第38話 エルフの守護騎士と守護竜
「それじゃあ、フィオ、行ってくるから」
「行ってらっしゃいませ、旦那様、お気をつけて」
出発の支度を整えた俺達は、屋敷の前庭でフィオとしばしの別れの挨拶を交わす。
青空には秋風に乗って、薄く細長い雲が流れている。
旅立ちにはいい日和である。
「ジョシュ、おとなしく待ってろよ」
ジョシュは、フィオに腕を掴まれたままむくれている。
つい先程まで、一緒に連れて行けとだだをこねていたジョシュは、フィオにゲンコツをもらって、おとなしくなったが、まだスネている。
「あのな、仕事で行くんだ。遊びに行くワケじゃないんだから」
「ウソだ!」
「こらっ!」
もう一発、ジョシュの頭の上にフィオのゲンコツが落ちて、やっと静かになった。
「私達は仕事なんだけど、約一名、そうじゃ無いのが、子供には分かっちゃうんだ」
外野から聞こえる薔薇の腐女子の余計なひと言がウルサイ。
ソフィはいつも通り、背中の裾が燕尾服のようにやや長く、鮮やかな緑の生地に繊細な銀の刺繍が施されている上着と、白のレギンスを着ている。
風に乗ってはためく緑の上着の裾を地にして、輝くような金髪がまっすぐ背中に流れている。
アリスは教会カラーを基本とした紺色の短ランのような上着、幅広のスラックスといういでたち。
こちらもゆるく三つ編みにした淡い金色の髪の毛が、紺色の背景によく似合っている。
そして、サナエさん・・・。
一見しただけでは、膝くらいまでの長さのダブルの前合わせで、褪せたベージュ色の地味なマント?というかケープ?ポンチョ?のようなモノを羽織っている。
膝から下は皮の編み込みロングブーツ、ブーツとマントの隙間に少し生足が見え隠れしているのが悩ましい・・・。
「盟主様、盟主様」
呼ばれて振り向けば、サナエさんがピラリとマントの前を開く。
「ぶーーーーーーっ」
後ろから棍棒で殴られたような衝撃を目に感じて、思わず吹き出した。
「サナエ、やりすぎじゃないの?」
「ソフィアさん、私はお二人より出遅れておりますので、このくらいはハンデです」
マントの下にサナエさんが着ていたのは、昨今のオンラインゲームでよく見かけるエロ装備であった。
体にぴったり密着する上下一体型のマットな黒のボディスーツ。
ていうか、それ、肌着だよね???
袖は手首まであるが、下は太腿の中間程度の位置で布が終わり、そこから肉付きの良い生足が続いている。
その下には光沢のある黒皮の編み込みブーツ。
上はハイネックで地肌こそ見えていないが、矯正下着のようにわがままボディのあちこちを強調していて、実にエロい。
現代風ニンジャエロ装備である。
その密着エロスーツの上に黒皮のジャケットを着ている。
なんていうか・・・、エロクノイチっていうより、ムチこそ装備していないが、ドSの女王様?
ジャケットの大胆に開いた胸元から見える胸の盛り上がりと、裾の下の下腹部のラインがタイヘンにご馳走様でございます。
「盟主様、安心してください。装備しています」
「そういう風化の早い時事ネタはやめれ」
調子に乗ったサナエさんが、尚もマントの裾をヒラヒラさせてくるのでやめさせる。
目のやり場に困ったマコトちゃんが、モジモジしながら赤くなってるし。
「サナエ、ずる~い。カズヤ、私も、ほらほら」
対抗意識を燃やしたアリスが、胸元のボタンを外し、前を開いて見せようとしてくるので慌ててやめさせた。
マコトちゃん率いる薔薇パーティも集結して、女子のおしゃべりが賑やかであるが、想定外の人物がひとり・・・。
「フィオナさーん、行ってきまーす」
「え・・・、えっと・・・、はい、行ってらっしゃいませ・・・」
フィオが戸惑いながら答えている。
そんなヤツに、律儀に返事を返さなくていいんだ。
「おい、コジロウ、なんでお前がここにいる?」
「え~っ、カズヤちゃーん、冷たいこと言うなよー」
「ホント、何であんたがいんのよ。見送りはいらないから、さっさと帰んなさいよ」
誘いもしないのに、のこのこ現れて庭先に立っているコジロウに薔薇の腐女子が牙を剥いていた。
「なー、カズヤー、俺も温泉に連れてってくれよー。俺とお前の仲だろ?友達だろ?」
「いや、友達じゃないし、アカの他人だし」
馴れ馴れしく俺の服の裾を握りしめて縋り付いてくるコジロウを素っ気なく振り払う。
「またまた~、そっけない演技が上手いんだから。ホンキにしちゃうところだったよ。アリスちゃんが怪我した時どうすんのさ?もしもの時の為にヒラがもう一人いたほうが絶対いいって!それにさ・・・、ちょっとこっちに来いよ」
コジロウに腕を掴まれて、強引にみんなから引き剥がされた。
「あのな・・・、あそこの温泉街はな・・・」
「なんだよ・・・」
生暖かい息を耳に吹きかけながら、コジロウが耳に口を寄せてボソボソ話してきて気持ち悪い。
「・・・で、・・・だから、・・・なんだ」
「マジで?」
コジロウの口から出てきた言葉に、思わず顔を寄せ問いただす。
「マジ、マジ!だからさ、・・・だろ?な?」
「う~ん、ふむ・・・、そういう事なら仕方ないか・・・、アリスに万が一があった時に回復職がもう一人いた方がいいしな。うん、その方がいいな!」
「だろ!だろ!って事で、みなさん、回復職のコジロウです。ひとつヨロシク!」
にこやかに片手を上げて、微笑むコジロウであるが、みなさん無言で対応が冷たい。
少し後悔して、コジロウと距離を取ろうとしても、背中から回された手ががっちりと俺の肩を掴んで離さない。
良いとも、悪いとも、何の反応もせずに、黙って静かに見つめる女性陣の眼が怖い。
離れろよ、仲間だと思われるじゃないか。
「カズヤ!ほら!言ってやって、言ってやって!」
「あー、まあ、ヒラが二人いた方が安心だし、こいつ、友達がいなくてかわいそうなヤツだから、人助けって事で・・・」
「「あやし~~~~い」」
完璧なハモリで、みなさん随分気が合うんですネ。
ジト目で睨みつけてくる目力が強い。
「怪しい!すっごく怪しい!オトコ二人で何をコソコソ話してんの?」
ナオミが槍の石突きで地面を叩きながら威嚇してくる。
「どうせ、スケベな相談でもしていたのだろう。顔を見れば分かる」
ユキコさん、そういう事は分かっていても口に出しちゃダメ。
「ば、ばっか!ち、ち、ちげーーーって!俺は、純粋に回復職としての技量を上げる為、旅に同行して経験を積みたいんだよ!一人でも多くの人を助けられるように、俺もレベルアップしたいんだよ!な、なんだよ・・・、その眼は・・・、カ、カズヤが良いって言ってんだからいいだろ?な?な?」
必死で弁明するコジロウであったが、全てを見透かした無言の圧力に耐え切れず、俺の背中に身を隠し、恐る恐る顔だけ覗かせて様子を伺っている。
「わかったから、俺の背中に隠れるのはよせ」
かくして、シリウスと薔薇パーティ、そして邪魔者一人を従え、秋晴れの空の下、温泉を目指し意気揚々と足を踏み出した。
「屋敷でのんびりするのもいいが、こうやって皆で旅に出るのもいいな」
麦の穂が風に揺れる街道沿いの畑では、作物の収穫作業をしている家族が汗を流している。
時折すれ違う騎乗した巡回兵が、すっかりマラガのアイドルとなったアリスと風姫ソフィに手を振って声を掛けて通り過ぎて行く。
「あ、いっつも、めんどくさ~い。だらだらした~い。って、言ってるクセに~」
アリスが笑いながら言う。
「まあ、基本的にはそれが一番だけど、こうやって歩いていると、ちょっとワクワクしてくるよな」
高く昇ったお日様から、ぽかぽかと柔らかい光が降り注ぐ中を、アリスと手を繋いで歩いていると、なんだか中学校の帰り道のような甘酸っぱく、切ない気持ちが胸に広がってくる。
「だよね、今度は何があるのかな~とか、何が見つかるのかな~とか、どんなトコなのかな~とか、考えるだけでも楽しいよね」
同意を求めて、ちょっと小首を傾げながら、アリスが俺の顔を下から覗きこんでくる。
青い瞳と目が合うと、俺の中学生どころか社会人的な大人の甘酸っぱさが、はち切れんばかりに肥大して、街道沿いに広がる小麦畑の穂の影にアリスを押し倒したくなる。
小麦畑で捕まえて!
そんな感じで!
「うん、それそれ、俺は、こっちの世界をぜんぜん知らないからさ、この先に何が有るのか、ちょっとドキドキ、ちょっとワクワクだな」
「アリスもね、あまり外に出た事が無くって、本で読んだり、ひとから聞いたりしただけだったの。いつか、いろんな所に行ってみたいなーって、ずっと思ってた」
繋いだ手の振り幅が自然と大きくなる。
顔を上げたアリスの瞳は、雲の向こう側にある何かを思い浮かべているようだ。
「そっか、珍しいものが見れるといいな」
「うん、アリスとソフィとカズヤ、他のみんなも、いつまでも、ずっと、ずーっと一緒に、世界中を旅して廻りたいね。ドラゴンとかも見てみたいなー」
「ドラゴンか・・・、それは出来るだけ会いたくないな」
俺もファンタジーの世界に来たからには、一度くらいドラゴンを見てみたいが、休日に家族で動物園にパンダを見に行くのとはちょっと違う。
「ねえ、ソフィはドラゴンって見た事ある?」
アリスが隣を歩いているソフィを見上げて尋ねる。
「あるわよ。魔境で戦ったこともあるけれど、今のエルフの郷には、エルフを守ってくれる良いドラゴンがいるのよ」
「あ、それアリスも聞いた事ある。エルフを守護する双角竜だよね?」
「そうよ。二百年前にエルフが魔物に追われて辿り着いた島にもとから住んでいて、初めはエルフを島から追い出そうとして襲ってきたんだけれども、エルフの守護者と呼ばれた英雄と死闘の果てに和解してからはエルフを守ってくれるようになったの」
「へ~、エルフの守護者と守護竜のおとぎ話か」
さすが異世界。
ファンタジー感がハンパない。
「カズヤ、違うわ、事実よ。未開の土地に移住したばかりで、混乱しているエルフを統率し、竜を従え、魔物を切り伏せ、土地を切り開いてくれた英雄が実際にいたの。エルフの為に戦う英雄の姿を見て育った当時の子供達は、私の親の世代となり、まだ生きていて、二百年経った今でも、その人への感謝の気持ちを忘れた事が無いの。もちろん、私も建国の英雄として尊敬しているわ。まあ、昔の話だから、多少誇張されているかも知れないけれどね」
街道に流れる秋風に長い金髪を泳がせ、憧れの声を滲ませながらソフィが語る遠い昔の英雄に、なんだか少し嫉妬する。
「そっか、エルフは長命だもんな。まだ、移住当時の人達が生きているんだ」
「ね、すごいよね?いいなあ、エルフのドラゴン、見てみたいなあ。ねえ、その英雄の人はどうなったの?」
おとぎ話の続きをせがむ子供のようにアリスが尋ねる。
「分からないの。エルフの生活が安定すると、いつの間にか、どこかへ旅立っていなくなっていたそうよ」
むぅ!カッコ良すぎるぞ、その英雄!
自分の功績を勝ち誇ることも無く、人知れず姿を消すだなんて!
孤独のヒーローすぎる!
「そうなんだあ。いつか、みんなでエルフの国に行きたいね」
「そうね、行けるといいわね」
子供の様に好奇心で顔を輝かせるアリスに、ソフィが遠く離れた故郷を思い出すかのように穏やかな笑顔で答えていた。
街道沿いに広がる畑、その向こう側に見える森や丘、移り変わる景色を楽しみながら歩き続ける。
後ろの方では、薔薇の腐女子にまとわりつくコジロウが、ハエの如く追い払われている。
まばらに木が立ち、近くに小川が流れる比較的、平坦な空き地を見つけたので、ソフィに声を掛けた。
「どうする?」
「次の村まではまだ距離があるから、今日はこの辺にテントを張りましょうか」
「了解」
テント、カマド、水汲みなど、薔薇パーティと作業分担して手早く設営する。
前回の旅の帰り道、何度もこなしてきた共同作業なので、野営地の設営もかなり段取り良く出来るようになった。
「カズヤ、向こうで戦闘の訓練するから・・・、って何やってんの?」
一通りキャンプの準備を終えたエリカが近寄ってきた。
「魔法の練習がてら、焚き木に火を点けてるところだ」
「魔法?それが?」
カマドの中に積み上げた焚き木に、俺の手のひらから発生した一筋の光が当たっている。
「俺の光魔法、光子収束次元突牙光線だ」
「は?もう一回言って」
「だから、俺の光魔法、光子励起フォトンレーザーだ」
「さっきと違ってるじゃない。あんた、適当に言ってるだけでしょ」
そのとおりです。
頭に浮かんだ科学っぽくて、カッコ良さそうな単語を繋げているだけである。
「名前なんかどうでも良いんだよ!とにかく、異世界的な謎理論による謎光線を出して、火を点けようとしてるんだ」
そう、俺はまだ諦めてはいない。
異世界的に派手でカッコイイ魔法をどうしても使いたい。
俺の唯一の遠距離魔法である謎光線の威力を上げようと、機会あらば練習を繰り返している。
俺の隣にしゃがみ込んだエリカが、しばし無言で俺の手から出る怪光線を見つめる。
エリカから発する沈黙の圧力に耐えきれ無くなってきた頃、木片の表面が黒く焦げ、細い煙がユラユラと空へ昇りはじめた。
「そういうの・・・、私も小学生の時に夏休みの宿題でやった気がする。虫メガネのほうが早いんじゃないの?」
「おい、男のロマンが分からないヤツだな。俺の光魔法を虫メガネと一緒にすんなよ」
「へえ、そう?」
そう言って、エリカが俺の手と木片の間に手を差し出して、俺の光魔法を手のひらに当ててヒラヒラさせた。
「あっ!こら!」
「うーん、ちょっと熱い?暖かい?だけど、火傷の心配する程じゃないわよ?」
立ち上がったエリカが人差し指を焚き木に向けると、勢いよく炎が広がった。
「ああっ!今、火が点くところだったのに!チートスキルで着火しやがったな!」
「さっさと来てよ、みんな待ってんだがら」
大地に両手をついてうなだれる俺を残し、エリカが去って行く。
自分では分からないが、ソフィア先生によると、俺の魔力は量、そして質共にかなり高いらしい。
魔力ならある。
魔力ならあるワヨ。
前にも言ったような気がするが、天丼的な繰り返しはお笑いの基本なので、良しとする。
魔法の発現とは、イメージとコントロールである。
それは、俺にも分かってきた。
無色のモヤモヤと漂う霧のような魔力を、クッキーを焼く時に使うようなハートや星形の鋳型に凝縮して押し込んで、火、水、風、土という形に整えて具現化させるわけである。
理屈では分かっている。
だが、何もない空間にいきなり炎の玉が現れる事が、どうしても心の底から信じきれ無いのだ。
俺自身の体の中に渦巻く魔力は実感できる。
俺の分子干渉魔法は、中途半端なエセ科学知識に、その無変換の魔力を押し込んで、強引に自分を納得させることで成立している。
魔力を利用した身体強化などは、俺の体の中を流れる第二の血液のようなモノを高速循環させる感覚としてイメージしやすい。
石ころを持ち上げる浮遊魔法は、魔力を自分の腕の延長線上にあると捉えている。
いかにして自分自身を騙すか、なのである。
理屈は、そういう事である。
もう一度、自分の手のひらから怪光線を発射して考える。
プリズムだとか、虹だとか、光の質を選り分けるような発想が威力向上を邪魔しているのかもしれない。
コロンブスの卵的、大胆な発想の転換が必要だ。
強い光の波長をコヒーレント的に増幅して、マクロ的な意味において可干渉性を高めれば・・・。
いかん・・・、中二的な難しい科学用語を意味も無く羅列すればいいってモノじゃない。
だが、干渉か・・・。
ソフィの魔力と俺の魔力が共振して増幅したように、光の波長を魔力で共振させて増幅するようなイメージを固める事ができれば、もしかしたら・・・。
「カズヤ!なにやってんの!」
なんとなく固まりかけたイメージが、男の美学を理解しない薔薇のバカ女の呼び声で霧散していってしまった。
今日はこれ以上考え込んでも成果は無さそうなので、気持ちを切り替え剣戟の音がする方へと足を向ける。
「デート剣!」
ユキコの上段からの振り下ろしをサイドステップで躱し、木剣で胴を薙ぎ払う。
「肩たたき剣!」
ナオミが突き出してきた槍を掴み取る。
そのまま引いて体勢を崩したところに足払いをかけて、地面に倒れたナオミの喉もとに剣を突き付ける。
「割引き剣!」
大盾で防御を固めたエリカには、前面に差し出された盾を逆に利用する。
一気に距離を詰め、盾の影に隠れるように沈み込む。
わずかの間、自分の盾に遮られ、俺を見失ったエリカが慌てて距離を取ろうと後ろに下がったところを見逃さずに押し倒す。
「ちょっと、なんなのよ!そのふざけたヘンな掛け声は!」
尻もちをついたまま、エリカが抗議してくる。
「ん?俺の必殺技の名前だが、それが何か?」
「『何か?』じゃないわよ!気が抜けるじゃないの!」
「気が抜けるとは失礼な。相手を倒すときには必殺技の名前を叫ぶのがルールというものだ。貴様は俺の『埼玉剣』の技に敗れたのだ。フハハハハ!」
「さっきと違ってるじゃない!き~~っ!くやし~~~~~い!こんなくだらない名前に負けたなんて!」
おい、くだらないなんて言うなよ。
埼玉在住の皆さんから苦情メールが殺到するかもしれんし、肩たたき券は休日のお父さんと娘の大事な触れ合いだし、割引券は主婦の強い味方だし、デート券はすべての男が求めて止まない究極のお宝だ。
地面に膝をついた薔薇の前衛三人組が、ギリギリと歯ぎしりしながら、雑草を引き千切っている。
『時空断裂剣』とか、『邪神断罪剣』だとか考えていたが、途中からめんどくさくなって、思いつくままに叫んでいた。
内容はともかく、何かを叫びながら剣を振るのは意外と気持ち良い。
アニメの中のヒーローが、律儀に技の名前を叫ぶ気持ちが分かった気がする。
「盟主様、次は私が」
サナエさんが、前に進み出てくる。
「いいだろう。我が『年末ジャンボ宝くじ剣』の恐ろしさ、とくと味わうが良い」
サナエさんが纏ったままのケープの下から、二本の木剣の刃先が顔を出している。
ふむ。サナエさんは短剣の二刀流か。
動きの邪魔になるケープを羽織ったままなのは、おそらくヒラヒラの隙間からワガママボディをチラチラ見せることで、俺の集中力をかき乱すつもりなのであろう。
しかし、そんな事はお見通しだ。
現代世界のサラリーマン稼業において、現場作業者達と会社の飲み会の流れのまま、裏街の風俗街を練り歩いた俺の経験値を舐めないでいただきたい。
見えると分かっていれば、どうという事は無い。
見えそうで見えないのが、チラリズムの極意である。
「いきますよ」
そう言って、サナエさんが動き出す。
俺の様子を伺いながら、前後左右に動き、細かいフェイントを重ねてくる。
スピード重視の短剣職の基本的な戦闘スタイル。
剣を振り、蹴りを放つ度に、ケープの隙間から中身が垣間見える。
豊満な胸。
深い胸の谷間。
むっちりした太腿。
そんな事は初めから分かっている。
分かっているのに!
目が吸い寄せられる!
これではイカンと気を引き締め直して、肉迫し、剣を振りかざすと。
「ああん♡」
妙になまめかしい声が吐息と共に俺の鼻先をくすぐり、思わずときめいて硬直してしまった。
気が付けば、首筋に短剣の柄を叩きつけられ、地面に倒れていた。
「盟主様、出会った頃の小娘とは違うのですよ」
俺を見下ろすドSの女王様の編み上げ皮ブーツに踏みつけられていた。
薔薇の腐女子が、ここぞとばかりに拍手喝采で騒いでいる。
俺の小梅ちゃんが、こんなに立派に成長するなんて・・・。
土のひんやりとした冷たさとブーツの裏底の肌触りが新感覚でした。
「カズヤ、あのさ・・・」
「ん?どうした?」
夕飯を食べ終え、適当にリュートをポロポロと鳴らしている俺に、薔薇の前衛三人組が近づいて来た。
アリスは俺の肩に頭を預けて寄り掛かり、静かに寝息をたて始めている。
「私達の何がいけないの?」
神妙な顔つきで俺の前に腰を下ろして聞いてくる。
「何が、って?」
「その・・・、つまりさ・・・、ちっともあんたに勝てないじゃん。どうしてなのかな?って思ってさ・・・」
『俺様の団体交渉剣は最強!』とか言ってふざけようとしたが、いつもと違い妙にしおらしく真剣な表情だったので、腕を組んでまじめに考える。
「うーん、何がって言われてもなあ・・・。ひとつは近接スキルに頼り過ぎているところかな」
「でも、スキル使わなきゃ技が出せないし」
「いや、スキルを使う事が悪いって言ってるわけじゃないよ。使い方だよ。スキルって大技だろ?威力はあるけど、予備動作が必要だし、振り終えた後のスキもデカイ。お前ら追い込まれるとスキルで巻き返そうとするから、分かり易いんだよ」
「それじゃあ、どうしたら・・・」
「だからさ、大技出しても避けられないような状況を作るんだよ。フェイントや払いで相手の体勢を崩すんだよ。もとの世界じゃ剣道部だったんだから分かるだろ?竹刀を上段に構えて、今から面に打ち込みますよ、ってみえみえの状況じゃあ、返されるだろ?」
「うん・・・」
俺の話に実感できたようで、エリカが素直に頷く。
「それにな、剣のスキルって言っても、完成された剣の型の動きを、頭の中のシステムが正確に最適な動作を代行してくれてるだけだと思うんだ。普通なら、何年も素振りして、練習して体に覚え込ませなきゃいけない剣の技を、脳内システムが自分に代わって機械的に作動させてるだけなんだ。つまり、頭の中のスキルボタンを押さなくても、自分の力だけで剣のスキルは実現できるハズだ。実際、こっちの世界の剣士は、そうしてるしな」
「言ってる事は分かるケド・・・」
「例えば、剣のスキルの中に三段の連続技があると思うが、脳内ボタンで発動すると、相手にガードされても最後まで技を止められない。しかも、途中で割り込まれると、ほんの僅かだが体が硬直する。ユキコはいつもそれで俺にやられてるだろ?これが、もし、自分の力だけで出来たなら、相手の出方に対応して、途中で止めたり、変化させたりする事が出来るはずだ」
「うん・・・」
俺のこめかみ辺りを、人差し指でコツコツ突つきながら説明する。
「それに、一番のキモは、こっちの世界に転生した事で、俺達の身体はゲーム時代のキャラクターのステータスをもとに、作り替えられ、強化されている、って事だ」
「それって?」
「ナオミ、いつも抱えているそのデカイ槍だが、身体強化の補助魔法をかけなくても、簡単に振り回せるだろ?もとの世界で、そんな重い物、軽々と長時間振る事が出来たか?違うだろ?つまりだな、車に例えると、F1の高性能車を与えられたが、まだ軽自動車の速度しか出す事が出来ない。この世界の身体を使いこなせていないんだ」
「そっか・・・」
俺の前に膝を抱えて体育座りで腰を下ろし、素直に話を聞く三人組を見ていると、なんかヘンな気分になってくる。
「まあ、俺もこんな偉そうな事言える程じゃないしな。まずは通常攻撃の小技を見直してみたらどうだ?フェイント、スピード、ガードを駆使して相手を崩すところから、はじめてみればいいんじゃないか?」
「うん、そうだね、ありがとう。やってみるわ」
「うむ。これからは、俺の事を剣の師匠と崇めて、膝まづくように!」
「その一言が余計なのよ。バカ!」
仕方ないじゃないか。
いつもはうるさく噛みついてくる薔薇の女子に、真面目なハナシを真面目な顔で聞かれると、なんだか照れちゃうんだよ。
活動報告にも書いておきましたが、現在、年末年始と年度末が近付き、仕事が非常に忙しくなり、なかなか時間が取れません。
基本的に、週に一度の更新を目指しておりますが、なかなか思うようにはいかず、更新期間が長くなっています。
どうか長い目で見てやっておくんなまし。




