遭遇?ミルミルと海の精霊石《5》
翌日。
結局叱られるだけ叱られたオレに残されたのは、あのタコ足に突き刺さっていた黒い物だけだった。
タコ?の魔物はミルミルという名前らしい。可愛いじゃないか。
普段は大人しいが、たまに襲ってくることがあるため、油断は出来ない相手らしいが…昨日のやつは、その黒いものを取ってほしかっただけらしい。
「で、これ何なの?」
釣竿は壊れてしまったので、リノのギルドカードに入っていた網を海に投げ込んで釣りごっこを楽しんでいる。
「海の精霊石だな。全体の色は黒だけど…中に緑が見えるだろ?」
言われて見ると、中心部に青っぽい緑色が透けて見える。
夜に見た海の星空の色だ。
「海の精霊石は周囲の海に加護を与えると言われている。それがあれば船の安全も上がるって話だ。
ま、多少はってことだけどな」
売れば金になる、と言われたが…いいのかな?
「つーか、お前も手伝えよ、ゼン。お前が網でやろーって言い出したんだぞ?」
見ると、リノが一人で網をあげようとしていた。
精霊石を見ていて気づかなかった。
「あ、ごめん。
…重かったんだな、この網」
海に落としたときには重いとは思わなかったのに。
「こんなに重いのはおかしいって。何か引っかけたんじゃないのか?」
リノと二人、唸りながら網をあげていたら、見兼ねた乗組員の人達があげるのを手伝ってくれた。ありがとうございます。
そしてあげられた網を見て全員絶句。
網の中には魚はもちろん、貝やらなんやらわからないものが沢山かかっていた。
…重いはずだ。
「…さすがラッキービッグと海の精霊石だぜ…」
引き攣った表情でリノが言い、回りの人達がそれに頷いた。
(え?そうなの?)
ビィを見ると器用に肩の上で眠っていた。
…いつの間に寝たんだ。
とりあえず、仕分けてみることにした。
魚や貝などの食べられそうなものは食堂に運ばれた。今夜の夕食は豪勢なものになるだろう。
他には、珊瑚?のようなものがあり、薬の素材になるらしいので、欲しい人に分けて、残りは後で売ることにする。
その他にも素材になるものがあったらしいのでそれも纏めておく。
残ったのは装飾品の数々。
海の中にあったので錆びたりしているものもあったが、売れるレベルだというのでこれも売ることにしよう。
「ナイフかな?」
装飾品の中に短刀のようなものがあったので手に取ってみる。錆びてるらしく鞘から抜けない。
「研ぎに出してみな。キレイにしてくれるぜ」
そう言われたので、それだけは別にしておく。
ナイフは何かと使えそうだしな。
「いきなり大金持ちになったな」
楽しそうにリノが言ってくる。
ん〜…嬉しいといえば嬉しいんだけど…
あんまりツキすぎても怖いな…
ビィはともかく、海の精霊石のほうは早めに手放そう。
「大漁だね〜」
言われて見ると、優しそうな外見の男の人がのんびりと歩いてきていた。
昨日オレが甲板にたたき付けられそうになったとき、魔法で助けてくれた人だ。若く見えるけど、けっこう年上らしい。
「やっぱり君は精霊に好かれているね」
「そうなんですか?」
「君がゲームに一人勝ちした夜も精霊たちがコインをいじっていたしね」
「…そうなんですか?」
聞くと、あの夜、オレの答えに合わせるように、精霊たちがコインをひっくり返していたらしい。
負けた人たちはそれに気づかずにムキになった結果、散財するはめになったようだ。
ズル勝ちしたってことか?
「そういえば、船長がその精霊石を欲しがっていたけど、ゆずってくれないかな?」
お。ちょうどいい。
「はい。どうぞ」
即座に出したオレに、リノは呆れた視線を送ってくる。
「…言ってみただけだったんだけど…まさか本当にもらえるとは思わなかったな」
こっちもか。
「別にいいですよ?元々オレのじゃないですし」
船に乗せてもらったし、助けてもらったし。
結局その日は夕方早いうちから豪勢な食事とお酒が出され、上機嫌な船長はかなり酔っ払っていた。
そして、ビィはあちこちから餌付けされて腹がやたらふくれていた。
で、結局、今日の収穫はいくらくらいになるんだろうか?