遭遇?ミルミルと海の精霊石《2》
建物の入口まで見送ってくれたメイドさんと別れ、転移門までの一本道をてくてく歩く。
ビィは定位置と決めたのか、左肩で大人しくしている。
道の両脇は緑に囲まれ、朝の空気の残る景色に心がはずむ。
いよいよ新生活が始まるのだ。
ドキドキするのが当たり前!な気分で歩いていたら、白い壁の建物が見えてきた。
「…ここかな?」
きょろきょろしながらその建物に入ると、中には二人の女性がいて、「こんにちは」と素敵スマイルで挨拶してきた。
二人とも同じ服を着ているから、きっと受付の人たちなんだろう。
「こんにちは。あの、『サロク・ロクフ』に行きたいんですけど…」
「はい。『サロク・ロクフ』への転移は5万ソルになります」
………………なんだと?
ソルってお金か?お金がいるのか?
「島の方ですか?この島ではあまりお金は使用されませんのでご存知ないのかもですが…他の国ではお金がないと生活できないんですよ」
地元民と勘違いしたらしく、受付のお姉さんは親切にも説明してくれた。
そうか。ここは島なのか。
お金の流通がないくらいに田舎ってことだろうか。
自給自足の物々交換で生活してるってことなのか?
…もしそうなら、お兄さんに貰ったあれも換金出来ない。
(お金がいるなんて聞いてないんだけど…)
いや、ちゃんと聞かなかったオレが悪いんだけど…
お金はかからないんだと思い込んで話題を振らなかったのは失敗したな〜。
「あの…、船で行かれてはどうですか?お値段も転移門より安いですし…」
オレのあまりの落ち込みぶりに、お姉さんたちは同情して声をかけてくれる。
「交渉しだいではもっとお安くなるかもしれませんよ?」
お。交渉できんの?
「転移門は国の施設なので割り引きできず…申し訳ありません」
二人とも本当に申し訳ないという表情で頭を下げるのでオレは慌てる。
「えっいえ!気にしないでください!
教えてくれてありがとうございました。そっちに行ってみます!」
お姉さんたちに港のあるところを聞き、再び歩きだす。港までは一本道なので迷うこともないので、あっちこっちと景色を楽しみながら歩く。
転移門を過ぎたあたりから野が広がりはじめ、畑があちこちに見られた。
(何作ってあるんだろ?こっちの野菜とか、どんな形してんのかな〜)
と思っていたら、目の前から人がやってきた。
たくさんの野菜?が詰められた大きな籠を抱えたおばさんだ。
重たげもなく運ぶおばさんに、思わず尊敬の眼差しを送ってしまう。
「こんにちは」
笑顔で挨拶すると、おばさんは豪快にニカッと笑ってくれた。
「試験を受けに来た人かい?ここにいるってことは落ちちまったのかい。まぁ気を落とさずに頑張んな!」
訂正する間もないくらいの早口で言うと、おばさんは野菜の一つをオレにくれて去って行った。
…風のような人ってああいう人のことなのかもしれない。
貰った野菜?を一口かじってみる。見た目はピーマンぽいけど中身はしっかり詰まってた。
シャキッとしてて、みずみずしくておいしい。
生でも食べられるもののようだ。
「ビィ。食べるか?」
「グ」
早くくれとばかりの返事に笑いつつ、ビィを腕に抱き直す。さすがに肩の上で食べるのは危ないからやめてほしい。
ぶらぶらと歩き、ちらほら見える民家を横目にしながら進むと、大きな船が見えてきた。
「おぉ〜っ!船!」
回りで慌ただしく出港準備をしている人達。
申し訳ないけど、その中の一人を捕まえて訴えてみる。
「あの!『サロク・ロクフ』へ行きたいので船に乗せてください!」
交渉なんてどうやったらいいのかわからなかったので、直球で言ってみた。
「5千ソルだ!」
怒鳴り返された。ので、オレも大声で言ってみる。
「お金は持ってません!」
……呆れた視線で見られてしまった。
だって持ってないものはないのだ。
「…おい。いくらなんでもそりゃ無理だろ」
「…ですよねー」
笑ってごまかしたが…
困ったな〜
お互いにどうしたらいいのかわからず、気まずい雰囲気になっていたら、ごっつい体格のおじさんがやってきて笑って言った。
「いいぜっラッキービッグがいるんなら船旅も楽になるだろうしな」
おぉ。本当にラッキービッグは幸運を呼ぶんだな。
「本当ですか?ありがとうございます!」
「おう!魔物が出たら頼むぜ坊主!!」
と、背中を力いっぱい叩かれた。痛い。
ていうか…
(…魔物?出んの?)
いやいや。それは無理っしょ。