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「ケッ、くっだらねえ。」


そう言って悪態をつきながら冷めた目で見ているのはGランク冒険者の・・・・・・なんて名前だっけ?


「オルド、依頼の受付が終わったから行くぞ。」


そうそう、オルドだ、オルド。

声をかけたのは同じくGランク冒険者のモーリス。

なぜモーリスの方は名前を覚えていてオルドは覚えていないかと言えば、モーリスは俺に会うたび声をかけてくれ、普段の態度からしても好青年という感じだからだ。

好青年と悪態をついているだけのやつと、どちらの名前を覚えたいかと言えば自ずと答えは出るだろう。

モーリスが二十二歳でオルドとは同い年だと言っていたのでオルドも二十二歳ということになる。

シャルロッテさんから聞いたところによると、二人とも十五歳から冒険者をやっているということなので、ランクはともかく冒険者としてのキャリアは七年はあるわけだ。それであれはダメだろう。

特に何が一番ダメかと言えば協調性のなさだ。終始あんな斜に構えたような態度でいてはお話にならない。

無口で知られ、あまりにもしゃべらなすぎて『サイレント』の異名を持つCランクの冒険者ですら、自らはしゃべらないものの冒険者の輪の中に自ら入って交流を持とうとしているし、聞き上手らしくいい関係を築けている。

話が少し脱線したが、そんなわけでオルドとモーリスは若干周りから浮いている。


(でも、モーリスも同罪かな。)


オルドと違い、モーリスには他のメンバーから自分達のパーティーに入らないか?という打診は何度かあったそうだ。

しかし、彼は頑なにオルドと一緒にいるのだと断ったらしい。

モーリスにとってはオルドを思ってのことなのだろうが、俺から言わせればモーリスがそんなだからオルドがモーリスに甘えて他の奴らと距離を縮められないんだと思うが。

まあ、そのモーリスともあいさつしあう程度の関係なのでオルドとなんでそこまで付き合っているのかとかは聞いていないのだが。

ちなみに、ホモではないらしいので『付き合っている』とはそういう意味ではないので悪しからず。


◇◇◇


数日後。


「オルド。」


普段、他の冒険者との付き合いが薄いオルドにはモーリスぐらいしか話しかけることがないのだが、この日は珍しくBランク冒険者のカインが話しかけていた。


「ヒロにかこつけた訓練の是非はともかくも、一度上位の冒険者と模擬戦をやってみた方がいいと思うがな。」


「ほっといてくれ。モーリス行くぞ。」


オルドは若干の苛立ちを言葉に乗せながらモーリスを呼びつける。


「オルド、折角の忠告だ。受けておいた方が・・・・・・」


「うるせえ!モーリスまでそいつらの味方すんのかよ!・・・・・・もういい。俺一人で行く。一人でも十分戦えるんだからな!!」


相方のモーリスにまで自分の意に沿わない態度をとったのが気に入らなかったのか、一人で行ってしまった。


「追いかけなくていいんですか?」


俺は若干気落ちしたように顔を俯かせたまま動かないモーリスに声をかけた。


「・・・・・・ああ、ヒロか。いいんだよ。依頼はゴブリン討伐だし、無理そうなら逃げるぐらいの頭はある。あいつ、プライドだけは高いからな。」


苦笑気味に答えるモーリス。

この世界ではゴブリンが一般の人間よりも強いのは常識であり、まだランクの低い冒険者―実力の不足している冒険者―がゴブリン相手に逃げ出すのは何ら恥ではない。

むしろ、力量差を見極められずに戦って死んでしまうことの方が恥だと考えられている。

つまりはオルドはプライドが高いのでみすみすゴブリンに殺されるようなまねはしないとモーリスは言っているわけだ。


◇◇◇


夕刻。夜間は闇の中での行動となるため、高レベルの『暗視』持ちなどの一部の冒険者以外はそろそろ依頼を終えて戻ってくる頃。

当然オルドも戻ってきていい時間なのだが・・・・・・


「オルドが戻ってきていない・・・・・・」


オルドが一人で行ってしまったためにモーリスは今日は休養日にしたようだが、午後からはオルドのことが気になって冒険者ギルドで待機していた。

しかし、普段二人で狩りをしている時の帰還時間を二時間過ぎても戻ってきていないことがモーリスを不安にさせていた。

一度はオルドの家にも行ってみたようだが、家にはいなかったらしい。

当然、ギルド側にもオルド帰還の報告はない。


「・・・・・・なあ、ヒロ。俺の心配し過ぎかもしれないこともわかってる。お前が俺達の関係性をよく思っていないだろうってこともわかってるつもりだ。けど、オルドが心配なんだ。頼む、力を貸してくれ!!」


モーリスはそう言って頭を下げた。


「・・・・・・」


モーリスは頭を上げない。

俺から何らかの答え・・・・・・いや、力を貸すという返答を得られるまでは下げ続けるつもりなんだろう。

彼の声にも、頭を下げる直前の顔にも、真剣なものが見てとれた。


「わかりました。」


俺はあっさりと折れることにした。

正直、オルドのことはどうでもいい。どうでもいいが、もし万が一オルドが本当にピンチだった場合、この場で動かない選択をしたらまず間違いなく俺は後悔する。

オルドを見殺しにし、モーリスへの協力を断って、それで得られるものが後悔だけなら俺はここで動くことを選択する。


ギルドマスターから借りた周辺地図を広げてモーリス達の普段の狩り場の位置を確認する。


「・・・・・・俺の転移位置からは少し離れてるな。


俺の『転移』は魔力でそれ用のポイント―地図アプリのピンのようなもの―を配置した座標にしか跳べない。

狩り場の位置は転移ポイントから三キロほど離れていた。


「時間がない・・・・・・かもしれない。とっとと行ってオルドの安全を確保する。モーリスはついて・・・・・・くるんだな?」


モーリスがうなずいた瞬間、俺はモーリスとともに『転移』した。


◇◇◇


夜の森は本当に真っ暗だ。

日本の都市部とは比べ物にならないくらい明るい夜空の星の光も、繁茂する枝葉にさえぎられてここまでは届かない。

正直、夜の森は俺にとっても条件のよくない場所だ。


俺は『暗視』スキルを持っていない。

睡眠時間のタイミングは基本的に体に任せているので、夜はかなり早い時間から眠っているため、夜間の行動をほとんど行っていない。習得するための熟練度がまったく足りていなかった。


「『ライト』」


灯りの魔法を放つ。

周囲に三つの光の球が浮かび、辺りを照らす。


(昼間とは雰囲気が違うな。)


それは明るさだけの問題ではなかった。

そこかしこに何者か達の息づかいが聞こえる。

『聴覚強化』による人並外れた聴覚がそれらの存在を知らせるが、目には何も映らない。

『気配察知』の熟練度が上がり続けているが、今の状態で不意打ちをくらってなんの問題もなく対応できるかと問われれば否と答える他ない。レベルが足りているとは思えなかった。


「ヒロ?」


一人思案に(ふけ)る俺を訝しんだモーリスが声をかけてくる。


「モーリス達の狩り場は向こうだな。」


俺はそう言って移動を開始する。

ここでモーリスを不安にさせてはいけない。

―夜の森が今の俺にとっても決して楽観できる場所でなかったとしても。

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