掴め!?幸運のラッキービッグ《5》
と、いうことで。
魔法の使い方をお兄さんに習うことになった。
なにからなにまでお世話になります。多分お兄さんには一生頭が上がらないと思います!
「まずは…そうだな…魔力の総量から説明したほうがいいか…」
そう言って、お兄さんはベルトの小物入れから陶器(だと思われる)のコップをとりだした。
「魔力の最大容量というのは生まれたときからだいたい決まっている。例えば、このコップが人一人分の最大容量だとすると…」
言いながらお兄さんはコップのフチぎりぎりまで水を入れる。
(…どこからその水を出したのかとか突っ込んだらダメかな…)
おそらくそれも魔法なのだろうが…
「このコップ一杯分が魔力の最大総量になる。
魔法によって魔力の消費量は変わるが、使えば使うほど減ってしまうから補充をしなければいけない。
だがどんなに頑張っても、魔力の最大総量はコップ一杯分にしかならないゆえに、それ以上の魔力を消費する魔法は使うことが出来ない。」
説明しながら、コップに入った水を減らしたり増やしたりするお兄さん。
…さっきからお兄さんは魔法を使っているが…大丈夫なのだろうか…
説明を聴くかぎり、使えば使うほど魔力は減るから補充しないとヤバいという意味に聞こえるんだけど。
「補充ってどうやるんですか?」
「食事や睡眠…あとは日光浴とかだな」
あぁ、深沢が言ってたのはやっぱり魔力を増やす方法じゃなくて回復する方法だったんだな。
…しかし、日光浴?
「こうやって自然に囲まれた場所にいるだけでも魔力は補充される」
へ〜…そうなんだ。
だからお兄さんは平気そうにしてるんだな。
「魔力の最大容量は一生変わることはない。…が、まれにそれを増やせる者がいる」
増やす?
増やせるのか?
それは是非とも聴きたい!
オレの魔力は少ないからな〜
もう少しあったほうが魔法も使いやすいと思うし…
「オレっ!オレも増やせますか?」
勢いよく聞くオレに、お兄さんは苦笑して頷く。
「ああ。君は世界から加護を受けている。やり方次第で増やすことが可能だ」
「どうやって増やすんですか?」
「………さあ?」
…は?
今、お兄さん、さあ?って言った?
「増やし方は人によって違うようだ。いろいろ試してみるといい」
えぇ〜
マジかよ……
「で、肝心の魔法の使い方だが…
基本的に魔法を使うのに必要なものは、『魔力』と『想像力』と『きっかけ』だ」
魔力と想像力まではわかるけど…
きっかけって何だろう?
「例えば…」
と言いながら、お兄さんはコップを示す。
「この水を増やそうと思ったら、
水が増えることを想像して、『増えろ』と言う」
「きっかけって…呪文ってことですか?」
「…呪文のほうがわかりやすいということだ」
お兄さんが言うには、呪文でなくても、何かに触ったり手を叩いたり…とにかく自分が『魔法が発動するきっかけ』だと認識できるものであれば何でもいいらしい。
やってみろとばかりに、お兄さんがコップを差し出してきたので受け取る。
「…『増えろ』」
想像して呪文を口にしたとたん、大量の水が頭上から落ちてきた。
ザバァって。マジでザバァっって!
おかげで自分だけじゃなく、膝で丸まってたビィと隣にいたお兄さんもずぶ濡れになってしまった。
……なんで?
「ググゥっ」
ビィが不満そうに鳴く。
「…ごめん」
マジでごめん。
落ち込んでいたら、お兄さんが魔法をかけてくれたらしく、きれいに服もまわりも乾いていた。
「さすが世界に祝福を受けし者だな。精霊たちが君の期待に応えようと張り切りすぎたようだ」
……この世界、精霊がいるの?
それは見てみたいな〜…
…なんて、現実逃避してみたり。
「……すみません」
オレが謝ると、お兄さんは気にしていないかのように笑んだ。
「最初から上手くできるとは限らない。…が、しかし。君の今現在の魔力総量がどのくらいかわからないうちは、あまり魔法は使わないほうがいいだろう。
…少しずつ慣らしていけばいい」
うぅ…お兄さんの優しさが目に染みる…
「…そろそろ時間だ。戻ろう」
え?!もうそんな時間?
じゃあ寂しいけど、ビィとはここでお別れだな。
そう思ってビィを帰そうとするのを、お兄さんが不思議そうに見ていた。
「連れていかないのか?」
いやいや。連れていってどうするんですか。
「自分のこともちゃんとやれるかわかんないですし…連れていくのはちょっと……」
と、言葉を濁したら、お兄さんは少し考えた後、はっきりと聞いてきた。
「お金の問題か?」
…それもあるけど…
野生の動物が懐いたからって連れていくって発想もどうかと……
「…これを」
と言ってお兄さんは例の小物入れから宝石っぽい物を取り出して渡して来る。
思わず受けとったけど…
どうしろと?
「ギルドに持っていけば換金してくれる」
「え!?」
「それなりの金額になるはずだ。当座の生活費にすればいい」
ええ?!いいのかな?
そりゃオレとしては助かるけど…
オレの戸惑いを感じたからか、お兄さんは条件をつけてきた。
「ただし。そのラッキービッグを連れていくこと。換金して得たお金は『サロク・ロクフ』国内でのみ使うこと」
ビィの正式名はラッキービッグだったのか。…じゃなくて。
サロク・ロクフってどこ?
「サロク・ロクフは私の国だ。三国のうち一番治安が悪いところなのだが…」
言いにくそうにするお兄さんを遮って聞いてみる。
「オレが生活していくのは難しい所なんですか?」
「…いや。余程運が悪くないかぎり、普通に生活することに問題はない」
ふ〜ん?
なら、その国にまず行ってみるかな?
「じゃあ、その国に行ってみようと思います。お兄さんの国がどんなところか見てもみたいですし」
とオレが言ったとたん、お兄さんは動きを止めた。
ん?また変なこと言ったかな?
「………お兄さん?」
お兄さんがぎこちなく聞き返してくる。
…あ、しまった。口がすべった。
まずいな〜怒られるかな?と思っていたら、お兄さんは笑って許してくれた。
「そんなふうに呼ばれたことはないから新鮮だ」
と言ってくれた。
名前で呼ばれなくてもいいなんて…変わった人だ。
でもいい人だ。
「あ、オレはゼンです!…挨拶が遅くなってすみませんっ」
今ごろ挨拶するとかバカだろオレ…
よし!
最初の行き先はサロク・ロクフで決定だな!
どんな所なのかな?ワクワクしてきたっ