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09 先輩、ふざけてますか!?


 部活動と同好会紹介を兼ねた対抗リレー。

 体育祭の種目の中では一位二位を争う人気種目だ。各部活、同好会に所属する生徒にとっては身内ごとだし、俺のようなそう言ったものとは無縁の生徒でも見ていて楽しめる工夫がなされている。

 他学年の、誰ともわからない人の競技を見るよりはずっと楽しい。

 余談だが、これは部活、あるいは同好会所属の二、三年が主体で、一年生の参加はあまりない。人数が不足している同好会のみ、一年生も参加するそうだ。また、部活、同好会ともに参加は各自の判断に委ねられており、明らかに非運動系の団体は不参加だったりする。

 中には、それでも参加する団体もあるが。


「先輩、がんばれ!」


 青葉が、以前体育館でお会いした先輩に声援を送る。

 各々が無理のない範囲で部活、同好会の特色を掴んだ格好で走る。そのため、俺のような無所属の人間でも、それなりに見ていて楽しめる。


「部活、か」


 今の所、ヒロイン五人の中で部活動に所属しているのは青葉のみ。

 白綾も紫藤先輩も無所属で、一人は生徒会所属。もう一人は不明だが、そもそも学校にいる様子がない。


 部活、同好会対抗のリレーをぼんやりと眺めながら考えるのは、やはり、部活に入るか否かということ。

 それもヒロインとは関係なく、自分自身のために。

 

 そんなことをしている間に、借り物競走の番が回ってくる。

 一年生の男子から始まり、次に一年女子、二年男子、の順に行われる。


「頑張ってね」


 青葉からの含みのある応援を受け、俺は席を立ちフィールドへと降りる。

 進行、兼実況を務める陽気な男子生徒がマイクを片手にルールを説明する。

 ルールは事前に通知されており、最終確認のようなものなので軽くだけ聞いておく。


  そして始まる競技。

 スタートラインへと促されるがまま着く。選手は俺含め十五人。

 七位以上は取りたいところである。

 スタートの合図と同時に、俺は駆け出した。


 借り物競走は初めに少し走らなければならないが、ここはさして重要ではない。

 百メートルほど走ると辿り着くテーブルの上には、いくつもの折られた紙が散乱していた。

 ここから適当に一枚を引く。あとはここで引いたお題に見合う人を連れ、このテーブル付近にいる審査員のもとに戻る。

 そこで、何故その人を連れてきたのか理由を述べ、審査員によりお題にの解答として適当である認められれば審査員が◎と書かれた旗をあげる。

 あとはその人と一緒にゴールまで走りクリアとなるという流れだ。

 ここで何を引くかで勝敗が決まると言っていい。

 ちなみに、審査員は審査をするだけで選手への問いかけは、離れたところにいる実況の男子生徒が行うそう。


 テーブルの前まで走った俺は、目の前に用意された大量の紙を眺める。

 当然、どれに何が書かれているか、ヒントになるようなものは何一つとしてない。

 だが、俺には自信があった。


 何せ、俺には神様が憑いているのだから。


 これだ!

 一枚の紙をつかみ、おられた紙を広くと、そこには。


「憧れの人……ゴールの時に、理由を述べること、か」


 他を見れば、好みの人という最悪の札を引いている人もいる。勿論、以前赤井の言ったように、好みをは何も、恋愛的好みだけじゃない。

 だが、ハズレはハズレだ。

 とりあえず、あれに比べればずっとマジなお題を引けたことに安堵する。


「憧れ、か」


 素直にそう解釈しても良いし、一捻り加えてもいいお題だ。

 憧れ、憧れ、憧れ……。

 そう頭の中で反芻している間に、周囲の生徒は動き出す。中には、まだ頭を悩ませている人もいるが、それも次第に数を減らしてゆくだろう。

 俺は十数秒だけ悩んだ末、自身のいた席まで戻った。

 そんな俺を見て青葉が、どこかソワソワしているのがわかった。

 そんな中、俺が指すのは、


「赤井、頼む」


「えっ、私?」


 名指しされた赤井は意外だったのか、目を丸くしていた。

 別にそこまで意外な判断でもないと思うが。


「わ、わかった」


 俺は赤井と並走し、審判のもとに戻る。

 すでに二人ほど通過しているようだが、十五組の中で三位なら良い方だろう。


『おーと、霜上選手が連れてきたのは同じクラスの赤井夕陽さんだ! お題は憧れの人、ですが……その理由は?』


 進行、件実況の男の問いに俺は答える。


「人間関係の構築が上手い、普通に尊敬する」


 実につまらない展開だろう。

 ただ、これでいいのだ。俺みたいなのが下手に意気込んで、普段しないようなことをしでかすのが最もタブー。

 実際、俺のつまらないクリアは、次から次に来る選手により、記憶を上書きされていく。選手の中には下手にいきがって慣れないことをしどすべりしている奴や、痛々しいほどいちゃつく奴もいた。

 それに比べれば、たかだかつまらないこと俺如きは、皆の記憶から消えてしまう。


「完璧だ」


 そうして個人競技を終え、俺は席に戻る。

 そこには何故か、機嫌悪そうな青葉の姿があった。

 

「何かあったか?」


「いえ、なんでも!」


 青葉はそれだけいうとそっぽを向いてしまう。

 全く、よくわからない奴だ。

 実を言えば、憧れと言われ、青葉の存在が頭に過らなかったわけではなかった。むしろ、憧れと言われ、真っ先に思いついたのは彼女だ。

 しかし、青葉に対する憧れを簡潔に言語化するのが難しく諦めた。

 その反面、赤井は言語化しやすい。

 だから紅を選んだのだが。


 武紀を見ると、何故だか落胆した様子で俺のことを眺めていた。

 なんなんだ、こいつら。


 それから一年女子の借り物競走が始める。一年生の部が終わり二年生、三年生と行われてる。

 俺としてはもうやることはほぼ終わったわけで、あとは見るのみ。

 そう思い、上げた視線に思わぬ人物を見つけた。


 女子の集団に混ざっているせいか、一層存在感の際立っている高身長の短髪のイケメン。紫藤先輩だ。

 彼女は長距離走のはずだが。


『三年五組は本来出るはずだった生徒が体調不良で出場できなくなったため、代わりに紫藤選手の出場になります!』


 進行件、実況の男子生徒が全校生徒へとそう告げる。

 そういうことか。

 紫藤先輩もクラスメイトに半ば強引に選出されたのか、どう見ても乗り気な様子ではなかった。


 しかし、やると決めた以上はしっかりと取り組むようで。

 紫藤先輩はスタートの合図がなるや否や、誰よりも早くテーブルへと辿り着き、迷いなく紙を選んだ。

 そして開いた紙を見るや否や、考える素振りさえなくすぐさま動き出す。


 流石先輩、などと呑気な考えを巡らせて、ふと気がつく。

 先輩がこちらへと近寄ってきていることに。

 三年生、それも皆にとって絡みのない紫藤先輩に、一年の多くが困惑する。男子から見ればクール美人で、女子から見ればイケメンな紫藤先輩の接近に、ドキドキと胸を高鳴られ、ソワソワする生徒も見える。

 そんな中、紫藤先輩が指名するのは、


「霜上」


 かっこいい、低音ボイスで俺の苗字が読み上げられた。そしてはっきりと視線が合う。

 紫藤先輩の紙には『最も親しい後輩』と書かれていた。一年生にはなかったが、二、三年には、先輩、後輩を指定するお題が含まれている。

 紫藤先輩は無所属で、しかもサボり魔、そのせいか同学年としか接点がない。

 しかし、二年生や一部一年生の間では有名で、そうでなくともこの美貌だ。一方的に彼女の存在を認知している人は多いだろう。

 それが一体、一年生の、これといい特徴のない俺、霜上彩都とどういう接点があるのかと、皆が困惑し、さまざまな憶測を立てている。


「彩都、知り合いなの?」


 青葉でさえ、その様子に困惑していた。


「知り合いではあるが……」


 先輩も競技の最中、待たせるのも悪いと思い、渋々フィールドまで降りる。

 そんな俺の右腕を紫藤先輩はがっしりと掴んだ。


「ほら、先輩に付き合え」


「は、はい?」


「いいからこい」


 ぐいっと体が紫藤先輩の歩む方へと持っていかれる。

 紫藤先輩に腕を引かれる俺に多くの視線が集まる。

 大勢の好奇の視線に晒され、体の至る所から、嫌な汗が流れ出ていた。

 一方、紫藤先輩は都いうと、そんな俺のことなどお構いなしな様子で、審査員のいるテーブルまで腕を引きながら進んでいく。


『紫藤選手のお題は、最も親しい後輩ということですが、霜上彩都さんを選んだ理由は?』


 実況の男が、紫藤先輩が審査員の元まで戻ったことを確認してからそう尋ねた。


「後輩で唯一、遊ぶ仲だ。一緒にメダルゲームしたり、飯食ったり、散歩したり」


 一瞬、時が止まったかのように陸上競技場は静まり返った。

 それからすぐに審査員によるクリア判定がなされ、周囲の時が動きだす。

 ざわめきはどんどんと増し、俺の顔からは血の気が引いていく。


 紫藤先輩のその言葉に嘘はなかった。

 教員の目があるため、紫藤先輩も気を遣ってか「サボり仲間」という言葉は避けるものの、俺にとっては致命的な言葉の数々を告げた。


「あ、あの……先輩?」


「別に、事実だろ?」


「いやまぁ、そうですけど」


 紫藤先輩とゴールを目指し並走し走る俺に、あらゆる方向から大勢の視線が刺さる。

 結果、紫藤先輩は見事一位を獲得するが、それと引き換えに俺は多くを失った。

 少しでも小さくあろうと背中を丸くしながら自席へと引き返そうとする俺に、紫藤先輩は告げる。


「ま、飯でも奢るから。ありがとな」


「い、いえ……」


 この会話も大勢の生徒が聞いており、俺の立場をより一層危うくさせた。

 特に三年女子たちの視線が痛い。一部の女子に至ってはすごく強烈な、もう目からレーザービームでも出てるんじゃないかと言わんばかりの殺傷力を孕んだ視線を放っている。

 自クラスのエリアに戻ったあとも、クラスメイトから好奇の視線を向けられ続けた。

 そんな中、武紀がグイグイと近寄ってくる。


「おい、彩都お前、あのクール美人先輩とどういう間柄なんだよ?」


「前にゲーセンであって、遊んだことがあるだけだ」


「マジかよ、お前は青葉という彼女がいながら……グフっ!?」


 武紀の腹部に、割とガチで怒った顔をする青葉の拳が入る。腹部を押さえ、前屈みになる武紀を見るに、相当本気な一撃だったとわかる。


「おい、青葉……俺、このあとリレー」


「あんたが、笑えない冗談言うのが悪いんでしょ?」


 そんな様を赤井は苦笑いを浮かべながら眺めていた。

 

ここまでご拝読してくださり、ありがとうございます。

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