鎧を着た心
そこに立っていたのは義父だった!
咄嗟にドアを閉めようとしたけれど、足をはさまれていて締める事が出来なかった!
私の体は強張った!?神経が張り詰める…
一瞬にして恐怖に包まれ押しつぶされそうになる!
私は何歩か後ずさり、部屋の中に駆け込む!逃げる場所など無いのに…
義父はゆっくりと部屋に入ってくる
「麻未…こんな所に住んでいたとはね…悪いんだけど少し物入りなんで、お金を用立ててくれないか?」
金をせびりに来たのか?それとも…
私の体全体が警戒していた…背中の火傷の痕が疼く…
「あんたにやるお金なんて無い!」
私は必死に自分を奮い立たせて強く言った
「お前、俳優と付き合ってるんだって?…彼氏にお金を出してもらってるんだろう?」
義父は嫌な目つきで私に近付きながらそう言った!
「いいかげんにして!あんたみたいな人間にお金をやるくらいなら、まだ捨てた方がましよ!」
私のその言葉に義父の顔色が変わる!
そして一気に私への距離を縮めて、義父の張り手が私の頬に飛んできた!
私は反動で床に倒れこむ…そんな私の上に義父は覆いかぶさるように乗ってきた!
やだ!…やだ!!…やだ!!!
私は義父のあらゆる所を蹴飛ばし暴れた!
だけど義父の力のほうが数段上だった…私は両腕を押さえつけられ、両足も動けないように義父の足が乗っかっていた…
義父の唇が私の唇に近づいてくる!私は咄嗟に横を向く!
だけど、無理矢理の唇を重ねてきた!!あの時の悪夢が蘇る!
私は義父の唇を思い切り噛み切った!もうどうなったっていい!この男に犯されるくらいなら死んでやる!
義父は私に唇を噛み切られて、一瞬私から離れた!私はその一瞬のスキに逃げ出そうとしたけれど!行く手を義父に阻まれる!
台所に置いてあったコップが私の手に触った…考えるよりも先に体が動いていた!
コップを握り締め、コップを台所の角にぶつけて割った!
ガラスの先が手に突き刺さり血が落ちた…無意識的に割ったコップを義父に向けて突き出していた!
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あ!やべ!薬忘れた…病院から抜け出した事ばれちゃうな…
「運転手さん、悪いんだけどさっきの場所まで戻ってくれます?忘れ物しちゃったんで」
ちょうど麻未のアパートの場所から10分くらい離れた場所から、俺は薬のためだけに引き返した…
心の中ではまた麻未の顔が見れるって、ちょっと喜んでたかもしれない…
この10分とゆう時間までもが長く感じる…
またピンポンダッシュして遊んじゃおうかな〜…
早くつかないかな…
あの角を曲がって…自動販売機の所…
タクシーが止まり、俺はタクシーから降りると急いで階段を駆け上がる…
「や、やめろ!何する気だ!」
麻未の部屋の中から男の声がする!?
俺は急いでドアを開けた!…目を疑った!
年配の男を前に麻未がガラスを握り締めながら立っていた!?
男の腕からは血が流れている…
何だ…何なんだ!?…これは…
麻未の着ていたブラウスのボタンは外れていて、下着が見えるくらいまで肌蹴ていた!
表情は今までに見たこともないような恐怖に満ちていて、顔色が青ざめていた!
「麻未!?」
俺の声に男は振り向く。
いったいコイツは誰なんだ!?
男は唇から流れている血を拭いながらニヤリと笑う…いやな表情だった…
俺の存在に驚く事も無く、男は麻未の部屋から出て行こうとする…俺の横を通り過ぎようとした時、フッと足を止めた…
「こいつとはもう寝たのか?…いい体してただろう?」
そう言い放って通り過ぎていった!
一瞬、その言葉が何を意味しているのかがわからなかった…
麻未の表情は硬く強張り、生気を感じないくらいショックを受けた顔をしていた!
そして握っていたガラスを床に落とす!
俺は悟った…麻未とこの男の過去に何かがあった事を…火傷の痕…
麻未は自分の唇を必死で拭いながらシャワー室に駆け込んだ!
麻未!?
俺はあの男に対して激しい怒りを感じたが、麻未の方が心配でその場を離れる事ができなかった。
シャワー室から水の流れる音がする…
「麻未!?麻未!?」
俺は叫んだ!
何の応答も無い…俺の心配は限度を超えた!
「開けるぞ!」
シャワー室のドアをゆっくり開けると、シャワーの水の中で服を着たまま蹲って震えている麻未がいた…
俺は麻未を優しく抱きしめた…震えている…
麻未をゆっくりと立たせると、シャワー室から出る…手からは血が滴り落ちていた…
俺はタオルを引っ張り出してきて、丁寧に麻未の髪の毛、体を拭く…
急いで箪笥から適当に服を引っ張り出してきた…
麻未は放心状態のまま床に座っていた…
何なんだ…心が痛い…とにかく悲しすぎて胸が苦しい…
俺は麻未の服を脱がせる…何の反応も無い…
こんな麻未の表情を見るのは初めてだった…麻未の心の傷から血が流れている…そう思った。
俺は自分の涙を抑えることが出来なかた…
麻未の服を着替えさせると、今度は手の方だ…幸い傷はたいして深くはなかった…
痛々しい麻未の姿…俺は麻未の傷ついた手を優しく自分の手で包む…涙が流れて止まらない…
「なぜ優介が泣くの?」
麻未はやっと口を開く…
俺は泣いている顔を上げて麻未を見つめた…
麻未が俺の涙を拭う…
「私の変わりに泣いてくれてるの?」
麻未は涙一つ流さずに淡々と俺に聞く
「お前の悲鳴が聞こえる」
俺のその言葉に麻未は悲しい笑みを浮かべる
「優介、泣かないで…私は大丈夫だから…」
お前…!?違和感を感じる…違う、そうじゃないだろう?大丈夫なわけがない!
「おいで…」
俺は両手を広げて、麻未にそう言った。
麻未は俺の胸に頬をつけて俺に体重を預ける…俺はそんな麻未を抱きしめた
何の感情もない人形を抱きしめてるようだった…
「お前、心に鎧を着ただろう…」
澄香を亡くしてすぐの俺がそうだったように…
「心を守るために…だけど鎧の中では血を流してる…鎧を着たままじゃ傷を治すことができない…俺は…俺はお前だったから鎧を脱ぐ事ができた…」
俺は麻未の髪の毛を優しく撫でる…
「大丈夫…大丈夫だよ…俺がこうやって一緒にいる…」
麻未の髪の毛に優しくキスをする…
麻未が小刻みに震える…泣いてる…
心の悲鳴が聞こえる…
麻未は俺の服を力一杯に握り締めて泣いていた…声も出さずに…
苦しさが伝わってくる…
昨日、麻未が消えてしまうんじゃないかと思うほど儚く見えた理由がわったような気がした
過去にあの男と何があったのか…
麻未のあの様子からするとかなりの事があったはずだ…
ただの男女の関係じゃない事はわかる…だが今は…今は麻未の心が落ち着くように
心から流れている血を止めてあげないと…麻未は消えてしまう…
麻未…お前の心は俺が守るから…大丈夫だよ…
今回は書いていて、私の過去の事を思い出して、切なくなってしまいました。
心に鎧を着ないと自分を保てない麻未、でも鎧は重くて体力も精神力も奪っていく。
優介もまた心を守るために麻未とゆう存在に出会うまでは鎧を着ていた。
違う傷を持っていてもその苦しさに共感できた…
次回、麻未の過去の告白…そして優介と麻未はついに!?