第41話 トップパーティ
秋風に揺れる穂波の中に、十数匹のオークが動いている。
刈り入れが迫った大麦を無造作に手で鷲掴みにし、乱暴に引き抜いている。
気づかれないようにそっと息を殺し、穂の影に隠れながら距離を詰める。
「薔薇組は右側の集団を頼む。ユカリ、火魔法の威力は絞って良く狙えよ、畑ごと燃やさないように」
「そんな事、言われなくても分かっています」
「いちいち突っかかるな」
「ツンデレのサービスです」
「そんなら、デレも入れといてくれよ」
「べ、別に貴方の為にツンツンしてるんじゃ無いんですからねっ」
ユカリが、長い黒髪をかき上げて、背を逸らし顎の角度を付ける。
「四十五点、失格。頬を染めて恥ずかしげに俯くくらいしろよ」
「注文が多いですね。細かい事言う男性は嫌われますよ」
「余計なお世話だ。それじゃあ、遠距離部隊の皆さん、ドカンと一発、お願いします」
皆の眼がちらりとソフィの顔を確認し、マコトちゃんの弓、アリスとユカリの魔法がオークの集団に放たれる。
一応、前線部隊の指揮を執っているのは俺なのだが、いちいちソフィの顔を伺ってから実行に移すのは如何なものか?
実力が足りないのは承知しているが、そういうの結構傷つくんですケド?
それはともかく、遠距離からの先制攻撃を受けて、数体のオークがバタバタ倒れる。
「行くぞ!」
剣を抜き、生き残りのオークに向かい突撃する。
振り下ろしてきたオークの剣を高速移動で横に躱し、がら空きの横っ腹に剣を突き刺す。
剣を抜き取る間、俺に突進してきたオークがいたが、アリスが打った氷の散弾の制圧射撃を受けて動きを止める。
怯んだ隙に距離を詰め、なで斬りにする。
近くにいたはずのもう一匹を探すと、サナエさんが、巨乳を揺らしながら両手の短剣を高速で振り回し、獲物を切り刻んでいた。
「こっちは、片付いたな」
「はい。盟主様」
少し離れた場所の集団を相手していた薔薇組も危なげ無く戦闘を終えるところであった。
南下するにつれて、魔物の姿を見る頻度が高くなってきている。
今までは街道から外れ、かなり奥の方まで踏み込まないと姿を見せなかったのだが、まっ昼間から堂々と村の畑を襲う魔物が出てくるようになってしまった。
南へ向かう兵隊。
南から押し出された魔物。
さすがの俺でも分かる。
ここから先には、何かヤバイモノがある。
もちろん、もっと前から分かっていたが。
「なあ・・・、引き返した方が・・・」
「カズヤ、なんか言った?お昼ならさっき食べたばっかりでしょ?」
俺がその件について何か言おうとすると、ボケたおじいちゃん扱いされて、適当に誤魔化されてしまうのだ。
お構いなしに先へ進む皆に置いて行かれないように、慌てて歩を速める。
風の女王ソフィア様はともかくとして、薔薇組まで躊躇無く進み続けるのはどういう事なのか?
俺が消極的すぎるのか?
目の前にはっきりと予想される脅威があるのだから、それに対して逃げるなり、避けるなり、準備するなりの対応をするのは当然だと思うのだが。
こいつら英雄症候群にでも罹ってしまったのだろうか?
剣と魔法の世界で四年過ごすとこうなっちゃうの?
そんな俺の不安を顧みることなく歩き続ける。
木立の隙間を通して、丘を越えた向こう側に山脈が見えてきた。
おそらく、あの辺りがラモナ高地なのであろう。
山脈が近づくにつれて俺の心の天秤が大きく揺れる。
左の皿には、温泉街でのウキウキドキドキぽろりどころか、全裸すらあるかもイベント。
右の皿には、赤信号が激しく点滅する厄介ごとが、どっかり腰を据えて乗っている。
「あのさ・・・、ソフィ・・・」
「カズヤ、とにかく行くだけ行って様子を見てみましょう」
天秤がぐらぐら揺れる度にソフィが、腕をがっちり組んで、美乳を押し付けながら顔を寄せて囁いてくる。
「いや・・・、でもさ・・・」
「もうちょっとだから、ね?」
そう言って、優しくチュッチュしてくるのだからタマラン。
もうどーにでもして!
「ハイ!よろこんでーっ!」
左の天秤に乗せられたソフィの唇の感触の余韻に浸りながら、おもちゃの兵隊のように足を高く上げて前に大きく踏み出す。
植生が濃い山の谷間に作られたグネグネ蛇行する街道を抜ける。
目の前に、なだらかな丘へ続く開けた場所が現れた。
そこに立ち並ぶ無数のテントと天幕。
テントの間で重そうな荷物を運ぶ兵隊。
木箱に腰を掛けて武装の手入れをする兵隊。
天幕から出てきた伝令らしき兵隊が、テントの合間を縫って駆けて行く。
戦争地帯の前線基地にしか見えない・・・。
ここに来て、現実となった脅威に打ちのめされ、しばし放心して立ち尽くす。
戦争か?紛争か?はたまたドラゴンの強襲か?
などと考え、目の前の光景をぼへーっと見ていたら、声を掛けられた。
「おう!カズヤ!カズヤじゃねーか!」
「へ?」
異世界のこんな僻地に知り合いなどいないはずだが、いったい誰だ?
きょろきょろ辺りを見回して、声の主を探す。
「カズヤ!こっちだ、こっち!」
某大国の海軍兵のように、頭の側面をきれいに刈り上げた兵隊が手を振っている。
「あれ?アーロンさんじゃないすか、ちっす」
正面の天幕の中から出てきたのは、以前、捕まえた盗賊を引き渡しに行った駐屯地で出会ったアーロン副隊長だった。
「そうか、カズヤ達が来てくれたのか!いやぁ、助かった。助かったよ!」
満面の笑顔でハグしてくる。
気持ち悪い。
「え?え?え?」
「このまま、誰も来ないんじゃないかと心配してたところだったんだ!いやぁ、良かった。さあ、ソフィアさん達も中へどうぞ!」
アーロンさんが、強引に天幕の中へ引き摺り込もうとしてくる。
「ちょ、ちょっと待って。『来てくれた』って何のこと?ナンか勘違いしてるみたいだけど?」
「ん?カズヤ達は組合からの依頼で派遣されて来たんだよな?」
「違いますよ。俺達は温泉旅行に来たんです」
「・・・温泉?」
アーロンさんが疑問形で顔を上げ俺以外のメンバーを見ると、皆は手を顔の前に立てて横に振り『違う、違う』のジェスチャーをしている。
ちっ・・・。
「ふむ・・・。とりあえず、まあ入れや」
「ぼ、ボク、体が弱くて兵隊さんにはなれないんですぅ!」
「わかった、わかった。そーいうのはいいから」
抵抗空しく、肩をガッチリ組まれて天幕の中へ連行されてしまった。
外から見るより天幕の中は広かった。
大会議室くらいのゆったりした空間がある。
どうやら、アーロンさんの部隊の司令部らしい。
伝令兵が、忙しそうに出入りし、報告を受けた兵隊が机の上の書類に羽ペンで、何かを書きこんでいる。
大きなテーブルを囲む椅子に座らせられた。
「実はな・・・」
正面の椅子にどっかりと腰を下ろしたアーロンさんが、でかいマグカップに入ったお茶を啜りながら話し始めた。
「聞きたくありません」
かぶせ気味に答える。
「こらっ!」
後ろからソフィのチョップが俺の後頭部に飛んできた。
「続けていいか?」
「はい分かりました。だがしかし、お断りしま痛って!」
今度はアリスの平手打ちが音を立てた。
「お前もタイヘンだなあ・・・、話を進めるぞ」
「どうぞ・・・」
「この先の山でゴブリンの大軍が巣を作っちまってな、この辺の部隊だけじゃ手におえなくて、ウチの部隊も駆り出されたんだ。隊長殿は駐屯地の留守番役で、現地の指揮は俺に任されている」
「規模はどれくらいなの?」
俺の隣に座ったソフィが尋ねる。
「数はゴブリンが、五、六百ってところだ。獣系の魔物もボチボチ混じっている。こっちは二百弱。やつら個体としての強さは、大したこと無いから、数だけなら、やってやれない事もない。だが、ゴブリンの大繁殖に気付いた時には、もう山が要塞化しちまっていてな。迂闊に近づくと頭の上から魔法の火の玉やら弓矢が降ってくる。まともにぶつかるとこちらの損害もバカにならん。これを崩すには、少数精鋭の浸透突破で奇襲をかけて混乱させ、その隙に部隊を投入して制圧するのが一番手っ取り早いんだ。早くて安全なんだが・・・、軍隊ってのは、集団戦は得意だが、山の中を少人数で臨機応変に駆け回るってのは苦手でなあ。パーティの中にメイジとヒーラーも必要だしな。それで、冒険者組合に依頼を出していたワケなんだが・・・」
「依頼を受ける冒険者がいなかったんですね」
サナエさんが合いの手を挟む。
「その通り。お姉さん分かってるじゃねーか」
「どうして?」
駆け出し冒険者の俺にとっては脅威だが、ゴブリン程度なら、チートスキル持ちの転生者やこちらのベテラン冒険者にとっては、それ程の難易度ではないと思われるが。
「盟主様、本来、依頼の報酬は冒険者にとって、リスクに見合うような大きな額じゃないんですよ。分かり易く言うと『それだけじゃワリに合わない』ってコトです。私達みたいに基本的にフリーで動く冒険者の収入の大部分は、倒した敵を市場や契約商家に売ったものです」
「そういうコトだ。ゴブリンってのは売っても大した値段にならない。中には光モノが好きで溜め込んでいるヤツもいるかもしれんが、大抵は金属の切れ端でゴミみたいなもんだ。倒した敵から装備や金品を奪う『戦場働き』ってのが出来ないのさ。それにウチみたいな田舎の駐屯地は貧乏だから、大きな報酬額も提示できない」
アーロンさんが、肩をすくめて手を広げる。
「組合への強制依頼は?」
サナエさんが、続けて聞く。
「それは『伝家の宝刀』ってヤツだ。イザって時まで抜くわけにいかねぇ。軍隊と組合ってのは持ちつ持たれつだ。軍隊を辞めたヤツが冒険者になることもあるし、フリーの冒険者から軍隊の指揮官になるヤツもいる。ソフィアさんやボリス殿のように軍隊の教官を務めることもある。やたらめったら強制依頼で呼びつけたら、冒険者との関係が悪くなっちまう。ゴブリン程度で借りを作りたくないしな」
「いやぁ、協力したいのは山々ですが、ボク達、ラモナ高地へ行くつもりだったんで、残念ですが・・・」
すぐそこにある危機を回避するために、全力で演技する。
「それなら、余計に都合が良いじゃねぇか」
「は?」
「ラモナ高地は、今ゴブリンがデカイ顔して陣取っている山の向こう側だ。ついでに言っとくと、温泉街もラモナ高地の麓だ。ゴブリン共に街道を寸断されて温泉街の連中も困っている。良かったな、カズヤ。軍隊に貸しも作れるし、温泉にも行ける。いやぁ、カズヤ達が来てくれて良かった。良かった」
「・・・・・・」
「カズヤ、こういうのも経験よ。勉強させて貰うと思ってやりましょう」
ソフィが俺の右腿の上に手を乗せて言う。
やっぱし、こうなったか。
しょうがない、慎重に行動して即死だけは避けよう。
「さすが、ソフィアさん。良いこと言うねぇ。まあ、そんなに嫌そうな顔するなよ、カズヤ。なにも、お前さん達だけに特攻させようなんて考えちゃいねぇ。もう一組・・・、おお、ちょうど良いところに来たな」
アーロンさんの視線の方向へ首を廻す。
天幕の布を捲って、冒険者らしき風体の四人組が中へと入ってきた。
「クリス!こっちだ!」
男三人と女一人のパーティが、アーロンさんの声に応じてこちらへ近づいてくる。
その内、男性一人と女性一人はエルフだった。
男性は肌の色が濃い。
ダークエルフ?
いや、こっちでは南部エルフって言うのか?
「あら、誰かと思ったらドロシーじゃない」
「ソフィ、久しぶりね。どうしてここに?」
どうやらエルフ仲間らしい。
女性エルフが駆け寄って来て、ソフィと親しげに会話している。
ソフィには負けるがドロシーさんも美人だ。
種族的に容姿端麗の遺伝子なのか?
横に静かに立って二人の様子を見ている南部エルフの男も顎の細いイケメンだ。
「ソフィアさんは知り合いみたいだな。カズヤ達は初めてだろうから、俺から紹介しておこう。こいつが、クリスティアーノ。片手剣の前衛だ」
「クリスでいいぜ。長くて呼びづらいからな」
ヒト種、三十代くらいの男性。
アントニオ・バンデラスのようなスパニッシュ系のちょい悪お兄さん。
くせっ毛の前髪が一房目の上にかかっている。
むぅ、なんかカッコイイぞ。
「弓と短剣のベネット」
「よろしく」
四人の中では一番背が低く、痩せぎすで、尖った鼻が目立つ細身の男性が片手を上げる。
「治療師のマーク」
「どうも」
柔らかい雰囲気の南部エルフの男性が軽くうなずく。
「そして、土系統のメイジ、ドロシー」
「はぁあい」
エルフのお姉さんが手を振る。
ちょっと陽気な美人エルフ。
「それじゃあ、これがカズヤ。私達のパーティリーダーよ。そっちがアリス、治療師と水系統のメイジ。そしてサナエ、獲物は短剣。向こうは別のパーティだけど、一緒に旅をしているの。マコト、エリカ、ナオミ、ユキコ、ユカリ。私とアリス以外は転生者」
ソフィが簡単に紹介していく。
おっとっと、ソフィア先生、ナチュラルにコジロウを忘れていますよ。
戦力外扱いされたコジロウが自分の事を指さして『俺は?俺は?』と訴えている。
「それと・・・、フリーのコジロウ」
微妙な感じで付けたしていた。
「へぇ・・・。あなたがカズヤ?ふーん、そっかあ・・・、よろしくネ」
「ドモ」
エルフのお姉さんが近づき顔を寄せてジロジロ見てきたので、思わず後ずさる。
突然の接近に照れてしまい、上手く言葉が返せなかった。
「カズヤ、クリスのパーティは、王国でトップの実力を持つパーティよ。良い機会だから、戦い方をしっかり見ておくと良いわ」
「よしてくれよ、ソフィ。ボリス達が引退しちまって、不戦勝の勝ち上がりじゃ恥ずかしくてトップだなんて言えやしねぇ」
クソぅ。
どうしてこっちのヒトは、カッコ良く謙遜するのだ?
日本人だったら、同じ謙遜するにしても『いやいや、そんな大した事無いっスよー』なんて、腰を低くして大げさにおどけてみたりするもんだが。
マラガの冒険者組合の酒場でたむろしているどうでもいい連中は、俺がああした、こうしたと騒がしく自慢話をしているというのに。
外側も内側も良い男は、何をやってもサマになっている。
ソフィと仲良さそうなのも気になる。
トップパーティと持ち上げられて、いい気になっているようなスカしたヤツのほうが、よっぽど安心できる。
まあ、そんなヤツなら、ソフィは相手にしないだろうし、トップと呼ばれるまで生き残って無いだろうなあ。
他人の評価など関係無いという余裕が漂う。
王国のトップパーティか・・・、ドラゴンなんかも一刀両断してしまうのだろうか?
「ソフィはどうしたの?もしかして、あなた達もアーロンに捕まったの?」
「そんなトコロ。ドロシー達も?」
「そう。魔境でのんびりやっていたんだけれども、冬が近くなってきたから戻って来たの。ちょっと足を延ばして温泉でも行こうか?って話になったんだけど・・・」
さすがトップパーティのヒトは言う事が違う。
『魔境でのんびり』だなんて、余裕過ぎる。
「そしたら、ヘンなのに捕まっちまった。おとなしく街に戻ってりゃよかったぜ」
クリスさんが、子供のように口を尖らせて文句を言っているが、一流の男は何をやらせてもカッコ良く見える。
俺のヒガミ補正のせいか?
「いいじゃねぇか、昔、ヘマやった時に助けてやったろ?ひと汗かいてから、温泉でも何処でも行ってこいよ。しばらくは、まだ小競り合いだ。こっちも段取りがあるから、すぐに戦闘開始ってこともねぇ。それまでゆっくり遊んでいろ。テントはウチのを用意させておく。おっと、もう夕飯の時間だな。付いて来いカズヤ。軍隊のメシは美味いぞ、遠慮なく食っていけ」
一度、駐屯地でご馳走になったから知っています。
なんだか、アーロンさんは俺の事を、腹を減らした子供扱いしてくるな。
外からラッパの音が聞こえてくる。
どうやら、これが食事時間の合図らしい。
天幕の隙間から流れて来る良い匂いが鼻を通して胃に届き、反応して腹が鳴った。
まあ、あながち間違ってはいないか。
運動会に使う横の空いた天幕が、軒を連ねて幾つも並んでいる。
その下で、祭りの出店のように炊事当番の兵隊が料理をしている。
洗面器みたいに大きなお皿とお椀を受け取り盆の上に乗せる。
セルフサービスで好きなものを好きなだけ貰って良いようだ。
目についた料理を適当に乗せて空いているテーブルに席を取った。
ソフィ率いる女性陣と薔薇パーティは、女性兵士に囲まれて華やかに談笑している。
コジロウはさっきのドロシーさんへ果敢に話しかけている。
あいつ、ハート強いな・・・。
どういうワケか俺の周りは、またしてもムサイ男だらけになってしまった。
「カズヤって言ったっけか?お前のパーティは派手だなあ。あれ、全部お前の嫁さんか?」
クリスさんが、ソフィ達のテーブルを見ながら話しかけてきた。
「俺と前に会った時より増えてるよな。何があった?」
アーロンさんが、口の中にいっぱいものを詰めたまま聞いてくる。
「いえ、ソフィの反対側で固まっているのは、今回、合同で旅している別のパーティで嫁じゃないっす」
ソフィもアリスも、まだ嫁にはなっていないが、敢えて訂正はしない。
フフフ・・・、やはりマコトちゃんを女の子だと勘違いしているらしい。
もちろん、面白いので教えてあげない。
「それにしても、あれだけの女をぞろぞろ引き連れているヤツは、俺も見た事ないぞ?がんばるなあ。さすが、ソフィを堕としただけの事はあるよ」
クリスさん、ソフィを堕としただなんて・・・。
冷静に判断して、ソフィと今、イイ感じになっているとは思う。
そう思うのだが、さらなる親密イベントを起こす為に、越えなきゃならない高い山はまだまだある。
そんな言葉がソフィの耳に入ったら、誇り高い彼女のツンデレメーターが激しくブレるかもしれん。
当然、尖っている方へだ。
今は、俺達二人の事を、そっと見守って欲しい。
「クリス、お前は今、何人だ?」
「六人・・・」
皿の上のイモをフォークで突きながら、言い辛そうにボソっと呟く。
「お前も増えてるじゃねーか」
「この間、村に帰ったら、村長に二人押し付けらちまったんだよ。まあ、仕方ねえさ。稼いでいるヤツが面倒見なくちゃいけないからな。俺はまだマシな方だ。ベネットのやつなんか、久しぶりに家に帰ったら、見た事もねえ婆さんが部屋で茶ぁすすってたってよ」
話を振られたベネットさんが吹き出した。
気管に入ってしまったようで、長々とむせている。
「そいつは笑えねーな・・・」
俺を間に挟んで、恐ろしい会話が続いている。
この世界でしばらく暮らして、だんだん分かってきたことがある。
それは、この異世界での一夫多妻制である。
大勢の奥さん。
『やったー、ハーレムだー』
そんなに良いものでは無かったのだ。
夫が死んでしまい生活に困った行き場の無い未亡人や村娘を、稼ぎのある男が引き取って面倒を見る。
それは、男のおいしい権利と言うより、義務だと捉えられている。
稼いでいるのに、独身貴族を気取ってフラフラしていると、村の村長や、やり手の見合いババアが寄ってきて、強引に押し付けられてしまうのだ。
それを納得できる理由も無く断ったら、村八分で総スカンを食らう。
フィオのような、若くて美人な未亡人なら良いが、話に出てきたような『見た事も無い婆さん・・・、もとい、おばさん』の世話をしなければならない事もあるそうだ。
恐ろしい話である。
クリスさん達のように第一線で活躍している冒険者は、地元の希望の星である。
片田舎の高校野球児が、国内プロ野球からメジャーリーグへ行ったようなもので、地域の活性化とか経済効果とか子供達の憧れとか、いろんなものを背負わされている。
「魔境の砦でも、噂になってたぜ。『あの』ソフィを捕まえた男がいるってな。今まで、どんなに強くて面の良い男が誘ってもなびかなかったソフィだ。俺も駆け出しの頃、部隊の先頭に立って剣と魔法を自由自在に使いこなし、魔物の群れの中を鮮やかに立ち回るソフィの姿に、そりゃあ、憧れたもんさ。それが、どんなにスゲェ男かと思ったら・・・。まぁ、男は顔じゃねぇしな・・・。なあ、どうやったんだ?」
クリスさんが、お椀の中の野菜スープをズルズル音を立てて飲みながら、半身に構えて聞いてくる。
その点々にすごく含みがあるような気がするが・・・。
うん、顔じゃないですよネ。
「いやあ、どうやったって言われても、どうしてですかねぇ?俺の心を見てくれたのかなあ?そんな事聞かないで下さいよ。照れちゃうなあ・・・」
「アーロン・・・、こいつ、ゴブリンの山の中に捨てて来ていいか?」
「俺が足を持つから、クリスは頭の方を持てよ」
「そんなら、丸太に縛り付けたほうが早いぜ」
「わあ!待って、待って!ごめんなさい!いや、ホントにどうしてなのか、俺にもさっぱりで・・・。こっちの世界に来て、いろいろ教えて貰ってたら、なんとなく仲良くなってきて・・・。ホント、なんでですかねぇ?」
木の椅子をガタガタ言わせ立ち始めた屈強の男二人に、ポーズでは無いただならぬ気配を感じ速攻で訂正する。
「冗談だよ、冗談。まあ、いいさ。他の男に後ろから刺されないように気を付けろよ」
眼が怖いっス。
「はぁ・・・」
「若いうちから嫁さん持って苦労しておいたほうが・・・、若い?若いよな?カズヤ、今いくつだ?普通なら兵役に行ってるトシだよな?」
こっちの世界の兵役っていうと十八歳くらいか?
「二十八歳です。もうすぐ二十九になります」
「なんだって!ホントかよ?俺とそんなに変わらねえじゃねぇか!どう見ても二十歳前にしか見えねえぞ。アーロン、転生者ってみんなこんななのか?」
「さあ?こいつが、特別若く見えるだけだと思うが・・・」
二人とも顎を手でさすりながら、俺の顔をじろじろ見てくる。
こっちの世界に来てから、『若い、若い』と言われることが多い。
転生の影響なのか、異世界風の顔つきに改造されてしまい、元の世界とは微妙に違う顔にはなった。
それでも、もし昔の友人と偶然出会ったら、『あれ?何だかちょっと変わった?』その程度の違いでしかないと俺自身は思うのだが。
エリカ達は高校の時に飛ばされこっちに来たので、今、二十歳ちょっと過ぎぐらいのはず。
年相応、それなりの姿に見える。
もちろん、マコトちゃんは『ボクっコ星』から来た癒し系オトコのコなので、永遠にキラキラしたままだ。
もし俺が、四十歳くらいだったとしたら、『若い、若い』言われて嬉しく思うだろう。
しかし、この状況の『若い、若い』は、『幼い、弱い、頼りない』の意味であることくらい俺にだって分かる。
近所のガキ扱いで、ちっとも嬉しくない。
髭でも伸ばしてみた方が良いのだろうか?
それはそれで、『トッチャンボーヤ』とか言われそうだ。
「魔女に呪いでもかけられたか?それとも、エルフの血でも入ってんのか?好き嫌いしないでちゃんと食ってるか?ほら、もっと食って、筋肉つけろ」
クリスさんとアーロンさんが、自分の皿から俺の皿へ肉の塊りをドカドカ盛り付けてくる。
『食え、食え』と急かされて、目の前の肉の山をモソモソと咀嚼しているところに、サナエさんが来た。
「盟主様、私達は先にテントへ行っています」
「わかっふぁ」
ギガ盛りの肉が、なかなか喉の奥に落ちて行かない。
「よう、おっぱいのでかいネーチャン。あんたもカズヤの嫁なんだろ?」
激しくむせた。
すげぇな、クリスさん。
さすが、第一級の冒険者だ。
サナエさんに、ためらい無くド直球をぶち込んでくるなんて。
「はい。私は盟主様に身も心も捧げています。盟主様のどんな激しい欲求にもお応えしております」
もう勘弁して、息が出来ない。
辺りが静かになってるし!
サナエさん、そういう冗談は時と場所を選んでくれよ!
「へぇ・・・。そうなのか・・・」
ほらほら!温度が下がってるし!
「ん?盟主様って何だ?こいつの事か?」
「はい。元の世界で私が居たクランの盟主様でしたので」
「なんだって!こいつがクランの盟主?ホントか!?」
やめてよ、サナエさん。
元いた世界の事とか、こっちの人が納得できるように上手く説明するのは難しいんだから。
コンピュターだとか、インターネットだとか、オンラインだとか、ゲームだとか、がんばって説明しても、結局分かってもらえないのだ。
その後、俺一人、夜遅くまでオッサン達に絡まれ続けた。
今月の更新は一回だけになってしまいました。




