歪んだ愛情
携帯が鳴る…誰だよ?…今、打ち合わせ中なの!
俺は着信を無視する…
だけど、またすぐに電話がかかってくる…しつこいな…誰だよ!?
「すいません…」
俺は席を立ちながら、携帯に出た…。
「はい、神楽です…永井?…何だよ?…はあ!?…ちょ、ちょっと待て…」
今、佐倉って言ったのか?…麻未に佐倉から電話があったって!?
俺は事務所から出て、話を続ける
「佐倉から、麻未に電話があったのか?…ああ…それで…うん…うん…え!?」
俺の中に悪い予感が走る…
麻未が急いでタクシーに乗って!?…あいつ!!…まったく…
「今、何処を走ってる?…ああ…わかった…俺も向かうから…」
俺はため息をついた…麻未は俺に心配かけまいと1人で佐倉に会いに行ったんだ…
佐倉は…何をいまさらやろうとしている?…頭の中を嫌な予感が支配する…
俺はそれを振り払うように、首を振った…
俺は事務所に戻る…
「社長…ちょっと急用で…出かけてきます…申し訳ありません。」
俺は社長の制止も聞かずに、事務所を飛び出した!
麻未…頼むから、無事でいろよ!…俺は心の奥底からそう願った…
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佐倉さんのマンション…ご丁寧にも場所まで教えてくれた…
宣戦布告!?かな…
私はドアの前で深呼吸する…
ピンポーン!
私はチャイムを鳴らす…
中から、鍵を開ける音がして、ドアが開いた…
佐倉さんが顔を覗かせる…佐倉さん…少し痩せたみたい…
「どうぞ…」
佐倉さんの声に私は部屋に入った…
リビングに通され、私はソファーに座った…。
「私に何のご用ですか?」
私はイライラして先を急いでいた…いや違う…恐怖から逃げようとしていたのかもしれない。
佐倉さんは、そんな私を見て、意味ありげに笑った…
「優介と私はずっと2人でやってきた…売れてない時から、ずっと傍にいたのは私…澄香がいなくなって、やっと優介を独占できると思ったのに…なんで!?あんたみたいな小娘が!たかが澄香と似てるってだけで!!なぜあんたなのよ!」
「優介は物じゃないわ!…誰の物でもない…その考えか方が間違ってる!」
私は佐倉さんを睨みながらそう言った。
「澄香…あの女にどれだけ苦しめられたか…死んでせいせいしてたのに!…次はあんたみたいな女が現れて!」
その言葉に、私が前から気になっていた疑問が頭に浮かぶ…
「まさか…貴女が優介と澄香さんの乗った車に細工したわけじゃないわよね?」
私は佐倉さんを見つめながらそう聞いた!
佐倉さんは目を見開いて、殺気に満ちたその目で私を睨み、手に持っていたカップを私に目掛けて投げつけてくる!
その佐倉さんの目が物語ってるものは何なのか…
私は、咄嗟にそれを避けて、ソファーの下に転がった…その時、奥の部屋が目に入る!?
一瞬、寒気が走った!
部屋の壁一面に優介の写真…それと…私の写真…ナイフが突き刺さっていた!
逃げなきゃ!咄嗟にそう思った!
私は玄関に向って走り出す!だけど、私の前を塞ぐように佐倉さんが立ちはだかった!
いきなり佐倉さんの平手が私の頬に飛んでくる!
もの凄い力…手加減無しだった…
私は床に叩きつけらるようにして倒れる…そして思い切り腹を蹴られて、息ができない!
「クッ…ウゥゥ…」
佐倉さんは台所に歩いていくと、包丁を手にした…
その姿を見た時、恐怖よりも強い悲しみを感じた…佐倉さんの悲しい姿…
私は佐倉さんと目を合わせながら、ゆっくりと立ち上がる…
佐倉さんがゆっくりと私に近づいてくる…
私はゆっくりと後ろに後ずさる…あ!?私の後ろにソファー…もう後が無い!
ドンドンドン!
その時、ドアを激しく叩く音が響き渡る!
「麻未!麻未!?…佐倉!てめぇ!何してる!ここをあけろ!」
優介の声だった…
私は玄関に向かって猛然とダッシュする!だが、佐倉さんが玄関に先回りして包丁を振り上げた!
あ!?
私の目前に振り下ろされる包丁!咄嗟に手でそれを庇った!
「つぅっ!」
腕に痛みが走り、血が流れた…
私は腕の傷を抑えて、必死で痛みを堪える…
佐倉さんはそんな私の姿を見て、唖然としていた…手が震えている…。
私は意を決して、佐倉さんに体ごとぶつかっていっく!
佐倉さんは後ろに飛ぶように倒れた!
私は痛みを堪えながら、玄関に飛んで行き、鍵を開ける!
ドアが開いて、優介が飛び込んできた…それから永井も…あ!そうか…永井が優介に知らせてくれたんだ…
私は気が緩んだせいか、足の力が抜け、ヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
「麻未…大丈夫か?…お前は、まったく…」
優介の慌てた声…私の傷を見て悲しい顔をすると、ハンカチをだして傷の部分に当てる
そしてゆっくりと佐倉さんの方を見ると、立ち上がった…
後姿が怒りのオーラに包まれていた…。
永井が私を抱えるように立たせてくれて…守るように肩を抱いてくれた…。
「佐倉…」
優介は悲しい響きのある声で、佐倉さんの名前を呼ぶ…。
「来ないで!!…来ないで〜!!!」
佐倉さんはそう絶叫しながら、自分の首に包丁を当てる…
「なぜ!?なぜなのよ?…私じゃなぜ駄目なの?…澄香の時だって必死で耐えたのに…やっとあの女がいなくなって安心してたのに…なのに!澄香に似てるってだけで…私の優介を取ってしまった!!…嫌よ!」
佐倉さんは震える手で包丁を持ちながら、泣きながらそう言った。
「…佐倉…愛情にも色々な形がある…俺はお前を信頼していた…仕事のパートナーとしてかけがえになに存在だと思っていた…そんなに俺を苦しめたいのか?…それがお前の愛なのか?」
優介の苦痛な叫びが心の中から聞こえてくる…
佐倉さんの優介への思い…歪んでしまった愛情…
「優介が…私の物にならないなら…死んだほうがましよ!」
佐倉さんは自分の喉目掛けて、包丁の刃を向ける!
優介がそれと同時に、佐倉さんの懐に飛び込んだ!
ポタ…ポタポタ…
床に血が落ちる…佐倉さんの持っていた包丁の歯を優介は素手で掴んでいた…
「優介!!」
佐倉さんの叫び声とともに、包丁が床に転がる…
佐倉さんは、自分の来ているブラウスを引き裂くと、優介の手のひらの傷を包むように巻く…
その必死さ…優介を傷つけてしまって、咄嗟に出た行動…
たぶん…これが佐倉さんの本当の優介への思い…
いったい…どこで歪んでしまったんだろう…
私を傷つけてしまった時のあの表情…手が震えてた…自分の行動に対して恐怖を感じてる目だった…
愛情は時として人の感情を狂わせる…
誰もがそんな危険を持ちあわせている…
私だってもしかしたら…絶対に大丈夫とは言い切れない…。
佐倉さん…悲しい人…
優介を必死に介抱する佐倉さんを見て私はそんな事を思っていた…。
佐倉のマンションで麻未は佐倉に襲われる!
永井のおかげで、優介と永井に助けられた…
佐倉の歪んでしまった愛情…麻未はその姿に悲しさを感じた。
次回、優介と麻未が2人で訪れた病院で…愛情を確認しあう?