第七話 「事件の顛末 とあるルポライターの手記」
<事件より一か月後>
結局、あの日の清水 十三氏と、少年Bに対する放火犯疑惑捏造事件は、そもそも全くの捏造で、少年Aによる狂言であったと、警察は結論づけた。
あの日の浜松アリーナにおける人的被害は、浜松市市制以来最悪の犯罪で、想像を絶すると言っていいだろう。
死者83名、行方不明者13名、重軽傷者735名、そのうち、中学生以下の被害が大きく、
死者13名、行方不明者3名、重軽傷者217名、
当日は、ファミリー層が多く、特にマイルドヤンキー層と呼ばれる比較的若く、裕福ではない子供づれが、特別価格に引かれ、また、TVで放映されたお涙頂戴が彼らの琴線に触れたことで、多く入場していた。
それら、彼らの善意と楽しみが、入場を煽るためのステマであり、狂言であったと知らされた彼らの怒りは凄まじいの一言であった。
結局、当初主犯と断罪された、清水 十三氏が、早々に身柄を警察が押さえられ、会場より連れ出されたことで、彼らの怒りのはけ口が居なくなったということが、混乱に拍車をかける結果となったのだ。
サーカス団の団員に、詰め寄り、襲い掛かる者。
浜松アリーナの係員に詰め寄り、襲いかかる者。
浜松アリーナの備え付け座席に火を付ける者。
屋内では、更に、観客同志による傷害事件が多発。
早々に屋外に退避した者の中には、今度は屋外に出てサーカス団の車両に火を付けるなど、器物損壊が多数。その中に浜松アリーナの入り口付近で売店への略奪や火付けなど、おこなう者まで出る始末。
収集のつかない大混乱の中、少年Aに付いて護衛していた警官が、当の少年Aに襲われ殉職。拳銃を奪われ、その拳銃によって、クラスメイト七人を殺害。こと、ここに至って、真犯人がこの少年Aでは? との疑惑が生まれたが、時既に遅し。既に暴動は収まる気配なく、警官隊突入により、更に被害を拡大する結果となった。
そして、混乱のさなか、突如起こった激しい爆発!
爆発によって、リンク内で争っていた少年A並びに少年Bを中心として、アリーナ席付近を含む半径20m近辺が完全に消失。爆風で飛ばされてアリーナ近辺で暴動を起こしていた者たちはほぼ無力化されたものの、中心部分にいた中学生三名と、サーカスの道具や、備品のパイプ椅子など、計数千点の物品が跡形も無く消失したのだ。不思議なことに、消失したものの近辺にいた者たちは、例えば熱風などによる被害も無く、爆発そのものが、まるで最初から無かったような見事な消失ぶりであった。
当然、被疑者行方不明のまま事件は幕引きとなったが、衆人環視の上で見事なまでの消失劇に、
サーカス団のマジックによる逃亡説。
痕跡を残さずすべて警察が持ち去ったという陰謀説。
マイクロ核兵器による証拠隠滅説。
など、どれも決定打に欠ける理由説明でお茶を濁し、早々に幕引きとしたい警察側の本音が透けて見えるのも、主犯の少年の身柄を確保出来なかった失態ゆえであろうか?
何しろ、死傷者計800人超えの大事件である。しかも、主犯が13歳の少年でありながら、身柄の確保という大前提となる結果を出せなかった警察には、無数の非難が寄せられている。
最後に、少年Aを知るある人物の証言を聞いてほしい。プロレスラーのF氏だ。プロレスラーを志し、この事件のひと月前に入団試験を受けた時の試験官だそうだ。
「なにしろ、出会って最初に思ってしまったのは、〝華が無い〟ってことだったんだ。父親からは、そもそも落とすよう頼まれていたが、あれなら頼まれるまでもなく失格だったな。まあ、こちらとしては、年に数百人いる入団希望者の一人位にしか思ってなかったんだよ。その時までは。ただ、俺自身は、こんな事件を起こしたからと言って一角の人物だった、とは言えないんだよなぁ。むしろ、普通の人間が狂気をもったら、ここまでやるだろうかなぁ、という印象だった。動機としては、やはり、俺が落としたことが、父親絡みだったからかもしれないが、受かったとて、何ができるってもんでも無い。華の無い俺が一番良く知ってることだからなぁ」
筆者に一つ分かったことは、彼はただ普通の子供であったということだ。
狂気は、普通の人にこそ宿る。
これは、筆者が世界を放浪して発見した真理の一つである。
~ジョー=コッカー記す~
この作品は、内容に危険な要素が多数含まれます。
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