遭遇?ミルミルと海の精霊石《3》
積み荷を運び終えた船は、ようやく『サロク・ロクフ』へ向けて出港した。
そんな中オレはというと…
「おい!坊主!これを向こうへ持ってけ!」
「あれ取って来いっ!」
「今度はこっちだ!」
…こき使われ中です。
船に乗ったのはお昼前で、日が暮れるまでの約半日ずっと走りっぱなしだった。
タダ乗りだからしょうがないけどさ、明日は筋肉痛間違いなしだな。
「おつかれさん」
薄暗い中、他の乗組員たちと夕食を食べていると、オレを船に乗せてくれた人(船長さんだった)が声をかけてきた。
「今日は頑張ったみたいだな。明日もよろしく頼むぜ」
笑いながらの言葉の中に、からかいが交じっているような気がする…。
…もしかして、今日のってそんなに頑張らなくても良かった?
船長が去ると入れ代わりに、人懐こそうな男の人が近づいてきた。簡易的だけど鎧を身につけ帯剣している。年齢は20前後に見える。
冒険者かな?
「よ。お前、アレだろ?ユイ様のお気に入り」
ユイ?…あ、深沢のことか。
「別にお気に入りってわけじゃ…」
そうか。回りからはそんなふうに見られてたのか。
だから睨まれたのかな?
「ふーん?あ、俺はリノ。勇者様がどんなんか見たくてあの島に行ったんだ。
お前は?試験に参加してたっぽいけど」
勇者観光?
…どう突っ込めばいいのか…
「オレはゼン。参加っていうか…楽しそうだったからまぜてもらったんだ」
そう言ったら笑われた。勇者観光のほうがよっぽどおかしいと思うが。
「それにしても、今日のお前、頑張りすぎだぜ?」
リノから言われて、やっぱりと思う。どうも乗組員たちが面白がって仕事をさせてたらしい。リノはそれを見ながら笑ってたらしいが。
「教えてくれてもよかったのに…」
そう言って情けなくテーブルに突っ伏すと、リノは笑いながら謝ってくれた。
「悪い悪い。
ほら機嫌直せって。甲板でゲームやってるから俺らも混ざろうぜ」
リノがそう言うので甲板まで行くと、乗組員や乗客が一緒くたになって何やらやっていた。
近づいて、リノにやろうぜと言われたけど、ルールも知らないし、それにどうやらお金をかけているようだ。お金なんて持ってるはずない。
それを伝えたら、リノが気前よくお金を貸してくれた。…初対面の人にお金貸すなんて何考えてるんだろう?
ルールは、三枚のコインをカップに入れてテーブルにひっくり返すだけ。コインの表が何枚上を向いているか当てる簡単なゲームだ。
要は運試しゲームなのだが…
ラッキービッグ効果なのか、オレは全勝してかなりの金額を儲けてしまった。
(お〜オレってば金持ち〜。人のお金だけど)
おかげでこちらのお金について知ることが出来た。
・白貨
・金貨(50枚で白貨)
・銀貨(20枚で金貨)
・銅貨(10枚で銀貨)
・半銅貨(5枚で銅貨)
(白貨:500万ソル)
(金貨:10万ソル)
(銀貨:5000ソル)
(銅貨:500ソル)
(半銅貨:100ソル)
…と、まぁこんなかんじ。
白貨より上の硬貨もあるらしいのだが、一般には出回らないらしい。
「はい。お金返すね。ありがとう。すげー楽しかった!」
借りた分だけじゃなく、儲けた分すべて返したのでリノは驚いていた。
だって元々オレのお金じゃないし。ないはずのもので稼いでもな。
リノは呆れてたけど。
「じゃあお休み〜」
眠りこけてたビィを抱いて、船室に入る。
っていってもまだ夜になったばかりだから眠くはないんだけど。
明かりは節約のためにあまりつけないらしく、船室の中は薄暗い。作り付けの窓から差し込む月明かりを頼りに進む。
窓から外を覗き込むと、暗いはずの海に星のような光りが煌めいて見えた。
青みがかった緑の光り。その光りが、それこそ星のようにたくさん輝いている。
「うわ。すげー」
ビィや他の人たちを起こさないように声をひそめて呟く。
ここがオレの住む世界なんだな。
と、感動と共に、改めて思った。