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03 苦戦の予感がします


 ◇


 帰りのホームルーム。

 俺は担任の話を聞きながら位置情報の権能を発動するが、その時にはすでに、紫藤先輩のものと思われる位置情報は見えなかった。

 つまり、すでに一キロ圏内に彼女はいないということ。

 まだ帰宅の時間ではないし、少し早めにホームルームが終わったとしても、もう一キロ以上動いたとは考えにくい。


「帰ったのか」


 噂通りの自由人。赤井の話の信憑生が増してくる。

 でも、俺もここで引くわけにはいかない。

 紫藤先輩に関する情報を少しでも得るため、向かったのは三年生の靴箱だった。

 そこで、紫藤先輩と同じクラスの女子に声を掛ける。

 クラスに関する情報を赤井から入手した甲斐があった。

 三年五組の教室に行っても良かったが、ここの方がずっと目立たない。

 どちらにせよ、変な噂が立つ可能性は否めないが、多少の恥は覚悟の上だ。

 何せ、命がかかっているのだから。


「えっ、純玲ちゃんについて?」


「はい。お話ししたいと思っていたんですけど、すでに教室にはいないようですので」


 相手は先輩なため、慣れない敬語でそう尋ねた。


「なになに? ひょっとして、あれな感じ? でも残念、彼女、女の子にしか興味ないらしいから」


 本日二度目の同情の目を向けられる。

 しかし、青葉とは違い、彼女の表情からは苛立ちは覚えない。


「そ、そうですか。ちなみに、授業を抜け出すなんてことは頻繁にあることなんですか?」


「まぁ、自由人だからね。先生方も困ってるみたいだよ。でもほら、成績は優秀だし、なんか噂じゃ事情もあるみたいだから、手を焼いているらしいよ」


「噂、ですか?」


「うん、でもそれが正しいかどうかわからないし、面白半分でする話じゃないから、私からは何も言えないけど」


 俺としては面白半分じゃなく、文字通りの命懸けなのだが。ここまで見知らぬ他人の会話に付き合ってくれただけでも感謝すべきだろう。

 いつまでも引き止める訳にはいかない。


「そうですか。ありがとうございました」


「いーえ、あっ、どうしても会いたいなら、駅周辺にいるかもよ。前に、学校サボった子が、昼間にゲーセンでばったり遭遇したって聞いたから」


 この高校の最寄りの駅は大きく、周辺は結構栄えており、学生が遊べる場所も色々とあった。駅から直接ショッピングモールまでの道がつながっていたり、それ以外にもいくつか商業ビルが駅近辺には立ち並んでいる。

 高校近辺までくると住宅地になっているため遊ぶ場所は少ないが、駅近辺なら退屈はしないだろう。飲食店も多いし、サボって遊ぶにはうってつけの場所だ。


「駅、か」


 先ほど、質問に答えてくれた名も知らぬ女子高生の背中を見送りながら考える。

 今から駅に行ってもいい。

 この時間、駅は学生でごった返していることだろう。もう少しすれば、社会人も姿を見せるはずだ。

 しかし、俺には位置情報の権能があるため、どれだけの人ごみの中でも彼女が駅周辺にさえいれば見つけられはする。


「最悪、姿だけでも確認できれば、くらいの気持ちで行くか」


 俺の家は駅方面ではなく、高校から歩いて二、三十分のところにあるため、今から駅に行けば帰りは遅くなるが、それを承知で俺は駅まで向かう。



 ◇


 土曜日の午前十一時頃。

 俺はベッドの上で仰向けになりながら天井を眺め、今後について考えていた。

 まず、昨晩だが、駅には向かったものの彼女はそこにはおらず、すぐに家へと帰った。

 先日の件で、両親は俺のことを心配しているし、犬の散歩もある。

 ヒロインがないなら、駅に長居する理由はない。

 

「今のところ、手がかりなし、か」


 得体の知れないヒロインに、不安を覚える。こうしている間にも、タイムリミットは迫っているのだ。

 犬の散歩をしていて、ばったり偶然!なんて、フィクション作品ならあり得なくもない展開も期待したが、そんな都合の良い展開が起こることはなく。

 今朝の散歩もいつもと変わらず、無事に終わってしまう。


「サボり魔と、高確率で遭遇する方法ね」


 ネットで探そうかとスマホを握り、アホらしくなり、手放す。

 検索するだけ無駄なことくらい、少し考えればわかることだ。


 こうして天井を眺めながらしばらく考えたものの、結局いい案は思い浮かばなかった。

 唯一、分かりやすく、手っ取り早い方法として、昼間にサボって駅周辺を彷徨く手もあるが、その場合、どう話しかければいいかという壁にぶち当たる。

 それにサボりが一日で済むとは限らないという問題もあった。

 たまたま俺がサボった日に、彼女が駅近辺にいるとは限らない。

 彼女の卒業まで時間はそう多くないが、紫藤純玲から着手するのは困難だと、ひとまずは諦めざるを得なかった。

 少なくとも、祝日にできることはないだろう。


 とは言え、こうして何もせず、普段のように家でど読書やゲームをする気にもなれなかった。

 気分転換に遠出したいが、先日の入院の件もあって遠出はしにくい。

 医者は問題ないというが、親が相当心配している。


「そうだ。学校の図書館にでも行くか」


 誠叡(せいえい)高校の図書館は、土日でも開館しており、読書だけでなく勉強場所としての需要もあるため、祝日に来る生徒は決して少なくはなかった。

 静かだし、空調も効いている図書館は勉強をする場所としては悪くない。


「学校なら、運に恵まれれば他のヒロインに関する情報が手に入るかもし」


 よし。

 そうと決めるや否や、俺は制服に着替え、昼食を食べてすぐ家を後にした。



 十三時頃、俺は高校の門をくぐった。今、高校の敷地内にあるヒロインの数は三人。

 うち一人は青葉だ。彼女は土曜日も部活に励んでいる。

 全国を目指すような部活だけあって、気合の入り方が違う。


「ふむ……」


 少し、様子でも見てみるか。

 つい忘れそうになるが、一応、彼女もいつかはなんとかしなければならないヒロインだ。

 様々な練習場が併設する第一総合体育館に足を踏み入れ、バレー部の練習場まで向かう。

 すると、ちょうど休憩中の青葉を見つけた。

 先ほどこの体育館前で買ったスポーツドリンクを片手に青葉の元に近寄る。


「お疲れ様」


「えっ、何? ストーカー?」


 タオルで汗を拭いながら休む青葉。

薄手の練習技も見慣れているせいか、青葉の場合は特別思うところはない。


「違う。図書館まできたついでに、様子でも見ようと思って。それと」


 未開栓のスポーツドリンクを手渡す。

 購入したばかりのペットボトルはひんやりと冷たく、もう周囲に水滴をつけ始めている。 


「ふーん、そっ。ありがとね」


 そんなやりとりをしていると、俺の知らない女子が近寄ってきた。青葉も平均よりは少しだけ背が高いが、それよりずっと高身長だ。

 流石はバレー部、彼女以外にも背の高い女子がちらほら目に入る。


「あれ、ひょっとして彼氏さん? 学校ない日にもきてくれるなんて、優しい彼氏さんね」


 本気か、あるいは冗談か、どちらとも取れる言い方だった。

 俺が反応するよりずっと早く、青葉は冷静に言葉を返す。


「先輩、違いますって。こんなのが私の彼氏なわけないでしょ?」


 こんなの……ね。否定する分には構わないし、むしろ、否定は妥当なのだが、もう少し他に言い回しがあったのではなかろうか。

 青葉のあまりにも酷い言い方に、先輩と呼ばれた女子も可哀想な目でこちらを見ている。


「あんまり、邪魔してもアレだし、目的は図書館だからな。もう行く」


「そう、別に私の部活が終わるまで待ってなくてもいいからね?」


 嫌な笑みを浮かべながらそう言う青葉に「心配せずとも待たない」と返し、俺は本来の目的である図書館へと向かう。


次は17時に投稿する予定です。

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