あなたを忘れない
俺たちは来る途中に花屋によって、花束を買った…
麻未いわく絶対にこの花束じゃないと駄目らしい…
花にうとい俺は麻未がこの花にこだわる理由がわからなかった
ここはいつも心地のいい風が吹いている
空気は初夏の匂いを漂わせ、木々達は風に揺られて囁いていた。
「すご〜い!!綺麗…」
麻未はそう言って、大きく深呼吸していた。
丘の上から見える景色に感動して麻未の笑顔がキラキラ輝いている。
俺は麻未の手を引いて墓地の中を歩き、澄香の墓の前に立つ。
麻未は墓の前にしゃがみ込んだ
「澄香さん、あなたにこの花をプレゼントしたくて…今ちょうどこの花の時期じゃないから無かったらどうしようかと思ったけど…あってよかった…」
麻未はそう言いながら、薄紫の花の花束を出して墓前に置く…。
「この花の名前は紫苑…花言葉はあなたを忘れない…この花言葉と共にこの花をあなたに捧げます」
そう言って、麻未は手を合わせた
麻未がなぜこの花にこだわるのか、花言葉を聞いて納得した…
これも麻未の人柄だな…
「さあ!そろそろ朝ご飯にしましょう!」
麻未はそう言って、作ってきたお弁当を澄香の墓の前で広げ始めた…。
随分、量があるように見えるんだが…
麻未は綺麗な金魚の絵のついた皿を出して、それに自分の作った海苔巻き、から揚げ、卵焼き、サラダを並べて澄香の墓前に供える
朝早くからここに来る事を考えてお弁当を作っていたのか…
そんな麻未の心がなんだか切ないくらいに嬉しかった…
「なあ…話を聞いてくれるか…」
俺はなんとなくそんな気になった…いやずっと誰かに聞いて欲しいと思っていたのかもしれない…。
あの日の…事故の事を…。
俺は麻未の答えを聞かずになんとなく話し始めていた…
「あの日はとても天気がいい日だった…仕事が立て込んでて忙しくてなかなか澄香と会えなくって、久しぶりの休みだから遠出をする事にした…そして…そして…あの時…ブレーキが効かなくなった…坂道でスピードは加速していって、なんとかしようとしたけどどうにもならなくて、橋の上でハンドルをとられてそのまま川の中へと落ちていった…なんとか俺と澄香は車から出る事は出来たんだ…それなのに…澄香は車から出るのが精一杯で泳いで上がる事が出来なかった…俺は沈んでいく澄香の手を握ることができなかった…一度水面に上がって、何度も潜って、澄香の姿を探した…だけど…だけど…見つけてやれなかった…」
手が震える…なぜ震えるのか自分でもわからなかった…
自分の中に恐怖にも似た悲しみが広がっていくのを感じる
麻未の手がスッと俺の手を優しく包むように握る…
一瞬、あの時の夢を思い出す…
水の中でもがき苦しんで、必死で手を伸ばしたら手を握って引っ張り上げてくれた人…
俺は麻未の顔を見つめた…
麻未の瞳から大粒の涙がポロポロと流れ落ちていた…。
「ごめんね…ごめん…」
なんでお前が泣くんだ?どうして謝る???
「神楽さんと澄香さんの気持ちが深くて重くて、軽々しく言えない…ごめんなさい…何も言ってあげられなくて…」
麻未…お前は…
こんな話をしたら…辛かったよね、わかるよ…なんて言葉を軽々しく言うヤツらいる
そうゆう言葉に救われる人達もいろうだろうけど…俺は麻未の言葉の思いのほうが嬉しかった。
本当の気持ちなんて、当の本人しか分からない…それを…わかるよ…なんて言葉だけで片付けられて欲しくない…。
俺の話を真剣に受け止めて、自分には理解しきれない気持ちが俺と澄香の中にあるのだろうと、そう思ってくれる麻未のその気持ちが嬉しかった…。
「何も、お前が俺達の気持ちを理解する必要は無い…俺はただお前に本当の事を知って欲しかっただけなんだから…真剣に俺の話を聞いてくれてありがとう」
俺はそう言って、麻未を抱きしめる…。
麻未が俺のかわりに泣いてくれているような気がした…
「さあ、食べよう…麻未がせっかく作ってくれた弁当が台無しだ…」
俺のその言葉に麻未は涙が顔に笑顔を浮かべる。
俺はなぜか気持ちがすっきりとしていた…
不思議なくらい自然に俺は昔の話をした…ほとんどが澄香の話だったのに、麻未はその話を楽しそうに聞いていた…。
ふと不思議に思う…澄香の話をこんな笑顔で話せるなんて…
自分の気持ちの変化に自分が驚いていた…。
澄香の事を麻未と一緒に共有しながら思い出にできそうな気がしていた…。
「麻未…そろそろ神楽さんってさん付け止めないか?」
前々から思っていた…
「何て呼べばいい?」
「う〜ん…優介とか…ユウとか…かな?」
「じゃあ…優介…」
麻未が俺を名前を言った声が最後の方は小さくて聞き取れなかったけど、優介って言ったよな?
麻未は顔を真っ赤にしている…
また赤くなってるよ…こうゆう所も大好きさ…見ていて本当に飽きない…。
俺は思わず、顔が緩む…
それでもって、ちょっとしたいたずら半分で聞いてみた
「今夜、朝まで付き合ってほしいんだけど…」
俺のその言葉に、麻未は慌てふためいて、持っていたから揚げをポテッと落として、さらに顔が真っ赤になる…。
お、おもしろい!
こいつ、もしかして…期待してる?
「おい、おい、何を期待してるのかな?」
「へ!?べ、べ、別に〜」
麻未の声の最後の方がうらがった!!
おっかしい〜!!笑える
「俺の友達に会って欲しいと思っただけなのに…だけど…麻未が期待してる事でも俺はぜんぜん構わないけど」
俺はちょっと意地悪な感じでそう言った。
麻未はあたふたと慌てて、首を大げさなくらい横に振った
そんな麻未が可愛くて、愛おしくてたまらなかった。
こいつといると本当に心が温かくなる…
澄香…俺には愛する人ができた…それを許してくれるか?
お前は思い出として俺の中に生き、麻未とはこれからの未来を共に歩いていきたい…
麻未は自分の顔を手で仰ぎながら、お弁当を片付けてた。
そして澄香の墓を見つめて立った
「勝手な言い分だけど、あなたと私、同じ人を愛した者同士…気が合うと思う…だからこれからもよろしくお願いします」
麻未はそう言って、澄香の墓に向かって深々と頭を下げた…
確かに勝手な言い分だな…
だけど…澄香…お前なら今の言葉、笑って見てるよな?
ハハハ…これも俺の勝手な考えだな…
俺は空を見上げる…
気のせいかな…今、澄香の笑い声が聞こえたような…
馬鹿だな…そんな事があるわけがない…
そんな自分を見て、俺は一人で笑っていた…。
澄香の存在を思い出として整理出来た優介
優介の夢に出てきた女性は麻未だったのだろうか…
澄香の笑い声は、本当に空耳???
次回は優介の友達に麻未を紹介します。
愉快で温かい雰囲気が流れます!