「不幸×幸運」
不穏な空気が漂う満月の夜、
何か不自然なことに気づき外に出てみる。
そこには「フフフ……」という笑い声、ふと後ろを見てみる。
そこに姿は……なかった。
「だれだッ!どこにいる!でてこい!」
「フフフ……そう急かさなくても、自分の死ぬまでの時間を早めるだけだというのに……」
戦闘態勢を取る、
「そこまで態勢を整えられたら仕方ない、朱音とか言ったかな?さぁ地獄の幕開けだ!」
効果音とともに現れる吸血鬼の姿、いざ尋常に勝負!
「アレレ?」の声とともに現れたのは真っ黒い画面、
一瞬、思考が止まる。そして気づいたころには遅かった。
「おいファイン、テメェ、何しやがったァ」
ボクの目に映ってるのは、真っ黒なテレビ、抜けたゲーム機のコード、そして顔色の悪いファイン。
「ゴメン、そんな大切なものだと知らなかったんだよ」
「『知らなかった』だと、そんなことで『ハイ、許します』て言うほど世の中甘くねェんだよォ」
ボクだって普通ならこんなにキレることはない。
というのも買った当日によくわからない人たちに襲われて、次の日に超が付くほど問題児しか受けない「地獄の拷問」を受けた次の日、ようやくの休日にやっとできたことだ。
まだそこまでならキレない。
その原因がコイツだってことも知っている。
だからと言ってまだまだキレるわけがない。
その休日に費やしたこの時間は9時間(朝8時から夕方5時まで)
だけどもキレるわけには……行くわけあるかぁぁぁ
貴重なこの休日を9時間も無駄にしたのに、結果これかよ。
しかもオートセーブじゃない上、時間短縮のために行ったセーブポイントでのセーブ、
それが仇となってしまった。
(許さない、絶対に許さない)
◆◇◆◇◆◇
黒い画面というのもさすがにアレなので、チャンネルを変えてみる。
≪最近この近辺で女子中高生の行方不明が発生……≫
時刻は午後6時をまわったばかり、最近物騒な世の中だな、なんて思いながら空腹に気付く。
大きくため息をつきながら財布を確認、「少ない小遣いで何が買えるだろう」とつぶやいてみる。
一応キッチンも確認したけど、カップ麺どころがおかしの類いのものすら見つからずスーパーに向かう。
もちろん外道は連れてかない。
※というのも罰として学習机の鍵がつけれるところにまさかのすっぽり入るというね。(少し驚いた)
◆◇◆◇◆◇
スーパーについて大安売りのものを探してみる。
こういうのは主婦の仕事だと思うのだが、母さんは父さんと海外出張、姉さんは大学の研究(何をしてるかまでは不明)に没頭して家に帰ってこない。
自分一人しか家にいないのはいいものの、家事全般を一人でこなすことが否めない。
というより普通は女性の仕事じゃ……そんなことを思い少し苦笑。
でもって、今日のごはんはカップ麺に決まった、さっさとレジに行って帰ろう。
あれ?あの子どっかで見たことあるような?
「あれ?もしかして赤星くん?」
その声の主は、藍奈愛生ちゃんじゃないか?
いつも通り前髪をピンでとめ、少し低めのツインテールで清楚な感じの女の子。
また才色兼備文武両道で、学年ではいつもトップ、学級では委員長を務めるほど、
そーいや小学3年の時からずっと委員長だったからみんなからは委員長で親しまれてるんだよね。
竜樹君が声をかけるのも分からなくもないよね。
そしてボクの好きな人。
って、心の中で何を言ってるんだボクは、
とりあえず何か言わなきゃ……
「そ、そーだけど、まさか委員長も買い物?」
「ま、まぁそんな感じ……」
少しの沈黙……なに話せばいいんだろう……
「あ、赤星くん、それって晩御飯?」
さすがに好きな人に晩御飯がカップラーメンと知られたくない。
「そんなわけないじゃないか、ア、アハハ、じ、時間がなかった時用に買っただけだよ」
「そうよね、さすがに毎日カップラーメンなわけないか」
「少しひどいよその言葉、ボクだって家で料理ぐらいはしてるんだから」
まさか、毎日のメニューを悟られるとは……女の人の勘って鋭くて怖すぎる……
「赤星くんって家一人だよね?」
「え、なんで知ってるの?」
「だって委員長だからみんなの家を把握してないと」
そんな横暴な、でも委員長に家を覚えてもらうなんてちょっと光栄かも、
「せっかくだから晩御飯一緒に食べない?どうせ私も家に帰っても一人だから………………ゴメンゴメン一人で先走っちゃって、い、いやだよね、家に私が来るなんて」
「そんなそんな、別にいいよ、むしろ歓迎したいぐらい。一人で料理ってのも大変だからね」
「え、ホントにいいの?じゃあ今日は何作るの?」
やばい、家に食材なかったんだっけ。
「あっ、あぁ、え~っと…………委員長が好きなものでいいよ」
「じゃあ、食材変えなきゃね、私が作りたいのは肉じゃがでいっか」
なんか燃え上ってる、まぁボクの小遣いを考えて買わなきゃね。
◆◇◆◇◆◇
胸の興奮を抑えながら家へ帰宅
「家ほんの少し散らかってるから気を付けてね」
「ううん、そんなことないよ」
買い物袋をキッチンに置きながら器具の用意
「包丁は危ないからボクが使おうか?」
「いいよ、気を遣わなくても。私が使うから。そんなことより赤星くんってお料理できたっけ?」
「失礼な、うちの家族は母さんとボクぐらいしか料理できないからね」
「へぇ~、まっ雑談はそのくらいにして料理に取り掛かりましょ」
「そーだね」
◆◇◆◇◆◇
時間の経過が過ぎるのが早く感じる(現在8時12分ぐらいかな)
委員長は言っただけのことはあり料理に苦戦することはなく見事に完成。
「「いっただっきまーす」」
二人で晩御飯の時間、自分が言うのもなんだけどこうしていると夫婦みたい。
少し委員長の顔を見てみると、目と目が合う。
照れ笑いしながら聞いてみる
「ど、どう?ボクらが作った肉じゃがは?」
「普通においしいよ、赤星君はどう?」
「ボ、ボクもおいしいよ」
よくよく考えると『ボクもおいしいよ』って日本語になってないよね。
「フフフ、『ボクもおいしいよ』って日本語になってないよ」
「あっ」
さすが学年トップクラス、すぐに気付かれた。すごく恥ずかしくって笑みがこぼれる。
そしたら、委員長のほうも笑ってくれた。なんかとってもうれしいな。
「「ごちそーさま」」
二人とも同じようなタイミングで食事が終わる。
ホントはテレビでも見て談笑したいんだけど、今の時間(9時前かな)はさすがにまずい。
とゆーわけで
「こんな時間だけど帰らなくて大丈夫?」
少し寂しげに言う。
「え、あ、うん、ホントはもうちょっと居たかったんだけど……」
少しうれしかったけど、
「さすがに9時前はまずいと思うよ、親が帰ってたら心配すると思うし」
「それもそうだね、でも夜道は暗いから…………一緒に帰ってくれないかな」
「ぜ、ぜんぜんいいよ、確かに最近物騒だからね」
危なかった、もう少しで『ぜひ、いやむしろ連れてってください』って言いそうだった。
帰りの途中、ボクらは学校のこと(ぐらいしかお題が思いつかなかったので)を話しながら帰る。
家に近づいたら委員長が言った、
「あ、あのさ、私のこと委員長じゃなくてさ…………な、名前で呼んでくれない」
少し間があく、
「お安い御用だよ、またね藍奈さん」
「え、はっ、うんバイバイ」
さぁ、帰宅の時間だ。さっきの幸せの時間とは裏腹にものすごく退屈な時間になる。
そーいやなんか忘れてるような気がするが、気のせいか。
確かテレビで大御所の人が「忘れることの大半は無駄な事」って言ってたような気がするしね。
この時は気付かなかった、この後にあんな事件が起こるなんて……