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婚約破棄される悪役令嬢のパーティーで目立たない令嬢が一番目立ったお話

「アイラ・トートライズ! 俺はお前との婚約をこの場で破棄する!」


 参加するパーティーはいつも、誰かしらの婚約破棄が始まる。


 婚約破棄を言い渡す伯爵令息、婚約破棄される伯爵令嬢、令息に寄り添う少女。

 今日は伯爵家同士の婚約破棄らしい。

 もう何回と見てきたその様子を、壁の華シルヴィアは伏せ目がちでぽつんと眺めていた。


(あのご令嬢、背筋がピンとしてて怖気づいてもなくて強いなぁ。⋯⋯こんな大勢の人前で婚約破棄なんて、私なら恥ずかしくて泣いちゃうもの)


 プライド高き令嬢たる者、弱いところは見せられない。だからこそ気高く、泣き顔一つ見せずに強く振る舞える強さが羨ましい。

 貴族たちの前での婚約破棄される側はかなり羞恥に追いやられる、という意味ではシルヴィアは自分の婚約破棄がいかにマシなほうだったかと今は思う。


 シルヴィアが婚約破棄された場所は、お呼ばれした婚約者イーサンのお屋敷の庭だった。

 イーサンの腕に抱きつき笑みを浮かべる異母妹フランソワと、二人を援護するかのように立つ互いの両親という場での婚約破棄。

 あの時は状況が理解できないまま、シルヴィアだけ置いてけぼりで、自分がなんて返したのか覚えていない。

 トントン拍子に婚約破棄となり、実家の伯爵家から縁を切られ、呆然としたまま婚約者も帰る家も伯爵令嬢という身分も失ってしまった。

 修道院に行くか途方に暮れていた時、放心状態だったシルヴィアをある男爵家が養女として迎えいれ、その後導かれるような縁で、ある人物と運命的に出会い今に至る。


 トートライズ嬢のざまぁが繰り広げられ、いよいよ婚約破棄が結末を迎えたその時、視界の端でピンクゴールドの髪が揺れた。


「まぁっ! シルヴィアお姉様?!」

「⋯⋯ぇ、フ、フランソワ⋯⋯?」


 シルヴィアの前に姿を見せたのは、彼女から婚約者を奪った異母妹フランソワだった。

 フランソワ・エルベンテス。手入れされた艶のあるピンクゴールドの髪に深い緑の瞳、ぷっくりした唇は変わらない。

 一方、シルヴィア・ポットリーはエルベンテス伯爵名家の長女に生まれながらも、母譲りの淡い茶髪のせいで決して華やかな容姿ではなかった。ただ伯爵令嬢の証は澄んだ緑色の瞳だけ。

 そのためシルヴィアは少なからず容姿に対してフランソワにコンプレックスを抱いていた。


「どうしてここに⋯⋯?」

「それはこっちの台詞よ。なぁんで平民に落ちたはずのお姉様がそんなに着飾ってパーティーなんかに出席してるの?」


(そっか。フランソワは私がポットリー男爵家に拾われた事を知らないから、今も平民だと思ってるのね)


 異母妹フランソワによって伯爵家を追い出されたシルヴィアにとって、彼女の登場は衝撃だった。

 婚約者、そして次期公爵夫人の座を奪い、シルヴィアは悪女なのだと両親に嘘をつき、実家の伯爵家から追放、平民に落とした張本人。

 関わりたくない人物である異母妹のはずなのに、彼女の変容ぶりにシルヴィアは困惑を隠せない。


(え⋯⋯? えぇ? 紛れもなくフランソワなのだけれど、前まで華奢だったのに何があったの? ちょっと⋯⋯というよりかなりふくよかだし、その二重の顎肉も顔も少し脂っぽ⋯⋯いいえ! これ以上は見れないわ!)


 シルヴィアが別の意味でフランソワから視線を外したことで、それを可愛い自分との差に居た堪れなくなったと勘違いしたフランソワは、シルヴィアの頭の天辺から爪先までなめるように見てから、豪華なレースと刺繍の扇子で口元を隠しニンマリと嘲笑を浮かべた。


「分かったわ、婚約者を探しに来たんでしょ? 残念だけど、どんなに上質な装飾をつけてても地味で平民のお姉様をもらう男なんていないわよ」

「私はもうあなたのお姉様じゃないわ。赤の他人が好き勝手言わないでちょうだい。私は婚約者の仕事が終わるのを待ってるだけよ」

「んもぅ、ひっど〜い! パーティーで人が見てるからって嘘つかないで! 平民のくせに無理無理。お姉様に婚約者なんて笑っちゃうわ」


 それとも、媚び売って平民の男でも手に入れた? などと付け加えれ、シルヴィアは一瞬カッとなるも一呼吸置いて冷静さを保つ。


(落ち着きなさい私、ムキになったら駄目よ。フランソワはきっとこんなに太⋯⋯ふくよかになるほどストレスを抱えて、私を吐け口にしてるだけなのだから)


 ちなみに、笑っちゃいたいのはシルヴィアも同じであった。

 少しでもフランソワを見ると吹き出しそうになりそうで、顔を俯かせて耐える。


「⋯⋯グリフォン次期公爵夫人、言葉遣いが汚いわ。下品な振る舞いは、それこそ人の目があるのですからお控えになられては? はしたなくて目に余りましてよ」

「っ! なっ⋯⋯! フランがはしたない?!」

「その大きな声もやめてくださいませ。耳がキンキンして頭が痛くなるの」

「地味な見た目だけじゃなくって耳まで腐ってるのね。フランは次期グリフォン公爵夫人よ! お姉様こそ礼儀がなってないわ! 身分が上の私に敬うべきじゃなくって?!」


 シルヴィアの態度が気に食わなかったのか、フランソワのの声が威圧的なものに変わった。


「平民のくせに生意気だわ!」

「そんなの関係ないわ。身分が何であれ、敬ってほしいのならそれ相応の品格を持ちなさいな」

「っ!! 指図しないで。ちょっと良いドレス着てるからって――へぇ、その大きな宝石が付いた首飾り、立派ねぇ。お姉様に相応しくなくってよ!!」

「っ!!?」


 突然フランソワの手がシルヴィアの胸元に飾られた首飾りに伸び、ブチッと音を立ててそのまま引きちぎった。

 あまりの出来事に一瞬呆けたシルヴィアだったが、すぐさま我に返る。

 すると、二人の様子に何事かと周りがざわざわと気づきはじめ、視線が集まるのを感じた。


「ちょっと⋯⋯! 返して!」

「やだ、とっても素敵な首飾りね! フランにピッタリ! ねぇお姉様ぁ⋯⋯これ、私にちょうだい?」

「無理よ。それは私の大切な首飾りなの。あなたにはあげられないわ。⋯⋯首が飛びたくなかったら今すぐ返しなさい」

「なに、そんな脅し聞かないわよ。ほら、お姉様はいつもフランに全部譲ってくれたじゃない。こんな豪華な宝石、お姉様の持ち腐れだわ」


 引きちぎった首飾りを自分の首元に当てて、フランソワがくるくると回りだした。まるで私のほうが似合うと見せつけるように。


(⋯⋯私が譲ったんじゃない。全部、全部フランソワが私から奪ったのよ)


 "お姉様なんだから"。

 そう口癖のように、昔大切にしていた祖母のぬいぐるみもドレスも、誕生日にもらったジュエリーも、お父様や婚約者だったイーサンも。あなたはどれだけ我が儘で強欲なの。今度は大切な()()()から頂いた首飾りまで⋯⋯!


 自分があまりに悔しくて唇を噛み締めた時だった。


「きゃっ!!」

「!?」


 フランソワの悲鳴が聞こえ、パッと顔を上げた。

 むっちりしたフランソワの手首を掴み、彼女に冷たい視線を送る人物に、大きく見開いたシルヴィアの目がキラリと輝いた。

 湖の水面のようなティール色の髪に群青色の瞳、漆黒の騎士服に身を包んだ美男子だ。

 パーティー会場にいた令嬢はもれなく全員ときめきを隠せず、扇子から覗く顔は真っ赤っ赤だ。


「誰よ! フランを誰だと思ってるの!? ねぇ痛いわ! 放してちょうだ⋯⋯きゃあ!!」


 勢いよく手が放された拍子によろけ、床に倒れ込んだフランソワをよそに、その人物は首飾りを奪い取りシルヴィアの元へ歩き出した。


「遅くなってすまない、シルヴィア。仕事が少し長引いた。大丈夫か?」

「は、はい。私は大丈夫ですわ。ありがとうございます、コンラート様。⋯⋯ただ、申し訳ございません。貴方から頂いた大切な首飾りを他人に触れさせてしまって、私――」

「気にするな。お前が無事なら俺はそれでいい」


 コンラート・ルグヴィス・ガーフルール。現国王の弟であり騎士を務める黒き公爵。そしてシルヴィアの婚約者だ。

 コンラートはシルヴィアの手を優しく取り、その小さな手に引きちぎられた首飾りを握らせた。

 首飾りが戻ってきた安堵からシルヴィアの瞳が涙で溢れそうになる。


(あぁ⋯⋯っ、コンラート様から頂いた大切な、大切な首飾り。かけがえのない私の宝物)


 首飾りを両手で大切に包み込むシルヴィアの首に赤い筋の傷が付いているのに気付いたコンラートは、そっと彼女の首元に触れ、癒やしの魔法でその傷を消した。


「フランっ!!」

「イーサン! ねぇ、あの男フランのこと突き飛ばしたのっ! 次期公爵夫人に無礼を働いたのよ、何とかしてちょうだい!!」


 騒ぎに駆けつけたのは、シルヴィアの元婚約者で今はフランソワの婚約者、イーサン・ハンス・グリフォンだった。

 まだ座り込んだままのフランソワがイーサンに抱えられながら立ち上がると、彼の胸にしがみつき、図々しくもコンラートを指さした。

 イーサンはフランソワが指を差す方へ視線を向けたが、その顔はみるみる内に青ざめ、額には冷や汗が浮かびはじめた。


「イーサン? どうしたの?」

「フ⋯⋯フラン、君はなんて御方に⋯⋯っ」


 自分の肩に添えられた手が震えているのに気づいたフランソワは、先程自分を突き飛ばしたコンラートを見る。

 そして、フランソワの心臓が大きく跳ねた。

 イーサンよりも遥かに好いコンラートの容姿は美形が大好きなフランソワの心を奪うのに簡単だった。


「まぁっ! コンラート公爵様!?」


 イーサンの腕を抜け、身だしなみを整えはじめたフランソワは(自分は立派にできていると思っている)カーテシーをコンラートに向けた。

 

「まさかシルヴィアお姉様の知り合いだとは存じず、ご無礼をお許しくださいませ。急に手を掴まれたものですから驚いて大声をだしちゃって恥ずかしい⋯⋯。私、フランソワと申しますわ。シルヴィアお姉様とは母違いの姉妹ですの」

「⋯⋯そうか」


 コンラートはフランソワには目もくれず、そう一言だけ返した。

 まさか素っ気なく返されるとは思っていなかったフランソワの眉がピクッと引きつる。


「あ、あの、もしよろしければ平民であるお姉様とのご関係を訊いても?」

「はっ」

「え?」


 コンラートが鼻で笑った。


「シルヴィアが平民? 次期グリフォン公爵夫人ともあろう者が、シルヴィアが男爵令嬢かつ俺の婚約者であることを知らないとはな。公爵夫人の教育がなっていないぞ、イーサン・ハンス・グリフォン次期公爵」

「もっ、申し訳ございません! し、しかしながらフランはまだ一四歳と幼くお転婆で夫人教育は――」

「年齢など関係ない。名門グリフォン公爵家の名を自分の代で汚したくなければ早急に取り組むことだな」

「は、はいぃっ!」


 イーサンはビクビクしながら頭を下げ続けた。

 それもそのはず。同じ公爵という爵位に名を連ねていても、相手は王弟殿下。王家の血を継ぐガーフルール家は格上の存在なのだから。

 そんなイーサンを見て、フランソワは自分の婚約者がなぜこんなにもオドオドしてみっともない姿を晒す男なのか、と冷めた目で見つめた。

 やがてその視線は、令嬢たちの憧れであるコンラートに肩を抱かれ寄り添うシルヴィアへと向けられる。

 視線に込められた激しい嫉妬と、そこに立つのは自分だという欲求。

 シルヴィアをどうコンラートから引き剥がし、自分を妻にしてもらうか。そんな事を考えるフランソワだが、彼の纏う空気は冷たく、他人を近寄らせないという重圧を肌で感じる。


「お前の婚約者は不躾にもガーフルール次期公爵夫人の首飾りを奪っただけでなく、引きちぎった際に掠り傷を付け、あろうことか自分の物かのように振る舞っていた。俺の、亡くなった母の形見をな」


 コンラートの切れ長い群青色の瞳がフランソワを睨みつける。

 自分に向けられた鋭利な視線に、鬼の形相だったフランソワが一転、蒼白の顔で喉が鳴る。


「フ、フランそんなの知らないもの! お姉様がフランに似合うからって渡してきてっ!!」

「馬鹿なこと言わないで。私がコンラート様のお母様の形見をあなたなんかに、ましてや赤の他人に渡すはずないわ。あなたが私の首飾りを強引に奪ったのでしょう」

「違うっ!!」


 フランソワは肩で大きく息をして、ややヒステリックに叫んで否定するも、シルヴィアの手から垂れる首飾りの鎖が不自然に切れていたことがすべてを物語っていた。自分から外したのであれば、あんな切れ口にはならない。


「イーサン、また昔みたいにお姉様がフランを苛めて悪者にする! ちょっと首飾りを触っただけで、奪おうなんてしてないのにっ」

「そうなのか? いや、でも、僕はその場を見ていないから、ここにいる者たちに聞いても構わないだろうか?」

「え⋯⋯? え?」


 涙目のフランソワは困惑しはじめた。

 イーサンに悪気はない。ただフランソワの言っていることが本当かどうか知りたいだけなのだが、彼女にとってそれは非常に都合が悪い。


「イーサンまで何よ⋯⋯っ! イーサンは信じてくれるって思ってたのに! 可愛い婚約者を守るのが男の務めでしょう?!」

「そう、僕は君を愛している。だから君の言葉が嘘じゃないと信じたいんだ。シルヴィアの首飾りを本当に君が奪い取ったのかどうか、見ていた周りの者なら証言してくれる」


 コンラートの前ではビクビクしていたイーサンだが、愛するフランソワに格好つけたいのだろう。君が無実だと僕が言わせてみせるよ、みたいな顔をしている。

 それをやばいと感じ取ったのか、焦りが見え始めたフランソワにボロが出てしまう。


「だって、だって! おかしいじゃない! 平民のお姉様がフランよりも目立つ宝石持ってて調子に乗ってるんだもの! 豪華な宝石はフランにこそ相応しいの! だからちょうだいって取り上げて何が悪いのよ?!」

「フラン、なんでそんな事をするんだ。宝石なら僕がいくらでも買ってあげるのに」

「お姉様のでないと嫌なの!!」


 人の物を欲しがる癖も、奪うことしか頭にないことも、手に入らないと泣き喚く駄々っ子な精神も、どこまでも自己中心的なフランソワに、シルヴィアはうんざりとした。


「⋯⋯もうやめて、フランソワ。これ以上エルベンテス伯爵家の名を汚すような醜態を晒さないでちょうだい」


 シルヴィアの冷めた瞳と合い、フランソワは不服そうに眉を顰め口を噤む。


「この事はお父様の耳にも入るわ。可愛いあなただから今まで見逃してくれているけれど、これ以上心労をかけさせないで」

「お姉様たちが黙ってればお父様は気づかないわ」

「馬鹿者が。公爵ではあるが王弟の俺の婚約者の物に手を出したんだ、許すはずがないだろう」


 王弟殿下の婚約者の物に手を出した――。

 それがどういう意味か。

 そして、あの時のシルヴィアの「首が飛びたくなかったら」の言葉。

 みるみる蒼白の表情を浮かべるフランソワは、ガチガチ歯を鳴らしながら、祈るように胸元で両手を組み許しを請いはじめた。


「そっ、そんなのないわ! ねえお姉様、謝るから許してちょうだい? お願い!!」

「自業自得でしょう。フランソワが手を出さなければこうはならなかったのよ?」

「だから謝ってるじゃない! そうだわ! 罪滅ぼしってわけじゃないけど、フランがコンラート公爵に嫁いで罪を償っていくなんてどうかしら?!」


(ああもう、この異母妹(このこ)は⋯⋯っ!)


 もう目も当てられないとシルヴィアが大げさに天井を仰ぎ、隣のコンラートは眉間がキュッと深くなり、イーサンはフランソワを止める術が見つからずオロオロしだす。


「俺の妻はシルヴィアただ一人だ。他はいらん」

「ひゃっ⋯⋯!!?」


 コンラートの骨張った大きな手がシルヴィアの腰をグイッと引き寄せた。

 ほぼ密着の体勢にシルヴィアの顔が耳まで真っ赤に染まる。

 恥ずかしさを消すように、こほん、と小さく咳払いをしてシルヴィアはフランソワに向き合った。


「フランソワ。罪を償いたいなら、ゆっくりでいいからイーサンの公爵夫人を名乗れるようもっとお淑やかさを身につけなさい。いつまでも度量が狭いのは夫人として最悪よ」

「⋯⋯⋯⋯」

「あと、痩せなさい。その体型はどうしたの」

「⋯⋯ごめん。これは、その。僕や屋敷の者がフランの食べる顔が可愛くて頼まれるまま甘い物を与えていたら⋯⋯いつの間にかこんなことに」


 イーサンは謝罪するしかできなかった。


「どんなフランでも可愛いって言ってくれたじゃない」

「言ったよ。言ったけど、丸々してても可愛いけど、そんなになるとは僕も思わないじゃないか」


 イーサンとフランソワのやりとりで、シルヴィアは肩の力が抜けていくのを感じた。

 そして、ある事を思いつく。


「決めたわ! ねぇフランソワ」

「⋯⋯何? 私を断罪する気?」

「いいえ。あなた、全力でダイエットしなさい。私があなたの食事から運動まで全部管理してあげる。それで痩せたら今回の件は許してあげるわ」

「ダ、ダイエットですって?!」

「ええ、そうよ。細かった昔の面影なんてないじゃないの。どうしてそこまでブクブクになったの? 毎日鏡を見ては可愛くなかったら癇癪起こしてたくせに。ドレスもパッツパツで、今の体型ものすごく見苦しいわ」

「な゛っ! お、お姉様言葉が過ぎるわよ!」


 コンラートたちの視線が集まる中、シルヴィアがずばずばと物申す。

 壁の華と揶揄されていたシルヴィアの勢いに皆ぽかーんとしており、もちろんそんな姿を見たことがないフランソワや、コンラートもタジタジになっている。


「いいのか? シルヴィア。この件を罪に問えばグリフォン公爵の爵位剥奪はもちろん、お前が妹にされたことをやり返す――平民に落とすこともできるんだぞ」

「フランソワに平民は無理です、絶対耐えられませんわ。それよりももっと地獄の⋯⋯スパルタダイエットでお灸を据え、改心させましょう!」


 シルヴィアがニッコリと笑った。


「ンフフッ。フランソワ、私泣き言は絶対に許さないから覚悟してね? ビシバシしごいてあげるわ」

「ひっ⋯⋯!! 本当に謝るからっ!」


 ごめんなさぁ〜い!! とフランソワの声が会場に響いた。



 後日。

 首飾りの件は、シルヴィアの恩情でフランソワがスパルタダイエットで痩せることを条件に見逃すこととなった。

 納得がいってなかったコンラートは、今度また同じようなことがあればその時は容赦しないと釘を刺したうえで、目を瞑ってくれた。


「どうだ、シルヴィア。スパルタダイエットは」


 騎士の職務の合間をぬっての逢瀬。

 シルヴィアが作ったサンドイッチを食べつつ、コンラートは毎日グリフォン公爵邸に出向くシルヴィアに進捗を問うた。

 バクバクと美味しそうに食べてくれるコンラートに笑顔いっぱいのシルヴィアは、今まさにスパルタダイエット用のメニューに視線を落とした。


「ええ、それはもう⋯⋯とっても順調ですわ。初日こそ文句と泣き言でひぃひぃ喚いておりましたが、そんなものもう慣れておりますので。今は素直に従ってくれて頑張っていますわ」

「⋯⋯そ、そうか。まぁシルヴィアが楽しそうで何よりだが、何かされたらすぐに言うんだぞ」

「はい。その時は容赦なくフランソワを断罪してくださいませ」

「ああ任せろ。断罪は得意分野だ」


 心強い言葉が聞けたシルヴィアは、とても頼もしいですわと返した。


「これを機に、俺たち騎士を鍛えるメニューをお前に頼もうかと考えたんだが」

「え?」

「だが、俺の付き添いや次期公爵夫人としての仕事で忙しいのに、これ以上負担を増やしてお前とイチャイチャする時間が減るのも嫌だから止めた」

「コ、コンラート様っ?!」


 顔を真っ赤に染めるシルヴィアを、コンラートが愛おしげに見つめる。

 シルヴィアはその優しげな瞳にも弱く、至近距離で直視してしまったため、慌てて持っていたメニューの紙で顔を隠した。


「だから、スパルタダイエットをさっさと終わらせて俺に構ってくれ。屋敷に戻った時、お前の姿がないのは寂しい」

「はぃ⋯⋯っ」


 シルヴィアのフワッフワな淡い茶髪を一房すくいとり、チュッとキスを落とした。


 これは、目立たない壁の華シルヴィアがパーティー会場で目立っちゃった話。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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