路銀と条件
そこから半日馬を走らせ、ようやくたどりついた水場に馬をつないだ。伸びをする子供に手拭いを投げつけると、振り返った子供が造作もなくそれを受け取った。
「昼にする。そこの隧道を抜けたところに『ファイオンの尾』と呼ばれる市場があるから、そこで飯を食ってこい」
ロイが山の麓の隧道を指差すと、子供は首を傾ける。
「ロイ兄は?」
彼は子供を見下ろした。
「別行動」
さらっと言い放つと、子供は目に見えて不満そうに頬を膨らませた。
「路銀、持ってないんじゃなかったの」
低い声で言うので、彼も凄みを利かせて返してやる。
「誰も持ってないとは言っていない。宿をとる金は確かにキツいからお前に乗ったが、飯食う金くらい持ってる」
見返した眼には探るような色合いも強い。何か隠し事でもあるのじゃないかと、そんな風に探っているように見えた。
「でも、倹約はするんでしょ」
口の中でもごもごと言葉が動く。ロイは肩を竦めた。
「ああ。お前のおかげで順調に倹約できそうだ。なにしろ宿代が浮くからな」
有無を言わさぬ目でじろりと睨みつけると、その視線を怯むことなく受け止めて子供は口を尖らせた。
「ごはんのお金まで全部出してあげても良いんだけど」
「そいつは好都合。いよいよキツくなったら有難く頼らせてもらおう」
「今日も出すつもりだったんだけど」
「気遣いか?殊勝なこった。後々のために取っておいてくれれば恩に着るが」
しばしの睨み合いの末、子供はうぐぐ……と縮んでいきながら唸った。
「……。…一緒に行こうよ」
見え見えではあったが、ようやく本音が言葉になった。対するロイの返事は素っ気無いものだ。一言、嫌だ、と。レノンがますます膨れた。
「何で。どっちみち一緒に行くのに」
彼は彼に出来る精一杯の笑顔を返してやる。もちろん、嫌味のための愛想笑いだ。彼にとってだから、他人から見ればきっとほんのわずかの微笑だったのだろうが。
「簡単なことだ。お前が鬱陶しいからだよ」
子供が黙り込んだ。しばらくの沈黙の後に、じとっとロイを見上げる。些か疲れてげっそりした顔に見えた。
「ロイ兄って、思ってたより性格悪いな…。いや、嫌味とかそういうんじゃなくて、素直な感想だけど」
彼は作り笑いを引っ込めた。子供に歩み寄って行って、肘ほどの高さにある子供の頭を掴む。そのまま隧道に向かって投げるように押し出した。
「気付くのが遅い。分かったらさっさと行け。本当に野宿になるぞ」
声を投げると小さな背中が振り向く。じとっと不満そうな目つきでロイを一瞥すると、顔を顰めて走って行った。