傘女の淡い恋心
あの喫茶店に行かなくなってもう2週間が経つ。
またあの人に会いたい気持ちは当然あった…あったけれど…あれだけパニック状態で変な事ばかり言ってしまった手前、会うのが怖かった。
だけど…会える確率の方が低いわけよね?
会える事ばかり考えてたけど…会えない確率の方が数段に高い…。
そんな事を考えて歩いていたら、勝手に思い込んで落ち込んでる自分が可笑しく思えてきた。
いつもとかわらない風景…あの人と出会った道…そしてあの喫茶店が見えてきた。
どうする?入る?入らない?…どうしよう…やっぱりやめる…でも…でも…
え〜い!入っちゃえ!!
私は思い切って喫茶店のドアを開く。
「いらっしゃいませ!」
店員の声が心地いい・・・・・・
一人の店員が私に気付き、ニッコリと笑って近付いてきた。
「お待ちしてましたよ」
え!?私を?なぜ?
「神楽優介様からこれを預かっていましたよ」
店員がそう言って私に差し出したもの、それはこの前あの男性に押し付けたあの傘と折りたたんだ小さな紙だった…。
「…神楽優介、どこかで聞いたような」
私はその名前をどこかで聞いたような気がしていた
「ご存じないですか?…あの俳優の神楽優介ですよ」
店員に言われて初めてピンときた…ハハハ芸能界にうとい私は見ただけじゃピンとこなかった。
「連絡が欲しいと言っておりましたよ」
れ、連絡が欲しい!?…ちょ、ちょっとそれって何?どうゆう意味?
私はその言葉だけで、鼓動が早くなるのを感じた。
立ってるのもやっとなくらいドキドキしている。
私は傘とその折りたたんだ紙を受け取ると、自分を必死で落ち着かせながらいつもの席へ座る。
傘を鞄にしまい、折りたたんである紙をゆっくりと開く。
…ハハハハ、うそでしょう?…紙に書いてある文字が見間違えじゃないかと、逆さましたり横向きにしてみたりしたけれどどう見ても内容は変わらなかった。
紙に書かれていたのはアドレスだった…。
私はその紙とややしばらくにらめっこしていた。
運んでくれた紅茶にも気付かず、ため息ばかり付いていたような気がする。
手元にあった紅茶に気付き、飲んだ時はもうすでにぬるくなっていた。
やっぱりメールすべきよね?
アドレスを教えてもらえたんだし。
私は携帯電話を取り出した。
や、やだ……手が震える…手が震えて力が入らない
私は手の震えを押さえながらメールを送った。
「OK!よし休憩に入ろう!優介、いいよ!いい!!」
監督の声に、一安心だ……
このカットだけで30回?いや何回だった?わからないけどとにかく沢山撮り直した…。
まあ、へんに俳優の機嫌をとって妥協する監督よりもずっと好きだけどね。
「疲れたんじゃない?」
マネージャーの佐倉が声をかけてくる。
見た目は綺麗だし、仕事は出来るし、なんで彼氏がいないんだろうね……
そんな事をいつも思ったりするけど、口にはしない、一番コイツが嫌うセリフだから
「15分休憩の後にまた撮影だからよろしく」
佐倉はそう言うと忙しそうにスタッフの方に駆けていった……ホントいつも忙しいヤツ
あ!そうだ……メール、メールっと
こまめにチェックしないとたまっちゃうからな・・・・・・
5件か・・・・・・・えっと、1件めは、俳優仲間の駿か、それから、あれこのアドレスは誰だ?
この間の傘女です。
傘を返して頂いて
ありがとうございました。
そのうえアドレスまで
素直に受け取り
メールをしてしまいましたが
ご迷惑じゃなかったでしょうか?
本当にありがとうございました
羽生麻未
ククク・・・・・・この間の傘女だって・・・・・・
可笑しいな・・・・・・
返事しないとな
今、仕事の合間なので
後でゆっくりメールします
今度、一緒に食事でもどうですか?
それではまた
神楽優介
送信・・・・・・と・・・
しかし、傘女ね・・・・・・気に入った・・・・・・・
「優介、ずいぶん楽しそうね」
マネージャーの佐倉にそう声をかけられた。
そんなに楽しそうにしてたかな???
まあ、でもおもしろそうだ、傘を押し付けられた時はさすがに驚いたけど、久しぶりに腹の底から笑ったような気がする。
「さあ、時間よ」
佐倉の言葉に追いやられるように、俺は仕事へと戻る。
その時、佐倉が意味ありげな表情で俺の背中を見送ってる事など気付きもしなかった。
読んでいただけて嬉しいです!
好き、嫌い、感想は色々だと思います。
今後に役立てたいのでよろしくお願いします