第十六話 「椅子は武器なのだ!」
ほんと、我ながら難儀な話だとは思う。
しかし、一つおかげで判ったことがある。
「どうやら攻撃の意思を持った時点で武器として認知されるみたいですね。その時点で持つことも耐えられなくなるみたいです」
「ふむ、とりあえず次から次につかってみるか?」
そう言って取り出してきたのは弓だった。
「弓道の極意は武器であることを忘れ、無我の境地に至ることと聞いたことがある。もしかしたら、これなら使えねぇか?」
と、言われても、こちとら、弓道なんてやったこと無いし。まあ、試しにやってみようか。
弓を受け取り、矢をつがえ、狙い撃つ。
ぐわん、ぐわん、ぐわん、ぐわん
やばい、かつて無い程の頭痛が襲いかかってきた。
「とてもじゃないけど、ひどい頭痛で狙うことなんかできません」
「うーん、ここまでくると呪いだなぁ。解除する方法はないのか?」
「神様の言葉では、僕の本質に係る事なので、無理に解除しようとすると僕が破壊されるそうです」
「打つ手無しかよ!」
「ねえ、前にパイプ椅子っての武器にしたことがあったんでしょ? それをもう一度試してみたら?」
「「あ!」」
「先ずはそこからかな? おい、ちょっとさっきのパイプ椅子使ってみろ!」
「はいっ!」
果たして、結果は……
「確かに何とか使えそうな気がします。ただ、これを武器にするのもしんどいかなと、なにしろ、普通のパイプ椅子ですから、強度が低すぎじゃないですかね。一発叩くたびに一脚壊すんじゃちょっとコストが悪すぎますよ」
なにしろ、ステータスのカンストが裏目ってる気がする。一撃でパイプ椅子粉砕状態だからな。
「そこは、ほら、この世界には魔法って便利なものもあるから❤」
何でも、この世界の魔法には、ある品物の状態を保全する魔法というものがあるそうで、
「そういった魔法はダイアナちゃんが専門家だから、あとでお願いしましょ❤」
「まあ、とりあえず武器の方は解決かな? じゃあ、防具の方に行くぞ! 流石にその服でダンジョンに潜るわけにもいかねぇだろう?」
と、いうわけで移動して防具のある方へ。
「まあ、いきなりフルプレートってわけにもいかねぇだろうから、軽めの装備を選ぶのがいいだろうな」
と、いう魔王様の忠告通りに軽い装備で揃えてみた。
まず、ズボンは、こちらの世界で一般的ななんちゃら言う蜘蛛の糸で編んだマットなシルクみたいな素材のズボンである。ジーンズなんかと違い、軽くてこすれて破れることの少ない素材だとか。それほど高くないものらしいので、贅沢にも二つ頂いた。
シャツは、綿素材の着慣れた感触のものがいいだろうと、これも、二つ、それと別にダンジョン用に魔法処理されたシャツを一枚。こちらは、ダイアナ様の魔法がかかっているとのことで、+2の防御力のものだとか。
ちなみに、+1で、強度二倍程度の魔法。+2だと、ほぼ人力で壊すことのできない強度10~30倍程度の魔法らしい。この上に破壊不可レベルの魔法+3というのもあるらしいが、失伝しているらしく、たまに遺跡などから出土する以外は存在しない。あれば国宝級だとか。
更に、その上から装着するレザーアーマーも、+2のものを提供いただいた。これが、チェスト、ウエスト、ファールカップの部分に分割可能で、各パーツごとに装着するか否か決められるそうだ。魔王様からは、
「正直、下は着けない方がいいと思うぜ! こすれだすと結構デリケートゾーンが痛みやすいからな」
と、ご忠告いただいた。なるほど、ダンジョンのような長丁場なら、そういう防御よりも機動性ということもあろうかと、納得したのであった。
「あとは、盾とかいるか?」
「うーん、何か変わった盾は無いですか?」
「……流石にこの中にはないかなぁ。普通のカイトシールドならいくらでもあるんだが ! 」
「なんでしょうか?」
「お前、盾で攻撃したら大丈夫じゃないか?」
「! 試してみます」
で、結論から言うと、
「体当たりするような感じですね。一か八かの時ならともかく、体制が崩れるので囲まれたり相手の体格が上ならやらないほうがマシって気がします」
「うーむ、上手くはいかないか。盾の勇者の……」
「ヤバい、ヤバい!」
いろんな方面に顔向け出来なくなるよ、これ。
「と、いうか、椅子が両手持ちですから無理ですね」
「まぁ、そうだな」
と、いうことで、このくだりは無かったことに。
結論、
こうして、ようやく装備が決まった。
頭部 当面なし
胸部 レザーアーマー+2
腹部 レザーアーマー+2
下着 インナーシャツ+2
武器 パイプ椅子+2
なんか、全部魔法付きである。初期装備としては、それこそチート級ではなかろうか?
〆て合計8万ドロップというから、格安なのではなかろうか? 魔法装備など、いきなり入手機会があるとか、お得な感じ。
「魔王様、どうもありがとうございました。素晴らしい装備だと思います」
「! いやいや、お前、自腹で購入してもらうからな! くれてやる訳じゃないぞ!」
「それでもです。いきなり伝手も無くこんないいものが買えるわけもないですし、朝早くからおつきあいいただき、感謝しております。もちろん、オードリィ様にも」
「か❤」
「「か?」」
「かわいいっ❤ ねぇ、魔王様❤ やっぱりこの子うちで面倒見ませんこと? 一生懸命面倒見ますから~ お願いー❤」
「ダメだ! 既に判決は下りた。後から恩赦するのは、この国の矜持に反する」
「ええええっ! そんなあ~」
「そんなあじゃねー!」
「オードリィ様、ありがとうございます。お気持ちだけで、大変うれしく思います」
「くすん。ほんと、いい子だねぇ」
「ところで、お二方共、お仕事なんかは大丈夫なのでしょうか? ずっとお付き合いいただいて今更ですけど?」
「まあ、俺たちは、ほぼ名誉職だし、今の時期議会も無いしな。最大の仕事が夜の営みってとこか?」
「そ、それは、重ね重ね失礼いたしました」
「まあ、普段は民主主義をやっているが、魔王の仕事の最大のものは、ビミョーな法律が出来そうな時に拒否権を発動して無かったことにすることだからな」
「ある意味民主主義の弱点をカバーするいい制度だと思うけどね❤」
なるほど、それは、すごくいいかも!
なんて話をしながら元の部屋に戻ってきた後、遅い昼食をごちそうになって、城外の冒険者ギルドに向かうこととなった。思いのほか質素な食事なんだなぁと、思ってしまったが。
「え? 魔王様が直々に連れてってくださるのですか?」
「まあ、一番顔が利くのは俺様だからな」
いいのだろうか? しかし、冒険者ギルドかぁ。テンション上がるなぁ。
こうして、一路、冒険者ギルドへと向かう。
「一応、犯罪者だからな。悪いが許せよ」
たとえ、鎖に繋がれていても、気は晴れ晴れであった。