第39話 スタンピード
「俺の家の近くの山の中に、お寺があるんだ。そのお寺のすぐ傍にあるダムは、何年かに一度、身投げがあるダムで、地元じゃ有名だったんだ。高校の夏休みの夜、俺は近所の友達と夜遅くまで、ダラダラくっちゃべっていた。なんとなくヒマになった俺達が、ブラブラ歩いていたら、いつの間にか寺の門の近くに来ていた。そして友達の一人が、静かに言ったんだ。『あ・・・、あそこに誰かいる』もちろん門の前には誰もいなかった・・・。どう?どう?怖かったろ?」
月も無く、曇天で星明りすら無い真っ暗闇。
時折、冷たい秋風が、思い出したかのように木の葉を揺らして通り過ぎて行く。
話を終えたコジロウが得意げに身を乗り出してくる。
「オチは?」
話の顛末のもどかしさとコジロウの態度にイラツキを感じて、問いただす。
「オチって?」
「だからさ、逃げ帰ったら、友達が一人減っていたとか、増えていたとか、雨も降っていないのに靴底がべったり濡れていたとか、あるだろ?」
そのままでは感想欄に、『ヤマが無いし、オチも無い。全体的に退屈』なんて酷評を書かれてしまうぞ。
どうせやるなら、稲川淳二ばりに雰囲気出して語れよ。
「カズヤ君、想像しちゃうからやめてよ」
コジロウのどうでもいい話に、いちいちビクついているマコトちゃんが、いつもより三割増しで可愛い。
「マコトちゃん、大丈夫だ。おしっこ行きたくなったら、俺も一緒に付いて行ってやるから」
マコトちゃんを元気づける為に自然な感じで手を握る。
握り返してきた手がすべすべしていて気持ちいい。
このまま茂みの影に連れて行って押し倒してしまいたい。
「オチとかじゃないんだってば、本当にあったハナシなんだよ!」
「うん、そういうのはいいから」
「じゃ、じゃあ、次はカズヤの番だかんな!」
コジロウに挑まれて、腕を組み、俺の幼き日々を思い浮かべる。
「ふむ。そうだな、それじゃあ・・・。ある夏の夜、蒸し暑さに耐えかね、俺はチャリに乗って深夜の街へ涼みに出た。あても無くペダルを踏み続けていたら、いつの間にか、川沿いにあるコンビニへ辿り着いていた。店先の誘蛾灯に飛び込む羽虫の焼ける音が、やけに耳障りだったのを覚えている。パチッ!バチッ!!」
「ひっ!」
俺の手を握ったままのマコトちゃんの手に力が入る。
マコトちゃんは俺が守ると、思いを込めて握り返す。
「川の方からは、ベタつき、澱んだ風が流れていた。『あれ?こんな所にコンビニなんてあったっけ?』そう訝しく思いながらも、冷たいクーラーの風を求めて、店の前へチャリを乗り入れる。駐車場には珍しいバイクが何台か停まっていた。ハンドルの位置が不自然に高く、バイクなのにシートの背もたれが異様に長い。車体には派手な模様と意味不明な漢字がペイントされていた」
「それって・・・」
「フラクタルな幾何学模様に吸い寄せられるかのように、多国籍風バイクの隣に何気なくスタンドを立ててチャリを停める。その時だった。謎の突風が巻き起こり、俺のチャリは倒れてはいけない方へ倒れていったのだ。今でも、目に焼き付いている。まるで、ドミノのように重なりあって倒れていくチャリとバイク。倒れたチャリを抱き起こし、サドルに跨り、無我夢中で夜の街へ走り出した。怨霊の如きうめき声と罵声から必死で夜の街を逃げ回り、ようやく振り切った頃、俺の背中は冷や汗でびっしょりだった」
「カズヤ君、そんな事やってたんだ・・・」
「チャリのペダルを全力で踏み続ける俺の脳裏に、幼い頃の思い出、教室で隣の席に座っていた憧れのあの娘、押し入れの奥に隠したエロ本、俺の人生が走馬灯のように流れていったのを覚えている」
「カズヤ・・・、それ怪談じゃなくて、お前の失敗談だよな・・・」
おや?反応がイマイチだな・・・。
この記憶を思い出すと、未だに冷たい汗が背中に流れてくるのに。
「ちょっと!そこ、うるさいわよ!」
藪の向こう側から、薔薇女子の声を殺した叱責が飛んでくる。
「へーい」
俺達は今、夜もすっかり更けた村の畑の周囲の物陰に身を隠して、時を過ごしている。
初めは緊張し、辺りを警戒していたが、やがて何事も無く過ぎて行く時間に退屈し、耐えきれ無くなって、深夜の暇つぶしの定番である怪談大会へといつの間にか突入していた。
マラガ自治領の南西に位置する温泉を目指す旅の途中、例の如く見かけた村に一夜の宿を求めて立ち寄ったが、使い古した武装、鍬、鎌を携えた村の男達が、そこかしこで集まり何か物々しい。
物騒な雰囲気の漂う村の中をくぐり抜け、村長の家へ向かい話を聞く。
「はぁ、旅の冒険者様ですか、実はですねぇ。ここのところ、毎晩、十匹以上のイノシシの集団が畑を荒らしておりまして、はぁ、このままでは、今年の収穫が・・・。それがね、とにかく数が多いし、図体もでかいし、気性も荒いわで、手におえんのですわ。あなた方が退治してくださると?いやいや、冒険者様に依頼するなんて、とてもウチの村にそんな余裕は無くて・・・。え?報酬は無くてもよろしいのですか?退治したイノシシだけあればいい?はぁ、そうですか?ほんとうに?それでしたら、はぁ、村の若いもんを集めてきますので、なんのおもてなしもできませんが、それまでゆっくりなさってください。はぁ」
暗い・・・。
とにかく、この村長さん、話の合間に溜息をいちいち挟んでくる。
村の畑が荒らされて困っているのは分かるが、溜息を連発されては、こちらまで気持ちが落ち込む。
村のリーダーならば、こんな時こそ勤めて明るく振る舞い、周囲を元気づけるべきなのではなかろうか。
これならボケた漫才コンビやエロ爺が出てきたほうがマシである。
集まって来た村の男達にも連日の疲労の跡が見て取れるが、冒険者がロハで手を貸してくれると聞いて表情が明るくなった。
まあ、数が多い言うてもしょせんイノシシだしな。
イノシシなら元の世界でも、家の畑を荒らしに来たイノシシを金属バットで夜通し追い掛け回した経験もある。
そんなワケで村の男達と共に、すっかり深くなった闇の中、畑を囲むように散らばり、イノシシが現れるのを夜を徹して、待ち構えている。
例によって、監督役のソフィと救護班のアリスは後方待機、サナエさんも予備兵力として温存。
っていうか、密着ボディエロスーツのサナエさんが歩くと村の男達がソワソワ、モジモジするので現場から遠ざけた。
サナエさんの存在そのものがエロすぎる。
マコトちゃんと二人っきりになれるかと思ったら、アリスの傍でコジロウがニヤニヤしていたので、襟首を掴んで最前線へ強制連行した。
じっと物陰に身を隠していると、眠くなってしまうので、つい、修学旅行的なノリで怪談大会になってしまったが、マコトちゃんの新たな魅力を発見する事もできた。
そうこうしているうちに、傍で丸くなって眠っていたシリウスがのっそり起き上がり、畑の向こう側へ鼻づらを向け注視する。
野生の感が冴えまくるシリウスは超優秀。
「来たな」
覆いをかけて明かりを細くした足元に置いてあるランタンを持ち上げて、別の場所で隠れている皆に合図を送る。
あちこちから、小さな光がチラチラ瞬き、すぐに消えた。
フゴフゴと動物の鳴き声が聞こえ、ガサガサ茂みを揺らしながらイノシシが現れた。
一匹、二匹、三匹・・・十匹・・・、おや?随分数が多いな・・・。
すでに二十匹を越えているのに、まだまだ増える。
三十匹以上?なんか話が違うぞ?
しかも、大型の豚どころか、牛みたいにデカイのまでいる。
土の中に頭を突っ込んで、畑を掘り起し、ゴリゴリ、モソモソ音を立てて食べだす。
やりたい放題に畑を荒らし始めた。
「なあ、カズヤ・・・。なんか多くねぇ?」
俺の背中に隠れたコジロウがボソりと呟く。
「だから、俺の背中に隠れるのはヤメれ」
想定外の事態に、どうしようかとびびっていたら、少し離れた場所から、ユカリが放った火魔法が、夜の闇を焦がしながら目標に向かって走って行く。
着弾した火の玉が砕け散り、炎の波となって地を這い広がる。
慌てて地面に伏せた頭の上を、肉の焦げる匂いが混じった熱い大気が、衝撃波で押し出されて通り過ぎて行く。
着弾地点には、黒焦げになった三匹のイノシシが煙を漂わせたまま横倒しになっている。
初手の範囲魔法は、イノシシが広範囲にばらけていたのと、予想以上に速い逃げ足の為に、予定以下の数しか巻き込めなかった。
熱が収まるのを合図に、あちこちで松明の火と魔法の灯りが浮かび上がり、村の男達が武器を振り上げ、雄叫びを上げながら飛び出してくる。
イノシシ達もフゴフゴ鳴き声を大きくして、臨戦態勢に入る。
ちと予定が狂ったが、行くしかない。
「おい!コジロウ、こっちも行くぞ!」
「おう!行って来い!」
無駄に勇ましいコジロウの戦線離脱宣言が、足をもつれさせ、つんのめってずっこける。
「お前は、僧兵職の近接スキル持ってるだろーが!」
「俺って、頭脳派だから、ガチンコのぶつかり合いはちょっと・・・」
「お約束はどーでもいいから!はよこんか!」
グダグダ嫌がるコジロウを引き摺りながら戦場に走った。
猪突猛進。
この言葉のとおり、ウリ坊サイズのかわいいヤツから、一トン近くありそうな大型牛みたいにデカイやつまで、とにかく直進で突進しまくる。
二十匹以上のイノシシ達が、定規で線を引いたように、一直線で駆け抜ける。
人を跳ね飛ばし、畑脇に建てられた作業小屋に突っ込み、土手にぶち当たる。
何かに当たるまで止まらない。
ピンボールの玉のように、あちらこちらへ、どっかんどっかん跳ね返り、弾きまわっている。
「カズヤ君!一匹そっちに行ったよ!」
「わかった!うごふおっ!ぐふっ!げへっ!」
一匹に集中すると、横から突っ込んできたもう一匹に跳ね飛ばされる。
落ちた先で、また衝突される。
頭突きからの、掬い上げをくらって、夜空に舞う人、人、人。
「きゃーっ!誰かーっ!」
大型のイノシシの背中に両手両足でへばりついたナオミが、悲鳴を上げながら、そのまま遠くへ運ばれていった。
まあ、あれは後で回収すれば大丈夫だろう。
「おわっ!」
「カズヤ君!ごめん!」
寸での所で避けたマコトちゃんの矢が俺の頬をかすめて飛んで行く。
イノシシを躱し、剣で切り付け、突き刺す。
人とイノシシが混じり合い、混戦の極致、まさに収集のつかない混沌状態に突入していた。
息を切らし、目にこぼれ落ちる汗を振り払う。
地面には十匹以上のイノシシが倒れて転がっているが、まだそれ以上の数のイノシシが深夜の珍走族のように所構わず走り回っている。
剣を構え直し、手近な一匹に向かおうとした時、遠くから、重低音の汽笛のような音が響き、空気を震わせる。
闇夜の中、地響きと共に大きな黒い塊がこちらに向かって来る。
本能が警笛を鳴らす。
アレはヤバイ!
「退避!たいひーーっ!」
声の限りに叫び、負傷して動きの鈍くなっている村人を抱え上げて、脇へ飛び避ける。
大型の牛どころか、大型象のような大きさのボスイノシシが、土を蹴り上げ、砂ぼこりを巻き上げ駆け抜けて行く。
突進力はトラックをはるかに超え、弾丸特急のような有無を言わさぬ破壊力を持っていた。
そのボスイノシシは、ひとしきり辺りを嵐のように駆け回り、逃げ惑う村人を弾き飛ばし、手下のイノシシを引き連れて、悠然と夜の彼方へ消え去って行った。
混沌の一夜が明け、朝日に照らしだされた村の畑は、絨毯爆撃にあった戦場跡地のようである。
そこかしこに大きな穴が開き、踏みつぶされた野菜の根や葉、破壊された農作業小屋が、辺り一面に散らばっている。
負傷者の呻き声の中、アリスとコジロウが忙しく立ち働く村の広場は、まさに野戦病院。
命に係わる重症者がいないのは、幸いであった。
そして村の男達はアリスにばかり治療をねだる。
こいつら、まだ余裕ありそうだな・・・。
動ける者を村長の家に集め、昨夜の反省会と今後の作戦会議を行う。
「あのブタ野郎、鼻で笑いやがった!」
握りこぶしで木のテーブルを叩きつける。
「カズヤ君、ブタじゃないよ、イノシシだよ」
「今夜こそは、あのブタ野郎を打ち取り、トンカツにしてくれる!トンカツ食ってオレ勝った!」
「イノシシだってば」
「ナニバカ言ってんのよ。もうソフィアさんに任せちゃったら?」
エリカが肩をすくめ、お手上げとばかりに両手を広げる。
残りの腐女子も、ウンウン頷いている。
「なんだと?エリカ、お前はブタに馬鹿にされたままでいいのか?この先、ブタに笑われた女として生きていかなきゃならんのだぞ?道を歩くと後ろで囁く声が聞こえるようになる。『ブタオンナ』ってな。痛って!痛ってーな!蹴りやがったコイツ!」
目を吊り上げたエリカに、思いっきりスネを蹴られた。
「誰がブタ女よ!馬鹿にされたのは、あんただけでしょ!だいたい、鼻で笑って立ち去ったなんて、どこの劇画俳優なのよ。そんな事あるわけ無いじゃない。ブタの称号はあんた一人で背負いなさいよ」
「くっ・・・」
だが、あの時、俺は確かに見た。
去り際、巨大イノシシが肩ごしに振り返り、『ブヒッ!』と鼻を鳴らして、俺達をあざ笑ったのを俺は見たのだ。
ブタのくせにっ!
鼻で笑いやがった!
「だけど、十匹どころか、五十匹以上はいたような気がするぞ。そんなの聞いてねーよ」
事前情報がいい加減すぎる。
分かっていれば、それなりに準備が・・・、出来たかどうかは分からないが・・・。
「いやいや、今までの晩までは、本当に十数匹しか来てなかったんですよ」
俺に睨まれて、村長が慌てて弁明する。
「それに・・・、最後に出てきた超大型・・・、あれこそ聞いてねーし」
「わたしらもあんなに大きなのは、初めてですよ」
「あのデカイの・・・、ずっと南にある森に棲んでたヤツじゃなかろうか?」
村人の一人が天井を見上げ思い出したように、ぽつり呟く。
「そういや、最近、南に向かう兵隊をよく見かけるが・・・」
「南?兵隊?」
南っていえば、俺達の目的地も南だったような・・・。
「うん、そうそう、ここんところ、大勢の兵隊が村を通り過ぎて行くんですよ」
その隣の村人が思い出したように答える。
「だから、最初、あんたらを見た時、同じ様に南に向かう傭兵さんだと思ったんですわ」
「南で何かあって、棲家を追われたイノシシが、こっちに流れて来たんじゃないか?」
一人がそう言うと、残った村人達が『そうだ、そうだ』と一様に首を縦に振る。
「理由はともかく、この調子で毎晩来られたら、あっというまに全部の畑が丸坊主になってしまいますわ」
村長の言葉に、今度は村人一同、眉間にしわを寄せ、下を向きながら『そうだ、そうだ』と首を横に振る。
背を壁に預けて寄り掛かり、腕を組んで黙って立っているソフィに振り向き、アイコンタクトで意見を求める。
「あの大きいのだけなら難しくないけれど、横から小さいのに邪魔されるとやっかいね。こちらが優勢になれば散って逃げて行くだろうし、時間をかけて数を減らすことができれば、いずれ退治できるだろうけれど・・・。それまでに畑が全滅したら意味が無いから・・・。魔法を打ちまくって良いのなら簡単だけど、それだと辺り一面の畑が滅茶苦茶になっちゃうし・・・、もう少し最初の範囲魔法で巻き込めればいいんだけれど・・・」
エリカのヘイトスキルで挑発すれば、集まってくるだろうが、エリカごと炎の範囲魔法で燃やすわけにはいかないしなぁ。
そんな事を考えながら、ちらりとエリカを見る。
何かを察したのか、エリカが怪訝な顔をして、椅子を少しずらし俺から距離を取る。
いいカンしてるな・・・。
やらないってば。
今日、数えたイノシシの死体は十八匹だった。
昨晩の様子からすると、残りはざっと三十匹くらい。
初手の範囲魔法で半分くらいに減らしたいな。
「村長さん、今までにやられた畑は全体のどれくらいだ?」
「三割ってとこですわ」
今季の収穫がすでに三割減か・・・。
「村長さん、腹ぁ括りましょうか」
俺は机の上に肘を付き、村長に顔を近づけて話す。
再び、深夜。
昨夜と同じように、畑の周りに身を伏せ、息を潜めて待つ。
昨夜と違うのは、畑の中央に山のようにうず高く積まれた野菜。
昼間、村人総出で、昨日荒らされた畑の周囲、つまり、まだ荒らされていない畑、イノシシがやってくる側の作物を根こそぎ刈り取って、山と積み上げた。
およそ全体の二割に当たる作物を、イノシシを一か所に集中させる為に使った。
これでイノシシによる被害総額は、合計五割となった。
しかしながら、このまま日数をかけて、だらだらイノシシを相手にしていたら、半数どころか全てを失いかねない。
当初、倒したイノシシを報酬としていただくと、村長に話していたが、ボスイノシシ以外は全て村に寄付することにした。
ボスを除いても、五十匹以上のイノシシを市場に売れば、相当の金額になるはずだ。
俺の提案を受けて、村長は決断した。
今回はアリスも参加しての総力戦である。
回復職のアリスを安全地帯に控えさせておきたいのは山々であるが、アリス自身が鼻息荒く希望しているし、言われずともアリスにぴったり張り付いているシリウスがいるので大丈夫であろう。
ご主人様である俺の心に、ほんの少し寂しさがこみ上げる・・・。
いや、初めからアリスの護衛役に回すつもりであったが、ちょっとくらい俺とアリスの間で迷うくらいはしてもらいたい。
俺自身も矢筒ならぬ槍筒を肩にかける。
農地に現れた巨大ミミズに向かって放った即席の槍が、意外と使いやすかったので、マラガを出立する前に、安い投擲用の短い槍を遠距離攻撃用として、いくつか買い込んでおいた。
腰にはいつもの片手剣と短剣を吊り下げる。
カズヤフルウェポン形態である。
俺をバカにしたブタ野郎に、本気になった俺の恐ろしさを思い知らせてくれる。
「来たわね」
俺の隣でソフィが囁く。
フゴフゴ鼻を鳴らしながら、イノシシ共が懲りずにゾロゾロ現れる。
小さいのから大きいのまで、迷うことなく野菜の山に向かい、頭を突っ込んで夢中で食べ始める。
「ボスブタが出てこないな・・・」
用意した罠に引き寄せられ、おそらく総数であろう三十匹以上のイノシシが、輪になってガツガツ餌を飲み込んでいる。
はやる気持ちを抑え、ボスが出てくるのを待つが、現れない。
じりじり焦りながら待っているうちに、満足して餌場から離れるイノシシが出て来てしまった。
「もう待てないわ。やるわよ」
「頼む」
ソフィが立ち上がり、歌うような詠唱の後に風の渦を送り出す。
竜巻は魔力を注ぎ続けられ、唸りを上げ、周囲の風を取り込み、さらに大きく成長する。
龍の如くとぐろを巻いて獲物を抱え込んだ竜巻が、積み上げた野菜諸共にイノシシを夜空へ巻き上げて行った。
「かかれ!」
風が収まった後、ふらふらしながら生き残っているイノシシに襲いかかる。
「シリウス!行くよっ!」
逃げるイノシシを、シリウスに騎乗したままアリスが追いかけ、氷の杭を打ち込んでいく。
一匹を倒すと、シリウスがドリフト状態で転回し、次の獲物を求めて走り出す。
アリスさんたら、いつの間にあんな芸当を・・・。
俺もやってみたい。
サナエさんが、突撃してくるイノシシを素早い身のこなしで躱しながら、脇腹に短剣を叩きこむ。
わがままボディむき出しのエロ装備に目を奪われた村の男が、横から来たウリ坊に直撃されて吹っ飛んでいる。
うん、いろんな意味でサナエさんには、教育的指導が必要な気がする。
俺の眼も釘付けだし。
若干手違いはあるが、それ以外の村の男達は荒らされた畑の恨みを晴らさんとばかりに、追い掛け回している。
雑魚は皆に任せて、畑の向こうに目を凝らし、ボスブタを探す。
今日は来ないつもりか?
そう思い、俺も掃討作戦に加わろうとした頃、まだ遠い場所から、地面を打ち鳴らす音が聞こえてきた。
暗い夜の中、さらに深く濃く大きな闇が近づいてくる。
「村の連中は下がれ!」
畑の真ん中に進み出て、ボスの正面に立ち、槍を引き抜き、投擲の構えを取る。
俺と貴様の一騎打ちだ・・・。
口から突き出した牙、その隙間から飛び散る涎。
闇の中に浮かび上がる眼光が迫る。
やっぱり怖い!めっちゃ怖いっす!
だってこのブタ、鼻息荒いんですもん!
「ソフィア先生!援護、援護射撃お願い!」
「しょうがないわねえ、避けて!」
あたふたと道を開ける。
悔しくなんか無い。
人間は群れで狩りをしてこそ真価を発揮するのだ。
悔しくなんか無いもん!
一直線で突っ込んでくるボスに向けてソフィが細剣を一閃し、薄く圧縮された魔力を打ち出す。
地面のわずか上を並行に飛ぶ風の刃が、ボスの左前足を深く切り裂く。
膝を屈し、そのままの勢いで、ボスブタが前のめりに地面に顔から突っ込む。
「よっしゃ!」
動きが止まったブタの背中に、ここぞとばかりに、二本、三本と背中の槍を引き抜き、右腕を引き、背中を大きく逸らせ、次々投擲して突き立てる。
立ち上がったボスブタが、再度、前足を引き摺りながら俺目がけて走り出す。
もはや、勢いを失った突撃を余裕で躱し、すれ違いざまに、残った槍を脇腹に突き刺す。
空になった槍筒を投げ捨て、最後の会敵に備える。
身体中に突き立てられた槍を揺らし、血を流しながら、ボスイノシシがこちらを振り向く。
「ブモーーーーーッ!」
夜の冷たい空気を振動させるほどの雄叫びを上げ、バネで弾かれたようにボスイノシシが、最後の力を振り絞り駆け出す。
俺も腰の片手剣と短剣を両手に構え、ボスに向かって前傾姿勢で走り出す。
正面衝突の寸前に、スライディングでボスの下にもぐり、背で地面をこする。
仰向けになった俺の顔の上を通り過ぎて行くボスの腹に両手の剣を突きたてる。
一直線に切り裂かれた腹から溢れ出した生暖かい血と臓物が、俺の全身に降り注ぐ。
力尽き、勢いのまま横倒しになったボスイノシシの下から這い出し、眉間を狙い止めを刺すべく剣を振り上げる。
「これでおわ『ラストアタックもらったーーーっ!』りだ・・・」
え?
突如、横から現れたメイスがボスの頭に深くめり込んでいた。
「辺境の巨大イノシシ、このコジロウが打ち取ったりーーーっ!!」
地に伏したイノシシの上に立ち、ドヤ顔をするコジロウの勝利宣言に、村人から勝鬨の声が上がる。
は?
村の広場に設置した大鍋の中で、イノシシの食い残した野菜とイノシシの肉がグツグツ音を立てて煮られている。
ボスイノシシ討伐を祝い、ボタン鍋で祝勝会である。
大きな肉の塊を与えられたシリウスが、嬉しそうにガフガフかぶりついている。
肉の入ったお椀を両手で持ったまま、ぼーっと火を見つめていたら、アホのコジロウが近づいて来た。
「いやー、久々にがんばっちゃったよ。でも良かったよな、無事に片付いてさ」
「・・・」
「あれ?どうしたの?カズヤ、元気無いじゃん?肉食って元気だせよ。それより、俺の攻撃見てくれた?俺が本気出せばざっとこんなもんよ、ってなもんさ。カズヤ、どうした?」
「てめぇ!ヒトの手柄を横取りしやがって!殺すぞ、このヤロウ!」
逃げ出したコジロウを地の果てまで追いかけた。
まだ忙しいです。
更新ペース遅いです。




