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■この世界を選んでくれた君へ出来ること

ラギ視点

『サロク・ロクフ』の新王。

ゼンからはお兄さんと呼ばれている。

――――――――――――




勇者召喚の儀。

それは理の中に組み込まれた誰も介入の出来ないもの。

失敗などあるはずがなかった。


しかし。


今回の召喚には予定外の存在まで一緒に召喚されてしまった。

何故、と理由を問うても誰も答える事など出来ない。

元の世界へ帰れるかどうかもわからない。

…彼には諦めてもらうしかないだろう。


「あら、なんて可哀相なコかしら。同情しちゃ〜う」


可愛い(と評判らしい)声で『リゥナ・リィナ』の王は感想を述べる。

だが言葉ほどには興味はない様子だ。そもそも彼女は魔王討伐にも興味は持っていない。


「軟弱そうな子よの。」


『ハイレ・ハイネ』の王が女性にしては低めの声で述べる。

別名『武の国』と言われるだけあって、その女王も強い者にしか興味を持たないようだ。


「我は勇者の指導で手一杯ゆえ、どちらかが彼の子の世話をしぃや」


魔王討伐へ赴く勇者を導くのは『ハイレ・ハイネ』の王の役割だ。今回の件に関しては私か、『リゥナ・リィナ』の王のどちらかが対応すべきだろう。


「えぇ〜?あたしが思うにぃ、あのコそんなに長くないと思うけど?」


自分は関わりたくないと言いたげな声。…つまり『リゥナ・リィナ』の王は私にやれと言いたいのだろう。


「…では私が…」


断る理由もなかったので、了承の意を送る。

それを合図に、その場に響いていた声が気配と共に途絶えた。



(……引き受けたはいいが…)


世話とは…何をすればいいのだろう。『リゥナ・リィナ』の王の言うとおり、彼に残された時間は長くない。


魔力測定のときの総量から、異世界の彼は、次の日の目覚めは難しいだろうと思われた。

魔力を補充している様子がないのだ。早晩、尽きるだろう。

魔力がなければこの世界では生きてはいけない。


……と思っていたのだが。


次の日の魔王討伐メンバー選考大会に元気に参加しているのは何故なのだろう…。


気になったので、後をつけてみると、なぜか他の参加者たちから追い掛けられていた。


誰かを潰せばその分、己が合格する確率が上がるとでも思っているのだろうか?

愚かしい。


彼を助けようと、魔法を使おうとしたのだが、追っ手の参加者たちは次々にトラップに引っ掛かっていく。


足元に隠されたロープに引っ掛かり高所まで吊り上げられたり、頭上から粘りのある液体が落ちてきて身動きできなくなったり、……なんだか今回のトラップは子供の悪戯のような内容だが、その分タチが悪い。


それにしても…先に通った彼にはトラップは作動しないのに、後から通った追っ手共にはしっかり反応するのは何故なのか。


(トラップ自体が相手を選んでる?…そんなまさか…)


術者が近くにいないのにそんな高度な魔法を使える者がいるわけ………

……勇者になら可能かもしれないが、それこそまさかだ。する意味がないだろう。


とにかく、私が手を出すこともなく、追っ手共は脱落した。



おそらく道がわからなくなったであろう彼に、話しかけて道を教えるべきか迷ってるうちに、彼は何故か鳥に遊ばれていた。


思わず笑ってしまった。


今大会用に用意されたラッキービッグの餌を、鳥にやろうとしていたらしいので、それは鳥の餌ではないことを伝える。


……言葉が通じないのはけっこう不便だ。


言葉が通じるように祝福の魔法をかけよう。彼も不便だと思っているかもしれない。

祝福の魔法は初めて使うから成功するか不安だが。

きっかけの二重がけをしてみよう。成功率が上がるかもしれない。

彼はいきなり口づけられたことに驚いていたようだが。

やはりやり方を間違えただろうか。

……成功したから良しとしよう。


やっと普通に話せるようになって、疑問に思っていたことを聞いてみた。

話を聞くかぎり、どうやら世界に祝福と加護を与えてもらったようだ。


そうか。加護を得たのか。


「それ、魔法ですか?」


彼のその言葉に驚いた。

そうか。彼は魔法についてもこの世界の常識も何もかも知らないのだ。


わかっていたはずなのに、それをきちんと理解してなかった自分に愕然とした。


不便だろうからと、自分の都合で解釈して同情して勝手に魔法をかけて勝手に自己満足して…相手のことを何も考えていなかった…なんて傲慢さだろう。

己が恥ずかしい。


ごまかすように魔石を渡す。かなり高密度の魔石だからいい値段で売れるだろう。

お金で解決したようで後味が悪い気がするが…


ついでに自国へ誘導してみる。そのほうがいろいろ融通をきかせやすいだろうから。


しかし、遠回しだが、私が『サロク・ロクフ』の王だと言ったのに、彼は私の祖国がそうなのだと受けとったようだ。


…間違いではないのだが。


しかも私のことを、心の中で「お兄さん」と呼んでいたらしい。

名乗っていないので名前を呼ばれないのは別に気にしないが…

まさかそんなふうに呼ばれるとは。おもしろすぎる。



弟がいたら、こんなかんじなのだろうか。

楽しい。と思う。

彼はそんなふうには思っていないだろうが…


そうだな、弟ができたつもりで接してみよう。

世話と言われても何をすればいいかわからないしな。


「今日、私と会ったことは誰にも言わないで欲しい」


あんまり手を出しすぎてもあの二人の王は何か言ってきそうだ。

他の者たちにも下手に騒がれてしまいたくない。

王と面識があることが、良い方向の事柄に繋がるとも思えない。


「秘密ですねっわかりました!」


清々しい程の笑顔で彼、ゼンが答える。

素直な子だ。



兄のように。見守ろうと思える。

せめてこの世界に慣れるまで。



この世界を選んだことを、後悔することのないように。

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