掴め!?幸運のラッキービッグ《3》
迷子の鉄則は、迷ったと気づいた時点でその場を動かないこと。
……なんだけど。
(どっちみち既に迷っているなら、さらに動き回っても一緒だよな?)
そう思い、明るそうな方向へ歩きだす。
少ししたら開けた場所に出た。小さな花が咲き乱れる花園のような場所だ。
見上げると鳥の群れがゆっくり飛んでいるのが見えたので、オレは餌を取り出す。朝、大会に参加する前にメイドさんに頼んで分けてもらったのだ。
ジェスチャーだけでわかってくれたメイドさんは素晴らしい!
「お〜い。朝はゴメンなー?餌もらってきたぞー」
空に向かって声を上げると、それが聞こえたのか鳥たちが降下してきた。
「ぎゃーーーっっ」
朝と同じく、勢いをつけてたかられたので花畑に倒れ込んでしまう。
(あ〜ぁ…キレイだから踏まないように気をつけてたのに…)
そんなことお構いなしな鳥の大群にたかられていると、少し離れた場所から小さく笑う声が聞こえた。
それを聴いたからか、鳥たちは慌てて空へ帰っていく。
(つ、疲れた…)
主に精神的に。
餌が回りに散らばっているのを見て更にげんなりする。…餌を食べずに散らかして、なにがしたかったのかあの鳥たちは…。
「ーーーーーーー」
何かを語りかける声の方向に、仰向けに倒れ込んだまま目線を向けると、やたら整った顔立ちの男の人がいた。
(異世界トリップのパターンで言うと、ここで登場するのは王族なんだけど?)
…なんて、バカなことを考えてしまった。
だいたい勇者は深沢でオレはただのおまけなんだからそんなパターンにははまらないだろう。
…とはいえ。貴族的というか…上流階級の人間であるような印象を受ける。(こちらの世界の身分制度がどんなものかがわからないが。)
やたら姿勢が良く、服はシンプルだが品がいい。
ちょっと痩せているが、騎士というのはこんなかんじなのかもしれない。
遠くて眼の色はわからないが、長く伸ばされ背中で括られた髪は自分と同じ黒色だ。
その男の人は、何かを言いながら、空を指したりオレを指したりする。
(…いや、オレを指してるんじゃなくて?餌、か?)
餌を指して空を指して首を振る。
(あっ!わかった!これ、鳥の餌じゃないんだ!)
…………じゃあ、何の餌なんだ?
メイドさんに通じたと思ったのは勘違いだったのか…。がっくりだ。
オレが理解したことに気づいたらしく、その男の人(言いにくいな…仮にお兄さんと呼ぼう)はオレの向こう側を指差す。
そこには小さな白い兎(のような動物)がいて、こちらを伺っていた。
(兎っぽいけど…兎よりしっぽが長いな〜)
なんて思いつつ。お兄さんを振り返ると、またしてもお兄さんは餌を指差す。
(…これを食べさせろってことかな?)
そう思い、クッキーのような餌をひとつ取って兎の意識を引き寄せようと寝転がったまま腕だけを振る。(さすがに立ち上がったら逃げられるだろうから。)
意識が餌に行ったのを確認してから餌を放る。それは兎の少し手前でぽとりと落ちた。
慎重に慎重ににじり寄って、オレが動かないのを確かめてから餌にかぶりつく。
(か、可愛いすぎる!)
あまりの可愛いさににまにまするオレに、早くも食べ終わった兎は次を催促するようにじっと見つめる。
何度か同じことをしつつ距離を短くして、とうとう兎は手の届く位置まで近づいてきた。
試しに餌を持ったままの手を兎に近づけると、兎はそのまま餌ごと抱き着いて食べた。どうやらオレに慣れたらしい。
可愛いすぎるやつめ。
オレが何もしないのに気づいたからか、腹の上に飛び乗って、そこにこぼれていた餌を食べはじめる。
そのときになって初めて、お兄さんはオレに近づいてきた。
兎を驚かさないようにじっと待っててくれたらしい。
いい人だ。
「ーーーーー」
すぐ側まで来たお兄さんは何かを言いながらひざまづいた。
近くで見るお兄さんの顔はやはり美形だ。
瞳の色は深い青。切れ長で全体的に冷たい印象を受ける。
「ーーーーービッグ」
お兄さんが兎を指差しながら言った。
(ビッグ?)
何度聞き返してもお兄さんは兎のことをビッグと言う。
名前だろうか…?
いや、しかし。
(こんなに小さいのにビッグだなんてっ)
多分というか絶対こちらではその意味じゃないのだろうけど。ついそう思ってしまう。
「よし!お前の名前はビィな!」
略しただけだが。自分的にはビッグよりは違和感がなくて可愛いと思う。
兎は自分のことを言われたのを理解したのか、「グゥ」と鳴いた。
なんだその鳴き声。可愛いすぎるだろ。
お兄さんも可愛いと思ってくれたのか、何かを言ってふわりと笑った。
冷たい人かと思ったけど、笑うと柔らかい印象で優しそうだ。
(美形はどんな表情でも様になるってホントなんだな〜)
なんて思ってたら、お兄さんが長々と何かを言う。視線が合わないのでオレに言ってるわけではなさそうだが…
(もしかしてこれ呪文?何か魔法を使おうとしてる?…でも深沢が魔法を使ったときには何も呪文らしきものはなかったけど……)
少し不安になりながらお兄さんを見ていると、呪文を言い終えたお兄さんがそれに気づき、安心させるかのように小さく微笑んでくれた。
(静かに笑う人だな〜)
その笑顔が近づく。
何をするのかと不思議に思い、何気なく眺めていると……
でこチューをされてしまいました。
……………は?なんで?
……………
…何か魔法を使われるのかと思ってちょっとビビった自分を叱り付けたい気分だな。