第伍話 「ある小悪党の復讐劇場in浜松アリーナ」 前編
はははっ! 調子に乗ってやがる。
いい気になってテレビで宣伝してやがるぜ。奴ら自身の最期をな。
奴らが言い訳出来ない赤っ恥をかいて、この世から消えてくれれば万々歳だぜ。
うまい具合に生放送までやる気かよ。日曜午後二時か、その時間に合わせてやろうか。
楽しみだぜ。後は、あいつらに呼び出しをかけて……
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ふふふっ! お誂え向きに、彼、スターになっちゃったわね❤
この状況、あいつ、どう見てるかしら? まず、公衆の面前でキスでもしてあげようかしら❤
それとも、どっかに呼び出して合体してるところを見せつけてやろうかしら?
それで、サヨナラとでも言ってあげたらどう反応するかしら?
あああっ! 夢がふくらむわー❤
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がっはっは! 俺も運がいいな。 火事は予想外だったが、終わり良ければすべて良し!
あそこの息子の世話も焼いてやった甲斐があったな。おお、そうだ。息子のクラス全員招待してやるか!
大樹に世話をさせればいいからこっちから人を出す必要も無いし、もう一つ善行を施せば、ますます人気も上がるかもな。
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と、まあ、そんな三者三様の思惑があった事など知る由もない凡人の俺であったが、クラス全員が見に来ると清水氏に言われて流石にビビった。
「まぁ、素敵じゃない。こんなに気にかけていただけるプロモーターさん、滅多に居ないわよ」
と、母に言われれば、奮起しない訳にもいかない。
正直、自分でもビミョーだと思う作り笑顔で
「宜しくおねがいします。社長」
と、言うのが精一杯だった。
そうして、なんとか、土曜の2公演を無難にやり過ごし、明日の昼の部が、今回のハイライトだ。
テレビの生中継が、俺のピエロショーと母たちの空中ブランコを中継するのだ。
「本日は、番組の予定を変更して、先日謎の火災に見舞われた〝クルス大サーカス〟の浜松アリーナ大会を実況生中継いたします。会場は、超満員札止めの盛況ぶり。しかも、噂の少年 ピエロ 賢治くんのクラスメイトも応援に駆け付けております」
こないだの女子アナが一息に長台詞をしゃべりきった。無責任に俺への煽りを交えて(泣) 後ろでわーきゃー言ってるクラスの人たちは、カメラに映ろうと必死のアピール合戦だ。
ん? 清水たち、居ないな? あいつ、ホストだろうに。
まずは、いつものパントマイムから。
壁 の演技で、何も無い空間にわざとぶつかったパフォーマンスをする。
大げさに痛がる素振りで観客がゲラゲラ笑いだす。よし、掴みはOK。
で、両手を使い、壁を確認するふりをする。この辺が腕の見せ所。
ペタペタと壁を触る演技に今度は、「おおおおっ!」と、感心の反応がかえってくる。
お次は、団長が、俺に投げ縄をするパフォーマンス。首に縄を掛けられた俺は、ぴょーんと、団長の方に思いっきり引っ張り寄せられる。まるで、カートゥーンみたいな動きに再度爆笑。
引き寄せられた俺に、団長が鞭を使い、びびらせながらライオンの居る方に誘導する。
んで、目の前でライオンに「がお~!」と吠えられ、こけつまろびつ逃亡を図る。
しかし、団長が既にリンクの鍵を掛けて俺を閉じ込める。俺、絶体絶命!
とりあえず、休戦協定を結ぶため、ライオンに握手を求める。
すると、賢いライオン様は、お手をして、俺に前足を預ける。
当然、ライオンは重い。お手された手を支えきれず俺、ぺしゃんこ。再度爆笑の渦が起こると、何故かライオンが俺をぺろぺろ。味見!? 味見だよね!?
慌てた俺は、欽ちゃんジャンプで逃げ出す。円形のリンクの中を。
当然、一周すると元の位置。ライオンさんとごたーいめーん。
慌てて逆方向に逃げ出すと、もう一周して、ごたーいめーん。
ゲラゲラ笑うお客さんを後目に、俺に興味を失ったライオンさんがご退場!
次は、ナイフ投げが登場して俺を的に括り付ける。グルグル回る回転する的におーたーすーけー、な状態の俺。
一気に五本のナイフを俺に投げるも、間一髪、俺には刺さらなかった。何とか抜け出した俺は、近くに置いてあるドラム缶の中へ避難した。
やれやれ、一安心、と、思いきや、
「ドーン!」と爆発! 観客もびっくり!
俺は、人間大砲宜しく、大空を舞う。空中10m程の高さまで飛ばされた俺は、たまたま来た空中ブランコの母の足に捕まる。助かった。と思いきや、母は、非情にも、俺を足蹴にして落とす。落ちた先には、白いパウダーが。これで真っ白けになり俺の出番が終了、という寸法である。が、今日は違っていた。
どすん!
俺が落ちた先には、うちの学校の制服を着たパッツン美人がいた!? え、え? 聞いてないよー?
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な、何だ? あれは、松崎の家の薫子ちゃんじゃないか?
何であの娘が、リンクの中に?
薫子ちゃんは、婚約者の大樹と一緒に来ていたはずだが、なぜ?
! ははぁ、そうか! こいつは大樹の仕込みだな。クラスメートを絡めて一芝居させる気かな? いや、こいつはいい!
「社長! すいません。手違いで部外者が入り込んだようです」
「栗栖さん。いや、あれはうちの子たちのクラスメートで、どうやら大樹の仕込みのようです。心配ないので、暫くそのままで続けさせてください」
「え、はぁ、社長がそうおっしゃるなら。ただ、事前に知らせていただかないと困りますよ」
雇われの分際で俺に指図する気か?この野郎!
「いや、済みませんでしたな。急遽手配したもので、係が連絡し忘れたようですな。がっはっは」
あのバカ息子、俺には言っておけばいいものを。
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あいつに言われて隠れてたけど、ラッキーね。まさか、あの子と一緒になれるなんて❤
「あ、あの、えーと、どちらさまで?」
「やーね。クラスメイトの顔、覚えてないの? 松崎 薫子よ。こちらは、あなたの事狙ってたのに❤」
「え、ええ? えええっ! 俺なんかの何処がいいってぇの?」
「かっこいいわよ! 清水くんに何されても、屈しない精神力とか、ホントは鼻にも掛けない位強いんでしょ、あなた❤ 私、そういうの判るの」
「い、い、や、でででも、俺ピエロだし、今のかっこ悪いの、見てなかったの?」
「見てたわよ。カッコいい所❤ 緻密な計算の上で道化師を演じてるあなた、素敵よ」
うふ、真っ赤だわ。かわいい❤ この子の初めて、早く食べたいわ。
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「見てたわよ。カッコいい所♡ 緻密な計算の上で道化師を演じてるあなた、素敵よ」
うっわー! こんなこと、生まれて初めて言われたよ!
ぷにっ、とやわらかいよー♡ ふわっ、といいにおいだよー♡
何がおこっているの? 俺、今日、死んでしまうんじゃないかしら?
こんな可愛い子が、俺の事、素敵だなんて!
俺、超カッケぇー!
そう、思っていた時期もありました。一瞬だけど。
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強烈な褒め殺しを生まれて初めて経験した俺の絶頂期は、ここまでだった。
「会場の皆様、ここで、重大な発表があります!」
え、あれ? 清水?
エエエエッ! 聞いてないよー!
この作品は、内容に危険な要素が多数含まれます。
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