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02 先輩ヒロインは究極的自由人

 

 ◇


 私立誠叡(せいえい)学園高等学校。

 勉強でもスポーツでも有名な私立の高校で、教育や設備の良さで評価が高い高校だ。

 私立なだけあって校舎も綺麗で、様々な設備が揃っている。生徒数の多さもあり、グラウンドも体育館も複数所有し、それもあってか部活動が盛んだ。


 俺がこの高校に進学した理由には、家から近いことや面倒見の良さもあるが、他にも、ここの図書館の広さとお洒落さに惹かれてだったりする。

 色々と安い公立高校とどちらを選ぼうか悩んでいたが、せっかくの高校三年間。両親に相談した結果、どうせならより楽しめる方に行きなさいと助言され、この高校に進学した。

 結果として、そうもいっていられない事態に陥ってしまったわけだが。


 自身のクラス……一年二組の教室は二階にある。

 公立の中学よりうんと綺麗な教室の、決められた席に着くやいなや、俺は位置情報の権能を発動した。

 縁結びの神様から貰った力の一つだ。

 権能を発動した瞬間、校内に四つの気配が点として表示される。

 一つは俺の前の席に座る青葉に。

 残るは同じ階に一つ、上の階に一つ、もう一つ上の階に一つ。

 今校舎にいるヒロインは一年に青葉含め二人、二年、三年に一人ずつということが見てわかった。

 

 もう一つは、始業のチャイムがなってもなお、現れることはなかった。

 今日は休みだろうか。名前さえ聞いたこがない生徒の一人なため、休み時間に姿だけでも見に行こうと決めていたのだが。

 一年生なため、後回しでもいいだろう。

 問題は三年生だ。

  

 紫藤(しどう)純玲(すみれ)

 三年生である彼女と俺に接点はない。だから、全くと言っていいほど情報がなかった。

 知っているのは、彼女が三年生であるということだけ。

 ひょっとすると部活に所属している青葉なら、何か知っているかもしれないと思い尋ねてみる。


「なぁ、青葉。紫藤って、三年の先輩知ってるか?」


 突拍子のない問いに青葉は疑問を抱きつつも、思い当たる人物が記憶にないかを探った。

 しかし、


「うーん、知らないかな。その人がどうかしたの?」


「少し気になってな」


 そんな青葉との会話に、ある男子生徒が反応する。


「えっ、なになに? おい、彩都……お前まさか、アレか! 青春的な!」


 斜め前の席に座っていたスポーツ刈りの男子、武紀たけのりが興味津々と言った様子でグイグイと身を乗り出し、尋ねてくる。笹井(ささい)武紀はこの高校に入学してからの友人で、明るく、少し抜けたところが愛嬌であり、時に鬱陶しくもある男だ。剣道部所属で、がっちりとした体格をしている。


「違う、こっちは学年と名前しか知らないんだぞ。それで好きも何もあるわけないだろ」

 

 学年と名前の情報で恋心を抱く人は、この世がいくら広いとは言えいないだろう。少なくとも、俺はそんな奴じゃない。

 武紀は俺の返答を聞くや否やつまらなさそうに身を引いた。


「なんだ、ま、そうだよな。だってお前には……」


 何かを言おうとした武紀の腹部に、青葉の肘打ちが入る。

 苦悶の表情を浮かべながら撃沈する武紀を他所に、青葉は平然と会話を続ける。


「ふーん、じゃなんで気になるわけ?」


「えっ、いや、そうだな……」


 青葉にそう問われ、返答に困る。

 理由までは考えていなかった。

 答えないのも不自然だと思い、苦し紛れの言い訳をこぼす。


「そ、その、そう! かなり可愛いという噂を小耳に挟んでだな」


「……彩都ってそんなタイプだったっけ?」


 青葉が感じている通り、柄にもないことを言っているのは事実だ。

 しかし、パッと今思いつく言い訳はこのくらいだった。

 落とし物を拾ったという言い訳は考えたが、そうなると後々、面倒な事態になりかねない。それに青葉や武紀の性格上、協力すると言い出しかねない。


「そう話していた男子校生があまりにも熱心に語るもんでな。ふと思い出して気になっただけだ」


「それなら、私知ってるよ」


 そう、隣から声をかけてきたのはふわっとした茶髪の女子だった。青葉の友人で赤井(あかい)夕陽(ゆうひ)。コミュニケーション能力に長けており、クラスで、いや、学年で最も顔の広い女子高生と言っても過言ではない。その可愛さ溢れる美貌と、一年生とは思えないスタイルの良さも相まって、まだ入学して一ヶ月と少しなのに、告白された回数は十回を超えるとか。

 ちなみに、そんな彼女だが例のヒロインのリストには入っていなかった。

 いかにも、恋愛漫画やラノベのヒロインに相応しい人物なのに、だ。

 ヒロイン全員の情報が揃ったら、一度共通点を割り出してみるのもいいかもしれない。


「紫藤先輩に興味があるって?」


「あ、あぁ」


「うーん、そうだね。あの人はなんて言うか、確かに美人だけど……」


 顎に指を当てながら何かを考える赤井。


「美人、なのか」


「二、三年の間では有名だよ。超イケメン女子で、そして究極の自由人ってね」


 三年五組、紫藤純玲。

 自由奔放な性格で、気が向かなければ授業を平気でサボり、しばらく散歩してひょっこり戻ってきたり、なんなら戻ってこないこともある。

 生徒指導の常連。


「でも、それでいて常にテストでは学年一桁、無所属でありながら運動神経抜群! 気まぐれで走った体育祭では長距離で陸部のエースを負かしたとか。サボり魔だけど、出席も最低ラインはしっかり考慮してるみたい」


 赤井の話が本当だとすれば、これはまた、随分と厄介なヒロインだな。

 一学年が六百人のこの高校で一桁となると相当な秀才だろう。この高校は設備の良さゆえ、入学にもそこそこの難易度がある。そこで一桁は大したものだ。

 それに、スポーツ推薦による入学者の多いこの高校で陸部のエースを負かす、か。


「それともう一つ、女の子にしか興味がないって話も有名だね。学年の女子を何人も落としたとか」


「そ、そうなのか」


「そう、男には興味がない。だから、彩都が気にするだけ無駄だと思うよ」


「だって、残念」


 青葉が同情の目を向けながら、肩をポンポンと叩く。


「そ、そうか」


 腹立つ表情を向けてくる青葉への苛立ちは、一旦心の奥底へと追いやる。

 それより、今は紫藤先輩についてだ。

 紫藤純玲、ね。残り時間から考えて、俺が初めになんとかしなければならないヒロインなのだが。

 これは、物凄く厄介な事態になりそうだ。


次は15時に投稿を予定してます。

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