嵐の後の静かな愛
今日は嵐のような一日だった…
朝から全速力で走って、道に迷って、疲れた〜…
あの年下の生意気なヤツ…
神楽さん、私、告白されちゃったんですよ〜…なんてね、そんな事言った所で、神楽さんがヤキモチをやくわけもない…か。
あの後帰るのに、遠回りをしてることに気付かずに反対方向に歩いていて、結局走って15分くらいしかからない距離を、私は2時間もかけて歩いて帰った。
花屋に着く頃には11時くらいなっていて、店長にはほとぼりが冷めるまで休むようにと言われてしまった…
はぁ〜…ついてない…。
無性に腹立たしくて、帰り際ランチバイキングでやけ食いをして、一人でカラオケで音痴な歌を歌いまくって帰ってきた!
少し、すっきりしたかな…
でもそんな事しても消えない現実、神楽さんの事がずーっと心に引っかかていた。
あんな風に雑誌に出たら、神楽さんにも迷惑がかかるだろうな…
私があそこで抱きしめたりなんかしなきゃ、こんな事にはなってなかったのに!
あ〜あ、自己嫌悪…
神楽さん、今頃どうしてるかな…
ピンポ〜ン!
あれ、こんな時間に誰だろう?
のぞき窓から見ると、そこには誰も立ってない…
もしかしてピンポンダッシュ!?
私は首をかしげながら、部屋の奥に入ろうとすると…
ピンポ〜ン!
また!?もう!いいかげんいしてよ!!
私はちょっと頭にきて、勢いよくドアを開けた!
すると、神楽さんがいきなり私の目の前に現れる!
「そんな、ちゃんと確認してから開けないと、女の一人暮らしは危険だよ」
神楽さんは茶目っ気たっぷりの笑顔を浮かべて、そう言った。
私の方は、突然の事に開いた口がふさがらず、瞬きの回数も増えていたと思う
「そんなでかい口開けてたら、指突っ込むぞ!」
神楽さんはそう言って、私の口を指差した…そして何かに気付き、今まで笑顔だったのが、悲しい表情へと変わっていく。
「何かあったのか?」
神楽さんは私の口元にあるあざを見つけて、静かなトーンでそう聞いた。
あ!今朝、女の子に叩かれた場所…
「ううん、何にもないです…ちょっと転んで…ここをぶつけただけ」
かなり苦しい言い訳だと自分でも思った…
神楽さんは鼻で笑って、悲しい笑みを浮かべる
「上がってもいいかな?」
神楽さんが私の部屋に?
部屋に2人きり?…どうしよう…
可笑しいくらい、一人で勝手に妄想して、一人で慌てていた…。
「駄目なら…顔も見れたし、帰るけど」
神楽さんはいじけたような仕草を見せて、そう言った。
年上の人に失礼かもしれないけど…それがなんともいえなく可愛かった…
私って馬鹿?…わかってる馬鹿だって…でもしかたがないじゃない、こんなに愛おしいんだもん。
「上がってください」
私がそう言うと、神楽さんは嬉しそうに笑みを浮かべて靴を脱いだ。
私はお茶を入れようと台所へ立つ。
「すいません、ソファーとかないんですけど、適当に座って下さい。」
私は後ろ向きのままそう言った。
急須にお茶っ葉を入れ、お湯を注ぐ、湯気と共にお茶のいい香りがした。
その時、後ろから神楽さんの腕が伸びてきて、私を包み込む…
え!?何?
「ごめんな…」
神楽さんの声が私の耳の後ろから聞こえてくる。
そんな神楽さんが謝る事は無いのに…私の心がきしむように痛かった。
「俺さ…俳優…辞めようかな」
神楽さんのその言葉に驚いて、私を包んでくれていた腕を解き、振り返って神楽さんと向かい合った。
神楽さんは悲しく微笑むと、髪の毛を掻き揚げる
「今日さ、記者会見で嘘ばっかり言った…あの写真の言い訳、麻未が俺の熱狂的なファンで、その気持ちのあまり抱きついてきた…だってさ!笑わせるぜ!会社の方針とは言え、全部俺はその通りに自分の口で言った…自分であって自分じゃない…本当の俺がどこにいるのか分からなくなる…」
神楽さんが怒っている…神楽さんの心の中の苦しみが伝わってくる。
私は神楽さんの胸に左手の手のひらを当てる
「ちゃんといる…神楽さんはここにちゃんといます、自分の考えや意思をちゃんと持つ事ができるじゃないですか…そしてここにも!私にそうやって本音を話してくれる…だからここにも神楽さんの考えや気持ちがあるから大丈夫…」
私は自分の胸に自分の右手の手のひらを当ててそう言った。
神楽さんは私のその言葉に驚いたように少し目を見開き、そしてゆっくり微笑んだ
「神楽さんは本当に俳優辞めたいんですか?…それともこんな事があって、一時の感情的な気持ちでそう思っただけ?…神楽さんが後悔しない様に出した結論ならそれはそれでいいと思います、だけど…本当に俳優を辞めたいんですか?それとも今回の事に腹を立てているだけですか?」
私は神楽さんの瞳を真っ直ぐに見つめてそう聞いた。
神楽さんは私から少し目をそらす
「…俳優の仕事は好き」
そうポツリと言った。
「じゃあ、答えは決まりましたね」
私は神楽さんの顔を覗き込むようにそう言った、神楽さんの答えが嬉しかった!
「だけど…俺はわがままだから、これからも…その…麻未と一緒にいたいし…そうなるとまた迷惑をかけるかもしれない…」
神楽さんはそう言いながら照れたように鼻の頭を掻いている。
私の方は、その言葉をどうとっていいのか戸惑っていた。
やだ…どうしよう…また顔がトマトになってる…きっと
神楽さんは私のトマト顔を見て吹き出している…や、やっぱり冗談かな…
そんな事を私が思ってると、神楽さんの両腕が優しく私を包み込んで、私の頬が神楽さんの胸に当たる…鼓動がすぐ近くに聞こえた。
「やっと、気付いたんだ…俺にとって今大事なのはお前だって…だからもう迷惑をかけたくない…」
私の事を大事だって言った?聞き違いじゃなくて?
ど、ど、どうする?どうしよう…
ドキドキしてる私の心臓、静まれ…静まれ…静まれ〜…
私は自分の心臓の動きが少し落ち着くのを待って、口を開いた。
「私は大丈夫、神楽さんのその大事だって言ってくれた言葉さえあれば大丈夫…それに神楽さんには自分一番やりたい仕事を続けて欲しい」
私は神楽さんの腕の中でそう言った。
神楽さんはよりいっそう私を強く抱きしめてくれる。
とても幸せだった…。
「お前って、凄いヤツだな…」
神楽さんはそう言って、私の両肩を掴みながら体を少し離し、私を見つめ優しく微笑んだ。
私も神楽さんを見つめる…神楽さんの瞳は静かな海のように穏やかに見えた。
神楽さんの顔が私に近づいてくる…
え?うそ?…
神楽さんの顔が私の顔擦れ擦れで止まって、ニコッと笑うと、私の額に優しく口づけをした。
一瞬、口にくる!?なんて事を思ってしまっただけに、一気に緊張がほぐれる。
ヒャ〜…足の力が抜ける…
私はヘナヘナとその場に座り込んだ…
顔を上げられない…か、顔がトマトだ〜…
「ねえねえ、今日泊まって行っていい?」
神楽さんは、満面の笑顔でそう言った。
な、何ですと????
私はこの時、ポカンとかなり間抜けな顔をしていたと思う
神楽さんはそんな私を見て、愉快そうに笑みを浮かべる
「冗談だよ…写真撮られたばっかなのにそんな事するわけないだろう…」
神楽さんの笑い声が、部屋の中に響き渡っていた。
ハハハ…で、ですよね〜…
私も神楽さんの笑顔を見て笑っていた…。
この時、外で私の部屋の明かりを物陰から見ている瞳がある事に、私達はまったく気付いていなかった。
優介はなぜあそこで口づけを額にしたのだろう?
唇にするか額にするか頬にするかでかなり迷いました。
でもなんとなく今はまだ額で…そんな感じがして…
額にしてしまいました。
物陰で見ていた瞳の正体は?過去のメールの事もありますし、気になるところですね。
次回は麻未に危険が迫る!