■異世界の勇者、こらえるため息
ユイカ視点
気がついたら、異世界でした。
は?
……って言いたい。
本気で頭大丈夫?って聞きたい。
だって私、今の今まで学校にいたんだよ?
特別ではない、日本の、本当に普通の高校だよ?
でも、異世界だと主張する彼らは嘘を言っているような感じではないし、というより日本人に見えないし。
日本語ではない言葉を話してるし、なぜか自分はその言葉がわかるし話せるし。
どう見たってこの場所は日本ではないし。だって島が浮いてる場所なんて、日本にはないでしょう?
だから、うん。ここは異世界なんだと思う。
「ここは貴女方の世界ではありません」
やたら長い金髪の少女が繰り返し教えてくれる。
……実は異世界という意味がよくわかってなかったりするんだけど……つまり地球ではないってことだよね?
そこまではとりあえずわかったから、私と同じように戸惑っている(であろう)クラスメートにそれを伝える。
彼は私と違って、異世界を主張する人たちの言葉がわからないらしい。
「…へ〜ぇ」
と、返答された。一応自分なりに、わかりやすく通訳してみたのだけれど……伝わったのかな?
異世界だというのを理解したのかはわからないけれど、自分がただ巻き込まれただけだというのは理解したらしく、かなり落ち込んでいた。
「高崎…大丈夫?」
私が巻き込んだわけではないけど、なんだか申し訳ない……。
…と、思っていたら、いきなり彼は、
「せめて従者ポジションを!!」
と叫んだ。
…………本当にわかってるのかな…?
従者ポジションって発想がどこからきたのか気になるけど…
なんだか高崎、遊園地か何かのアトラクションと勘違いしてない?
高崎の言葉を金髪少女に通訳すると、少し考えた後、
「まずは部屋を移動しましょう」
と言い、別の部屋へと案内される。
…石だけで出来てる部屋って初めて見たけど、どうやって崩れないようにしているのか不思議…。
「では、現段階でのお二人の力がどの程度なのかを調べさせていただきます」
そう言って金髪少女は細長いものを両手で差し出してきた。
「こちらの剣を使ってみてください。お相手はこの者がいたします」
金髪少女から示された男性は綺麗に頭を下げ挨拶をした。
…つまり剣を使ってこの男の人と試合をしろってこと?
(剣なんて使ったことないんだけど……)
とか思っていたけれど。
やってみたら意外に楽勝だった。
…楽勝すぎてつまらない。
なんて、口にしたら嫌味に聞こえるかもしれないことを思いながら、ギャラリーと化していた高崎に剣を渡す。
「うぉわっ!」
渡した途端、高崎が剣を落とした。
渡し方がいけなかったのかと思って謝ろうとしたら、どうも単に重くて落としただけのよう。
……重い?
私にはとても軽く感じたのだけれど……
そういえば私には勇者補正の力が働いて、普通の人より遥かに高い能力が与えられるとか言っていたかもしれない。勇者補正が何かよくわからないけれども。
…でも金髪少女も普通に持っていたような……?
「ごめん。高崎」
とりあえず謝っておいた。
ここでもまた落ち込んでしまった高崎は、またしても、よくわからない理論で発想する。
「あるんだろ?魔法」
……魔法?なんで落ち込んだ結果が魔法に繋がるの?
というか、この世界って魔法があるの?
「あります」
金髪少女に聞いたらあっさり肯定された。
……あるんだ。
金髪少女が今度取り出したのは小さな箱のようなものだった。
「これは魔力を測定するものです。魔力が多い程、強力な魔法が使えますし、寿命が長くなります」
金髪少女はあっさりと言う。
…なんで寿命が長くなるのかって突っ込んでもいいのかな…?
手をかざせと言うので、かざしてみる。
一瞬の後のホワイトアウト。
(目…目が痛い……)
高崎にも言ってやってもらったけど、目が正常に戻らなくてよく見えなかった。
後で周りの人を見回してみたら、なぜか同情の眼差しで高崎を見ていた。
……なんで?
その後、魔法の使い方や私がやるべき事などの情報を与えられた。
実践したわけではないのに、言葉で教えられただけで理解する自分に、
(ああ、これが勇者補正か…)
と、納得する。
それに対する驚きはなかった。むしろ、驚かなかったことに驚いた。
なんとなく理解した、というのではなく、確信を持って断言できる。
魔法が使えるだろう、ではなく、当然のように魔法は使える。
使ったこともないのに、事実としてそう思う。そう思うことが勇者補正。理解力の有り得ない程の上昇。
それは、とてもつまらないと思う。
基本的に私は、出来るか出来ないかわからないものに挑戦していくのが好き。
何の苦もなく片手間で出来てしまう状況は、非常に面白くない。
高崎はどう思ってるのかな?
言葉がわからないのなら、私よりも退屈しているかもしれない。
実際、夕食の時間までぼんやりしていたし。
豪華な食事を前にしたら元気になったみたいだけど。
ついでに食事をすれば魔力が増えるということを教えたら、やたら食べて撃沈した。
本人はいたって真面目なのだろうけど……その極端さに笑ってしまった。
よっぽど魔力が少ないことを気にしてたんだ…まぁあれだけ周りに同情されまくられていたら気にもなるか…。
自力では動けそうもなかった高崎を支えて部屋まで送ってから、自分に与えられた部屋へ行く。
ちなみに高崎はちっとも重く感じなかった。これも勇者補正らしい。
一応、か弱い乙女に分類される性別の自分としては、…けっこう落ち込んだ。
部屋の窓から外を眺める。
自分が知ってるものより大きな月が見えた。
(やっぱりここは地球じゃないんだな…)
わかっている事を、あえて思ってみる。
私は勇者で魔王を倒すのなんて楽勝で、それさえ済めば元いた場所と時間に戻れる。その際、こちらでの記憶は消えるので心配いらない。
……なんていきなり言われて納得する人なんていないと思う。理解は出来ても納得は出来ない。
そう、それこそ
「…へ〜ぇ」
としか言えない。
高崎もこんな気分だったのかな?
別に相手は押し付けてるつもりはないんだろう。
こちらのことを気遣かってくれていることはわかる。
…でもこちらの意見は聞かない。
否定されてるわけではないようだけど…
自分の存在なんてないかのように、置き去りにされたかのような気分。
きっと私が何もしなくても、ストーリーは当たり前のように進んでいくんだろう。
私はただそれを見てるだけ。
ラストの決まってる映画のように…誰かの夢を無理やり見せられてるかのように。
ストーリーに手を加えることは許されず、ただ眺めるだけ…
「…せめて、もう少し…」
楽しい夢ならよかったのに。




