表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集

『幸福アプリ』一話完結

掲載日:2026/04/11


スマホに通知が届いた。


『幸福アプリが公開されました』


国主導の新サービスだと、朝からニュースでも騒いでいた。


インストールは任意。登録も自由。

だが、導入すれば生活の最適化と幸福度の向上が見込めるらしい。


「またこういうのか」


画面を閉じる。

興味はなかった。

――――

数日後、会社の空気が少し変わった。


「最近どう?幸福度上がった?」

「俺、今78%。結構いい感じ」


そんな会話が普通に交わされている。


「それ、ほんとに分かるのか?」


思わず聞くと、同僚は笑った。


「ノリンが出してくれるんだよ。提案通り動くだけで、ちゃんと上がる」


画面を見せられる。

そこには「本日の幸福度:78%」と表示されていた。


……便利そうではある。

――――


アプリは急速に広がった。


SNSでは「幸福度の上げ方」が拡散され、

動画では“効率のいい行動”がランキング化されている。


・朝の挨拶で+5%

・カフェでの会話で+8%

・笑顔の維持で+12%


そんな数字が並んでいた。


「やらない理由ある?」


別の同僚が言う。

確かに、損はしないように見える。

でも、まだインストールはしていなかった。

――――

ある日、違和感に気づく。


フロア全体が、同じタイミングで挨拶をしていた。

同じような声量で、同じような笑顔で。


「おはようございます」


揃いすぎている。

偶然にしては、出来すぎていた。

――――


昼休み。

同僚たちは楽しそうに話している。

笑っているし、会話も途切れない。

でも、どこか軽い。


「それ、ノリンの提案?」

「うん。会話が弾む話題ってやつ」

やっぱりか、と思う。


正しい。効率的。

でも、それだけだった。

――――

帰り道。

駅前では、アプリの広告が流れていた。


『あなたに最適な幸福を』


人々は足を止め、画面を見る。

そして、ほとんどがその場でインストールしていく。

迷いがない。

――――


数週間後。

周りは、ほとんど全員が使っていた。

誰も怒らない。

誰も悩まない。

トラブルも減ったらしい。

社会は、少しだけ良くなっていた。


「最近どう?」


聞かれる。


「普通かな」


そう答えると、少しだけ間が空いた。


「まだ入れてないんだっけ?」


頷く。


「そっか」


それだけだった。

でも、その一瞬で

距離ができた気がした。

――――


気づけば、会話は減っていた。

誘いも来ない。

仕事は問題なく進むが、それだけだ。

困ってはいない。

ただ、少しだけ静かだった。

――――


夜。

スマホが震える。


『幸福アプリをおすすめします』


しばらく画面を見つめる。

周りは、満たされているように見える。

迷いも、不満もなさそうだった。

正しい気がした。


でも――


本当にそうなのかは、分からない。

画面に指を乗せる。

このままでもいい気がした。

でも、何かが違う気もした。

少しだけ考える。

その間にも、通知は消えずに残っている。


『あなたに最適な選択です』


――現在のあなたの幸福度は、推定58%です。


指は、まだ動いていない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ