちの目の前に広がる大きな窓の外を見ながらため息をつく

「ああ…さっき気がついて、少し話してきた…俺にいられても辛いだけだって…そう言われた…。」

優介はそう言いながら、私の横に座って缶コーヒーを見つていた。

「…そう」

私はそう言って、俯いたまま何も言えなかった…

そう言った佐倉さんの気持ちもわかるような気がした…全部を理解する事は無理だけど…なんとなく…


「お前は大丈夫か?」

優介が不意にそう聞いていた。

「何が?」

何の事を指してそう聞いてきたのかがわからなかった…

「今日は大変だっただろう?…俺の事でお前を巻き込んでしまって、悪かったな…」

優介はそう言いながら私を見つめる…

私は静かに首を横に振った。

「私の知らないところで、優介が危ない目にあってることの方がずっと嫌だもん…」

私がそう言うと、優介は優しく微笑む…。

「服部は俺が共演を断ったって思ってるらしいけど…あれは俺が断ったのと少し違う…ああでもそうかもしれないな…」

優介のその言葉に色々な含みがあるらしい事はわかる

私は優介の顔を覗き込む…優介はそんな私の顔を見て微笑む

「あのドラマの監督が服部に気を使って俺をおろしたんだ…あの頃の俺はけっこう自信過剰でたぶん共演していたら服部と絶対にトラブルを起こしてたと思う…まあ監督がおろさなかったとしても、服部との共演は断ってたと思うけど…今ならもう少し周りのことも考えて妥協できるかもしれないけど…」

優介の言葉に思わず私は笑っちゃった…

だって…今ならって言うけど、今でも十分自信過剰だと思うし妥協だってなかなかできないって思うもの…

そんな私を見て優介は不思議そうな顔をしている

「何がおかしい!?」

優介は私の顔を覗き込む

「…優介は優介のままで…今のままの優介が私は好き!」

私が笑いながらそう言うと、優介は私の頬に触れながら揺れる瞳で私を見つめた。

「ありがとう…」

そう言って、優介は私の肩に手をかけると自分の方に私の体を引き寄せて、寄り添うように肩を抱きしめた。

「俺の傍にいてくれて…ありがとう」

優しいトーンで優介はそう言った。

「私の傍にいてくれて…ありがとう」

私もそう言った。

同じことを感じて、同じことを思っていてくれる…ありがとう…。


大きな窓の外はいつのまにか雨が降り出していた…。

私達は椅子に座ったまま、肩を寄せ合いながら降りだした雨を一緒に見ていた…。

人を恨む切っ掛けは、人によってさまざま…

周りから見ると、そんな事で?って思うようなことが、本人にすると重要だったりする…。

だた一つ思うのは、人を恨むとゆうこと自体、自分自身を蔑む行為のような気がしてならない…


恨む事よりも許す事の方が難しい…。

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