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第42話 クリスと愉快な仲間たち

 ≪カズヤ≫


 俺たちゃ無敵の兵隊だ~♪(俺たちゃ無敵の兵隊だ~♪)

 鍛えた身体で突撃だ~♪(鍛えた股間で突貫だ~♪)

 ゴブリンオークも怖くない~♪(あり金持ち出し娼館へ~♪)

 みんなの幸せ守るんだ~♪(現れたのは俺の嫁~♪)

 走り出せ!(なんでここに!)

 剣を振れ!(カネ返せ!)

 ヤツを倒せ!(チェンジだ!)


 規則正しく響く軍靴の音と共に、兵隊ががなり立てるヘンな歌が聞こえてくる。

 曲は例のフルメタルナントカの中で兵隊が行進しながら歌ってるヤツだ。

 何でこんな歌が朝っぱらから聞こえてくるんだろう。

 などと、毛布を引き寄せ半分夢の中で考える。

 そういえば、軍隊の前線基地に連れ込まれてしまったんだっけか。

 昨日の夜は遅くまでアーロンさんやクリスさんに絡まれてしまい、寝不足気味で頭が重い。

 下品な歌を子守唄に、もう一度夢の中へ突入しようとして頭の上まで毛布を引き寄せる。


「カズヤ」


 俺を呼ぶ声がする。

 いつものようにアリスが起こしに来てくれたのだろう。

 やはり、いつものように腕を取り、寝床の中に引きずり込み、抱き枕代わりにする。

 こうやって、アリスと軽くイチャイチャしながら惰眠を貪るのが俺のささやかな幸せなのだ。

 幸せなのだが、なんかヘンだな・・・。


「アリス・・・、ちょっと成長したか?腕が太くて、硬いような気がする」


 まどろみの中、アリスの腕を撫でる。


「それは、カズヤを強く抱きしめることができるように・・・」


 ヘンだな・・・、やけに腕が毛深く感じる。

 もっとスベスベしていたような気がするのだが。

 アリスの身体に腕をまわして、その柔らかさを・・・。

 あれ?胸が硬い・・・。


「アリス・・・、なんだか、おっぱいって言うより、胸板が、がっしりしたような・・・」


「それは、カズヤの愛を受け止められるように・・・」


 包容力のありそうな広い胸、なんか安心する・・・。

 これは、これで・・・。


「アリス・・・、妙に声が野太い・・・って、ギャァアアアアアア!」


 眼を開けて、朝イチで目の前に現れた物体と見つめ合い、悲鳴を上げ、飛び起きる。


「カズヤ、朝メシだ、さっさと来い」


「クリスさん!あんた、俺の寝床の中でナニしてんだ!心臓止まるかと思ったじゃねーか!」


 さっきから俺がペタペタ、ナデナデしていたモノはクリスさんの筋肉だった。

 俺の寝床の中で当たり前のように寝そべり、片肘を付いて見上げている。


「カズヤが情熱的すぎて、危うく身を任せちまうところだったぜ」


「ふざけんなよ!分かっててやってるよな!ワザとやってるよな!」


「わざわざ俺が起こしに来てやったんだ。早く来い。朝メシはしっかり食わねえと大きくなれないぞ」


 のっそりと起き上がり、天幕から出て行くクリスさんを呆然と見送る。

 体中に広がった鳥肌と芯から湧き起こる震えが収まらない。

 一夜の間違いを犯してしまった女性のように、毛布を胸にかき寄せ、内股で乙女ポーズをしている自分に気が付き、慌てて脇に放り投げる。

 あまりの衝撃に女体化してしまうところであった。

 この異世界、俺を嵌めようとする罠が多すぎる。

 それにしても、さすが第一級の冒険者だ。

 こんな破壊力のでかい捨て身のボケをかましてくるなんて・・・。

 このままダラダラしていたら何が起こるのかワカラン。

 仕方なく、テントから這い出し皆の元へ向かう。


「おはよー、カズヤー」


 駆け寄ってきたアリスがいつもの百倍、天使に見える。

 先程の悪夢を上書きする為に、抱き着いてきたアリスをいつもより長めにハグする。


「ん~~~~~」


 あぁ、女の子って柔らかくって、暖かくって、何て言うか・・・。


「カズヤ!こっちだ!」


「・・・・・・」


 俺を呼ぶダミ声を無視していたら、逞しい腕に襟首を掴まれて、またもやオッサン達の中に引きずり込まれてしまった。

 クリスさんとアーロンさんに挟まれ、昨日のように盆に皿を乗せて、朝食を受け取る兵隊の列に並ぶ。

 昨日、こってりした肉を食いすぎて胸やけがする。

 朝食はさっぱりと野菜のサラダとスープで軽く・・・。


「カズヤ、もっと食え」


 俺の皿の上に肉の塊が、ベショっと音を立てて叩きつけられる。

 肉さえあれば良いというのは、体育会系の間違った伝統だ。

 食事っていうのはバランスが大事なんですよね。

 皿の上に盛られた肉を見ただけで、胸やけが悪化して腹から酸っぱいモノがこみ上げて来そうになる。

 今日は野菜中心であっさりいきたかった。

 あきらめて目の前の肉の山を崩すことにする。

 同じテーブルでクリスさんとアーロンさんが特盛の朝メシをモリモリ食っている。

 うぷっ、見ているだけで胃もたれが・・・。


「ここは標高が高いせいか、もう朝晩は冷え込むな」


「俺の村でも麦の刈り入れが終わって、そろそろ冬支度かな」


「クリスさんの村って何処なんですか?」


 クリスさんが、上の方に目を向け、何かを思い出すような顔をする。

 自分の腕だけを頼りに魔物を追いかけ、世界を飛び回るような人がそんな顔をすると、俺の乙女回路がすこしキュンとする。

 まずい、朝の影響がががが・・・。

 そう言えばソフィも時々こんな表情をする。

 俺もちょっと元の世界の事を思い出した。

 皆どうしてるかなあ。

 元気にしているだろうか?


「オルセって村だ。ここからはずっと北の方で魔境が近い。シルチスとの国境もすぐ傍だ。バルト王国の北東の端っこだな。シルチスに近い街道沿いにあるおかげで、教会も宿屋もある。地方の村にしてはワリと大きい方だな」


「カズヤ、こいつはこう見えても貴族様だぞ。男爵様だ」


 アーロンさんがフォークでクリスさんを指しながら、からかうように言う。


「へ~、ってことは領地持ち?その村の領主様?」


 お上品な貴族様にはとても見えない。

 口の中に放り込んだ肉の塊りをゴリゴリ音をさせながら食べている。

 ゴリゴリ?クリスさん、骨まで食っていないか?


「そんなんじゃ無ぇって。名前だけさ、名誉爵位ってやつだ。昔、フォーゲル砦の戦いで、もらったご褒美のおまけだ」


「フォーゲル砦の戦い?」


「そうか、カズヤ達、転生者がこっちにくる前の事だから知らねえか。だいたい十年位前に、フォーゲル砦が魔物の大軍に攻められて、魔境から大量の魔物が溢れ出しそうになった事があるんだ。カズヤ・・・、残さず食え」


 話の合間にこっそり俺の皿の上の肉を、クリスさんの皿に移し替えようとしていたら、バレて押し返された。


「そん時に大活躍したのがクリスのパーティだ。寄せては返す魔物の群れを千切っては投げ、千切っては投げの大活躍。功一等で王様からお褒めの言葉と爵位、その他諸々を頂いたってワケだ」


「へぇ~~」


「アーロン・・・、話を盛りすぎだ。カズヤが本気にするじゃねえか。その砦は俺の村から、そう遠くなくてな。ちょいとがんばっただけだ。それに・・・、あん時は、エルフの大部隊が、どこの部隊よりも早く応援に駆けつけてくれたから、なんとかなった。正直、もうちょいエルフが遅かったらヤバかった。本当の功労賞はエルフだよ。その中には、もちろんソフィもいた」


 『ちょいとがんばっただけ』か・・・。

 カズヤ語録に書き加えておこう。

 歳とって、昔の自慢話をするときに使ってみたい。


「そこまで戦線をもたせたのは、お前の手柄だ。素直に誇れよ。そう言やあ、ピカピカした高そうな剣も貰ったよな?あれ、どうした?」


「家の物置に放り込んである。見た目が派手なだけで役に立たん」


「そう言うなよ。下賜品ってのはそういうもんだ。ジジイになったら孫に見せて自慢しろ。『ワシの若い頃はなぁ~』とか言って、ウザがられる事請け合いだ。それに、お前の願いで、村に立派な食糧倉庫と防御柵を作ってもらえただろ」


「それが一番ありがたかったな。カズヤ、さっさと食え。残さないで食べろよ」


 ここは相撲部屋か!

 二人に監視されながら、なんとか腹の中に流し込む。

 学校給食の時間に、周りから急かされながら独りだけいつまでも食べていた子がいたのを思い出した。


「さて、そろそろやるか、カズヤ」


 え?何をヤルの?

 立ち上がる二人に不吉な気配を感じて拒否の姿勢を全面的に打ち出したが、両脇を二人に抱えられ天幕の外へ運び出された。




 ≪ソフィア≫


 最後まで寝ていたカズヤがクリスとアーロンに挟まれて朝食の列に並んでいる。

 昨夜は三人で遅くまで話し込んでいたようだ。

 何やらカズヤが二人に向かって騒いでいる。

 本人は意識していないだろうけれど、自然に周りに合わせるのが意外と上手くて、新しい環境に馴染むのが早い。

 さっそくクリス達にも気に入られたみたいで、からかわれている。

 他の兵隊達もカズヤに声を掛けて行く。

 怒ったり、笑ったり、素直に表情に出してくるカズヤを相手にしていると楽しいのだろう。

 良い傾向だ。

 冒険者として、あちらこちらを旅する職業柄、誰かを助けたり、誰かに助けられたりする事は避けられない。

 この事態に巻き込まれたのは偶然だけれども、軍隊に顔を売っておくのは悪くない。

 クリス達のパーティに会えたのも良かった。

 いずれ役に立つ時がくるかもしれない。


「はぁい、ソフィ」


「おはよう、ドロシー」


 彼女はエルフの郷の同じ部族出身で、歳が近い事もあり、幼い頃から親しくしている。

 人付き合いの苦手な私と違い、明るく気さくな性格で、昔から集団の中で私だけが浮かないように、人前でしり込みする私をいつも助けてくれていた。

 いつまでもドロシーにべったりではいけないと思い、彼女からのパーティへの誘いを断り、独りで旅を続けた。

 少し後悔したこともあったけれど、カズヤに出会えたのだから、これで良かったと思う。


「魔境はどう?何か変わったことはあった?」


 受け取った朝食を持ち天幕の外に出て、朝日を浴びながら木箱の上に座る。

 一足先に食事を終えて、湯気の立つカップから、のんびりと辺りを見ながらお茶を飲んでいるドロシーに尋ねる。


「そうねぇ、魔境は相変わらずかな?良くも悪くも変化ナシってところかしら?それより、今は、とある噂で砦中大騒ぎね」


「何があったの?」


 普段見せない深刻そうな顔をするドロシーを訝しく思い、先を続けるように促す。


「風姫ソフィアにオトコができた」


「え?」


「あのソフィを捕まえたオトコがいる。いったいどんなオトコなんだ?って、そればっかりよ」


 何事かと思ったら・・・。

 まじめな表情の演技が長続きせずに、口元がニヤニヤしだしている彼女がいた。


「ウソでしょ?ホントに?魔境ってヒマなの?他にやる事ないの?」


「毎日、変わり映えのしない風景と殺伐とした日常だしね。皆、新しい話題に飢えているのよ。曰く、身の丈三メートル以上でソフィを小脇に抱え、片手に構えた大剣で魔物をなぎ払う勇者。曰く、魔境の奥で何千年も修行を続け、人の世の理を極めた大賢者。曰く、口から火を吐き、背中の翼をはためかせて空を飛ぶ竜の化身」


「ナニよそれ・・・、そんなの、もう人間じゃ無いじゃない」


「ぷっ、ホント。どこの神話から飛び出して来た英雄か、って話よね。あっはっは」


 他人の事だと思い、気楽に笑い転げているドロシーの足を蹴る。


「ねぇ・・・、そんなに噂になってるの?」


「まぁネ、しばらくマラガに引き篭もって何をしているのかと思っていたら・・・。私も、どんなオトコなのか楽しみにしていたんだけど・・・。案外、普通よね」


「ナニよ、普通で悪い?」


 照れて自分の顔が赤くなるのが分かる。

 なんだか耳まで熱くなってきた。

 誤魔化すように下を向き、皿の上の野菜にフォークを突き刺して口に運ぼうとするが、上手くいかずに口の端から落ちてしまった。


「べっつに~。こうしてみると、愛嬌もあるし、いいんじゃない?悪戯っ子の弟から目が離せないソフィアお姉さん、って感じもするケドさ」


「ほっといてヨ」


 笑いながら体を寄せてきた彼女に、肩をぶつけて押し返す。

 弾みで、膝に乗せたお盆の上で、こぼれそうに揺れている野菜スープの入ったお椀を慌てて押さえる。


「拗ねないでよ、でも、良かったじゃない。ソフィ、ちょっと変わったわよ、良い方にね。前なんか眉間にシワ寄せて、こーんな顔してたけど。顔つきが柔らかくなったかな?」


「そんな顔してないわよ」


「してたしてた」


「そうだったかな?そんな顔してた?」


「そうよ」


「そっか」


 両手の人差し指で目尻を抑え、大げさに目を吊り上げてヘンな顔を造り、私をからかう彼女がおかしくて、怒る気も失せた。

 少しだけドロシーの言う眉間のシワが気になって、軽く揉みほぐす。


「それと、例のカタロニア帝国ね。カタロニアの南部周辺とダルトンとの国境線近くがキナ臭くなってきてるみたい。この機に乗じて、何か儲け話はないかっていう話をしているヒトもいるわね。ソフィ、マラガはどう?」


「まだ静観かしら。たぶん国内を統一してからのカタロニアが、ダルトンとどう接するかを見てるんだと思う。マルティニー山脈があるから、少数ならともかく、大部隊を動かすには山脈を迂回してダルトンとの国境沿いを通るしかないしね。組合もいくつか調査隊を送り込んだだけみたい」


 カタロニアの政変で湧き起こった火事の火の粉は、マルティニー山脈の壁に阻まれて、まだ、マラガには降って来ない。

 このまま収まってくれれば良いのだけれど。

 おそらくカタロニア貴族の子女であろうアリス。

 そして、逃げてきたアリスと転生した場所で偶然に出会ったカズヤ。

 この先、何も起こらないで欲しいと願うのは楽観的すぎるだろうか?

 木箱に腰かけて話す私達の目の前を、朝の教練中の兵隊達が歌を歌いながら、走り過ぎて行く。

 いつも思うのだけれど、あのヘンな歌は伝統なのかしら?

 それぞれの駐屯地で、微妙に内容が違っている。


「ダルトンか・・・、元々あそこはカタロニアの属国みたいなところがあったけれど、この機会に南部の反抗勢力と協力して巻き返すつもりが有るのかもね。ふぅん・・・。これも噂だけれど、新皇帝になった転生者がすごいらしいわよ?」


「凄い、って?」


 組んだ足をぶらぶらさせているドロシーに聞き返す。


「英雄クラスの力の持ち主で、持っている武器も神話級。輝く槍を一振りしただけで、城壁が吹っ飛んだ、っていう噂」


「本当に?」


 普通なら冗談だと一蹴するところだが、転生者はよくわからない。

 マコト達もそうだが、転生者はどこか不自然だ。

 明らかに戦闘経験の少ない身の処し方、それなのに大きな力を持っている。

 まるで成長過程を飛ばして、大人の身体を手に入れてしまい、力を扱いかねている子供のようにも見える。

 つたない体捌きの中から繰り出される、アンバランスな鋭い技。

 もちろんカズヤも転生者だけれども、どちらかと言うと、こちら側、私達寄りの力の使い方をする。


「さあ、どうかしら?噂だしね。それなりに尾ひれがついて、大きくなってると思うケド。あと、誰かを探しているみたい」


「旧皇家の残党狩り?」


「ううん、そうじゃなくて、転生者の誰かを探してるみたい。理由は分からないけれど。それも含めて、冒険者や転生者を集めて戦力を拡大しているようね」


「そうなんだ・・・、しばらくは、カタロニア方面に近寄らないようがいいか」


 同じ転生者として、カズヤかサナエなら何か知っているだろうか?


「そうね、国家間の揉め事に巻き込まれるとメンドウだしね。あ、そろそろ始まるみたいよ?」


 ドロシーが見ている方へ顔を向けると、カズヤとクリスが向かい合い摸擬戦を始めるところだった。




 ≪カズヤ≫


「カズヤ、剣を構えろ」


「え?なんで?」


 クリスさんが、抜き放った剣に朝日が眩しく反射する。

 どうしてこの世界のヒト達は、やたらと俺に勝負を吹っかけてくるのだろうか?

 そんなに、俺がソフィと仲良くするのが憎いのか?


「なんでって、これから一緒に仕事するんだ。お互い、どの程度やれるのか知っておく必要があるだろ?心配すんなよ、当てやしねえから」


「いやいや、見たまんまの超初心者ですってば!わざわざ剣を抜き出す必要なんか無いっスよ!」


 クリスさんが握った剣を傾けるとギラギラした輝きが、切っ先へと集まる。

 やばい、ピ~ンチ!

 まさかとは思うが、訓練中の事故で死亡とかシャレにならん!


「摸擬戦だよ、練習だ、練習。グダグダ言ってないでさっさと用意しろ。それとも、そのまま手ぶらでやるのか?」


「待って、待って!分かったから、準備するから!でも、せめて練習用の木剣にして!」


「木剣?そんなもの持ってねぇぞ?」


「俺が持ってます!二人分持ってるから!お願いだから、その物騒なブツをしまって!」


 慌ててアイテム倉庫から片手用の木剣を二つ取り出す。

 この異世界に来てから、妙に絡まれるようになってしまったので、最悪の状況を回避する為に、いつも余分に用意してある。

 ボーイスカウトも言っている。

 『備えよ常に』だ。


「こちらの木剣をお使いください」


 クリスさんに、恭しく木剣を差し出す。

 お願い!使って!


「痛くしねえから、安心しろって言ってんのに、しょうがねぇなあ。カズヤ、お前、いつもこんなもん持ち歩いてるのか?木剣なんて、兵役の新兵訓練の時、使って以来だぞ」


 『痛くしないから、安心しろ』だと?

 それは、初めてのナニかの時に、欲望を抑えきれ無いバカ男が、何の根拠もなく女の子に向かって言うセリフだ。

 そんな言葉信用できるか。

 クリスさんが、俺の渡した木剣をブンブン振り回して、腕に馴染ませている。

 前線基地の広場に、野次馬の兵隊達が集まって、見物人の人垣ができ始めてきた。


「何て言うか、こっちの世界に来てから、いろいろありまして・・・。今、準備しますんで、少々お待ちください」


 クリスさんは、革装備というより、しっかりした革素材の前合わせで厚めのジャケットを着ているだけだ。

 いそいそと俺は、いつもの装備のあちらこちらの紐を結んで取り付ける。

 軽めで簡易なハーフプレートだけれども、着用するのにあれこれと時間がかかる。

 最後に脇の地面に置いておいた兜というか、頭用の防具に手を伸ばしたが、空振りした。

 あれ?ここに置いたはずだと思ったけど。


「盟主様、どうぞ」


 サナエさんが差し出してきた兜を受けとり、深く被り、頭をちょこちょこ動かしてフィットさせる。


「ごほぉ~、ぷふぁ~~、あいむゆあふぁ~ざ~。・・・って、サナエさん!しれっとナニ渡してくるんだ!」


 銀河大戦争に登場した黒いフルフェイス兜を脱ぎ取り、地面に叩き捨てる。


「俺がダークサイドに堕ちたらどーすんだよ!俺にフォースの導きは無いんだよ!いつものヤツ!」


「失礼いたしました。どうぞ」


 兜を目深に下げて、ぐりぐり押し付けて目の位置を調整する。


「見せて貰おうか。異世界のトップチームの実力とやらを。・・・って、これも違うじゃねーか!兜なら何でも良いってもんじゃねーぞ!天丼的にもう一回来るかなー、とか思ってたけどさ!」


「盟主様、当たらなければ、どうという事はありません」


「どうせやるなら、サナエさんも白いタイツはいて、『兄さん!』とか叫べよ!赤いナニかとか、黒いアレとか、いいから!そういうのは、もういいから!」


「申し訳ありません。こちらをどうぞ」


 気持ちを落ち着けて、息を整えながら装着する。

 被り物からぶら下がるじゃらじゃらとした重い装飾品を肩の下に落として整える。

 そして、腹から重低音のダミ声を出す。


「悪い子はいねぇが~、泣く子はいねぇが~。・・・って、ふざけんなよ!今度は東北の伝統行事かよ!わざわざ作ったのかよ、コレ!これは兜ですら無いだろ!お面だろ!」


「お見事です、盟主様。全てのボケ対し、正確にノリツっ込みを返してくるとは、サナエ、感服いたしました」


「うん、わかった。ここまでにしておこうよ、サナエさん。ほら、こっちの世界の人達が、このやり取りの何処が面白いのか分かんなくて、キョトってるし、クリスさんも待ってるからさ」


 俺とクリスさんの摸擬戦を見物しに集まって来た兵隊達。

 最初はお祭り騒ぎでうるさかったのだが、いつの間にか、水を打ったかのように静かになってしまっている。

 お前ら、こんな所で油売ってないで、ゴブリンの山に突撃してこいよ。

 クリスさんも、胡坐をかいて地面に座り込んで待ってるし。

 思いの外、良く出来上がっている鬼の面をサナエさんに返し、いつもの兜を受け取る。


「もういいか?」


 待ちかねたクリスさんが、あきれ顔で聞いてくる。


「もうちょっと・・・、靴ひもが・・・」


「おい、クリス。油断するなよ。俺はカズヤにやられたからな」


「なんだって?お前が?カズヤに?本当か?」


 アーロンさんの一言で、今まで力を抜いてダラけていたクリスさんの雰囲気がガラリと変わる。

 ちっ・・・、あほアーロンが余計な事言うから、クリスさんがマジで戦闘態勢に入ってしまったじゃないか。

 俺とサナエさんのコントで油断してくれれば、先制できたかも知れないのに。

 クリスさんに勝てるなんて、ハナッから思ってはいないが、一発くらい有効打を入れて、ソフィとアリスに、ちょっとくらい良い所見せたいのだ。

 まともにやって、互角に打ち合ううなんて出来ないし、さて、どうすっかなあ・・・。




 ≪ソフィア≫


「あは、あはは!ひーっ、おっかしー!あっははは!ね、ねえ、ソフィ。いつもこんな事やってんの?ぷっ、くっくく・・・」


 もう、カズヤったら・・・。

 私の隣でドロシーが足をバタバタさせながら、笑っている。


「うるさいわネ、ほっといてよ。あれはカズヤの準備運動みたいなモノなの」


「いいじゃない、いいじゃない。どっかのお高くとまった騎士様より、よっぽど良いワヨ。あっはは、おもしろい、おもしろい」


「いい加減にしてってば、笑い過ぎよ。ほら、始まったわよ」


 いつまでも笑っているドロシーを肘で小突いて前を向かせる。

 しゃがみ込んだカズヤが立ち上がる前に、クリスが先に動いて蹴り飛ばした。

 少し離れた場所で見ている薔薇のパーティが『ひどい、卑怯だ』などと文句を言っている。

 彼女達は気づかなかったようだが、クリスの不意を突こうとし、靴ひもを結び直すふりをして先に何かを仕掛けようとしたのは、カズヤの方だ。

 ごろごろ転がって、クリスから距離を取ったカズヤが立ち上がり際、手の中に握った何かをクリスに投げつける。

 カズヤが握っていたのは砂だった。

 どうやら、目つぶしをしようとしたらしいが、距離が離れすぎていて、クリスは少し横に動いただけで、軽くあしらわれていた。

 一合、二合と木剣が打ち合わされ、広場の中に音が響く。

 初めから、まともにぶつかり合う気の無いカズヤが、早々に逃げ出し見物人の中へ飛び込んで行く。

 クリスを中心に円で作られた人込みの中を駆け抜けたかと思うと、急に飛び出してきて強襲し、また人込みの中へと姿を消す。

 何度目かの繰り返しの際に、円の内側に立っていたサナエのケープを剣の鞘でめくり上げていた。

 兵隊達の視線がサナエの体に集中し、歓声が上がる。


「あはははは!おもしろ過ぎるわ、あんたの彼氏!」


「もう・・・、好きなだけ笑ってなさいよ」


 野次馬の気は逸らせたが、肝心のクリスの視線はカズヤを見据えて微動だにしていない。

 実力の違いすぎるクリスを相手にして、諦めず、手段を選ばずに食い下がるのは、カズヤの良い所だと思いたいけれど。

 クリスがそんなのに引っかかるはずは無いんだから、もうちょっと別の手を考えて欲しかったなあ。


「くっくく・・・。でも、あんなに困っているクリスを見るのは久しぶりよ。意外とやるじゃない、あんたの旦那。あーっ、笑いすぎてお腹イタイ!」


「もう・・・、カズヤのバカ・・・」


 やがて、クリスに動きを見切られたカズヤが、腹に一撃当てられて、大の字で空を仰ぎ、地面に倒れていた。

 カズヤを後にして、クリスが頭をガリガリ掻きながら、こちらへ歩いて来る。


「いいぜ、ソフィ。ここにいる間、あのお坊ちゃんは俺が面倒見てやろう」


「ありがと、頼むわ、クリス」


「いいさ。ここんトコロ、何も無くて退屈だったしな。でも、俺なんかで良いのか?マラガでボリスに習ってんだろ?自慢じゃないが、俺の剣の型は最悪だって評判だぞ?」


「それで良いのよ。ボリスは爵位を継げないから独り立ちして家を離れたけれど、なんだかんだ言っても騎士の出身だから、正面切って戦う正統派の剣士。型も大事だけれど、カズヤには、クリスみたいに、使える物は、何でも使って生き残る冒険者の戦い方が向いているような気がするの」


 ボリスには、正しい剣の使い方。

 クリスには、混戦の中を生き抜く戦い方。

 カズヤはもっと強くなる。

 カズヤ本人は分かっていないが、神々から授けられた天井知らずの高い素質がある。

 それは、この先に起きる何かの為に、きっと、必要なものなのだろう。


「そうか、まあ、あいつの相手をするのは面白そうだ。やれやれ、久しぶりに疲れちまった」


 そう言って、水場へとクリスが肩を叩きながら歩いて行った。


「親バカ?姉バカ?恋人バカ?うらやましいわぁ~」


 横からドロシーが、にやけたまま、からかってきたので背中を軽く叩いて押し返す。


「いいでしょ。ほっといてよ」




 ≪カズヤ≫


「ところで、クリスさんのバーティ名は何ていうの?」


「いや、パーティの名前は付けていな『クリスと愉快な仲間達よ』い」


 横に立ったドロシーさんがかぶせてきた。


「パーティの名前は付『クリスと愉快な仲間達だってば』けていない・・・」


 再度、ドロシーさんが重ねる。

そばにいる、ベネットさんとマークさんは下を向いたまま何も言わない。

 何かの集団の名前を付ける時、冗談として一度は上がる名前だ。

 だけど、実際にそれを付ける人はいない。


「カズヤ、お前に一言、言っておく。エルフの女には油断するな」


「ドロシーさんって、クリスさんの・・・」


「違う!マークの嫁だ。いいか、カズヤ。マークはああ見えても、昔は狂犬のマークって呼ばれる程の男だったんだ。それが、見て見ろ。今じゃ、ケツの毛どころか魂まで抜かれちまった。エルフの女は寿命も長いから、いつまでも美人で若いままだ。だけどな、もう一度言っておくぞ。エルフの女には気を許すな」


 穏やかな微笑みを絶やさないマークさんを見る。

 いったい何があったの?


「あら、そう?」


 ソフィとドロシーさんが並んで見下ろしている。


「ひっ!」



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