1.勇者と幼馴染み
魔法の世界。それは人類に恩恵をもたらし、そして同時に絶望をもたらした。
魔王の誕生によって人類は混沌の時代を生きた。
魔物や悪魔と戦う日々、痩せ細る土地や人、魔王を倒そうと冒険に出た若者が死ぬ日々に人類は疲弊していき、未来を諦めようとしていた時、一筋の光が天より落ちた。神殿の『神子』が神々からの天啓を受けたのだ。
神子は南西のカタクリ村に魔王を討ち滅ぼし『勇者』が居ることを告げ、人類に光が訪れた瞬間だった。
カタクリ村に神子と国々からの使者が集まり、一目で勇者を見つけたのだ。勇者、もとい『アンドレイオス』という青年は不思議なオーラを漂わせており強い力を感じるのだ。。神子はアンドレイオスに近付き跪き、勇者となるよう言い、アンドレイオスはそれが自分の使命ならばと了承し、村を出て魔王討伐の冒険に出る事となった。
魔王討伐の冒険はかなりの年数を要した。18年もの間、魔王討伐の為に勇者は魔王軍と戦い続け、途中で魔王によって拐われてしまった姫様を救い、冒険の中で姫様との間に恋を育みながら、遂に魔王を討伐したのだ。
平和が訪れたこの世界には勇者の偉業が未来永劫、語り継がれるであろう。
そして勇者と姫様の恋物語も。
「ハッ…バカみたい…」
新聞を閉じながら涙を拭い、私は思い出す。17歳でまだ若かった頃のあの日のことを。
◆
あの日は村にお偉い様が来ているからと部屋から出してもらえなかった。私は暗い部屋の窓から入る控えめな光を頼りに本を読んでいた。
読書に集中していると外が明らかに騒がしくなっており、気になって窓から外を見てみるとそこには綺麗な神殿服に身を包んでいる女性らしき人が唯一の私の幼馴染みであるアンドレイオスの手を両手で包み込んでいる場面だった。
私は動揺し、手から本を落としてしまうが慌てて拾い上げて、もう一度見てみるが状況は変わらず、私の動揺は更に大きくなっており、気が動転して私はアンドレイオスの名前を叫ぶように呼びながら窓から飛び降りた。
アンドレイオスは後ろ斜め上を見て、驚きの表情を見せるがすぐに顔面蒼白なままこちらに駆け出して、私が地面に着く直前に抱き留める。
アンドレイオスは怒り心頭な顔で私を見る。
「何してるんだ!窓から飛び降りるなんて死ぬ気かバカ!」
私はバカと言われたことに言い返す。
「バカって何よ!?」
「馬鹿にバカと言って何が悪いんですか?」
「クッ…」
何も言い返す言葉が見つからず、私はアンドレイオスに降ろされるとアンドレイオスは溜め息を吐いてこちらをジッと見る。
目を合わせながら首を傾げるとアンドレイオスは私の左手の薬指を持ち上げると懐から何かを取り出し薬指に着ける。
目を見開き、アンドレイオスを見れば気持ちがそわそわとするような温かくなるような気分になる笑顔を向けてきた。
「…えっと?」
「これを持っていてください、必ず、木材でできた指輪ではなくもっと綺麗な貴方に似合う指輪を探し出して貴方にまたプロポーズします。だから、それを持って、待っていてくださいね?」
私は頭の処理が追い付かず目が彼方此方に動くが、やっと処理が追い付くと今度は混乱に直面し、考えるがアンドレイオスは考える猶予を与えてくれなかった。
「返事は?」
「いゃ、あの〜その〜…」
「返事」
顔を林檎のように赤く染め上げながら小さな返事を返した。
「…は…い」
「よろしい、では行ってきます」
「………ご武運を祈っております」
アンドレイオスは私がお辞儀をしたのを見た後、踵を返して村を出て行った。神子やお偉い様達と共に。
その日の夜、やっと理解ができた私は大喜びで部屋の中を駆け回った。
「うそ!?本当に!?アンドレイオスに、レイにプロポーズされた!」
それからの日々はほんとうに幸せに満ち溢れていた。何をするにもレイのことを考えながら安全に無事に早く帰って来ることを女神像に祈りながら私は過ごしていた。
そんな日々はある時の一枚の新聞から地獄の日々へと変貌していった。
姫様が拐われて、レイが、勇者様が救い出したとの一報が新聞に大きく見出しで書かれていた。そのことに何かを思うことはなかったがとある一文が気になった。
《姫様と勇者様は一目でお互いに恋に落ちたようだ》
その一文に浅黒い気持ちを抱いたものの記者の勘違いかもしれないと気持ちを無視した。
だが、あれから勇者様と姫様の恋は新聞の見出しを飾れば飾るほど、人々の注目を集めた。そして私の注目も集めた。
私は勇者様と姫様の恋物語を見る度に気持ち悪い感情に襲われた。
勇者様と姫様に嫌悪しながら、このような醜い感情を持つ自身にも嫌悪し、それでもレイがくれた指輪を抱き締めながら祈りを捧げ、無事を祈ることしかできないが18年もの間、レイを信じて過ごして来た。
◆
18年もの間、私は待った。レイの言葉だけを信じて。
だけど、今日は姫様の結婚式だと新聞に載っていた。レイは、勇者様は幼馴染みの私ではなく姫様を選んだのだ。私はもう今年で27歳、立派な行き遅れだ。
ならば、私は旅に出ることにする。




