第八話 「人としての人生終了のおしらせ」
白い爆発に飲み込まれた俺は、床に仰向けになっている状態で目が覚めた。
(あれ? 痛みが……ない? なんで?)
俺は立ち上がると、自分自身を確認してみる。姿形は、あのまま、ピエロの衣装だ。白を基調としているその衣装はだぼだぼで、首元にエリマキトカゲみたいな襟が付いているせいで、下が見づらいのだ。
少なくとも、足は複雑骨折で立ち上がることも出来なかった筈だ。それに、心臓! 俺はそもそも心臓を撃ち抜かれて……
そこで、初めて周囲の様子を確認する余裕ができてきた。
ぐるりと一瞥して、正気を疑った。
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
白白しい空間、白を煮込んで白で味付けしたような、どこまでも続く果てない空間というか、白い大地と白い空。そういえば、光源が何も無いのになぜ見えているのか?
(((それはねぇ、ここがそういう場所だからだよ)))
突然、頭の中にエコーが掛かった誰かの声が聞こえてきた。
「誰?」
(((わたしは、M78せいうんからやってきたひかりのくにのししゃ。わたしはここに、ふたつのいのちをもってきた。そのうちのひとつをきみにさずけよう)))
「ああ、どうも、ご丁寧に。って、ちがうだろー!!」
乗って、突っ込んだ。
「俺、ハヤタ? 黒部進?」
「君、古いねぇ。その名前が君の口から出てきたことに違和感を感じるよ」
うちの団員に好きな人がいたからな。子供の頃から無理矢理何度も見直してれば素で覚えちまうよ。
「なるほどねぇ。幼児教育ってのは偉大だねぇ」
背後を取られた!? しかも、地の文を読まれた!?
泡を喰って振り返ると、俺よりも小さな少年がすぐ近くに佇んでいた。
歳の頃は、8、9歳といったところか? なんか、小憎たらしい顔で笑ういやらしいガキだ。
「ここに居るのは俺だけか? 他にも人がいたと思うんだが」
「ああ、今、別の次元で詰問していたところだよ。君を撃った奴と、君の童貞を狙ってたビッチだけだけどね。そんな奴らの心配、どうでもいいだろ?」
確かに、そう思わないでもない。でも、ビッチって?
「レディーに対して酷い言いぐさじゃないか? 少なくとも、年長者に対する話し方ではないな」
「年長者云々を言うなら君こそ僕に対して態度を改めてくれよ。これでも、神様になって、長い間修行をしていたんだからね」
「ちょっと、待てぇぃ! 今、神って言ったか?」
「うん。かれこれ、12年程、神をやっているよ」
「……ものっそい、微妙な年月じゃね?」
そして、そのみた目年齢に比して偉そうな口調。こいつ、絶対友達いないだろう。
「失礼な! 大事な友達がいるよ。紹介しようかと思ってたけど、そういう態度なら、しばらくは止めておくよ」
「だから、地の文を読むなって!」
「だったら、頼むから余計なこと考えないで僕の説明を聞いてくれよ~」
「しかたないな。それではどうぞ。(笑)神様」
「なんか、変な記号を付けて呼ばないでよ! 結構シリアスな話なんだから」
そうして、彼、神(笑)は、話始めた。
「ぶっちゃけて言うと、君は先程お亡くなりになった。享年13歳だ。死因は心臓を拳銃で撃たれたショックによる出血性ショック死。まあ、日本で銃撃による死者というだけで、非常にレアだけどね」
ああ、やっぱり死んだんだー。
「まあ、当初予定されていた死にざまに比べればなんぼかましな死に方だよね。家族崩壊まではいかなかったんだし」
「なんだよ? その不穏当な言いぐさ? 本当ならどうだったんだ?」
「僕が介入しなかったら、君、母親に殺されてたんだよ。それを高みの見物で、例の清水とやらがゲラゲラ笑いながら見てるって状況だった。救われないだろう? そんな死に方」
「あ、確かにそうだ。そうなっていても可笑しくない状況だった」
「他の団員を介入させたのは、僕的にはナイスフォローだった。特にアランってのは、君の母親の本当の恋人だったんだ。だから、絶対救ってくれると信じてた」
「知りたくなかった情報だよ!!」
いや、言われてみれば怪しいとは思ってたんだ。しかし、知らないままでいたかった。
「ま、まぁ、結果、死んだとはいえ、こうして、無事? 合流出来たんだし、結果オーライってことで」
「無事? おまえ、邪神かなんかの類じゃないだろうな? 欲しいものは何だ? 俺の魂か?」
「失敬にも程があるっ!」
「じゃあ、なんだって、俺なんだ? 世の中、不幸な奴なら掃いて捨てる程いるだろうに」
「君、ほんとに自覚が無いんだねぇ、自分の不幸っぷりに。神様百人にアンケートとって、内97柱からかわいそうな子、ダントツの一位を獲得したのが君だよ! 両親からの愛情0。友人関係-5。人生の目標0。密かに君を思ってる異性-1。君のライバル0。歳の割に金は持ってるけど、実は、両親揃って使い込んでるし、不幸の圧倒的五冠王だよ!」
「やめて!! 流石に泣けてきた!」
俺、涙目。
「やれやれ、やっと自覚してくれたか。つまり、君のような可哀想な子に、神の祝福を授けようということなのさ」
「俺の不幸はほぼお前が運んできたような気がするが」
もはや、胡乱気な目でしかこいつを見られん! ほんと、なんなんだ? こいつ?
「おまえ、やっぱり悪魔か邪神の類だろう」
「とんでもねぇ! あたしゃ神様だよ!」
どうも、微妙に使いどころを間違えてるようなネタだが、こういうのがすぐ出てくるところを見ても、見た目以上に古い人間なのも間違いなさそうだな。まあ、付いてきてる俺も大概だが。
「ほんと、久しぶりについてきた人に出会えたよ。ねぇ、いっそここで僕と神様やらないか?」
ニカッといい笑顔で親指立てる神様とやら。まあ、超勘弁だが。
「と、いうか、いい加減本題に入らないか? お前、俺に何か用事があったんじゃないのか?」
「じゃあ、単刀直入に言わせてもらうけど、君は前世において、あまりにも業の深い人生を過ごしてしまった。ぶっちゃけ、両親よりも先に、それも他人から殺されるような最期だった。このままこの世界に転生するとなると、君の来世は蟲以下の微生物からやり直しとなる」
「蟲以下かよ……」
「だが、君の業に関しては、君自身の責任によって積まれた功徳を他人の所為で使われてしまったという部分が多分にある。例えば、君の母親は、君を生んだことで悲劇のヒロインとなり、君にやさしく接することでその悲劇を過剰に演出していた。その分ねじれた優しさをその身に刻まれた君は、彼女の不幸をも背負ってしまっていた。普通、人は人から優しくされると安らぎを得るけれど、君はずっと不安だったんじゃないか?」
た、確かに。
「同じように、清水とやらが、君に憎しみを持っていたのも、彼が欲しかった評価を自分ではなく、傍にいただけの君が簡単に得ていた。その結果彼の夢だったプロレスラーになる道が事実上閉ざされたことが理由だ。最初に浜松に来て練習していたあの日のことだよ」
「つまり、奴との因縁は初日からだったのかよ」
「その通り。全く気が付いていなかったんだねぇ。ともあれ、そんな感じで業を過剰に背負った以上、この世界では人として人生が終わってしまう」
うーむ、やばい事になってる? 俺。
「そこでだ。君、異世界へ行って人としてやりなおさないか?」
「は?」