1話
彼女は日野彩夏。
明るくて元気のある少女だった。
髪の色は黒っぽい茶髪で、整った顔立ちをしていてとても可愛かった。
彩夏とは幼馴染でいつも一緒にいた。
彩夏の親と僕の親が昔からの友達だったということで彩夏ともいつも遊んでいたのだ。
中学校にあがるころまでは彩夏と僕はセットだった。
中学にあがってからは、僕のほうが彩夏を避け始めた。思春期というやつなのだろうか、小学生のころは大して気にならなかったのだけど、中学に入ってから彩夏と一緒にいると周りに茶化され、恥ずかしくなった。そのせいで彩夏から避けるようになってしまった。
彩夏は茶化されても別段気にした様子はなかったが、僕が彩夏を意識的に避けていることを彩夏は感じたのか、彩夏のほうもなるべく僕には近づかないようになった。
寂しくはない。
彩夏と遊べなくなるよりも、茶化されなくなったことの方が良かったのだ。
それからは彩夏と遊ぶことは全くなくなり、代わりに他の男子と遊ぶようになった。
ゲームをしたり、漫画を読んだり、ダラダラしたり。
ごく普通に中学生生活を満喫していたと思う。
それから2年経ち、僕は中学3年生になった。
受験シーズンということで周りのみんなも勉強に取り組み始めた。
2年までは不良で金髪だった山岡くんも黒髪に染め直して毎日塾に通い始めるくらいだった。
しかも僕と同じ塾だった。
ある日、山岡君が塾の帰りに話しかけてきた。
怖かったがなんともない表情で応答しようと心の中で唱えまくった。
「なあ、お前ってどこの高校うけんの?」
「ん、ああ、僕はA高校かな。山岡君は?」
「俺はD高。頭わりいからさぁ。俺」
D高といえば確か進学校だったはず。
頭いいぞあそこ。僕が行こうとしてるところより頭いいぞ。
「いやいやいや!?D高ってかなり頭いいじゃん」
「あ、ばれた?実はそうなんだよ俺天才だからさ」
「学年最下位が何言ってんだよ」
あ、やべ。殺される。
「くはっ!バレたか!お前なんで俺が最下位だって知ってんだよ!」
「この前自分で言いまわってじゃないか!」
あれ、殺されなかった。よかった
「ふひひっ。まあな。だから塾通ってんだけどなぁ。ああでもこのままだとやばいらしいんだよね俺」
「そうなんだ、でも頑張ればなんとか」
「なんとかなりゃいいんだけどなぁ」
「・・・」
「おっと。空気重くしたか。ごめんごめんご。あ、そうだお前そういえば名前なんていうの。俺知らないんだけど」
「2年の時同じクラスだったのに!?」
「俺人の名前覚えるの苦手でさ。いやーワリいワリい」
「まあ・・・いいけど・・・篠崎楓」
「かえで?」
「僕の名前」
「かえでかー女子みたいな名前だな」
「やめろよ気にしてんだから!」
「はははっいいじゃねえかカッコいいじゃん」
「かっこいい・・か?」
うーんかっこいいと言われたことはなかったな。
「あ、楓お前携帯もってる?」
さっそく呼び捨てかよ。
まあいいけどさ
「もってるけど、何?」
「何ってお前。携帯もってるかーって聞いたらもうメアド交換以外何があるってんだよ」
「えっメアド・・・ああ、うん」
「ほい。赤外線でいいよな」
「うん」
こうして僕は、山岡君と仲良くなった。
この日から山岡君とは良くつるむようになった。
周りの友達からは
「お前何で山岡とつるんでんの?」
「何か弱みでも握られたのか?」
「何かあったら相談に乗るからな!」
とかいろいろ心配された。
客観的に見ると僕は山岡君のパシリに見えているようだ。
まあ別にいいんだけど。
そしてその噂が山岡君に伝わると山岡君は
「おい楓、原因はお前にある」
「なんで僕なの」
「お前がいつまでたっても俺のことを山岡君だとか言うからだろ!ダチなら下の名前で呼べよ!」
「下の名前覚えてない」
「はぁ!?」
「いやあんただって最初僕の名前知らなかったじゃん!!!」
しかも名字も
「あれは過去の話だ」
「ああ・・・うんごめん」
めんどくさかったので謝っといた。
「そういうワケだからこれからは俺のことは名前で呼べよ。いいな。あと君とかさんとかちゃんとかつけるなよ。様ならつけてもかまわん」
「わかったよゲンタ」
「俺はいつゲンタになったんだ。殺すぞ」
「ごめん」
そんな感じのやり取りをできるくらいには仲良くなっていたのだと思う。
中学3年生になり、半年が過ぎたころ、僕に転機が訪れた。
同じクラスの女子に告白されたのだ。
なんとも、前々から僕のことを結構気にしていたらしく、もうすぐ卒業だし思いきって告白してみたらしい。
ちなみに僕もいままで告白なんてされたこともなかったために舞い上がってしまいついノリでOKしてしまったのだった。
まあ見た目もそんなに悪い子じゃなかったし、わりかしおとなしそうでいい子みたいだからか断る理由などどこにもなかったのだけど。
それでももし、理由があるのだとすれば、それは彩夏かもしれない。
告白された時、一瞬彩夏が脳裏に浮かんだ。
何かに後ろめたくなるような。そういう感じがあった。
告白されてから1週間。
あっという間に噂は学校全体へ広まった。
僕に告白してきた女の子、風見さんはなかなかの自慢したがり少女だったらしく、僕と付き合うことになってからその日にすでに僕のクラスの女子全員にその事実を伝えていたらしい。
しかも僕の行動も全てあますことなくクラスの女子に伝えていたらしい。
たとえば
「ねえ聞いて!今日篠崎くんがゲームセンターにいたんだよ!それでね!UFOキャッチャーでぬいぐるみ取ってたの!あれってきっと私にプレゼントするためだよね!」
なんて話しているのが聞こえたり。
ちなみに取ったぬいぐるみは別に風見さんにあげようなんて思ってはなかったし、普通に自分の部屋に飾っておくつもりだった。
あの日とったぬいぐるみは、確か彩夏が好きなシリーズのぬいぐるみだったはずだ。
と、そんなどうでもいいことを思い浮かべたりもした。
結局風見さんにぬいぐるみをあげることになってしまったのだけど後悔はしていない。
もうすぐ彩夏の誕生日だし彩夏にプレゼントして昔みたいに仲良くなれないかとかそういうことを思っていたわけでは決してない。
決して。
風見さんと付き合ってから1カ月がたち、ある日突然風見さんに呼び出された。
「ねえ、篠崎くん、なんで私のメールに返事してくれないの?」
「え?ああいや別に」
「なんで無視するの?」
「無視じゃないけど、その、返信するまででもなかったかなーって」
「なんで!?篠崎くん私の彼氏なんだよ!彼氏なんだから私のメールは全部返してくれないとだめなんだよ!!!それなのに何?そんなに私のメールを返すのが遅くなるほど忙しいの?駄目だよそんなの、篠崎くんは私のものなんだから。ああ、そうだ。じゃあルールを決めよう?これから篠崎くんが私のメールに10分以内に返信しなかったら1通ごとに篠崎くんのメールアドレスから女の子のアドレス消していくから。そうだわそれがいいわそうしましょう」
その日、僕は彼女と別れた。
風見さんと別れたその日、もうすでに学校中にその噂は広まっていた。
もちろん、風見さんが流していたのだけど。
なんとも僕が悪者扱いされていて泣きたくなった。
そして別れた日の夜、久しぶりに彩夏が家に来た。
「やあ久し振り」
「…んだよ彩夏か」
「なによそれーせっかく楓が振られたって聞いたから慰めにきてやったっていうのに」
「別にお前に慰めてもらわなくても大丈夫だよ帰れよ」
「ふふふーそうですか。まあでも今日は暇だし一緒にいてやりますよん?」
そういう彩夏は、人が彼女と別れたというのにとてもうれしそうだった。
とても慰めにきた顔ではなかった。
「ねえ、楓」
「ん?何」
「…ううん、なんでもない。あ、そうだ私プレステのソフト持ってきたんだ。やろうよ」
「うちにプレステねえよ」
面倒なので多分更新しません