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夜の森を走る。
―ヒロはモーリスのペースに合わせて飛んでいるが。
ペースとしては順調ではある。
モーリスには焦りがあるので若干ペースが速すぎる気もしないではないが。
とはいえ、Gランクという言葉から連想されたお粗末な探索ではないことはこの場においてはプラスの要素か。
索敵を俺に任せているとはいっても周囲の警戒は怠ってはいない。
『暗視』スキルはもっていないが風魔法で薄く膜のようなものを張ってそれの変化で周囲の状況を把握しているようだ。
「右からくる。」
木を蹴って高速で飛来した猿型の魔物が牙を剥いてモーリスに突撃するが、纏っていた風の膜を破裂させて生み出した一時的な強風が猿の速度を僅かに減じた。
その僅かな時間があればモーリスには十分だったようで、左手に握りこまれた小型のラウンドシールドで殴り付けながら相手の視線を塞ぎ、右手のナイフで腹に一撃を加える。
一拍遅れて猿の背中側から血飛沫が飛ぶ。
(風の膜の応用か。)
先程相手の勢いを削いだ風の膜と同様のものをナイフに纏わせて指向性を持たせて放射したようだ。
「なかなかやるな。」
「こんな小細工しかできないからいまだにGランクなんだけどね。」
俺の誉め言葉にもそう返すモーリス。
俺の見立てではモーリスは現時点でEに近いFぐらいの能力はあるはずだ。
これだけの技量を身に付けられる素養があってなおGランクで止まっているというのは、おそらく経験が足りないからだ。
ゴブリンばかりを狩って他とはまともに戦っていないから今以上には伸びない。
けど、狩り場を今よりワンランク上げればすぐにEに届くだろうとも思っている。
それでもそうせずにいまだにGランクに甘んじているのは・・・・・・
(オルドに気を使っているから、か。)
そうなるとやはり、オルドとの関係性をどうにか変えないとモーリスにとって、そしておそらくはオルドにとってもいいことにはならないだろう。
(とはいえ、変えるためにはオルドを連れて帰らないとな。)
モーリスが張った風の膜と同じものをより広い範囲に張って、近付いてくるものを撥ね飛ばしていく。
何層にも張って、こちらに向いてくるのを感知したら膜の一部だけを破裂させて風圧を叩き込む。
ベテランの技術は盗まないとね。
そうして進むことしばし、ゴブリンにかち合った。
とはいっても俺の風の膜の餌食になって、既に戦闘不能状態であり、モーリスがとどめを刺したのだが・・・・・・
「何!?モーリス!俺の風の膜がかき消された、注意しろ!!」
突然俺の風の膜が消された。
つき破られたわけではない。何かの干渉によって術そのものが消滅した。
俺は魔力制御には自信があるし、実際にかなり高レベルだ。
もっと深い場所にいた推定Aランクの竜種にすら勝っていた。
だから、こんな場所でそこらの魔物に乱される訳がない。
そうなると考えられるのは吸魔石による干渉。
吸魔石は名前の通り魔力を吸う石で、この石ひとつであらゆる魔法がキャンセルできると言われている。
容量以上の魔力を注ぐことで破壊するという荒業が通用するらしいが、俺にはその手は使えない。
俺には一般人の二倍ほどしか魔力がないからだ。
『魔力精密制御』スキルを根幹とする技術で必要魔力を大幅に削減しているから上級魔法も普通に撃てるが、吸魔石の破壊には最低でも一般人の百倍の魔力が必要だと言われているため到底無理なのだ。
俺の見立て通りその先端に吸魔石を取り付けた杖を持ったゴブリンが先頭に現れた。
その後方には多数の気配がある。
俺は『ライト』を前方の広範囲が見えるように飛ばす。すると、いるわいるわ。
ちょっとひくぐらいのゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。
木々の乱立するこの森の中にあって百を軽く越える数のゴブリンがひしめいていた。
俺は即座に光魔法で指先からレーザーを出し、左から右へと凪ぎ払う。
しかし、削れたのは左側の一部のみ。
吸魔石を掲げたゴブリンがゴブリンにあるまじき速度で射線に割り込んで防いだのだ。
あのゴブリンは人間で言うところのスカウトやレンジャーらしかった。
(つくづく運がないな。)
この森に入ってから手持ちのチートと噛み合わない状況ばかり起きている。
だが、俺とてこのままゴブリンに蹂躙されてやるつもりはない。
初手は潰されたが、俺のチートはこんなもんで終わりじゃない。
目にもの見せてくれる!!