ナポリタンのお味は?
今日は、永井に会うために、わざわざこの美容室に来た…
俺はドアを開けて店の中に入る…1人の男が近付いてくる…帽子を目深にかぶっているせいか、神楽優介だと気付いてないみたいだ…
「いらっしゃいませ…ご指名は?」
「永井っている?」
俺はそう言って、顔を上げた…男と目が合った!
男の表情が次第に驚きへと変わっていく…これがけっこう面白い…
「な、永井君!」
奥の方で仕事をしていた永井が呼ばれてこっちの方に来る
永井は俺の事に気付いて、軽く頭を下げながら近付いてきた…
「どうしたんです?…神楽さんには担当のヘアメイクさんがいるでしょう?」
永井は不思議そうな顔をして、俺にそう言った…。
「これ、俺のマンションの住所、そうだな…夜10時には帰ってるからさ、今夜俺の家に来い!麻未も来るから!絶対に来いよ!…来ないと絶対に後悔するぞ!」
俺のその言葉に永井はキョトンとした表情を浮かべる…
「はい!…は!?」
おれが強制的にそう言うと、永井は小さく頷いた。
「じゃあ!…今夜な!」
俺はそう言って、店を後にした…。
時計を見る…1時40分…やべぇ!急がないとまた社長に怒られる…。
俺は仕事場に急いだ。
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「腹へった〜…」
優介がそう言いながらキッチンを覗きに来る。
「仕事終ってから、何も食ってないから…お腹がすいた」
そう言いながら、私の周りをウロウロとまとわり付いている
「何か作ろうか?食べたいものある?」
私は手を動かしながら優介に聞いた。
するといきなり優介の手が後ろから伸びてきて、私を抱きしめる…。
包丁を持っていて、とても危険なんですけど…。
「こら…危ないわよ…」
私の言葉を気にもせず、私の首筋にキスをする…
「お前が食べたい…」
優介は私の耳元でボソッとそう言った。
く、くすぐったい…
私は包丁を握り締める
「優介…からかうのはやめて!…もう永井が来る頃でしょう?」
私は包丁を握り締めながら優介の方を振り返る。
優介は咄嗟に私から離れて、両手を挙げていた。
「わかった…わかったから…」
優介はそう言って、大げさに演技している。
「8割方、本気だったのにな…」
まだそんな事言ってる!…途中で永井がきたらどうするのよ!ホントにもう!!
「今、パスタでも作ってあげるから、座って待ってて…」
私はそう言って、また包丁を動かす…。
優介はキッチンの目の前にあるイスに座りながら、私のほうをジーッと見ている。
そんな風に、見つめられると緊張するんだけどな…。
「結婚したら、麻未のそうゆう姿いつも見れるな…楽しみだな…」
優介はそう言いながら満面の笑顔を浮かべる。
この間、プロポーズされて…結婚ってゆう二文字がきなり近くなった。
「さあ、できたわよ!麻未特性のナポリタン!」
私はそう言って、お皿にもって優介の所に運ぶ…優介は嬉しそうに笑っていた…。
ピンポーン…
チャイムの音に優介が立ち上がってモニターを見に行く。
「開いてるから、入ってくれ」
優介の声にドアが開いて、永井が入ってきた。
「お邪魔します…」
永井がそう言いながら入ってきて、私と目が合い、なんとなく気まずそうな感じにしていた。
優介と永井は向かい合いになってソファーに座る…。
「お前、コーヒーでいいか?」
優介が永井にそう聞くと、永井は返事もせず仏頂面だった。
「気にくわない…」
永井はボソッと不機嫌な感じで言った。
「はあ!?何だそれ?」
優介の言葉に、永井はプッと膨れていた…。
「ああ!もう!お前ってそんな女々しいヤツだったのか?麻未と俺が仲よさそうにしてるからって!…いいのかな〜…そんな態度とって…まあしかたがないか…俺の方が年上だし、心が広いから大目に見てやるよ…」
優介は冷めた目をしながらそう言った。
その言い方、その態度のどこが大人なんだか…でも前より成長してる気はする…
優介は机の下からリュックを出して、リュックのファスナーを開ける…そして中から札束を出した。
永井は優介のその行動に驚いているようだった。
あっと言う間に机の上に札束の塔ができる…。
「この間、言ってた金だ…出世払いでいいからかならず返せよ!」
優介はそう言って、真剣な目をして永井を見つめる。
「神楽さん…でも…これは…やっぱり受け取れないです。」
永井は目を伏せてそう言った。
「なぜだ?お前から言い出したことだろう?」
優介は永井の顔を覗き込むようにしてそう言った。
「あれは…その…」
永井は言葉に困ったように口をつぐんでしまう
「お前が俺に頼みごとをするなんて…しかも土下座までしたんだ…あの場所を失くしたくないんだろう?…あの場所はお前にとってかけがえのない物なんだろう?…それにな、この金額でも少ないと思ってるんだ、お前は麻未の命の恩人だ…あの時にお前がいてくれて本当に良かったって…感謝してるんだ…」
優介は永井を真っ直ぐに見つめてそう言った。
永井は優介を見つめ、揺れる瞳から涙が流れ落ちた…。
優介は永井の頭をクシャクシャと撫でると、立ち上がって私の作ったナポリタンを持っていく。
ソファーに座るとおもむろにそのナポリタンを食べ始めた。
「泣くな…男の子だろう?…ほらこれでも食って…」
優介はそう言いながら、永井の口元にナポリタンを持っていく。
永井は涙でクシャクシャになった顔をしながら、そのナポリタンを口にする!
そしたら!いきなり咳き込んで…
な、なんで!?…どうしてよ???
「麻未、水を持ってきてくれ」
優介がそう言った…私は急いで水を持っていく…。
「お前、ケチャップとチリソース間違えただろう?」
う、うそ!?私は慌てて、キッチンに行って確認する…優介の言うとおりだった。
「ごめん…大丈夫?…ってなんで優介は大丈夫なの?」
「俺は辛いの得意だから…それにしてもまずいな…これは…もう少し料理勉強しろよ」
優介にいたいところをつかれてしまった…ハハハハ
そんな私と優介のやりとりを、咳き込みながら永井は見ていた…。
「麻未さんと結婚するのは命がけですね」
永井がそう一言言う…冗談?…きつい冗談ね…
優介はその言葉に大笑いしていた…
永井も負けずに涙で濡れた顔をクシャクシャにして笑っていた…