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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

実録! かちかち山

作者: 理乃碧王

 坊や良い子だネンネしなッ!


 これは古代(むかーし)古代(むかし)古代(むかし)話ッ!

 あるところに気のいいジジイとババアがいたそうなッ!

 二人は農作業にて生計を立て、仲睦まじく暮らしていたがッ!!


「ウヒャヒャヒャッ! 畑を荒らすのは最高のストレス解消法だぜェ!」


 ある日のこと、山に住むイタズラたぬきはジジイとババアの畑を荒らし倒した。

 このたぬきは人間の畑を荒らすことを趣味とする、悪名高い超A級の害獣であった。


「このクソだぬきがアアア!」


 ジジイは無論のこと激怒、上着を脱ぎ捨てた。


「な、なんだ……このジジイは!?」


 その体は日頃の農作業で鍛えられ、およそ老人とは思えぬ鋼の肉体をしている。


「ふんッ!」

「ゲバァ!」


 ジジイは鉄槍の如き前蹴りをたぬきの腹部にぶち込んだ。

 たぬきは血と嘔吐物を吐き散らかしながらダウン。そのまま意識を失った。


★★★


 たぬきを捕えたジジイは早速帰宅。

 ババアの前にたぬきを投げ渡すとこう言った。


「ハニー! いつも畑を荒らす害獣はこいつだ!」

「まあまあ、可愛いたぬきさんだこと」


 天然萌えキャラのババア、呑気でお花畑な言葉にジジイは警告する。


「可愛い? 冗談を言うんじゃあないぞ。おれァ生まれついてからずっと御伽噺(ファンタジー)で生き、色んなたぬきを見て来た。だから悪いたぬきといいたぬきの区別は『におい』で分かる!」


 ジジイは傍にある薪を蹴り飛ばした!


「こいつはくせえッー! ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッ――ッ!!」


 続いて、ジジイはビシッとたぬきを指差す!


「こんな(ワル)には出会ったことがねえほどなァ――ッ! 環境で悪戯者になっただと? ちがうねッ!! こいつは生まれついての(ワル)だッ! ハニー早えとこ、たぬき汁にしちまいな!」

「どこかで聞いたような台詞ですね、おじいさん」

「細けェことはどうでもいいんだよ! くれぐれも、そのクソだぬきの縄を解くんじゃあないぞッ! ワシはこれからギルドに行ってくるぜ!」

「気をつけるんですよ」

「おうッ!」


 ジジイは威勢よく応え、副業である冒険者ギルドの仕事へと向かった。

 たぬきは恐いジジイの姿が消えるのを確認すると、ワザとらしいまでのアニメ声で命乞いをする。


「おばあさん……もう悪いことはしないよ。ボクはたぬき汁になりたくありません……だからこの縄を解いて下さい」


 目をくりくりさせ、キュートな仕草をするたぬき。

 普通ならこんなものは演技だと気づくものである。だが、ババアは可愛いものが大好きだ。

 特にサ〇リオのポ〇ポムプ〇ンのような、まあるいモフモフがストライクゾーンである。


「いいですよ」


 なので、ババアはあっさりと縄を解いてしまった。


「あ、ありがとう!」

「いえいえ」


 たぬきは命を救われたのだが……。


「けけっ! お人好しでバカなババアだぜッ!」

「えっ……たぬきちゃん!?」


 そこには、本来の醜悪な心を具現化したようなたぬきがいた。

 その顔はまるで悪魔(デビル)的相貌である。

 ババアは恐怖で体を震わせ、その場に倒れ込んでしまった。


「俺はいじめと人殺しが大好きなんでな」


 まるでレ〇ズナーのゴス〇ロ様のような台詞を吐くたぬき。

 部屋に置かれた護身用のモーニングスターを手に取る。


「いい大人の玩具があるじゃねェか!」

「た、助け!」

「あばよババア! 怨むんならあのジジイを怨むんだぜェ!」


★★★


「こ、これは!?」


 ジジイは冒険者ギルドの仕事から戻ってくると驚いた。

 家具は壊され、壁や床には穴が開いていた――そして、悲劇が襲う。


「ハ、ハニー!」


 ババアが頭から血を流して倒れていた。

 全身は青白くなり、無念そうな表情を浮かべ目を見開いていた。


「しっかりせんか! ハニー!」


 ジジイは必死に呼びかけるも返事はない。

 ババアは既に事切れていたのだ。


「ハ、ハニイイイィィィッ!」


 泣いた、ジジイは泣いた。まるで生まれたばかりの赤子のように泣いたのだ。

 思い出す二人の思い出、最初の出会いはジジイが若く猛々しい冒険者だった時代。

 山賊に襲われた村娘のババアを救ったのが最初だ。

 ジジイはババアに一目惚れし、またババアもジジイに一目惚れした。

 相思相愛――祝言を上げるまでには時間はかからなかった。

 決して裕福ではなく、子宝には恵まれなかったが幸せで楽しい毎日であった。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 ジジイは後悔した。何故あの時、すぐにたぬきを殺さなかったのかと――。

 しかし、覆水盆に返らず。ジジイの哀しみと怒りの咆哮、嗚咽する声が山中に響き渡った。

 怒りや悲しみにより、ジジイはより一層老け込み、屈強な体はゴボウのように痩せ細ってしまった。

 そうすると一匹の屈強なウサギがやってきた。


「ジジイ……一体何があったか説明しろ」

「ウ、ウサギ……」

「お婆ちゃんは誰にやられたんだ! ちくしょう!」


 このウサギは二人に育てられた息子のような存在。

 ジジイはここまでの経緯をウサギに説明した。


「その外道たぬきがお婆ちゃんをやったというのか!」

「そうじゃ! そうじゃウサギ! ワシは全財産を投入して闇ギルドに頼み、たぬきの仕置きを依頼する!」

「ダメだ! その金はジジイ自身のために使え!」

「な、なんじゃと!? ウサギは悔しくないのかッ!」

「ああ……悔しいよ。俺を息子のように可愛がってくれたあの人を殺されたんだ」

「だったら!」


 ウサギは凶器となったモーニングスターを掴み!

 こう宣言したッッ!!


「たぬきを裁くのは俺だッ!」


★★★


 チョロチョロ……。

 たぬきは山道で用を足していた。

 たんたんたぬきのキン◯マを風もないのにブラブラさせていたのだ。


「所詮この世は弱肉強食だぜ」


 人間を殺めた反省などない。野生は常に弱肉強食、喰うか喰われるかの世界だ。

 ババアは弱いから死んだ――ただそれだけだ、とたぬきは思っていた。


「ふひひひッ!」


 とはいえ、このたぬきは害獣(ワル)中の害獣(ワル)

 恍惚とした表情を浮かべていた――むしろ『殺人という非日常の体験』をしたことに味をしめていた。


「狩りって……面白れェ! もっともっと人間を狩るぞ! そのために四国で妖術でも学ぼうかね!」


 たぬきは更なる殺人中毒者に目覚めつつあった。

 このままでは、ただ娯楽のために人間を虐殺する『究極の害獣(モンスター)』が誕生してしまう。

 だが……いつの世も害獣(ワル)が栄えた試しがない。


「あんたがたぬきさんかい」

「あーん?」


 たぬきの前にウサギが現れた。


「誰だお前は」

「あっしは柴山のウサギというケチな野郎でさ」

「そのウサギさんが何の用だ」


 ウサギはキセルで一服するとヒューと冷風が流れた。

 季節は冬、ウサギはわざとらしくブルブルと震えながら言った。


「寒い冬でござんしょ? 暖用の柴刈りを手伝ってくんねェかと思いましてね」

「ハァ!? 一匹でやれよ!」


 目を血走らせながら怒鳴るたぬき。

 ウサギは怯むことなく言葉を続けた。


「ただとは言いませんよ」


 ウサギは懐から巾着袋を取り出し、


「報酬はたんまり出しますぜ」


 ジャラジャラと音を鳴らした。


(この音は――あの巾着袋にはゴールドがたんまりと入っているに違いねェ!)


 たぬきはニンマリと醜悪な笑みを浮かべ、


「いいぜ! 手伝ってやるよ!」


 ウサギの依頼を承諾するのであった。


★★★


「ありがとうござぇやす。たぬきさんのお陰でこんなに薪が取れましたぜ」

「なァーに! こんなモンは余裕のよっちゃんイカだぜ!」


 柴を大量にゲットした二匹。

 たぬきを先頭に山道をトボトボと歩く。


(にしてもこのウサギ……只者じゃない)


 たぬきは後ろのウサギをチラリと見る。

 隙あらばウサギを殺し、金を奪おうという腹積もりだ。


「何か御用で?」

「な、なんでもねえ」


 だが全く隙を見せない。


「スッパァー!」


 ウサギはプカプカとキセルをふかせているが、周囲の警戒は怠らない様子だ。


()れるタイミングがみつからねェ!)


 山道を歩きながら、たぬきはこのウサギに少しづつ疑問を抱き始めた。


(……そういや何で俺を柴刈りに? 仲間のウサギとかいなかったのか?)


 かちっ! かちっ!


「えっ?」


 たぬきは耳元で不審な音がすることに気づいた。


「どうしたんですかい?」

「今、かちかちって音がしたぞ」

「ああ、ここは『かちかち山』といいましてね。だから、かちかちというんでさァ」

「そ、そうか……」


 たぬきは「はて、そんな山なぞ初めて聞いたぞ」と思いつつも歩き続けた。

 それは、この謎のウサギの見えぬオーラに押されていたことが大きい。

 野生動物の無自覚な本能として『強者の圧』により自然と足が動いていたのだ。


(このウサギ、何者なんだ……)


 そう思った時だ。

 ボウ! ボウ!という何かが燃える音がすることに気づいた。


「な、なんだ!?」

「今度はどうしたんですかい?」

「も、燃えるような音が……」

「ふふっ! それはここが『ボウボウ山』――ボウボウと音がなるから、地元じゃそう呼ばれているんでさァ」

「いや、そんな問題じゃねえだろ!? なんか背中から焦げ臭い匂いが――」


 たぬきは後ろを振り返ると、背負った薪から巨大な炎があがっていた。


「あ、あっちイイイィィィッッ!?」

「魔法石『カチカチストーン』から出現させた『ボウボウファイア』だ! 貴様には地獄を味わってもらうぜ!!」

「ギャアアアアアアアアアア!」


 たぬきは背中に火が付いたままダッシュで山を駆け下りていった。


★★★


「グギギギッ!」


 たぬきは火傷で悶え苦しんでいた!

 熱傷の深度分類は『浅達性Ⅱ度』ッッ!!

 皮膚所見は湿潤、水疱(+)! 色調は薄赤! 強い痛みが襲っていた!

 つまりッ! 真皮にまで火傷がおよび! 治療を要していたのであるッ!!


「あのウサギめ! 絶対にぶっ殺してやるゥ!!」


 ギシギシと歯軋りをするたぬき、背中の薪に火をつけたウサギを絶対殺すと心に誓っていた。


「ウガアアアアアッ!」


 しかし、今はそれは敵わない。まずはこの火傷を完治させてからだ。

 それまで、たぬきはのたうち回りながら痛みを堪えていた。

 その悲鳴に誘われてか、耳の大きな影が忍び寄ってきた。たぬきはハッと気づき振り返る。


「誰だ!」

「だ、大丈夫ですか?」

「て、てめえはウサギッ!」


 なんと、たぬきの目の前にあのウサギが何食わぬ顔で現れたのだ。


「コロス! コロシテヤル!」


 たぬきは全身から脂汗を流しながら立ち、傍にあった石を握りしめた。


「脳天カチ割ってやるぜエエエェェェ!」

「ちょ、ちょっと待って下さいよ! いきなり何ですか!?」

「うるせえ! 柴山のウサギイイイィィィ! よくも火を付けやがったなアアアァァァ!!」

「な、なんのことですか? 私は()()()()()()()()()()()()ではありません!」

「えっ……」


 キョトンとするたぬき。

 自分をはめたのは『柴山のウサギ』だが目の前にいるのは『辛山のウサギ』とのことだった。

 そういえば、柴山のウサギの一人称は『あっし』だ。それに口調も木枯し紋〇郎っぽかった。

 対して、この辛山のウサギの一人称は『私』で口調もどこか丁寧だ。


「カラヤマ?」

「ウサギなんて見た目は全部一緒ですからね」

「え、えっと……」


 動揺するたぬきに構わず、ウサギは背中を見た。


「ちょ、ちょっと! ひどい火傷じゃないですか!」

「えっ……あ、ああ……」


 驚いたウサギは懐からポーションを取り出した。


「これは道具屋で購入したポーションです。背中にかけて治してあげましょう」

「いいのか?」

「誰かを助けるのに理由がいるかい」


 どこかで聞いたような台詞を述べるウサギ。

 たぬきの背中をまじまじと見る。


「痛そうだな」

「そりゃ痛いにきまってるだろ。背中に火をつけられたようなモンだからな」

「ふふっ……」

「何を笑ってやがる! ブッ殺す――」

「お婆ちゃんはもっと痛かっただろうよ」

「はっ!?」


 ウサギはそう呟くと、たぬきの背中にポーションをかけた。


「ギャア――ッ!?」

「汚い鳴き声だぜ」


 たぬきの背中に激痛が走ったッ!

 このポーションはただのポーションではないッ!

 ポーションの中に唐辛子を混ぜた特性のものなのだッ!


「い、いてェ! いてェよッ!」

「わめくな! お前に殺されたお婆ちゃんはもっと痛かったんだ!」

「て、てめえはまさかッ!」

「気づいた時にはもう遅いッ!」


 ウサギはたぬきの背中へ、特性ポーションを全てぶっかけた!


「ピギャアアアアアアアア!?」


 たぬきは激痛により気絶するのであった。


★★★


 数週間後――たぬきは火傷を完治させ、山中でウサギを探していた。

 無論、どこそこのウサギであろうが『先手必勝! 探し出してぶっ殺死!!』するつもりである。


「おのれぇ! ……ウサギぃ~~!! 影も形もないようにしてやる!!」


 またもやゴ〇テロ様っぽい台詞を吐くたぬき。

 するとそれに応えるように、茂みからウサギがピョンと飛び出て来た。


「呼んだかい?」

「ウサギィ~~! ウサギイイイィィィ!」


 襲い掛かろうとするもウサギは得意の瞬足を飛ばす。


「俺の足についてこれるかな?」

「待ちやがれェ!」


 ピョンピョンと走るウサギを追うたぬき。

 やはりスピードは敵いそうもないがそこは執念。

 何とか追いかけると浜辺へと到着した。海にはプカプカと二隻の船が浮いている。


「終わりだな!」

「それはどうかな?」

「なんだと……」


 ウサギはピョンと舟に乗りキコキコと漕ぎ始めた。


「あっ……!? 待ちやがれ!」


 たぬきもそれを追うように舟に乗った。

 ウサギを追うように必死のピッチで舟を漕ぐたぬきであったが……。


「な、なっ!? ふ、舟が……どうなってやがる!」


 たぬきが乗った舟に水が染み込み、どんどんと形が崩れてきたのだ。


「ウサギ! 何を仕掛けやがった!」

「都合よく舟があることに疑問を抱かなかったのか?」

「げっ!?」


 そう! これは巧妙に仕掛けられたトラップ!

 ウサギがたぬきを地獄に叩き落とすために用意した罠だった!

 一隻は木でこしらえた舟! そして、もう一つが泥でこしらえた舟であった!


「た、助けてくれ」


 たぬきが乗ったのはもちろん泥船!

 泥で出来た舟は水に溶けてしまう!


「終わりだな」

「俺は死にたくねえ!」


 海にプカプカ浮かぶたぬきは、ウサギの舟まで泳いできた。


「お、俺には妹がいる――名前はタヌミ!」

「だからどうした……お前は俺から家族を奪ったんだ」

「に、人間のババアが家族だと?」

「お前にはわかるまい……天涯孤独の俺にとって、お婆ちゃんは母親も同然だった」


 ウサギは冷たくそう述べると舟からあるものを取り出した。


「な、ななな!?」

「これはお前がお婆ちゃんを殺した凶器――モーニングスターだ!」

「やめろ! そ、そうだ金をやる! なんならタヌミもお前に抱かしてやるぞ! あいつは美たぬきでな! 毎晩お楽しみが――」

「やれやれ……どうやら本当に救いようのない害獣だな」


 ウサウサウサウサウサウサウサウサウサウサ!

 ウサウサウサウサウサウサウサウサウサウサ!

 ウサウサウサウサウサウサウサウサウサウサ!

 ウサウサウサウサウサウサウサウサウサウサ!

 ウサウサウサウサウサウサウサウサウサウサ!

 ウサウサウサウサウサウサウサウサウサウサ!


「ウッサァ――――ッ!」


 ウサギはモーニングスターによる百裂ラッシュを叩き込んだッ!


「ヤッダーバァアァァァァアアアアア」


 たぬきはそのまま冷たく、暗い、海底という暗黒の世界へと沈んだ。

 悪には悪の末路がある――。

 ウサギはモーニングスターを強く握りしめる。


「終わった……終わったよ……お婆ちゃん」


 ウサギは熱いものが込み上げ、静かに頬を伝う涙を拭う。


「確かに俺は外道を倒した……でも! でも何だこの虚しさはッ!」


――吼雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄ッ!


 咆哮をあげるウサギ。

 そのまま手にしたモーニングスターを海へと落とした。

 確かに仇は討った――達成感とざまあ感はある。

 しかし、失われた命は二度と……二度とは戻らないのだ。


★★★


「ハニーも喜んでくれているとええのう」

「そうだな……」


 ジジイとウサギはババアの墓前で手を合わせていた。

 全てが終わった――ウサギは静かに言った。


「ジジイ……伝えたいことがある」

「どうしたんじゃウサギ?」

「ちょいと……俺は暫く遠くへ行くことにした」

「はあ!? な、何を言っとるんじゃウサギ!?」


 ウサギは黙ったまま歩き始めた。

 行く先はわからない、ただどこかへと歩きだしたことはわかった。


「待て! 急に一体どうしたんじゃ!」


 ジジイの言葉にウサギは言った。


「ジジイ――確かに俺は復讐を果たした。だが所詮は『たぬき殺し』だ」

「な、何を言っとるんじゃ! たかが害獣一匹成敗したくらいでッ!」

「害獣といえど命は命……どんな理由があるにせよ、その業からは逃れられん。俺の手は血で染まっているのさ」

「ま、まさかお前……ワシに手を汚させまいと……」

「達者でなジジイ」


 ウサギは拳を高々とあげる。

 行くなウサギ――ジジイは泣きながら、その大きく優しい背中を見る。


「ウサギ――ッ! カムバァッ――クゥッ!」


 ジジイの名作映画の台詞をパクったような叫びにウサギは答えた。


「俺が戻るのは――この『かちかち山』だけだぜッ!」


★★★


 一陣の風が舞う。

 ここはボウボウ山――ウサギの前には一匹の美たぬきがいた。


「兄の仇を取らせてもらいます」


 その手にはサムライソードが握られている。

 この美たぬきの名前はタヌミ。あのイタズラたぬきの妹である。


「仇か。やめておけ……憎しみは更なる憎しみを呼ぶだけだ」

「ふざけたことをッ! 私の兄を殺しておいて!」

「お前の兄は外道だった」

「黙れ! 兄さんは優しいたぬきだったんだ!」

「あの害獣、家族には優しかったのか? いや違う――」

「害獣……ッ! どこまでも兄を侮辱する気かッ!」

「言い訳はしない。それに殺されるわけにもいかない」

「覚悟――ッ!」


 タヌミはサムライソードを持って襲い掛かる。

 ウサギは真剣白刃取りにてキャッチ、そのままサムライソードをポッキーのようにへし折った。


「なっ!? ミスリル製のサムライソードが!」

「色んな要素入れ過ぎだろ」


 ウサギはそう述べるとタヌミに当身を入れた。


「ぐっ……」


 タヌミは気絶。

 倒れたタヌミを見て、ウサギは虚空を見上げる。


「ふっ……かちかち山に戻れるのはいつになるやら」


 ウサギはタヌミ以外のたぬきからも追われることになるだろう。

 憎しみの連鎖は止まらない――次から次へとウサギの命を狙うたぬきが現れるのは間違いない。

 これより心休まらない日々が続くのだ。


「俺は生きるぜ」


 それでもウサギの目には、力強い生命の輝きを放っていた。

 生まれたかちかち山へと――ジジイの元へと帰る。

 そう心に誓ったのだから。


 ――実録! かちかち山 完ッ!

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