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STAGE00_ブリーフィング

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http://nicosound.anyap.info/sound/sm7459078

BGM[トライアングル ガーデンダンス]

STAGE00_ブリーフィング


 バー『わけあり』地下にある騎兵隊『エルベレス』のブリーフィングルーム内。各自が席に座ると部屋の照明が落ちて、壁にくっつけてある大型ディスプレイに様々な画像が表示された。まず地形の上空写真が映り、次にグラフィカルな簡略された地形図が重なる。画面の隅には武装した兵士達の写真もある。それらを見ながらレイは口を開いた。

「リベリオンカウンターが敵のオリハルコン製造施設の場所を突き止めることに成功した。そこで連中は早速その場所へ二中隊を派兵したものの、今日の午前一時頃に部隊は壊滅状態に陥った。辛うじて逃げおおせた隊員が言うには、そこには何も無く、あったのは待ち伏せした敵部隊だけだったらしい。さらに隊員の話しでは部隊が全滅したわけではなく、しんがりを勤めていた何小隊かが現地に孤立している状態との事だ。美咲--」

 それから、一旦いったん彼は発言権を美咲に譲る。

「部隊が最初の作戦行動に出たのは今から十九時間前です。生存の有無ですが、現在でも現地付近より時折アストラルストームが観測できることから、生存している可能性はきわめて高いと思われます。通信をしてこないのは、傍受される危険がともなうからだと」「(ハッハー、リベリオンカウンターの情報部がいい仕事したってわけだ)」両手を上に向けながらチャコが言った。隣に座るマッキーは顔を向けたが、目線だけを画面に向けて言う。「(あそこは功を焦る連中が多いからな。しかし、そのおかげでかなりの戦果を上げているのも確かだ)」「(『十中八九失敗』だろぅ? 使い捨て部隊での数撃ちゃ当たるマシンガン戦法ってやッつぁーよ)」ちなみに二人の会話は英語でなされていたが、文字媒体では毒者(どくしゃ・読み手のこと)に読みやすいよう括弧書きで翻訳されている。

 美咲の解説が終わると画面が切り替わり、今度の地形はリベリオンカウンターの拠点を広範囲に映し出した。そして再度レイが話を進める。

「現在敵部隊は、兵力を削ぎ落としたリベリオンカウンターの地域拠点エリア32を攻撃する様子を見せている。大規模な侵攻作戦のようで、かなりの数だ。オーガの数は約二個大隊と想定して間違いない」

「大隊クラスって--」香奈子が隣に座る正光に耳打ちをした。「小隊が三、中隊が九、大隊だと二十七機もいるってことだよね?」正光は顔を向けてそれに答える。「うんそうだね。二×二十七で五十四機。しかしやっべぇ話しだなこりゃ。俺達はピンポイントのレイドアタックが持ち味だってのに、数で圧倒されてちゃそれもかなわんぜ」「その通りだ正光」そこで二人の余談にレイが口を挟んだ。

「先に、全員が思っているだろう『何故呼ばれたか』という理由を説明する。命令元は参謀本部だ。表向きは単純な戦力の底上げなんだが、天下のリベリオンカウンター様がそんな指示を受け入れるはずがない。噛み砕いて言えば、『情報漏洩を犯したエリア32は信用できない』」クレアが問う。「エリア32の評判は、良くなかったの?」「そこそこだが、ヘマをやらかすタイミングが悪かったんだろう。状況的にも、大部隊が押し寄せてくる事態にまで発展しては挽回するチャンスはほとんどない」「つまり『見せしめ』を笑いに行く役をおおせつかったってコトさぁ」レイの返答に対し、ドリロッチが両肩を回す仕草をしながら言った。「下らない。レイ、横槍を入れて、ごめんなさい」「いやいい」クレアはご丁寧にも謝罪の言葉を付け加えたので、レイは悪い気がしなかった。

 画面には今回の作戦区域の縮小地図が映し出された。「今作戦の概要を説明する」レイの言葉に連動して、その上に三つの水色の丸マークが浮かび上がり、同じ色の線で結ばれている。それぞれのポイントには小窓が表示され、港湾施設、工業地帯、湾岸の写真が映っていた。

「目的は敵の進行阻止と、残されたリベリオンカウンターの救助にある。作戦に当たるのはリベリオンカウンター、アストラルガンナーズ、そして俺達。主体となるのはリベリオンカウンターの部隊で、俺達は細かいピンポイント攻略を担当する。アストラルガンナーズは後で出てくる海上での支援を担当することになっている。また、連中は隠密行動を行なうため、派手な関与は一切しないだろう。今回の作戦は大きく分けて三つ」

 エリア32から赤い矢印が延びた。それは市街地の先にある山岳地帯を越え、海沿いの第一ポイントを指す。線の途中にも小窓が現れ、高層ビルが立ち並ぶ商業地と、傾斜の強い山岳の写真が映る。矢印が第一ポイントに到達すると、丸マークが水色から赤に変わった。

「まず初めに、俺達はリベリオンカウンターの小隊と連動して、索敵しながらこのルートを辿ることになる。このルートは乱流濃度が薄いためオーガをアクティベートできないが、ストラクチャーを経由しながら最短距離で第一ポイントへ移動できるルートだ。本体は山岳地帯を迂回する別のルートを取り、そちらは濃度が濃いのでアクティベートが可能。少数でオーガ無しの小競り合いをするなら、俺達のほうが得意だからな。第一ポイントへ到達するまで、索敵しながら移動をする事になる。そして、行動を共にするリベリオンカウンターの小隊情報はこれだ」

 レイが言うと、画面には女性四人、男性二人の写真が表示される。

「アサルト3、ガンナー2、レコン1の六人編成。アサルトの一人……この女だな。彼女はこの部隊の指揮官で、エフェクターでもあり電気を操る。雷撃のほか、ピカピカ光ったり磁力で色々できるらしい」

 次に画面は第一ポイントである湾岸沿いの画像が映された。追加で小窓も表示され、大型のクレーンや工業用の重機類などが映っている。

「第一ポイントはこの造船所だ。ここはリベリオンカウンターが管理しており、高射砲や対地、対空レーザーなどのAIF|(アストラルインターセプトファシリティーズ。ストームルーラー専用迎撃設備)がある。敵も狙うならまずココを落としに掛かるはずだ。今のところ異状はないらしいが、タイミング悪く乱流が発生しているせいで広範囲の索敵はできない。多分これも敵の読み通りなんだろう。ひとまずこの迎撃施設で敵を食い止めるのが今回の重要課題の一つと言える。迎撃が遅れれば救助どころの話しじゃなくなるからな」

 クレーンや重機類の画像が消え、オーガ数種類とリベリオンカウンターのメンツが映し出された。

「迎撃のかなめとなるのはリベリオンカウンターのオーガ部隊だ。テラスティラル型、メカニカル型、ハイブリッドと、豪華なラインナップのようだな。詳細は後ほど説明するが、俺を含めるオーガイクイプターも全員オーガをアクティベートし、連中と共闘を行なう。それ以外の隊員は地上での白兵戦を行なってもらう」

 各画像が消されると、第一ポイントから内陸へ矢印が延びた。行き着いた先は第二ポイント。やはり矢印が到達すると丸マークが赤くなって写真が表示される。どうやら近代的な化学工場郡が広がっているようだった。

「第一ポイント以降は本体と行動を共にする事となる。第二ポイントは、問題の待ち伏せがあった工場だ。この辺は既に強硬派の領土内なので、迅速な行動を求められる。現地に到達するか、もしくは道中にて隊員を探索する。目的地は工業地帯だが、道中は山に囲まれた盆地で田んぼやら農家が点在している。そして、敵の迎撃設備について」工場の写真のほかに新しい画面が現れた。3Dで作られた大きな固定砲台や機銃、ランチャー類が画面でゆっくりクルクルと回っている。「これらが工場群の形状と立地条件から推測されるAIFだ。盆地を上手く利用した天然の要塞といったところか。目的地からの迎撃以外にも、両サイドから砲撃などの激しい妨害が予想される。だが目的はあくまで救出であり、ここを攻略する訳ではない」

 オーガ(Oreichalkons Gigantic Armor。通称O-GA)とは、人為的に細工を施されたゴーストクォーツ(霊石英)によりモリエイトされる有人型の『兵器』である。その大きさは小さいもので六メートル、巨大なものであれば二十メートルを越す。オーガは『オリハルコン』と呼ばれる超高質化したアストラル装甲で構築されており、核攻撃にすら耐えうる防御力を備え持っている。そのオリハルコン装甲を打ち破るには、同じオリハルコン製のオーガによる攻撃や対オーガ用兵器、もしくはルーラー自身による高出力のAOアストラルオフェンスを叩き込むしかない。

 矢印は第二ポイントから角度を変え、近場の海岸沿いにある第三ポイントへと矛先を向けた。

「救出する、または死亡を確認した場合速やかに撤収。こちらの第三ポイントへ向かう。この辺一帯は乱流濃度が低くアクティベートが不可能な地域なので、湾岸に着き次第、潜んでいたアストラルガンナーズの揚陸艦ようりくかんで脱出するという手順だ。脱出のタイミング合わせはかなりきわどいだろうが、アストラルガンナーズの腕を信じるよりほかにない」

 レイの概要説明が一段落すると、もう一度全てのポイントを結ぶ縮小された最初のルートマップが表示された。やはり各ポイントには小窓が表示されてある。

「以上が作戦の概要だ。まず第一ポイントに着くまでに敵の斥候を索敵しつつ進行。次に造船所の迎撃施設で敵を迎撃。その後敵領土内に進入し、生存者を救出、脱出という手順になる。質問はあるか」

「(やっこさん等は総出で襲い掛かってくんだ。ドンパチやってるあいだ、アチキらだけアストラルガンナーズと一緒にこっそり第三ポイントから進入すりゃー話しゃーはえぇじゃねーかぇ? もぬけの殻だぜ)」チャコが言う。レイは顔を向けたが、ドリロッチが先に口を開いた。「(敵だってこちらの動きを既に見ているさ。それにせっかく隠れてた船をホイホイ海岸沿いに寄せてみろ。唯一の脱出口が塞がれちまう。口に出す前に考えてみろよガンナー)」「(んっだよテメェにゃ聞いてねぇんだよこのヒゲ達磨! 火達磨にしてやろうか!)」「(あーらお上手。どうしてそういう頭の回転を作戦で発揮しないのかね)」「(それなら第三ポイントから第二ポイントに逆走して敵を挟み撃ちだ。いい案じゃねーか)」「(なるほど。敵の高射砲を背中に喰らいながら挟み撃ちね。そんでこっちも挟み撃ち)」「(じゃー海に逃げればいいじゃねぇかよおおおォォォーーー!)」「(ふむ、よろしい。では砲塔を海岸沿いに向けよう。ハイ次の提案をどぅぞ--)」

 二人が言い争いをしている傍で、マッキーがレイを見て質問を投げかけた。「敵の斥候のデータはないのか」

「残念ながらない。だがそういう任に着く連中はエフェクターが大半だ。連携を乱されないよう気をつけろ。ガンナーの援護が重要になるだろうな」「(だとよガンナー。しっかりお仕事するんだぜ)」レイの言葉を聞いたドリロッチがチャコに言う。「(あぁ、もちろんしてやるさ? クソヒゲ以外はな)」「(おーおー嬉しいねぇ? 泣きそうだぁ)」

 次いで睦月が口を開く。「第一ポイントで迎撃しきれなかった場合は?」

「フム、面白い質問をするな。聞いていたのが俺でよかったな睦月、そのジョーク笑えるぜ。お答えするならば、『死守せよ』だ。分かるな?」

 レイの皮肉たっぷりの返答に、睦月は自分の質問が愚問であったと悟り、ばつの悪そうな表情になった。しかしレイとて彼の人柄を配慮していない返答だったと自覚して、今更ながら言い方を変えることにした。彼はついチャコに言うような口調で喋ってしまったのだ。

「まぁそうだな。迎撃設備で応戦するほどの大部隊だ。ここを取られると状況は泥沼化して、戦火は広がってしまうだろう。ヤバくなったら後退すりゃいいんだが、できるだけここで押し留めたいって感じだな。出来る限り全力で当たってくれ」

 その言い直しに、睦月はうんうんと頷く。

「もう一つ--」そこで、睦月の件をはぐらかそうとしたのかは分からないが、マッキーが人差し指を上に向けた。「先ほど美咲が『通信が無い』と言っていたが、量子暗号回線も無いのか?」レイは美咲を見る。彼女はそれに気づいて口を開く。「そのようです。通信機を破損するなど、何かしら問題が---」「そういえば」美咲が返答する最中、クレアが質問を投げかける。「アストラルストーム、を観測できると言っていた、けれど、本当に、リベリオンカウンターのもの、なのかしら? それも囮という、可能性は」その質問にはレイが答えた。「もちろん否定はできない。だから今回の作戦はあくまで第一ポイントの迎撃任務が主体と思ってくれていて構わないだろう。向こうへ行けば状況も変わるだろうし、より確かな情報も入ってくるはずだ。まずは救出よりも、当面の迎撃を主眼に置いておけ」「了解しました--」「なんだって?『だから第三ポイントから進入しないのか?』」クレアの返答と被るようにしてドリロッチが顔を向けた。

「『まぁそうなるな』。俺が説明してりゃそこを先に言えたんだが」「なるほどね。了解。理由が分かった。『仲間見殺し作戦』か。オーケー」レイからの返答を聞いたドリロッチは表情こそ変えなかったが、あからさまに嫌味なトーンで喋った。「(人のいのちゃー安いもんだぜ? じいさんよォ)」「bag your face」そして横槍を入れたチャコに対しても静かな口調で『黙りやがれ』と吐き捨てたのだが、彼はレイの言葉に気分を害したわけではない。

 それからレイは全員の顔を流し見て、刃の顔を見つけた。「刃、何かあるか?」彼は無口な男なので、思ってはいても口に出すことが少ない。そこでレイは時折自分から彼に質問を投げかけることで、言葉を引き出すのだった。「いや、特に無い」しかし大半はこのような感じで終わる。「瑞穂は。疑問な点はないか」「えっ!あッ!--」ついでにレイは、刃の隣で肩に力を入れながら固まっていた瑞穂に声をかけると、彼女はビックリした様子で声を上げた。「特にあのっ、ないです!」「そうか」「ハイありません!」緊張のあまり瑞穂は無駄に二回も返事しまったが、レイは特に気にしなかったようだ。

「それでは各自、装備を整えて時間内に集合。今回の作戦は大掛かりだ、いつも通りに行くとは思うな。各自戦闘準備にかかれ。解散」



 ブリーフィングを終えた各自は、それぞれロッカールームで装備点検を行なっていた。長いテーブルの上には無骨な火器類が随所に置かれており、鉄っぽい独特の香りが鼻腔をくすぐる。

 正光は自分のロッカーを開くと、着ていた物を脱いで、衣文掛けにぶら下がっていたアサルトアーマーと、小奇麗にたたまれたホーバークを取り出した。アサルトアーマーとは防弾チョッキのような類ではなく、ゴーストクォーツ(霊石英)から生成されたゴーストナノ繊維の編みこまれたACA(ストームルーラー専用)の衣類だ。アサルトアーマーはアウターとインナー、そしてカーゴパンツの三種類で、どちらもグレー色をしている。インナーは普通の長袖Tシャツっぽいが、胴と腕の部分にダブルベルトがくっつけてある。それを多少窮屈なくらいに絞ることで人体工学的に運動能力を上げる効果を得ることができ、また出血した際の止血にも役立つ。厚手のカーゴパンツにもダブルベルトがあり、太ももと膝にくっついている。尻と膝の部分には目立たないくらいの衝撃吸収パッドが内包してある。両膝のカーゴには何でも入れていいが、基本的にメディカルキットを入れていた。

 その後に取り出したホーバークとは一見して黒い鎖帷子くさりかたびらなのだが、持った時にその見た目と軽さのギャップに驚くだろう。膝に満たない長さで、純粋なアークマナダイト(濃霊石)の表面に着色しただけのシンプルな胴衣だ。もっともこれ自体だけでは工具さえあれば容易に切断できる強度なのだが、ひとたびAOFを展開すれば即座にその真価を現し、それこそATMの直撃にも耐えうる強固な鎧と豹変するのだ。ある意味これが、ストームルーラーにとっての防弾チョッキと言えるだろう。

 彼はインナーとカーゴパンツを身に着け、適度にベルトを絞り込む。そしてホーバークを着る前にSAG用のガンホルダーとエナジーリアクターを取り出し、腰のベルトと一緒に巻いた。エナジーリアクターはAOFの出力を底上げする装置で、AOFの噴射や空中制御など、機動性面を強く強化する働きを持つ。正光のように前衛で敵の目を釘付けにする役回りには、この装置の及ぼす恩恵が大きい。個人によりエナジーリアクターの変圧調整が可能で、彼の場合非常にピーキーな、実に『とんがった』調整を施しているようだ。形状は長さ十五センチ程の六角形をした薄い箱である。

 それから彼は丈の長いアサルトアーマーのジャケットを羽織る。さすがに戦闘用だけあり、このジャケットこそが最もAOFのチェンジ効率をよくするアイテムで、着るのと着ないのでは格段の差がつく代物だ。腰周りや両肩、肘などの要所には戦闘用に調整されたゴーストクォーツが仕込まれていて、AOFの噴射や逆噴射はもちろん、アストラル体のソウク、チェンジ、AO出力調整など、戦闘機で言う所の火器管理システムや推進システム等がもろもろ一式が詰め込まれている。レイアウト的には腹部にポケット二つと胸部にマガジンラック四つを配置したスタンダードなおもむきだ。

 なお左肩の所に革のワッペンが張ってあり、そこには『A Elbereth Gilthoniel(ア・エルベレス・ギルソニエル)』と書かれている。文字の上には髪の長い女性が正面を向いて両手を広げる感じのアートな絵があった。ちなみにこのワッペンは最近『無許可で』付けられたもので、エルベレスの隊員は皆つけている。

 それから今度は、今作戦において必要な物資を頭に思い浮かべた。「(今回は長丁場になるだろうから、消耗品類は全種類輸送隊に預けておこう。今身に付けられるものは、まずリザーブクリスタル、OJP、後は手榴弾……)」

 リザーブクリスタルとは高圧縮されたアストラル体を内包するゴーストクォーツであるが、ゲーム的に言えば『超お手軽一発回復アイテム』である。クスリの小瓶くらいのそれは任意、またはAOFを消費すると自動的に消耗されて、『飴玉』のように小さくなっていく特長を持つ。最後まで使い切ると内包用のゴーストクォーツだけが残り、碁石程度の小ささなる。実に素晴らしいアイテムなのだが、アストラル体の内包には特殊な技術と工程が必要なので、暇があったら戦場でもチャージ、といった芸当は今のところ不可能なのが玉にキズとなっている。正光はせこい男なので、このリザーブクリスタルをポケットや使わないマガジンラックなど、とにかく入れられる所へぎゅうぎゅう詰めにした。おかげで彼のポケットはパンパンに膨らんでしまったものの、戦闘が始まれば否が応でもしぼんでしまうだろう。

 OJPとは『オリハルコンジャマーパルス』という、その名の通りゴーストクォーツのオリハルコン形成を妨害するパルスを発生させる投擲式の電磁兵器だ。パルスは敵のSUスレイブユニットのみに影響を及ぼすので、使用することを事前に打ち合わせしておく必要がなく、気軽に撒いていけるので非常に使い勝手が良い。パルスの効果範囲は半径五メートル程で、五秒間持続する。しかしネックとなるのがその効果対象で、オリハルコン強度が低い小型SUのみに限られてしまう点である。小型ならば完全に機能を停止させられるのだが、中型以降は効果範囲の内側だけ移動速度が遅くなる程度に留まってしまう。それともう一つのネックは、地味に高価な消耗品だというところだ。

 手榴弾とは言わずもがな、衝撃波と内部に仕込まれた鉄片の飛散により殺傷を及ぼす時限式手投げ爆弾だ。もっともAOFを展開しているストームルーラーには一般的な手榴弾では効果が薄いので、こちらは素材がゴーストクォーツ製となっている。特徴的なのは、手榴弾にAOFをチャージさせなければ起爆不可能な点である。しかしそうする事により、爆発のタイミング、爆風形成範囲の任意変更、殺傷対象のチョイス等々、非常に細かい設定が一瞬でオフセットできるようになる。このような高性能になった理由は、やはりAOFを介して自分の意志を反映させられるACAであるからだ。また、前線で生死を分かつ兵士達の参考もかなり反映されている。正光は腰ベルトの右側に手榴弾を、左側にOJPをそれぞれ三つくっつけた。

 そんな感じであらかた装備を終えた彼は、ロッカーの引き出しを開けて自分の武器『ファストキャスト』を取り出し、両手にはめる。それは赤色がいい感じに配色されたスタイリッシュな黒い手袋で、甲の部分には特製の超小型エナジーリアクターが内臓されている。そのエナジーリアクターは武器でありながら、アサルトアーマーの『ナーディライン』と直結する仕組みを持つ。

 このファストキャストはまだ試作段階の武装で、製造元の『ナーディネル社』から直々にお借りした超最先端の兵器だ。と言うのも、エルベレスのコマンダーであるレイはナーディネル社の重役と古い交友関係があり、騎兵隊という立場から、新兵器の実戦テストをたびたび申し込まれたりするのだ。もちろん試作品を検証している立場なので、ナーディネル社からは無償の修理や報酬を受け取れるとあり、彼としては二つ返事で了承する理由は充分にある。そもそもスポンサーを有する騎兵隊というのは珍しくは無く、例えばアストラルガンナーズは『西木式』の兵器を広く扱っているようだ(もっともアストラルガンナーズのブレインが西木式の家系なので当然なのだろうが)。

 ナーディネル社は炎(魂、エーテル体、アストラル体の総称。英語ではブレイズと呼ばれる)の形成理論やAOF同調係数観測技術なんかに秀でており、簡単に言えばアーマーやアクセサリ関連が強みの会社だ。エルベレスの全隊員が着用するアサルトアーマーもナーディネル社製で、他社には無い独自の技術『ナーディライン』が仕込まれている。ナーディラインとは炎を効率的に循環させる管みたいなもので、脊髄に位置する背中にはスシュムナー、左側はイダー、右側はピンガラと呼ばれるラインが各部を網羅している。専用のエナジーリアクターを装備すれば、なんとAOFが『当社比』二十五パーセントも増加するという驚きの仕様だ。

 ファストキャストは現在どの開発組織も成功させたことのないモリエイトサポートユニットで、イマジネーターのモリエイトする得物の性能を上げようと試みたものなのだが……正光はインテュインターであり、しかも得物をモリエイトせず素手で戦うはちゃめちゃファイターだ。何故イマジネーター用のアイテムを彼が装備しているのだろうか? その理由は、このファストキャストがエルベレスのイマジネーターに不評だったからである。彼らが言うには、この装置にはリミッターが必要だ、との事らしい。どうにもエナジーリアクターがモリエイトの邪魔をして、ファストキャストどころかラストキャストになってしまうという、高性能さが逆に仇となる皮肉な結果となったようである。一方、正光のように素手の状態でAOFをそのままブチかますような戦法には抜群に相性が良いらしく、開発元すら想定していなかった『収束したAOFをモリエイトさせず無形のまま放出、挙句の果てにはブン投げる』というトンデモ技まで編み出す始末だ(ちなみに彼はその技を『エナジーバースト』『パワーボム』と名づけた)。そんなこんなで、このファストキャストは『正光のみが使用できる特注品』として製造元が開発方針を変えた、という経緯を持ついわく付きの武器になった。

 アサルトアーマーのナーディラインと『直結させる』と表現しているが、別にコネクタのようなものをくっつけ合うわけではなく、ただ身に着けて近づけるだけで勝手に直結したことになる。腰のエナジーリアクターも同様に、ただ腰にくっつけるだけで良い。このコネクタフリーな点が、現代の電子装置とゴーストクォーツ製兵器を隔てるポイントとなるだろう。

 両手をファストキャストにねじ込んでぎゅっとコブシを握ると、両手に炎の流れを強く感じる。「オーケー、いいぜ」それから手のひらを開けた正光はそれに言い聞かせるようにつぶやき、またコブシを作った。



「きょ~ぅはなーんのーひッ? ふーっふう~ぅ」

 睦月のロッカー側から何やら気持ちの悪い歌声が聞こえる。まるでその歌声に誘われるように、正光はニタニタしながら寄って行った。「ようシン! 今日はどのファイターに乗っていくんだい?」彼が見たところ、睦月は目の前の机に置かれた数本のCSGカップリングストーンガンを持っては置いてを繰り返している。

「うーむ今回のミッションで何を持っていこうか迷ってんだ。定評のあるばら撒きマシンガン西木式ヴァルキリーアローマークツーか、手堅く責める西木式ストライクホーンか……」

 CSGとは実体弾を使用しないストームルーラー独自の銃器で、使用者のAOFを弾丸として発射する仕組みだ。西木式ヴァルキリーアローマークツー(SVAⅡ)とはサブマシン型のCSGで、彼の言う通りストームルーラーにはお馴染みのCSGと言える。西木式ストライクホーン(SSH)は全長七十センチ程のライフル型。単発ながら弾速に優れ、威力の高いアストラル弾を発射できる。

「マッキーに聞いてみよう。ヘイマッキー!」

 マッキーは兵器運用のプロフェッショナルなので、睦月は今回も彼に助言を受けることにした。

「そうだな。睦月はレイと同じく前衛で弾幕を張る役割を少なからず持っているから、SVAⅡがいいかもしれない。とは言え、確かに近距離で使うSSHの威力と命中率は魅力的だな。そいつの単発発射は狙撃にも使える。だがSVAⅡにADアッドオンランチャーを装備すれば似たようなことも可能だ。うーむしかし……そうだな。俺が君の立場なら、SVAⅡを選ぶだろうな? やはり前衛をするには弾幕が必要不可欠だ」

「なるほど……ちなみにマッキーは何を?」「俺は中衛のガンナーだからな。こいつ、ストライクホーンさ。SVAⅡを推薦するのも、弾幕のパターンが単調にならないためって意味もある」マッキーのかざしたSSHは中距離支援様のロングバレルに換装されており、先端部分にはアドソーブバイポッドがくっついていた。それはアクティベイトするとにょきっと棒が生えてきて、元よりの足場に吸着して銃を固定するという便利な銃座である。「なるほど確かに。分かりました、ありがとうございます」「いいとも。分からない事があればまた聞いてくれ」「ウス」

 助言を受けた睦月は、早速自分のSVAⅡにADランチャーを装備し始めて--「きょーぅはこーれのーひッ? ふーっふう~ぅ」莫迦らしい歌を口ずさみながら装備し終えると、正光が何気に言った。「いつでも上がれるようにしてあるぜ!」「オホーー! でれれれってってれー! ヘイアッサールツ! カバミー!--」そして正光の言葉に反応するように、SVAⅡの横についているコッキングレバーを手早くガジャンと動かし--「おおぉぉーーっ!」上へ向けたり横へ向けたりと、無駄に調子こいたポーズを何度も取る。「ひゃはははははァアアア!」正光にいたっては大爆笑である。ところで実弾を使用しないCSGのコッキングレバーの用途は、つがいカップリングストーンの雌結晶に雄結晶がぶつかる事でアストラル弾を発射する訳だが、連続使用するとつがい石が酸欠(この場合はアストラル弾形成が不安定になり出力が低下する状態)を起こすので、暇な時にでも手動で外気に晒して呼吸させてやる必要があり、その時の薬室開閉を行なうのがコッキングレバーなのだ。そのため、開きっぱなしにさせるスイッチも付いている。

 ADランチャーは弾薬が無くても発射が可能なACAで、銃身の下にくっつけて運用するのが一般的である。形状は直径三センチの筒で、今で言う所のM203グレネードランチャーみたいなものだ。筒には本体を取り巻くようにして、スライド式の握り易いデコボコのついたカバーがついている。それを一旦手前に下ろし、手を添えて三秒間ほどAOFをチャージしたのち、また筒に被さるよう上へ持ち上げる。それからADランチャー又はメインのトリガーを引くと、巨大なアストラル弾を発射するという仕組みだ。戻す動作はAOFを銃身で圧縮するためで、チャージすればするほど重たくなる。マックスまでチャージしても『重すぎて戻らない』といった状態にはならないが、あまりにも行き過ぎたチャージをすると圧縮の過程でぶっ壊れてしまう可能性があるため、規定では三秒とされている。飛び出した直径三センチのアストラル弾は貫通性が凄まじく、その割りに弾速も速いと文句なしの性能だ。アストラル弾を着弾時に爆発させたりもできるが、これはルーラーの技量と訓練が必要で、専業ガンナーなら話は別だが、睦月には難しいようだった。そのため、彼の場合榴弾化させる時は気合を入れて『ボンバァァァーーー!』とか、色々叫びながら発射しないと爆発しない。またADランチャーには専用の霊石英弾を装填することも可能で、こちらは媒介があるため容易に榴弾化することができる。AOFチャージのみよりも威力は高いので、睦月はそれを膝のポケットや腰ベルトに何個も収納した。形状は先端の丸まった直径三センチの円錐状をしている。

「そういえば正光はもう装備終わったのかい?」「おう。いつでも上がれるようになんとやら」「例のクソったれファストキャストの調整はどうよ」「そいつもバッチリだ。寝起きと寝る前に毎日(AOFを)通すクセつけたから、今は違和感無く使えるぜ」

 睦月の様子を見ると、後はアサルトアーマーのジャケットを着るだけといった感じだ。腰には正光とは違い、SUMGを装備している。それは『スレイブユニットモリエイトジェネレータ』と呼ばれるもので、SUスレイブユニットのデータを保存したゴーストクォーツを装填すると、使用者のAOFを消費することでSUを無限にアクティベートできる画期的な装備だ。厚さ四センチ、長さ二十センチ程の円盤状をしていて、手のひらを表面に乗せて操作できる。放出されたSUは自動的に攻撃を行なうが、初期設定として『最初にこう動け』といった簡単なパターンなら放出前に指示が出せる。また、ジェネレータを介してアクティベートしているため、SUを回収してその分使ったAOFを自分に還元、といった裏技はできない。

「今回は何をオフセットしたんだい」正光がSUMGを指差して聞く。「あぁー……まぁ俺も、悩んだんだけど。やっぱあれにしたわ。強化型のサイドワインダー。色々と検討したんだけど、やっぱ性能をブーストしてねぇとどうも場持ちが悪くてよ。それは俺の立ち回りが適当だからなんだが……とりあえずこれなら、ある程度放置してても意外に持ちこたえてくれる……はず」「ふむ。性能ブーストとなると数は三機か」「うむ。攪乱に使うんじゃなく、瞬間攻撃力重視で使う」「なるほど」「すぐ壊されちゃうけどねぇッ」「くふひゅ~」最後のセリフだけ、なぜか睦月は野太い声を出した。



 実は、なんと。エルベレスには女子更衣室が設けてある。元々男女共有のロッカールームだったが、地下施設を拡張改良した際に『せっかくだから』と、香奈子と瑞穂が提案したのだ。もっとも本当に着替えるだけの狭い部屋が与えられただけで、手っ取り早く装備関連をやっつけてしまいたい美咲やチャコは、いささか不便と感じているようだ。

「隊員の救助とかって。軍隊みたいにヘリとかを使えればいいのにね」

 着替えながら香奈子は、ロッカーが隣同士である瑞穂に話しかける。

「そうですねぇ。本当ならそれが一番早いのですが。空飛ぶ機械は便利ですけど、脆くてすぐに落とされちゃうんですよね。それにおっきぃから目立ちますし……置く場所とかも色々考えなきゃーいけません」そこで、瑞穂の隣にいる美咲が口を挟む。「それから燃料代とかの維持費、パイロット育成、機体の製造、調達……色々と掛かるわね」さらに、三人とは反対側のロッカーを使っているクレアも会話に混ざったのだが……なぜかゴスロリ風の衣装を身に纏っている。「でも、我々にはオーガという便利な、箱舟があるわ。行動範囲は限定、されてしまうの、だけれど、現代兵器にはできない、超高次元の運用が可能よ。だけど、今回の作戦では救助ポイントが、オーガのアクティベート不可能な、ソース濃度だから残念だけど、それは使えない。車両を使うしかないわ」「へぇ……」どうしてそんな服装をしているのだろう? 三人は目を丸くしながらそんな風に思った。ゴスロリ衣装は蝶をイメージしているのか、赤や黄色、エメラルドグリーンの色彩で彩られており、下地が真っ黒なので、それが一層冴えて見える。彼女は更に、つばが長いフリフリの帽子を斜めに被りながら言葉を続ける。「ヘリや空路を使った、運行は作戦以外で使われている。でもその数は、少ないでしょう。なぜなら、インビュードハンターの襲撃に、あう可能性があるから。地上なら幾らでも逃げられる、かもしれないけれど、足場のない上空では、AOFの消費も相まって回避行動が、限定されてしまうわ。それに、爆散した物資の、処理なども含め、何かとリスクが高い傾向が、あるの。だから、もっぱら、陸路か海路が、優先して選ばれている」「(オイそこのクソッたれアリストクラート(ブルジョワ野郎)。仕事ホッポリ出して舞踏会にでも行くつもりなのかよ)」

 美咲の隣はチャコのロッカーで、彼女は既にホーバークを着終わっていた。そしてアサルトアーマーのジャケットを取り出しながら、異常なほどにブレスの回数が多い流暢なゆっくり口調で喋るクレアを見ないで言う。言われたクレアは結構な間、くるっと回ったりなんかしちゃったりして自分の服装を何度も見回した。

「あら? そういえばこれは、違うわね」「(おめぇ気づくのに何十秒かかってんだよ莫迦タレが……)」「(チャコは着替えるのが速いわね。羨ましい)」「(うっせぇなクソ。誰かさんは着替えんのも喋んのもおっせーよなァ。ほんじゃあちきゃー行くぜ。あとは『あんたらに任せるわい』)」

 『あんたら』とは勿論チャコ側にいる三人のことで、クレアの相手を任せるということだろう。チャコはジャケットを片手で肩にかけながら更衣室を出て行った。三人はクレアに躊躇なくツッコミを入れられるチャコが心強いと思っていたのだったが、彼女は早々に出てしまったので、各自も身支度を無意識に急いでしまった。

 それから三人は足早に部屋を出て、中には一人クレアだけが残された。基本的に個人ロッカーは一つなのだが、三人と反対側のロッカーは全てクレアのもので、彼女の『私物(ほとんどが衣装)』で埋め尽くされている。

 彼女は小首を傾げるような仕草をして、耳を澄ます。誰の足音も部屋に向かってはいないようだ。チラリと横目を向けるが、扉は硬く閉ざされている。そうした一連の観察を済ませると、数あるロッカーのうち一つを開け、足元にある引き出しの中から小さな箱を取り出した。中には小さな注射器とアンプルが入っている。彼女は手馴れた手つきで左腕の静脈に注射器の針を刺しす。「はァァ……」すると、湿っぽい吐息がクレアの口から漏れた。アンプルの中身はモルヒネだった。



 それぞれの装備点検が終盤に指しかかろうとした頃、ロッカールームの扉をドンドンと容赦なく叩く音が響き渡った。

「開けろォォォーーーエロ本を売れええええええエエエエエエ!」

 そしてそんな叫び声も聞こえる……文字媒体だと最悪な台詞なのだが、実は少女の透き通った声である。その声を聞いた面々は苦笑するような表情をしたが、レイだけは本当につかれた様子でため息をついてしまった。仕方なく彼はドアを開く。

「エリー……なんだ起きちまったのか」

 レイの眼下にはピンク色をした長い髪の少女が立っていて、クマのぬいぐるみを背中合わせのようにして背負っている。青く綺麗な瞳を大きく開いたエリーは、ドアが開くやいなやレイに抱きついた。

「ねぇどうして! 私を置いてっちゃうの!」「お前はまだ『整備中』だ。前回しこたまやられたからな。ゴーストクォーツが実戦に耐えられる強度に戻ってない」「じゃあレイは何に乗るの? なに? まさかまたあの古臭い碧風に乗るんでしょう! あなたには私がいるのに!」「いや古臭いとか言うなよ……あれは俺の愛機だぞ--」「あっ!」

 話しの途中であったにも関わらず、遠くにいる正光のアサルトアーマーがエリーの視界に入ると、彼女は即座にレイから離れてそちらへササッと走り寄った。「ねぇねぇ正光! それどう? 私つけたんだよ!」そういって、彼の腕についているワッペンを指差す。

「おやぴんくちゃん。今日の髪はピンク色だねぇ」「あっ! これどう? かわいい?」「おぉ可愛いねぇ」正光はワッペンと関係ない話題を出すと、エリーはやはりそちらに飛びついた。彼はエリーの頭を撫でてやりながら言う。「えへへ~」エリーは顔を上げながらにっこりと笑った。

「あっ! ねぇ刃!」

 だが、またしても彼女は忙しそうに走り去っていった。次に向かったのは刃の元である。「レイに言ってよ! 私も連れて行ってって!」こんな風に気安く刃に話しかけられるのは、この部隊では彼女くらいなものであろう。もっとも、必死に懇願するエリーを前にしても、刃の態度はいつもと変わることはなかった。

「お前はまだ使い物にならん。お前自身、わかっているだろう」「『そんなの知らない』! レイを守れるのは私だけなんだもの!」「機能不全のお前を使い、レイが死んだらどうする」「『そんなことにはならない』! させないもの!」彼女の言葉に、彼はフンと笑う。

「ねぇねぇねぇってばー!」

 それからエリーはいろんな人にせがみ付いたのだが、誰も彼もが茶を濁すばかりの対応をするのが関の山といったところである。

 そうこうしているとまたドアが開き、慌てた様子の男が入ってきた。「エリー!」男は堀の深い顔にヒゲを蓄えたドイツ人で、歳の割りに老けて見えるが、ヒゲをそれば相当な色男であろう。「……あ、申し訳ない。部外者が入ってはいけないのだが--」彼はいきなり部屋へ飛び込んだせいで全員からの視線を浴びたため、たじろぎながら謝罪を述べた。

「ロジオン」レイは彼が駆けつけたことで、内心ホッとした。「ロジオンのバカ! なんでもっと早く起こしてくれなかったの! レイが私を置いていっちゃう!」エリーはレイの足元にしがみついてわめく。「エリーだめじゃないか。レイが困ってる」ロジオンが手を差し伸べようとすると、エリーはレイを盾にするように隠れた。「困ってなんか無い! ないよね? ねぇ?」そうしてレイの顔を寂しそうな表情で覗き込む。レイは黙っていた。しかし数秒後に彼の手が伸びてきて、彼女の頭を撫で、長い髪を優しく指でとかした。

「あぁ、困っていないよ」

 優しい口調でレイは言う。

「ほんとう? ほんとうに?」

「あぁ。もちろん--」そこで、レイはロジオンと目を合わせ、次にエリーを見て、またロジオンと目を合わせる。ロジオンにはそれがアイコンタクトである事がわかった。つまり『今のうちに』という合図だ。「あっ!」ロジオンはエリーが大人しくなっている隙にひょいと両脇を持って、彼女の足を地面から離すことに成功した。「あっあ! あぁぁーーっ!」捕まえられたエリーはジタバタしながら必死にもがく。「やーーだーー!」だがこうなってしまってはどうすることもできない。

「エリー。大丈夫だから……」

 ロジオンはクマのぬいぐるみの『腹』に手のひらを当てる。すると、エリーは緑色の綺麗な粒子となって消えてしまった。残ったのはぬいぐるみだけである。二人はふぅとため息をついた。

 それから二人は、拡張したラボ施設……ロジオンの研究所に移動した。

「とりあえずアクティベートできる状態までは修復した--」ロジオンは自分のデスクに座りながら話す。「そしたら『これ』だ」「とうとう、勝手にアクティベートするまでに到った、てことか……」レイは煙草に火をつけながら言う。それを見たロジオンも一服したくなり、同じく火をつけた。

「まったく。旧時代の遺産には驚かされるばかりだよ。僕はまだ、彼女に関する古代おにゃんぴぃ文字を半分も解読できていないのに」

 彼は考古学者であった。専攻はストームルーラーの隠された秘術、エルダーアーツが残されている『おにゃんぴぃ遺跡』関連である。もっとも彼には兵器転用できるエルダーアーツ自体に興味は無い。ただ純粋に、古い歴史を紐解いてゆくことにだけ情熱を向ける、生粋の歴史家であるのだ。

「エルベレスを見つけたときは嬉しかったな。興奮して夜に眠る事も惜しいくらいだったよ」

 ロジオンは笑いながら部屋を見回す。壁や机には不思議な文字の写る写真と手書きの紙がそこらじゅうに散りばめられていた。

「またその話か」呆れながらレイは言うと、壁に貼られた一枚の写真に目をやる。そこには、太陽のように満面の笑みを浮かべた金髪の少女、エリーの……エルベレスの姿が写っていた。

「今でこそAIE(アクティブインテリジェンスエレメンタル)なんて呼ばれてはいるけど、僕はE(エレメンタル)だけでいいと思うね」「Eだけでいいか」「ははは。日本語だとなんだかおかしいね。僕も言ってからそう思ったよ……でも、AIEとは、なんとも不思議な存在だ」「……そうだな」

 Active Intelligence Elemental。AIEとはストームルーラーの歴史において最先端の言葉である。噛み砕いて説明するならば、意志を持ったオーガと言えよう。普通のオーガにはイクイプター(装着者)の手に余る膨大な情報を処理するためのサポート役として、CEコントロールエレメントと呼ばれる人工知能が搭載される。CEは機体や周囲の情報を集めて分析し、イクイプターに分かりやすく伝える役割の他、イクイプターの挙動や癖を学習して、それに合った機体バランスへ調整していく役割を持つ。

 レイは胸のぽっけから、クリアブルーの細長い結晶を取り出して眺めた。長さ十センチ、直径四センチ程度のそれが、まさしくCEである。オーガは単体でもアクティベート可能だが、CEがあればどんな機体でも自分好みのカスタムへ換装可能なのだ。

「君のお姉さんのご配慮が無ければ、僕は今頃、MPSの地下研究施設に幽閉されていたかな」ロジオンが言う。レイはフゥーと紫煙を吐き出して「あいつの話はするな」と言った。それを見てロジオンは薄く笑う。

「いやいや、エリーを見ていると、思い出すなというのが無理だね。君もそうだろう?」「さぁ。どうかな」「ふむ。もはや手を伸ばしても届かない場所に行ってしまったな、彼女は。でもまだ手紙はたまに来るんだろう? 返事を書いてやったらどうなんだい。寂しがっていると思うけど」「さみしい? 寂しがるだって? ハッ! あのお高く留まった氷の女王が?」「そうさ。あぁいうタイプは弱さを見せられる相手が必要なのさ」「あぁだろうなだろうよ。クソったれ……」

 レイは若干イラついていたが、ロジオンが相手では頭が上がらない。彼は腹いせのようにして煙草をグリグリと灰皿に押し付けた。

「その様子だとまだ返事を書いていないな? レイ。はぐらかしてでもいいから、僕は返してやるべきだとおもうよ。兄弟じゃないか」「まぁそうなんだが--」

 その時だ。コンコンとドアをノックする音が響いた。

「レイ。時間です」

 それは美咲だった。しめたと思ったレイは背を伸ばし、小首を掲げて片手を腰に当てるポーズを取る。

「この通り。あいにく俺は忙しくてな。返事を書く暇もねえんだ。姉貴にゃーわりぃが」

 それを聞いてロジオンは視線をどこかへ向けて、下唇に軽く力を入れながら両肩を上下させる。

「おっと。『それなら仕方ない』。でも女をあまり待たせるんじゃないぞ」

「なぁに。今度返事を送るとき、大好きなロリポップの一つでも添えてやりゃいいさ--」

 レイはドアへ向かいつつ、歩きながら続けた。「嬉しくてグルグルを追っかけるあまり、目を回しちまうだろうよ。あーそれと、引き続きエルベレスの調整頼む」「わかった。今度は慎重にしないといけないな。レイを追って戦場まで飛んでいかれたら、僕としてはどうしようもない」「言えてる、しっかり見張っといてくれよ」「オーケー、がんばってみるよ」

PC特権!

こんかいのえんでぃんぐてぇま

http://www.youtube.com/watch?v=tW1-d22a3G0&feature=related

ガサラキED LOVE SONG



正光「どうなってんだこの小説……宣伝文句の戦闘シーンが一切なくて動き出せねぇ……」

わいにゃん「実はな正光。今日は俺の、誕生日なんだ」

「なんですって? 一体どうしてそんな話を……(ハッ! まさか作者は今回の言い訳をしようとしているのか)」

「だからよ…………一時間も二時間も三時間も。僕はずっと、むァってた!!」

「ジョン、何を!?」

「『合否判定』だろォォォーーー!! 俺は100円ケーキショップぱてぃすり☆みゅんみゅんにハローワークを介して面接をした! それは14日の話だ! 合否判定は1週間後にすると! 面接をしたおっさんは言っていた! 今日は何日だ? 25日! にじゅうごにち!! 携帯を毎日見ていたさ……いつでも取れるようご丁寧にも机の上に置いてなぁぁぁぁーーー。でもこねえんだ、鳴らねぇんだよぉぉぉぉ携帯がァァァーーーぴくりともおおおォォォーーー! 俺はもしかして、面接した奴がユーモアを聞かせて俺の誕生日に『採用』の電話をするのかとすら思っていた! 『だが違った』!! 『見当違いもいい程』に!! まったくの『無意味』! 今までの徒労は全て水の泡であったというのだ! 全くのお笑いだ、あぁ惨めなものさ。俺はまたプー太郎だ……バイト暮らし! 犬以下のくそったれフリーターだよ! 一体どんな顔を親に向けろというのか! ……誕生日が来て俺はもう27歳。時給は700円!!『ふざけてる』! そんな男に女が振り向くと思うか? いや振り向かないね! 年齢を考えてもみろ……収入を第一に考える時期じゃーないか……それが俺といったら……くそっ、クソッ! クソぉぉぉ……ッ!!」

「わ、わいにゃん……(コイツ、マジ泣きしてやがる……)」

「今はギフトの季節だから土曜日も出勤になっちまった……だから土曜日しかいけなかったハローワークも今年はいけねぇ……もちろん今までは仕事の終わりにすら行っていたさ……仕事が終わるのは5時10分。向こうに着くのは45分ちょいだ……それこそ見る時間もなかったさ……でもこれからは雪が降ってしまう! 『それ』すら、『それすらできなくなる』! 今年はもう終わりだ……俺は犬以下のクズのまま、2011年を締めくくるしかない……まったく無様だよ……そんな俺が、情けなくて……惨めで……チクショウ……ッ!」

「わいにゃん諦めんなよ! そもそもケーキSHOPに就職して『僕、スイーツ系(笑)男子になりました』なんていうネタをやろうとするのが間違ってる! そんなの間違ってるよ!! あとなんつーかもう『男子』って言葉が使える歳をブッチギリで超越してるじゃないか! 正直俺、そんなこと言ってるわいにゃんを見るのが辛いよ! スイーツ系(笑)的な意味で!」

「まさみつ……」

「それによ! 大体仕事なんてもんはゆっくり探すもんじゃねーか! 『友達と喧嘩別れして自分に非があったから改心を見せるために今年中に就職しようとしたから』、わいにゃん焦っちまってんだよ! こんな事いうのもなんだが、もっと楽観的に行こうぜ!」

「正光それは……俺は楽観的すぎたんだ、今まで……」

「それは知っている。でも『それがいけない』! 『その考え』! そこに『落とし穴』がある! 真面目になろう、真面目になろうとがんばってがんばって、『がんばりすぎている』! 『それが駄目』なんだよ! 俺から見るとわいにゃんはすっかりボロボロだ。それこそ路頭で雨に打たれる野良犬みてぇなもんさ! でもその犬は『悪い犬』じゃーない。『首輪』をしている! 『帰るべき家がある』! 頼れる仲間が、友達がいるじゃーないか! 今は帰り道が分からなくて、ちょっとウロウロしているだけさ……面接でドジッたのはしょうがない……でも仕方が無い! 考えるのは止めようぜ! もう過去のことじゃーないか。その事をゲーセンにでも行って、遊んで、それから周りの連中に喋ればいい。ウケでも狙って、ピエロを演じればいいのさ! 大丈夫。わいにゃんを悪く言う奴なんていないよ。きっとみんなはねぎらってくれるだろうさ。どうして? どうしてってわいにゃんは今までニートだったじゃないか! それが去年からバイトをして、700円でもしっかりと堅実に稼いでいる。もう1年経つな……それが今では、就職活動!! どうやったら『ねぎらわずにいられるだろうか』よ!! もっと自信持てよ! それによ。職活なんてそんなもんだぜ! 気にすんなよ!!」

「正光……まぁ自分で書いといてなんだが……クソ……ありがてぇ話だ、また泣いちまう……そういえばお前、こういうキャラだったんだよな……作中でうまく書いてやれなくてゴメンな……」

「しょうがねぇ。かまわねぇさ。まぁお礼を望むとするならば、作中で活躍させてくれよな」

「だな……いいだろうよ。雪が解けてハローワークにいけるようになるまでの間、俺はASミッションモードを書くよ。元気をくれたお前への恩返しだ!!」

「おひょー!!」



----物語の裏側にも、ドラマはある。


かくしてお話の続きは、雪が解ける頃に……

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