表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/67

第9話 旅立ち

「にーちゃん、これ、俺の宝物」


 そう言って、孤児院の子供がヘンな形をした石を手渡してきた。


「ありがとう・・・・・」


 どういうことだ?


「カズヤ、何でもかんでも拾って食べるんじゃないぞ、必ず帰ってこいよ」


 ボリス教官、俺は小学生じゃないんだが、


「寂しくなるわね、たまには手紙を書くのよ」


 シスターアデリン、すぐに帰ってくるんですケド、涙ぐむのはよしてよ、


「カズヤ、どんなに離れていても俺達は友達だ、忘れるな」


 コジロウ、どうしてお前がここにいる?


「カズヤさん、武勲をお祈り致しております。帰ってきたら式を挙げましょう」


 サナエさん、それって死亡フラグじゃないですか?

 式を挙げるってナニ?サナエさんまで何でここにいるの?


 教会の食堂が壮行会よろしく、手作りの花輪やら派手な色の布の端切れで飾られている。


「あの、みなさん、何か勘違いしてらっしゃいませんか?俺、ひと月ほどで帰ってくるつもりなんですケド、どこぞの魔王を倒しにいくワケじゃないんですよ?」


「まあまあ、カズヤ、こういう笑えるイベントは少ないんだ、黙って立ってろ」


 おい、コジロウ、笑える?今、笑える、って言ったか?


「狩場デビューするやつを派手に見送る、ってのが、ここら辺のしきたりなんだよ」


 それはわかるが、みんな揃って死亡フラグのセリフを浴びせまくるのはいかがなものか?


「ゲン担ぎなんだとさ、ヤバイことは先に済ませておこう、って訳らしい」


 ロバート司教、ボリス教官、フルタ課長の前には酒ビンが転がり、早々に出来上がってゲラゲラ笑っている。


「カズヤ、一曲歌え!」


 いい感じに酔っぱらったロバート司教様からのご指名を受けた。

 いいだろう、歌ってやろうじゃないか!

 教会の窓を木剣で叩き割り、盗んだ馬で走り出したくなるような青春のテーマ曲をリュートの弦をかき鳴らしながら歌った。


 先日、最大の懸念であったアイテムボックスもアイテム倉庫としてクリアできたので、冒険者デビューをしたいと思いソフィに相談してみた。


「う~ん、とりあえず魔境に行ってみるのがいいかしら」


 ソフィがぎらぎらと陽の光を反射する細身の剣を手入れしながら答える。


「ソフィア先生、初心者コースでお願いします」


 とりあえず魔境とか、仕事帰りの居酒屋の注文じゃないんだから、


「冗談よ、街道沿いに歩いて村を訪ねて行くのがいいわね」

 

 ソフィア先生によると、自治領軍、及び王国軍は魔境や国境に接する砦や要塞に配属される部隊と王国内を守る部隊とに大別されるそうだ。

 王国内を守る部隊が街道などを中心に巡回警備しているのだが、領土のすべてをカバーできるわけではない。


 魔境から警戒線の隙間を潜り抜けてきた魔物が、街道から離れた森や草原や廃墟に住み付くようになる。

 やがて数が増えると農村の畑や村人を襲うようになるが、軍隊は組織ゆえに小回りが利かず、実際に動くのは被害が出た後になってしまう。

 そうかといって、少数精鋭の冒険者組合に正式に依頼を出すとなると多額のお金がかかる。

 

 一方で、特定の仕事を持たない冒険者は、魔物を殺して商会の市場に売ることで収入を得ているわけだが、広い王国をあちらこちらと魔物を探し回るのは効率が悪い。

 そこで農村を訪ね歩き、


「何か困ったことはありませんか?近くで魔物を見かけませんでしたか?」


 と、聞いて回る。

 組合からの依頼ではないので討伐報酬こそ出ないが、あても無く彷徨い歩くよりはよっぽど良い。

 村人からは感謝されるし、本来ならテント暮らしの毎日だが、使っていない倉庫や空き家があれば使わせてもらえる。

 こうやって名前を売っていけば、いつかおいしい仕事が名指しで貰えることもあるそうだ。

 

 ふむ、しかしこの異世界で見ず知らずの人に向かって気軽に話しかけることができるだろうか?


「大丈夫よ、私も一緒に付いて行ってあげるから」


「マジで?ホントに?」


「ナニよ、私がいたら嫌なの?」


「違うよ!すっごい嬉しいよ!やった!」


「よろしくね」


 ちゃっちゃら~♪、エルフのソフィアが仲間になった!


 かくして俺は、みんなの歓声を背に受けて旅立つことと相成ったワケである。

 イヤ、ホント、すぐに帰ってくるつもりだったのに、すげ~帰りにくくなってしまった。

 帰ってくるな、ってコトか?


 パーティメンバーは、俺、アリス、ソフィア、シリウス。

 3人と1匹の混成パーティだ。

 アイテム倉庫の中に、狩場でドロップしたが高く売れる品でも無く、そのまま放置されていたハーフプレートと呼ばれるものがあったので、俺はそれを使うことにした。


 フルプレート、いわゆる全身甲冑もあった。

 重くて動けないという程ではなかった。

 むしろ意外と動きやすいのに驚いたが、動くとガチャガチャうるさいし、なにより鉄臭かったのでやめた。

 剣と盾もやはり倉庫に眠っていたものを引っ張り出して、なんとか形になった。


 アリスは教会シンボルのついた紺色を基調とした旅装束、長いスカートに、裾の短い学ランのような上着を着ている。

 普段背中に広がっているウェーブのかかった髪の毛は、ゆるい三つ編みにまとめられている。

 それで大丈夫なの?と思ったが、ロバート司教から物理耐性のついた高級品をもらったそうだ。俺のエロカッコイイ回復職の装備をプレゼントしようと思ったのに・・・・・。


 ソフィは身体にぴったりした感じの緑色をした布製の上着と白のレギンス、まっすぐな長い金髪が繊細な刺繍の入った緑の布地を背景にして、よく似合っている。

 これもまたエルフの郷謹製の特別性とのことである。

 装備の性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを教えてやりたい。


 マラガ自治領の北は魔境、西には俺とアリスが出会ったマルティニー山脈があり、その向こう側がカタロニア帝国、南に行くとバルト王国の中心地、王都である。

 

 俺達は魔境に沿うようにして東に向かい、シルチス王国へと続く街道を歩き始めた。

 両側には麦や野菜の畑が広がり、時折、荷物を積んだ馬車や街道の巡回兵とすれ違う。

 ソフィは有名人のようで、中には親しげに言葉を交わしていく農夫や兵隊がいる。


「ソフィは顔が広いんだな」


「まあね、故郷を飛び出して冒険者になってから、50年は経つけれど、この辺りに20年くらいは落ち着いているから」


 ナニ?50年?


「なあに?ヘンな顔して、わかるわよ、今何歳なんだろう?って考えているんでしょう?」


「ずいぶん若く見えるなあ、って・・・・・」


「エルフはね、ヒト種より寿命が長いの、エルフの基準から見れば、私なんてやっと子供を抜け出したところなんだからね」


 なるほど、ファンタジー定番の長命種ということか、


 周りの景色をのんびりと眺めながら歩き続け、やがて夕日に俺達の影が長く伸びるようになった頃、まとまった集落が見えてきた。

 

 第一村人を発見したので、アリスが


「こんにちは、旅をしている教会のものです。村長さんはいらっしゃいますか?」


 でかいシリウスに逃げ腰になっているが、天使アリスと美人エルフがいるので安心したのか、呼んでもらえる事となった。


 村の奥からおじいさんと娘さんがやって来て。


「わすがそんじょうだけんどもなんぞようでもあるまずか?」


「私は孫のセリアです。この村に何かごようですか?」


 ナニ言っているのか、まるでワカラン、お孫さんの通訳が必要なレベルだ。


「旅をしている冒険者です。私はアリス、教会のシスターです。村に立ち寄らせていただきたいのですが、何かお困りの事があれば出来る限りご協力いたします」


 アリスが別人のようだ・・・・・。


「こなーだまごがあるくだすよーになっだのよ、はーてどこにいきおっだがな?めぇをはなすとばあさんがあらびるのよ」


「おじーちゃん、孫は私よ、ごめんなさい、ちょっとボケちゃって」


 いきなり高難易度クエストだ、俺には無理。


「もうすぐお父さんが畑から帰ってくるので、少し待っていてもらえますか?」

 そうさせて貰いましょう。

 

 しばらく村長さんの家でお茶をいただきながら待っていると、娘さんの通訳の必要の無いお父さんが帰ってきたので、あらためて話をし、2、3日村の倉庫を貸していただけることとなった。

 

 夕食の前に具合の悪いひとがいれば、アリスが治療しましょうと言ったので家の軒下に椅子を出して待っていると、ゾロゾロと来るわ来るわ。

 あきらかにアリス目当てで、鼻の下を伸ばした男共が列を作っているので、俺がでかい剣を取り出し、アリスの後ろでこれ見よがしにザリザリと音を立てて研ぎ始めると散って行った。

 俺のアリスに手を出すんじゃねぇ、


「こら!」


 しかしソフィに怒られてしまった。

 アリスの無料奉仕が功を奏して、村人からお礼代わりに食糧などをいただき、村長さんのお宅で夕食をご馳走になることができた。


 明けて翌日、俺は気持ちの良い青空の下、畑の岩を取り除き、邪魔な大木の根が有るというので、村の男達と総出でロープを引っ張り取り除いた。

 アリスの差し出した水筒から浴びるように水を飲み、息を吐く、これが労働の喜びというものだな・・・・・。

 

「違う、違うぞ、ナンか違うぞ!ボケた爺ちゃんの相手や、畑仕事をする為に旅立ったワケじゃない、こう・・・・・なんて言うか、魔物を倒し、美女を助け、世界の秘宝を見つけ出す為だったはずだ!」


「身体強化の練習にもなるでしょ?」


「それは、そうだが・・・・・」


「マラガから1日しか歩いてないのに、魔物なんかそうそう出てこないわよ、それに美女ってナニ?」


 ソフィアさんの言う事はいちいちごもっともではありますが、


「いや、それにしたって、いいように使われてないか?」


「仕方無いじゃない、こうやって顔と名前を覚えてもらうのも仕事のうちよ」

 

 畑の整地がひと段落すると、これで雨が降ってくれるとちょうど良いな、という話声が聞こえてきたので、ここはひとつ俺様の雨魔法?の出番だろう。

 魔力を活性化し、教会の裏庭でやったように上昇気流を作りだし、雲を作ってやると、さっそく雨粒が落ちてきた。

 男達がひどく驚いた顔でこちらを見ている。

 どうだ、すごかろう、えっへん。

 その後、俺に対する態度がひどくよそよそしくなり、遠巻きに見られるようになってしまった。

 あれ?


「怖がらせちゃダメじゃない」


 また、ソフィに怒られた。

 最近、ソフィに怒られるのが気持ち良くなってきたのが気になる。

 ソフィみたいに、手のひらの間からジャバジャバ水が出てくるほうがすごいと思うんだが。


「それ、あんまりやっちゃだめよ」


「俺の魔法って、珍しいの?」


「出来る人はいないと思う」


 ユニーク魔法ってやつか、いい響きだ、でも雨が降ったからって、魔物がバタバタ倒れていくワケでもないのに、そんなに驚くほどのものか?


 結局、もう1日身体強化の練習をしながら、畑仕事を手伝った。

 早朝、村を出発するときは、多くの村人が笑顔で見送ってくれ、こういうのも悪くは無いと思った。

 

 さして変わったこともなく、暇つぶしに俺とアリスとでしりとりをしたり、のんびり風景を眺めながら街道をさらに東に向かう。

 

 途中、川沿いでテントを張り、野営をしたのだが素晴らしいものを見ることが出来た。


 ソフィとアリスがちょうど良い川だと言いながら、いきなり俺の目の前で服を脱ぎ始め、水浴びをはじめたのだ!


 生きていて良かった!


 女神がいた!


 白い肌に形の良いおっぱいがプルプル震えて、目が釘付けとはまさにこの事だ。

 水滴がキラキラと輝きながら身体をなぞって落ちていく。

 さすがに腰から下には薄い布を巻いていたのだが、それがまた、いい具合に水に濡れて肌に張り付き、ほど良く透けて俺の想像力を果てしなく掻き立てる!

 俺がいる事を知っていて脱いだんだから、見て良いんだよな?

 良いはずだよな!

 

 自分自身を都合よく納得させて、遠慮なくジロジロ見ていたら、ソフィアさんに風魔法をぶつけられた。

 ヒドイ・・・・・。


 夕食用の焚き木を集めて来るように、との緊急クエストを頂いたので、楽園に背を向けて泣きながら流木を探しに走った。

 焚き木を集めて帰ってきたら、すでに身支度を整えた後だった。


 後で知ったことだが、この世界では行水という習慣があり、公衆浴場も混浴である。

 しかしながら、男性はジロジロ見たりせず、見て見ぬふりをするのがマナーだそうだ。


 そんな事できるか!


 どこの大賢者だ!


 しまった!あの時、当然のように俺も服を脱ぎ、一緒に川に入れば良かったのだ!

 だが、その後、一緒に水浴びしようとして脱ぎ始めると、『目つきがヤらしい』と言われて、拒否されてしまった・・・・・。

 

 薪拾いの最中に、泳いでいる魚を見つけたので、軽く身体強化をかけたら、あっさり捕まえることができた。だが、これでは風情がないので、今度釣竿でも作ってみよう。

 

 夕食は村で頂いたパンと、野菜、捕まえた魚の内臓を取り出してから、おき火で焼いて食べた。

 夜は俺とシリウス、ソフィとアリスのチームに分かれ、交代で見張り番をすることになった。

 シリウス相手に女性の裸に関する俺の熱い想いを切々と語っていたら『うるさい』と叱られた。

 その後、風で揺れる木の枝の音や、遠くで聞こえる獣の遠吠えにビクビクしながら夜を過ごした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ