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05 そうだ、学校をサボろう!


 ◇


 月曜日の早朝。本来であれば憂鬱の始まりでもあるこの一日も、今の俺には待ち遠しかった。

 やはり、ヒロインに接触する一番のチャンスは学校なのだから。

 朝の身支度をし、ジャージで犬の散歩に向かう。

 そして散歩を終え、少し休んだのち制服に着替え家を出る。

 玄関を開けると、そこにはすでに青葉がいた。


「おはよー」


 いつもと変わらない、とても毎日数キロ走っているとは思えない元気で明るい挨拶。

 シャワーを浴びたあとなのか、近づくとほんのりとフローラルな香りが漂ってくる。


「全く、いつも待ってなくていいのに」


「いいじゃん? どうせ、他に行く相手いないんでしょ?」


「確かに、それはそうだけどな……」


「私も他の人たちは駅だったり、もっと遠くから自転車で来るからさ、一緒に行く相手がいないんだよね」


 高校にもなれば遠くから通う人も多い。俺と青葉は比較的家が近い部類で、そのせいで意外と通学仲間がいない。だから、青葉が毎日、待ってくれているお陰で通学時間は退屈しないし、素直にありがたくはある。


「青葉がいいなら、俺としてはありがたいんだか」


 青葉の負担になっていないか。それだけが心配だ。

 

「よし、なら問題なしね」


「……そうだな」


 通学する中、青葉があることを尋ねてくる。


「そう言えば、友だちから聞いたんだけど、土曜日に白い髪の女の子と歩いてたって。何、ひょっとして彼女でもできたの?」


 土曜日のことを思い返す。あの日は確か、図書館に行って白綾に出会った日だ。

 そしてその帰路で偶然にも、俺はヒロインの一人である白綾の連絡先を得ている。

 まだ、連絡はしたことないが。


「白綾さんのことか」


「白綾さん……って、そんな友だちいたっけ?」


「図書館で出会って、それでちょっと話をしただけだ」


「へぇ〜、あのあとそんなことが」


 疑いの目を向けてくる青葉。その顔からは、何とかして俺を揶揄おうとする気概が感じられる。

 しかし、残念だったな。


「安心しろ、そういう展開はない」


「なんだ、つまんないの」


 そう言い、それはそれは退屈そうに肩を落とす。

 残念ながら、本当にそういう展開は訪れないだろう。

 俺の青春は縁結びの神様の従者で終わる……そういう定めなのだ。


「ねぇ、結局、彩都は部活は入らないわけ?」


「部活、か」


 俺の在籍するこの誠叡(せいえい)高校はとにかく人数が多い。そして自由な方だ。だから、部活や同好会の数はこのあたりの高校と比較して、頭抜けて多い。

 部活動、あるいは同好会、か。

 一つ、二年のヒロインを考えれば、所属しておきたい組織はある。まだ時期ではないし、それは部活動とも同好会とも違うのだが。

 しかし、それはそれとして、部活や同好会に所属していても問題ないだろう。

 特に、その道に本気にさえならなければ、ヒロインらの縁結びをサポートする時間くらいは作れるはずだ。


「俺も探さなかったわけじゃないが、これと言ってな」


「それじゃ、バスケとかは?」


「楽しそうではあるんだけどな。ほら、ここの運動部って結構ガチだろ?」


「それはまぁ、そうかも」


 スポーツ推薦で強い選手を集めているだけあって、主要な運動部は大体強い。それこそ、全国を目指すレベルで強い。初心者ではやっていけない、というわけでもないが、運動部は全般、あんまり遊び感覚で入るには向いていない。

 実際、青葉は全国を視野に入れるレベルの選手だし、そんなレベルの生徒が集まるバレー部に所属する以上、相当気合を入れねばならない。


「んじゃ、同好会は? オカルト研究会なんて向いてるんじゃない? 都市伝説とか、そういうの好きだったじゃん」


「いや、それはちょっと」


 俺は顔を引き攣らせながら、青葉の問いにそう答えた。

 ホラーは嫌いじゃない。怖い話、例えば都市伝説は良く出来た嘘だとわかってはいるが、それでもあの現実に侵食する物語とも言えよう感覚が、なんともたまらなく好きだった。それに都市伝説はただ怖いだけでなく、民俗学だったりと結びついていたりすることもあり、それがどういう経緯で語られたか、推測するもの楽しみの一つでもある。

 しかし、それはもう過去の話だ。

 現実に神様と出会い、呪われた今、もうそれらを楽しもうとは思えない体質になってしまっている。ああいうのは危険だの、怖いだのと思いつつも、心のどこかでありえないことだと理解しているからで、現実は違うと思えるからこそ、楽しめるものだ。

 そう思えなくなったら最後、遊び半分で足を突っ込みたいとは思えない。

 妙に怯える俺を、青葉は心配そうに眺める。


「だ、大丈夫?」


「あ、あぁ、ちょっと、嫌なことを思い出しただけだ」


「そ、そう? まぁ、余計なお世話かもだけど、一度しかない高校生活な訳だし、何かに所属しいてみるのもいいかもよ」


「そのうちな」


 ヒロインによっては、部活に所属しなくてはならないことも出てくるかもしれないし、無理に今、入る必要はない。

 巡り合わせ次第だ。

 今はまだ、焦ることはないだろう。


 そんな会話に耽っていると、あっという間に高校へと辿り着いた。

 自分の席につき、ヒロインらの位置を確認する。

 今日は三人。一人は青葉、もう一人白綾、そして二年のあの人か。

 それから武紀らと雑談しながら、始業のチャイムを待つ。

 そして時間は過ぎ、五限。

 体育の授業の時間。体育祭を控える今、授業の大半はその練習に当てられる。初めに当日の全体での動きの流れを確認したのち、残った時間で周囲の面々は、各々が出場する競技の練習に入った。

 リレー走者はバトンの渡しの練習。

 二人三脚組は実際にやってみたりと、なんやかんや楽しそうに練習を重ねる中、


 俺は暇だった。

 それはもう、猛烈に暇だった。

 もう一人、赤井が女子の借り物競走の選手なのだが、彼女は練習中に倒れた友人を連れ、保健室に向かってしまった。彼女のことだ。サボろうなんて意図は一切なく、ただ、純粋に友人を心配し、付き添ったのだろう。

 お陰様で俺は孤立した。いやまぁ、どう考えてもこの状況は俺のせいなんだが。

 暇そうな俺を心配してか、青葉が近づいてくる。


「練習いいのか?」


「うん、私は大体分かってるし、アンカーなのは確定だからね」


 リレーの走る順番は本番ギリギリまで変更可能なため、相性などを今話し合っているそう。

 

「なぁ、俺は何をすればいいと思う? 借り物の練習ってなんだ?」


「借りる練習、とか?」


「借りる練習って……礼儀作法でもやればいいのか?」


 土壇場での機転が求められる分、とにかく事前にやれることがない。

 競技は学校ではなく、実行委員が決めているようで、その分面白いものがほとんどだが、練習時のことまでは気を回せなかったか。

 少しの間、無言の時間が流れる。

 目に映るのはわいわいと柔らかい球を投げる、玉入れの練習風景。


「玉入れの練習、楽しそうだな」


「そ、そうだね」


 会話を始めても、すぐに止まってしまう。

 あぁ、早く授業が終わってくれないだろうか。

 それにしてもこれがあと、数回あると考えるだけで憂鬱だ。次は学年での全体演習らしいが、その後でクラスで練習する時間も用意されている。その時は他クラスもいるため、綱引きの練習なんかもできるようだが、どうせその後に今日のような時間が作られる。その日は多く時間がある分、障害物競走などは実際の道具を使い、練習できるそうだし、大勢は何かとやれることがあるのだろう。

 あぁ、本当に憂鬱だ。


 そんな真っ暗な未来を想像する中、俺の頭に一筋の天啓が舞い降りる。


「そうだ!」


 せっかくだし、次の体育が長時間ある日はサボるとしよう。

 


本日はここまで。明日もまた何話か(多分、3、4話)投稿します。すでに書き終えている一年生一学期『失われた沽券編』が終わるまでは、こんな調子でどんどん投稿しますので、ブックマークや高評価をしてただけると嬉しいです。励みになります。

ここまでご拝読くださり、ありがとうございました。

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