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すみません一日遅れました。
明日の更新は・・・・・できるだけ頑張ります。
今回はいつも以上に文章力が残念です。
もっと上手に表現できるようになりたい・・・・・・
「『マイナーヒール』、『リジェネレイション』」
一目見てもう猶予がないと感じた俺は即座に治癒魔法をかけた。
回復には最下級治癒魔法の『マイナーヒール』と、自然治癒力を高める『リジェネレイション』を選択した。
俺自身はより効果の高い治癒魔法を使うこともできるが、それを使えば今のオルドには負担になるのだ。
なぜそんなことになるかと言えば、この世界の治癒魔法の作用の仕方にその理由がある。
この世界の治癒魔法は魔法がない元の世界からは信じられない回復効果をもたらせてくれる。その根元は魔力なわけだが、治癒魔法はかけられる側の魔力も若干使用する。
まあ、大体においてはごく微量なものであるのでそれを認識している人間は少ないのではあるが。
高レベルの治癒魔法であればその分魔力も消耗する。魔力=エネルギーの消耗なのでその分体に負担がかかる。
その負担は怪我をした直後であれば大怪我であっても負担は少ないが、今回のように時間が経って体力が減っている状態で急激な回復をすると負担が大きくなるのだ。
元の世界で言うならば、手術をするにもある程度体力が必要だ、という話に言い換えることができるだろうか。
例えば老人に対して、手術を行えば病気は治るが、手術に体がもたずに死んでしまう、という話を聞いたことはないだろうか?
ざっくり言えばそんな感じなのだが。
まあ、手術と自然治癒力の強制的な増加では必ずしも同列に語れない部分があるが、ことと次第によっては施術をしても死に至る危険がある、というリスクがあるのは確かであり、そこが今回において問題となっているのだ。
俺はオルドの体になるべく負担がかからないように緻密な魔力制御でオルドの周囲の魔力をオルド自身の魔力に溶け込ませていく。
その間にもアイテムボックスからいくつかの素材を取り出して、手順をすべて魔法で代用して疲労回復に効果があると言われる丸薬を調合する。
◇◇◇
俺はその様子を呆然と眺めていた。
ヒロがどこかから薬草やら魔物の肝やらを取り出したかと思うと、それらがひとりでに磨り潰され、混ぜ合わせられ、途中何かの血が加えられて煮詰められ、水気が飛んだものが丸められていくつかの丸薬が作られた。
それは直径一センチかそこらの大きさのもので、ヒロはそれを鼻をつまんで開けさせたオルドの口の中にみっつばかり放り込んだ。
俺はそれの正体に思い当たり、納得するとともにこう思った。
オルド、死ぬなよ、と。
◇◇◇
俺はオルドの口に丸薬を放り込み、水差しで流し込んで吐き出さないように口を押さえる。
オルドが声にならない声を発し、もがいて暴れようとするが、重力魔法で押さえつけているので身動きはとれずにいた。
街の薬師のおばあちゃん曰く、効果は保証するが味と臭いは保証しないという代物で、余程のことがない限り普通は誰も手をつけない薬らしい。
一度ふざけて嗅覚の鋭い豚型の魔物の口の中にひとつ放り込んだら、ショックで死んでしまったほどの代物だ。
効果があるのは間違いないので今回はみっつ投入。
ショックで死んでしまっては元も子もないので、調薬の時点で俺の魔力をしっかりと練り込み、水で無理矢理飲み込ませつつ魔力操作で丸薬に練り込んだ魔力を操作。
速やかに胃、腸へと送り込む。
可能な限り味や臭いを感じる時間を減らすようにという俺の創意工夫であり、オルドに対するささやかな労りでもある。
重傷者に喜んで鞭打つほど俺の性格は歪んでいないので。
そのまま魔力もろとも強引に血中に成分を送り込んで強制的に疲労回復を促す。
薬が効き始め、少しだけだが体力的な余裕ができたようなので『リジェネレイション』に余分に魔力を突っ込んで回復量を増加。
三十分が経つ頃には傷はすっかり癒えて、穏やかな寝息をたてるオルドの姿があった。
「ヒロ。ありがとう!」
モーリスはそう言って頭を下げた。
「べつに。おれがしたいようにしただけだから。でも、モーリスのきもちはうけとったよ。」
俺は後悔したくなかっただけだ。
前世で散々後悔してきたからな。
俺の気持ちはどうであれモーリスが俺に礼を言う気持ちも理解はできる。
だからここで問答する気もないので、素直にその気持ちを受け取っておく。
◇◇◇
一時間ほどしてオルドが目を覚ました。
まだ頭が働いていないらしく、しばらくは呆然としていた。
次第に目に焦点があって、自分の体に傷がないのを確認すると、俺の方をじっと見て、
「・・・・・・お前が、助けてくれたのか。」
俺にそう問いかけてきた。
あるいはそれは独り言だったのかもしれない。その目には困惑や苦しみ、苛立ちや、何かに対する葛藤のような、感情が複雑に混ざりあった色が浮かんでいた。
オルドの考えはおおよそ理解できる。
普段の自身の行動を鑑みて、俺がオルドを助けるはずがない。そう考えるゆえの困惑と、自身の力が及ばなかったゆえに起きたこの結果に対する苦しみ。
自分が手に負えなかった相手に対して、逃走であれ殲滅であれ、安全を確保できるだけの能力。瀕死の重傷を治した治癒力。
自分との差をまざまざと見せつけられるという現実に対する苛立ち。
今までのオルドを見てきた者ならばこのあたりは容易に想像がつくだろう。
最後に見えた葛藤に関しては読みきれなかったが、元から俺は他人の心が読めるわけではない。むしろ、読めない方の部類に入るので、ここまで理解できただけでも十分ではなかろうか。
「あ・・・・・・」
オルドの口から微かに声がもれ、強い逡巡が目に宿る。
何を躊躇っているのだろうか?
ことモーリス以外の冒険者に対してはオルドは態度を一貫している。自分より上位の相手に対してはなおのこと。
常につっけんどんな態度をとるのが当たり前だし、まわりもオルドはそういうやつだと認識している。当然俺もそう思っている。
だから、もしも、万が一、何かの間違いで仮にオルドが礼を言うにしても、きっとそっぽ向いておざなりに言うのだろう。俺はそう思っていた。
だが、オルドはじっと俺を見つめてきた。
その目には迷いの色がまだ色濃い。
反面、何か覚悟を決めたようにも見える。
相反する感情がせめぎあい、俺のようなKYにはその奥にあるものはとても見透せない。
暫し瞑目し深呼吸。佇まいを直したオルドがとった行動は・・・・・・
「迷惑をかけてすまなかった。ありがとう。」
普段の態度が嘘かのようにオルドはしっかりと頭を下げた。
いわゆる土下座のポーズだ。
俺はしばらく、目の前で何が起きているのか理解できなかった。
え?オルドが頭を下げた?
え?え?え?
俺が混乱している間にオルドは顔を上げ立ち上がると、今度はモーリスの方を見つめる。
一瞬目を逸らしかけ、頭を振って再びモーリスと視線を合わせる。
「モーリスも・・・・・・モーリスがヒロを連れてきてくれたんだろう?そうでなきゃヒロがわざわざ俺を助けに来てくれるはずがないからな。心配かけてすまなかった。ありがとう。」
「オルド・・・・・・」
モーリスにも礼とともに深く頭を下げるオルド。
え?誰こいつ。こいつがオルドって何かの間違いだろ?
一体何があった?
モーリスも少しばかり呆然としている。でもなんか若干嬉しそうだな。口元緩んでる。
・・・・・・っていうか、空気読めよ。
「ふたりとも、てきしゅう!」
せっかくなんか知らないけどオルドがまともになっていい感じだったのに、おとなしくいい話で終わらせろよ。
まあ、『転移』でさくっと帰れば今向かってきてるやつの相手なんてしなくていいんだが、雰囲気ぶち壊しにしたアホウを屠らなければ俺の気が収まらない。
ドスドスと地響きをさせながら現れたのは一組のサイクロプス。
体長約三メートルの青白い肌をしたひとつ目の巨人。
番で、額から一本の大きな角が生えているほうが雄。生えていないほうが雌だ。
両者ともフォレストベアの毛皮を纏っていて、ノースリーブのワンピースのようになっているのだが、雌のほうは左胸が露出している。
これは一説には雌のほうが体温が高く、中でも心臓周辺は特に高温の熱を持つからだと言われている。
上位種になると火の耐性が高く、高温の蒸気を吐き出してくるあたり、熱生産力が相当高いようだ。
棍棒を手に持って人間を襲う彼らは、魔物のランクとしてはBランク。
そんなものが現れれば並みの冒険者にとっては脅威なのだが、ここにいるのは『座敷わらし(ベビーゴースト)』の二つ名を持つ常識はずれの赤子である。
「てやー」
全く迫力のない声とともにサイクロプスに突撃するヒロ。
サイクロプスはさすが番というべきか、息の合ったコンビネーションでほぼ同時に棍棒を振りおろしてくるが、魔力障壁によってあっさりと遮られた。そればかりか濃密な魔力が込められて色付いたそれが炸裂すると、固い魔力障壁を殴り付けても欠けることすらなかった棍棒が粉微塵に粉砕される。
驚愕で目を見開くサイクロプス。
そこへ鉛筆サイズの火の矢を十本ずつ撃ち込む。
まともに目をやられてのたうち回る雄と、同じようにくらったが外見上はひどく充血しただけの雌。
これだけ火の耐性が高いということは、もしかしたらこの雌は上位種への進化が近い個体だったのかもしれない。
―そんな未来はこのサイクロプスには来ることはないが。
怒り狂ってハンマーナックルをしようと振り上げた腕は、指の動きひとつでうみだされた風魔法の鎌鼬によって肩口から切り飛ばされる。
さらに、両腕を失って無防備にさらされた腹にボディーブローのごとき衝撃波が撃ち込まれ、それはそのままアッパーのような上向きの軌道へと変わる。
数百キロはあるだろう巨体はあっさりと宙を舞い、すかさず土魔法によって作り上げられた地面から生えた超硬質の土の槍がその腹を深々と突き刺してあっさりとサイクロプス雌の命を奪った。
雄はその間も目の痛みにのたうち回っており、自らのパートナーが死んだことに気付いていない。
そして、気付かぬまま後を追うことになる。
晴れた夜空に一筋の雷光が走ってサイクロプス雄へと突き刺さり、その心臓を停止させた。
◇◇◇
瞬殺。
まさにその一言につきた。
その光景を見たモーリスとオルドは呆然としていた。
モーリスは直前にゴブリンの集団を同じく瞬殺したところを見てはいたが、それでも今ほどの衝撃はなかったように思う。
言うまでもいことだがBランクの魔物とGランクの魔物とではまったくもって格が違う。
戦力の単純比較でサイクロプスはゴブリン三十から四十匹分と言われるが、ではゴブリン四十匹を範囲魔法で殲滅できる魔法使いが、サイクロプスを倒せるかと言えばそうとは言えない。むしろ可能性としては低いほうだろう。
ゴブリンを倒すのがやっとの火力ではサイクロプスに致命的な傷を負わせることは難しい。
そんな相手をいとも簡単に屠って見せたヒロ。
モーリスとオルドはただただその実力に驚いていた。
◇◇◇
「驚いた。やっぱりヒロはすごいんだな。」
感嘆したように呟くオルド。
・・・・・・何これ。オルドに素直に誉められるとか、むしろこっちが驚いたんですけど。
本当にどうしたんだオルドは。
確かにオルドは俺の戦闘を見たことはなかったけれども。でも、今までのオルドだったらどれだけ力がある相手だって悪態ついて素直に認めるなんてことはしなかったはずだ。
スカッとするためにサイクロプスを潰したっていうのに、なんか余計にモヤッとした気分になってしまった。
・・・・・・帰ろう。早く帰って寝よう。明日になったらオルドも元に戻ってるはずだ。うん、間違いない。
俺はそう自分に言い聞かせながらモーリスとオルドを連れてギルドへと『転移』した。