見えない敵が姿を現す
ここ一週間くらい優介の所に行っていない…
なんだか優介の方も傷が治ってきて、仕事の段取りやらなにやらで忙しいんだって!
私の方も、シフトが変わって夜になったりして…なかなかタイミングが合わなかった。
それで頼みの綱はメールだけ…
ついつい遅くまでメールでやりとりしちゃう…
そして朝はかならずおはようってメールを打つのが習慣になっていた。
早起きは三文の得って言うじゃない!?うん、いい傾向よね?
ファァァ〜…だけど、仕事になるととたんにあくびが出る
人間の体って不思議よね?…クスクス…
今日は優介が退院する…やっと病院から開放されるって…昨日の夜は大喜びのメールが届いていた…
今すぐにでも飛んで行きたいけど…仕事があって無理…
仕事が終ってから、会いたいって言ったら、今日は事務所の人とかが出入りするから無理なんだって…つまらないの…
まあ、でもしょうがないよね?…仕事だもん!
気をつけないと、頭の中が優介の事でいっぱいなっちゃう…また失敗したら大変!
私は一生懸命手を動かしていた…。
こうゆう日は時間が長く感じるもので…なかなか時間が進んでくれなかった…
やっと、仕事も終る時間になって…家に向う…
家に帰った所で、誰もいないし、優介に会いにいけるわけでもないから…
たまには外で夕飯でも食べていこうかな…
私はそう思って、帰る途中にある洋食屋さんに入って、オムライスを頼んだ…
お店の中ではテレビがつけてあって…なんとなくそれを見ていた…
そして耳を疑いたくなるような、ニュースが流れてくる
俳優の神楽優介さんの爆発事故は何者かによる意図的なものの疑いが強く…
同じく俳優の服部真之介を任意で事情聴取!
映画「断崖」の撮影はどうなるのか…
私は言葉を失った…だって…だって…何も知らなかった…
怪我をしたのは、ただたんに事故だと思ってた…
それが誰かに仕組まれたものだったなんて!?
服部真之介って…優介の映画の…代わりになった人よね!?…何よそれ!!!
私は何も知らずにいた自分と、この服部ってゆうヤツに対して怒りが膨れ上がる!
ダァァァ〜…腹が立つ!
私は腹が立って、オムライスに八つ当たりするように、口の中いっぱいにオムライスを掻き込んだ!
ゲホッ!ゴホッ!ゴホッ!
思わずむせて、吐きそうになった!
慌てて水を飲む…ハァ〜…ビックリした…
その時、携帯が鳴った!
え!?誰!?…優介だ!
私はドキドキしながら電話に出る
「はい、もしもし」
「麻未さん!?」
誰!?女の人の声!?
「佐倉です、お久しぶりですね…優介がね会いたいんですって…ああ今シャワー浴びてるから代わりに電話して欲しいって…」
佐倉さんの声…なんとなく冷たい感じがして耳障りな声だった…
何!?どうゆう事…佐倉さんがいて、シャワー浴びてるって…
「どうゆう事ですか?」
私はちょっと苛立っていた…
「どうゆう事って?…フフフ…直接来て、聞いてみたら?」
佐倉さんの意味ありげな口調…気に入らない…
また何か…
「わかりました…今から行きます」
私はそう言って、電話を切った…
もの凄くイライラしていた…
さっきのニュースのこともそうだけど…佐倉さんからの電話…
わざわざ優介の電話でかけてくるなんて…
ちょっと待って…一瞬…頭の中を例のいやがらせメールの事がよぎった…
まさか…ね…
私は首を横に振りながら、残っていたオムライスを掻き込んだ…
さて…行きますか…
私はオムライスの料金を払って店を出た
外はもう暗くなっていて…雨の前なのかまとわりつくような風が吹いていた。
私はタクシーを拾うと、優介のマンションへと向う
マンションの入り口で部屋番号を押す…自動ドアが開く…
エレベータに乗って、優介の部屋に急いだ!
私はドアの前に立つと深呼吸をした…
ドアが少し開いてる!?何で!?
私は静かにドアを開ける…
「優介…愛してる…」
そんな声が奥の部屋から聞こえてきた…
愛してる!?
私はそーっと声のする方に近付いて行く
「さ、佐倉…や、止め…」
優介の声…
奥の部屋は寝室になっていた…
は!?何よ…これ???
私は言葉を失った…呆然と立ち尽くす…
目の前に飛び込んできた光景に、息を呑んだ!
ベッドの上で優介が下になり佐倉さんが激しく優介に口づけをしてる姿が目に飛び込んできた…
優介の来ているシャツのボタンが千切れ飛んで、優介の胸が露になっていた…
佐倉さんの胸元には、優介の手が入り込んでる!?
私はその場に立ち尽くし…動けなかった…
優介は、佐倉さんを凄い勢いで離す!
佐倉さんは吹っ飛ばされて、ベッドから落ちた…
「麻未…」
優介が上半身を起こして、力なくそう呟いた
動揺してるように見えた…
頭の先から氷水でもかけられた様に、ヒンヤリと冷静にこの光景を分析してる自分がいた。
佐倉さんが私の方を見下したような表情で見ている…
私は鼻で笑った…
そう…そうゆう事…
こんな光景を見せるために、わざわざ電話をかけてきたってわけ…
私が来る事がわかった上で、そうやって優介を押し倒して…
そんな姿を私に見せたって事…
私は腸が煮えくり返るほどの怒りを感じていた…
「佐倉さん、気が済みました?」
私は自分でも驚くほど冷静だった…
そしてさっき頭をよぎった疑惑がどんどん確信へと近付いて行く…
「佐倉さん…私にメール送った事あります?」
気になっている事を…思い切って聞いてみた
佐倉さんは、意味ありげにニヤッ笑い、突き刺さるような目で私を睨んだ…
まただ…寒気が走る…
なんとなく…メールも階段から私を突き落としたのも…やっぱりそうなのか!?…そう思った。
佐倉さんは立ち上がって私に近付いてくる
怒りと同時に恐怖に近い感情も生まれる…
「佐倉!いい加減にしろ!」
優介は佐倉さんに向って、大きい声をあげる!
佐倉さんは私の目の前に立つと、不敵な笑みを浮かべた
「麻未さん…あなたじゃ優介を幸せに出来るわけ無いじゃない!あなたみたいな汚い女!」
汚い女!?
佐倉さんの言葉の意図が分からなかった…
「佐倉!」
優介の声が響く!それは怒りに満ちていた…
一瞬、佐倉さんの表情が強張った。
「優介…なぜなの?なぜ私じゃ駄目なの!?」
佐倉さんは泣きながら、優介の方を向いて叫んだ!
「こんな…こんな…汚れた、他の男に犯されたような女!」
佐倉さんはそこまで言うと、自分の口を自分の手で塞ぐ…
他の男に犯された女!?確かにそう言った…
そして思い出す…義父の事…そしてあの時の拉致された時の事…
「お前…なぜそれを!?…まさか…」
優介の言葉に、佐倉さんは震えているように見えた…
「違う…違う…私じゃない…私がやったんじゃない…」
佐倉さんは、怯えた表情を浮かべながら後ずさる…
「やらせたわけじゃ…な…い…」
ぶつぶつ呟きながら、怯えおののいて逃げるように部屋から出て行った…
まるで、自分の罪の意識から逃れるように…
ドアが閉まる音が部屋の中に響き渡った…
私は全身の力が抜けて…その場に座り込んだ…
汚れた女…
その言葉が頭の中をグルグル回っていた…
優介が私の目の前に座り込んで私の頬に優しく触れた…
思わず私は優介の手を振り払ってしまっていた!
「ごめん…優介…少しだけ…待って…優介と佐倉さんのあんな姿を見せられて穏やかではいられない…それに…それに…」
その後の言葉は出す事ができなかった…
胸が激しく痛む…鼓動が激しく動いていた…
優介は悲しい瞳をして、立ち上がるとソファーに座り頭を抱えてため息をついた…
私の心の中で、驚き、怒り、悲しみ、苦しみ、恐怖、色々な感情が入り乱れて渦を巻いていた…。
優介を狙った犯人…
麻未を狙った犯人の姿が確実に見えてきた
優介と佐倉のキスシーンを見てしまった麻未…そして自分を狙った犯人が佐倉だったことに確信を持つ
次回、麻未が気持ちをどう処理していくのか…
優介と麻未はまたあの穏やかで温かい雰囲気に包まれる事ができるのか!?