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07 サボり癖がつきそうです


 ◇


 昨日は楽しかったが、俺の場合、そう何度もサボる訳にはいかない。

 紫藤先輩は今日もまた、サボるようなことを言っていたが、俺は大人しく高校へと行くしかなかった。

 せっかくのチャンスを不意にしている今に色々と思いを募らせながら玄関を開けると、そこには心配そうな顔でこちらを見る青葉の姿があった。


「青葉?」


「大丈夫? 昨日は体調が悪いって話だったけど」


 いつもウザ絡みや皮肉めいた言葉が多いものの、こういう時は素直に心配してくれる。そんな青葉だからこそ、普段のあの態度でも許せるのだろう。

 友人関係が長く続くのだろう。


「あぁ、それなら大丈夫だ。ただのサボりだから」


「え、サボり?」


 俺が体育祭の練習が嫌だという、くだらない事情を素直に説明すると、青葉は大きくため息をついた。


「なんだ、心配した私がバカみたいじゃない!」


「悪い悪い、でもこう言う経験も、一度はしてみたくて」


「それで、感想は?」


「またやりたいです」


「……彩都が悪い子になってく」


 他愛もない会話が続き、こうして俺の日々は日常へと修正されていく。

 教室につき、席につくや否や武紀が駆け寄って来た。


「よう! もう大丈夫なのか?」


「あぁ、元から大丈夫だ。ただ、体育祭の練習の雰囲気に耐えかねて休んだだけだ」


 武紀は良いやつだ。

 おちゃらけた奴ではあるが、素直で根がいい。そんな彼には嘘をつく気にはなれず、正直に答える。

 勿論、縁結びの神様の件は伏せるが。


「なるほど、確かに。お前、個人の種目練習の時間、辛そうだったもんな。一人で借り物競走の練習って」


「気づいてくれていたんなら、声をかけてくれてもよかったんじゃないか?」


「いや、俺はリレーの選手だし、やることあるから」


 武紀もスポーツ推薦組で、運動はかなりできる部類だ。

 このクラスの男子の中で、三番目に足が速い。部活は剣道だったけか。剣道部に足が速い印象はあまりないが、武紀はスポーツ全般、それなりにできる印象がある。

 体育の授業では大体いつも活躍しているし。

 そんな彼は俺とは違い、練習時間にやることがあるらしい。

 羨ましい限りだ。


「そうですか」


「まぁまぁ、そんな不貞腐れなくても、本番はやることあるって」


 不貞腐れる俺にどこからかやって来た赤井が励ましの言葉をかける。

 赤井は女子の借り物競走の選手であり、こちらは自ら志願したそうだ。俺とは違って。

 赤井は学年一と言っていいほど、顔が広い。なんなら、彼女に借りられたい人だって大勢いるだろう。俺とは違ってな。

 クラスで彼女以上の適任はいない。

 彼女にとってこの競技は苦ではない。リレーほど激しい運動も練習も必要なく、それでいて最も適性が高く、成果を出しやすいのだから。


「本番ね。でも、借り物ってなんなんだろうな」


 一般的に考えれば、何かしらの条件を指定した靴とか、持っている方が少数の所持品、一部先生方のみが持っているものなどだろうか。


「うーん、私も借り物競走に出場するから下調べはしたんだけどね。それでこれは先輩から聞いたんだけど、この高校は毎年、モノじゃなく、人がお題らしいよ」


「人?」


「うん、物の貸し借りは何かあると大変だし。モノの選定も難しいからって、いつからかそうなったらしいね」

 

「マジか! これは面白いことになりそうだな」


 武紀が目をキラキラを輝かせ、こちらを見てくる。

 俺如きにいったい何を期待しているのだろうか。

 これだから借り物競走は嫌なのだ。


「いいな、赤井は気楽で」


「そんなことないって。悪質なお題はないけど、クリアには一捻り必要なふざけたお題は多いみたいだから、結構緊張してるよ。前年度は、好意を抱いている人、なんてあったみたいだしね」


「悪質じゃないか、それ?」


「でも、これって別に恋愛的に好きな異性、ではないでしょ?」


「それはそうだが」

 

 今の一例は定番にして、引く側としては最大のハズレだったようだが、この類のお題は多く用意されているそうだ。お題は体育祭の実行委員が考えているらしく、見ている生徒を楽しませるために、考え抜かれたお題が揃っているそう。

 中には今のお題のように、学校から許可をもらうために、抜け道を作ることで許しを得た厄介なお題もあるらしい。

 その割には普段と変わりない、眩しい笑顔である。


「いやぁ、彩都が慌てふためく様を観れるのが楽しみですなぁ」


「青葉、お前他人事だからって……というか、元はと言えば、お前のせいでもあるんだからな!」


「いやいや、元はと言えば彩都が学校休んだからでしょ!」


「ぐっ、それは……」


 口論に勝利し、勝ち誇る青葉。

 確かに、あの日、俺が休まなければ良かっただけのことだ。


「さ、そうと決まれば彩都が変なお題を引きますようにって、部活帰りに神社に寄ってお願いしてこないと」


「洒落にならないから、やめてくれ」


 俺は徐々に迫りつつある体育祭に、ため息をつくのだった。



 

ここまでご拝読くださり、ありがとうございます!

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