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その選択に世界は歓喜する《6》

気がついたら何だかよくわからない場所にいた。


確かに自分はベッドに寝たはずなのに、ベッドは見当たらないし何故か立っているし…


ベッドどころか、月明かりで確認した家具や、そもそも部屋すらもなかった。


モヤがかかっているのか…視界を遮るものはないはずなのに、辺り一面確かな形として捉えられるものは何一つなかった。


自分が立っている場所も床なのかはっきりしない。


自分では立っているつもりなのだが、踏み締めている感触がない。浮遊感もないので浮いているわけでもなさそう。


「?????」


頭の中が?マークでいっぱいになる。


「はじめまして。ゼン」


いつの間にか目の前にいた人物が声をかけてくる。

そんなに遠くにいるわけじゃないのに、どうしてもその人物の顔がわからない。


見えてるはずなのに。


(…なんだろう…このあやふやな感じ…まるで夢の中にいるみたいな…)


…なんだ、そうか。これって夢なのか。と気づいたオレは挨拶を返す。


「はじめまして。…えーっと…?」


残念なことに相手の名前がわからない。夢の中なんだからわかっててもいいはずなのに…


「夢の中ではないよ。ここはキミの深層心裡。…まぁ同じようなものかもしれないけど」


顔は相変わらずわからないのに、相手が微笑ったことがわかる。


「現実世界では僕はキミに声を届けることが出来ないから、キミの精神にこうして繋げさせてもらった。本来ならこの接触もあってはならないものなのだけど…非常事態のため、仕方ないと判断させてもらったんだ」


んだ。と、言われても…

何が何やらわからないんだけど?


「キミにとっては夢でしかないかもしれない。けれど、これは現実のものとして考えて欲しい。僕が今から説明することは紛れも無い事実なのだと理解して欲しい」


「………わかった」


何を言われるのかよくわからなかったが、相手が真剣なのだということはわかった。


「結果から言うよ。ゼン、もうすぐキミは死ぬ」


…………………は?

何て言った今。いやいや怖いこと言うね初対面なのに。


「気づいているんだろう?自分がこの世界で長くは生きていけないかもしれないこと」


は?フツー気づかないだろ?そんな事。つーか、思わないって。

ただオレは、身体の調子がおかしいなって思ってただけで…

確かに寝る前は変なこと考えそうになったけど、具合が悪いときって誰でもネガティブ思考になるだろ?


「ゼン。この世界は理によって、魔力の量が寿命の長さと決められている。

けれど…キミは体がこの世界に適応できていないために、世界から供給される魔力を吸収し自分の物とすることが出来ないでいる。

…持っている魔力が少ないキミではそう長く生きられないんだ」


なんだろう…すごく怖いこと言われちゃってる気がするんですけど。

それを理解しろと?


「……なんで?」


ああ情けない。もっと大きな声出せよ。怒鳴れよ。喚けよ。それが本当に真実なのかと問い質せよ。

でも知ってる。ずっとこの世界はオレによそよそしかったこと。

まるでフルスクリーンの映画を観ているように…自分の回りに透明な壁があるかのように。


……ずっとこの世界は遠かった。


「…帰れるんだろ?」


オレはこの世界に歓迎されていないって、ずっと気づかないふりをしてた。だっていつかは帰るんだ。だったら今いるこの世界はオレにとっては夢でしかなくて、この世界に馴染めないことなんて当たり前だと思ってた。


「勇者召喚は最初から最後まで決められているんだ。異世界の住人を喚び必要な力を与え役割が済めば元の時間と場所に還す。これは理として定められ、誰にも介入することは出来ない。…キミが巻き込まれたのは不運だとしか言えない…」


…………それってつまり?


「帰れないって…ことか?」


「来るときに近くにいて巻き込まれたのなら、帰るときも近くにいればあるいは。…けれど、キミは多分その時まで生きることは出来ない」


とても辛そうに、目の前の人物が言う。

身内や親しい友人に告げるかのように。

その、最終宣告を。


ぐちゃぐちゃになってたオレの心は、それだけでスッと凪いだ。


「…そっか……」


不思議な感覚。絶対に今が初対面なのに、オレとは全然無関係の人のはずなのに、それなのに、オレのことを想ってくれている。オレの心を気遣ってくれている。

それがなんだか嬉しくて、もういいや、という気分になった。

死ぬのはイヤだけど(しかも異世界で)、でも人生の最後に、こうやって真剣にオレを気遣ってくれる人に出逢えたっていうのは、すごく幸せなことかもしれない。


「そっか〜。うん、わかった。教えてくれて有り難う」


「…ゼン」



目の前の人物が泣きそうな気配がしてオレは慌てる。


「いやっ…だってさ!……だって…誰のせいでもないだろ?仕方ないっていうかさ……まぁ落ち着いた気分になれただけマシかな〜とか思うし」


へらっと、相手に笑ってみせる。緊張感ないなって我ながら思うけど。

だって本当にいいやって思ったし、嬉しかったし、なんだか気分いいし。


「ゼン……。もし、キミさえよければ、この世界で生きる…という選択もできる」


「……は?」


「いや、だから、キミさえ望めばこの世界で生きていくことも出来…「早く言えよそういうこと!」…えっ……?…すまない」


死ぬ覚悟決めたとこだったのに!こいつ、突き落としてから引き上げるタイプだったのかっ


「キミがこの世界の住人になることを受け入れれば、世界もキミを受け入れる。当然魔力も受け入れることが出来るようになるから、この世界で生きていける。けれど…キミのいた世界でキミの生きた証は消滅する。誰の記憶にも痕跡は残らず、最初からなかったものとされる。それでも…」


相手の戸惑いの感情が伝わってくる。

こちらの世界を選んで欲しい。けれど選んでくれなかったらどうしよう。

そんなふうに思ってる。

目の前にいる人物は、間違いなくオレに生きててほしいと思ってる。


(うゎヤバい。めちゃくちゃ嬉しい)


生きることを、幸せであれることを、願ってくれる人がいる。それが、顔がニヤけるほどに嬉しい。


だから。


「オレはこの世界を選ぶ」


オレの言葉に、相手は驚いたようだ。

しばらく固まった後、とても嬉しそうに笑う。(見えないからそういう気がするだけだけど)


「有り難う、ゼン」


…その台詞はオレのほうだと思うけど?

まぁいいか。嬉しそうだし。オレも嬉しいし。


とか思ってたら、急に意識が遠くなる。

それでも、声は耳に届く。


「ゼン。世界はキミを歓迎するよ。加護と祝福を送ろう。キミの道行に幸降るように」


その言葉と同時に、体が暖かな気配に包まれたような気がした。





あ、名前…聞きそびれたな〜

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