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前編

 バチバチっと放たれた雷撃を、オレの魔法操作断絶スキルで、見当違いの場所に当てさせる。相手が人間なら驚いて怯むところだが、相手はダンジョンの魔物だ。そんなことはお構いなしに、距離をつめて襲ってくる。


 褐色毛の巨体魔物──八本角なら爪の先からでも雷撃を飛ばしてくるが、六本角のコイツは角からしか雷を出せない。角から目を離さず、魔物の攻撃を避ける。4本腕の攻撃は、スピードはあるが大振りなので、余裕でかわせる。

 オレは、得物である魔素金属製のナックルに、火魔法を纏わせた。


 よし、今だ!


 攻撃を躱した直後に飛び上がって、顔面を狙う。

 ボッと、魔物の毛玉顔にめり込んだナックルから炎が噴き出した。ヤツの全身の体毛が派手に燃えて、魔核が剥き出しになる。

 トドメの一発!サッサと角だけ残して、消えやがれ!!


 「よし!コレでノルマ達成だな──やっと上に帰れるぜ!」


 ダンジョンに潜って二ヶ月──いつもならそこまで粘らないが、今はとにかく金がいる。それに、この世界のダンジョンの休息所には一階層に転送される魔導器と、24時間以内ならその階層に戻れる魔導器があり、セーブした状態で、地上に出て用を済ませることもできるのだ。

 このダンジョンを造ったとされる古の神々は、下僕であるオレたち人間に、随分と好意的だったらしい。階層のところどころに、休息所とは別の、魔物が出ない安全地帯もあるしな。


 この国の古語で、アトラ・ティタン(巨大な人)と呼ばれる神々は、その名の通り、現代の人間の何倍もの大きさの巨神だったと伝えられている。

 その昔、大異変で過酷な状況下にあった古代人たちは、巨大な神々に仕えることで加護をもらい、その庇護のもとで大いに繁栄したのだとか。それが今でも固く信じられているのは、オレのような『加護持ち』が、時折、生まれてくるからだ。


 加護持ち──先祖返りとも言われるそれは、今の世では異質な存在でもある。


 例えば、このダンジョン。内部は、魔素が恐ろしく濃い。魔素は文明を支えるエネルギーであり、俺たちの魔法の根源だが、濃度によっては毒となる。魔素軽減の装備や魔素抗体薬無しで普通の人間が入ったら、間違いなく数時間でアタマをヤラれるだろう。

 魔素中毒だ。違法薬物並み、いや、それ以上に脳が破壊されちまう。


 中毒症状は、人によって様々だ。ハイになったり記憶がとぶ程度なら軽い方、幻覚を見たり徘徊しだすと、病院に強制入院。死亡率も高い。だが、最も重い症状は、自我の喪失だ。獣以下になっちまう。これなら、死んだ方がまだマシだったろう。

 コレらは、体内の魔素の抗体差だとも言われている。魔力がまだ安定していない子供だと、死ぬか昏睡状態になるかの二択になるというから、恐ろしい話だ。


 オレら先祖返り──加護持ちが異質なのは、どんなに濃い魔素でも影響を受けないからだ。それはそうだろう。魔力は一般人の十倍以上、体力だって五倍以上、当然、魔素抗体だって異常なほど強いからな。

 しかも、アトラ・ティタンの加護は、器にも大きく作用するものらしく、オレだって、まだ18歳前で、すでに身長が223センチもある。赤毛と緑の瞳、色彩だけは普通なのだが。

 とにかく、ガキの頃からデカかったせいで、ほとんど子供扱いされなかった哀しい記憶しかねえ。まあ、珍獣ならぬ珍人として、幼少時から有名だったこともあるが。





 ◇◇◇◇◇ 


 「ふう⋯⋯」

 ダンジョン一階層とは名ばかりの、魔物がまったく存在しない場所に転送される。古代人たちの時代には、冒険者ギルドがあるダンジョン街だったそうだが、今では廃墟となった遺跡しか残っていない。

 オマケに、ここは階層全域が昼間に設定されていので、いつだって明るい。

 オレはすぐに、遺跡内にある地上への階段へと向かった。


 ⋯⋯何だろう?何かいつもと違う感じがする。ああ、他の冒険者たちがいないからか。確かに上り下りする人数が少ない時もあるが、一人も見かけないのは、これが初めてだ。


 「ケ、ケルベル!?」


 地上へと出た瞬間、顔馴染みのギルド職員のオッちゃんが駆け寄ってきた。だが、その慌てた様子よりも驚いたことがあった。

 地上の空気が──ダンジョン内と同じような魔素濃度に──いや、それ以上に濃くなっていたのだ。

 オッちゃんも、冒険者用の魔素軽減装備を着ている。レンタル用の草臥れた物のようだが、地上でそれを着ているのは異様だ。


 「何が──なんで、こんなに濃い魔素が充満してるんですか!?」

 「五日前、突然、空が虹色になった。それと同時に、魔素が爆発的に増えたんだ。⋯⋯分かるだろう?もう、この世界はおしまいだ。正気なのは、このギルド街の魔素抗体の強い冒険者か、俺みたいな元冒険者たちぐらいだよ⋯⋯」

 「そんな⋯!?オレが先週戻った時は、ここまで魔素が濃く無かったのに!!」


 信じられない。1日だけ妹の様子見に行ってダンジョン内に戻ったが、それは、たった一週間前の話だぞ!?

 確かに数年前からこの世界の魔素は段々と濃くなって、この国もヤバい環境になっていたが⋯⋯

 それでも、政府が冒険者用の魔素抗体薬──とはいえ、急いで量産した劣化薬だが──を無料配布して治安を維持してたのに。この魔素濃度だと、意味がねえじゃねぇか!


 「そうだ、アリス!妹のところに行かないと!!」

 もはや、魔物素材の換金などしていられない。オッちゃんがさらに何かを叫んでいたが、それを聞かずに、家へと向かう。


 今の家は、二年ぐらい前に大金を支払ってまで借りた、ギルド街特区にある借家だ。途中、何人かの冒険者やギルド職員から呼び止められたが、無視した。

 大通りで今すぐ乗れる乗り合い魔導車を探したが、何故か一台も停車していなかった。


 くそっ!こんなことなら、自家用の乗り物を所持しておくんだった⋯!


 面倒くさがって魔導車や魔導二輪の免許をとってなかったことを、今になって後悔する。

 恐ろしく静かな大通りの様子に、イヤな予感が増した。

 急がなければ!

 アリスにもしものことがあれば、オレは、たった一人残された家族を喪うことになる。




 両親とオレと妹。どこにでもある平凡な家庭が壊れたのは、オレのせいだった。


 産まれた時から体が大きく、2歳になると、医者や周囲の人間から普通なら6歳で受ける筈のステータス検査を受けた方がいいと勧められた。そして、受けた結果、先祖返り──アトラ・ティタンの加護持ちであることが判明した。


 この国の加護持ちは、平均して80年に一人は生まれるというが、オレは120年ぶりの誕生だっただけに、一時期、大いに世間を騒がせた。

 新聞が派手に報道したせいで窮屈な生活を送っていた両親は、当時住んでいた大きな街を出て、小さな田舎町へと移住した。そこで妹のアリスが産まれ、しばらくは平穏な生活をしていたが、オレは当時から体のデカさだけじゃなく、魔力量が膨大で、他者を威圧するような気配持ちだったから、とにかく悪目立ちしちまった。

 初等学校に入った時、オレの肩ほどの背丈の上級生らしきヤツにからまれた。


 『デカくて皆に期待されてるからって、いい気になるなよ!』


 呆気にとられたが、後から考えると、そいつはまだ一人で直接オレにイヤミを言ってくる度胸があった。他の連中は、集団で悪意を持って噂するか、逆にすり寄ってくるかのどちらかだったからだ。


 加護持ちは、その性質上、どうしてもダンジョンの冒険者になることが多く(まあ、魔素軽減の装備服や魔素抗体薬無しでも平気だから仕方ねぇが)一攫千金率の高い者として認識される一方、魔力の高さ故に、軍人、つまり国の戦力としても期待されていた。

 実際、現在のダンジョンのギルドマスターは、オレの前に生まれた加護持ち、その前に生まれた加護持ちは、現役の軍のトップ。その人は確か⋯⋯もう200歳以上の超高齢だった筈だ。


 加護持ちは、魔素濃度に左右されない他にも、もう二つの特性がある。

 一つは、子孫を残せず一代限りだということ。そして、二つ目は、その代わりなのか、とにかく寿命が長いということだ。

 普通の人間の平均寿命は、80歳前後。ところが加護持ちは、250歳前後だと言われている。

 過去の記録には、300歳超えもいた。しかも、外見上は150歳ぐらいまで青年と言えるほどの若さを維持できる。女なら、さらに若く見えるという。

 女⋯と言えば、悪い意味で一番有名な女の加護持ちは、この国の歴史上の三大悪女の一人、ヒルダ女王だ。


 千年以上前の女王で、当時の王家に生まれた初めての加護持ちだった。

 王家には王子たちもいたが、王妃腹でしかも縁起がいいってことで、彼女が王位に就いた。条件として、在位は50年。それ以降は、他の王族に王位を譲ることが決まっていた。

 ところが、彼女は50年を過ぎても王位を譲らず、段々と感情的な政治を行うようになってきた。

 それまで彼女を支えてきた臣下たちが、引退したり、亡くなったりしたことで、彼女に意見できる者がいなくなってしまったからだ。

 身勝手な思いつきで法を変えたり、他国に攻め込んだりして失敗したり──やがて、貴族からも国民からも反感を買い、最後はどこかに幽閉されちまったと伝えられている。


 加護持ちは、良くも悪くも何らかの形で、この世に痕跡を遺す──そして、利用価値があると思われている。


 今から七年前──両親と妹が、隣国の犯罪組織に誘拐された。家族には国からの警護がついていたが、彼らは全員、あちらの加護持ちにあっさりと殺されていた。

 そう。そいつは、加護持ちでありながら犯罪組織のボスでもあったのだ。奴の狙いはオレだったが、直接だと自分たちの被害が大きくなると思ったのだろう。だから、家族を狙った。


 オレは当然、そいつに従うしかなかった。だが、国は──上の連中は、それを阻止した。隣国と話し合い、その結果、あちらのボスと犯罪組織は、隣国の軍によって壊滅したが、両親は死体で見つかった。

 組織に入りこませていた密偵が、救出を失敗したのだ。

 妹が無事だったのは、加護持ちのボスの養女が、妹を連れて軍に助けを求めたからだ。

 幼い妹を哀れに思ったのか、我が身可愛さだったのか⋯⋯それはわからないが、とにかく妹──アリスだけは無事だった。


 オレが加護持ちじゃなければ、父さんも母さんも、そしてアリスも、普通に暮らせたのに⋯⋯


 それからのオレは、とにかく、アリスに尽くした。安全のため、しばらくは軍の直轄施設で生活していたが、15歳で学校を出て冒険者となり、金を稼ぎまくって独立した。今じゃA級のトップだ。(現在、S級がいないため、筆頭冒険者扱い)


 アリスに何不自由のない暮らしをさせて、罪を償いたかった。家だって、二年前、魔素の濃度のせいで世の中が不安定になったからと、大金を支払って、ギルドマスターの家もある比較的安全なギルド街の特別居住区域に引っ越したのだ。


 だから、きっとアリスは無事だ──でも、家にいなかったら?


 最近のアリスは、反抗期なのか、危険だというのに、ちょくちょく外へと出ていた。一年ほど前から学校でさえ安全ではなくなって、長期休校となっているのにだ。


 「!?」


 借家に近い公園前の道で、オレは足を止めた。何匹かの大きな動物が道を塞いでいたからだ。

 何処かの動物園から逃げ出した動物なのか?いや、この顔は──まさか犬か!?


 信じられない。大型犬の三倍の大きさだぞ!?確かに、濃い魔素によって動物たちの体が急激に大型化し始めて、その上、凶暴になったことは実際に見ていたから知ってはいたが、ここまでデカくなっているとは!

 警察や軍は何をしている!?人を襲うようになった奴らの処理は、彼らが行なっていた筈だ!


 「グルルルル!!」「ヴヴヴ!」「グル⋯!」


 三匹の巨体野犬が、オレに向かってきた。


 急いでる時に、面倒な!!


 オレは殺気を漲らせる。地上の獣なら、これだけで尻尾を巻いて逃げるからだ。

 「!?」

 奴らはまるで怯まなかった。勢いよく、飛び掛かってくる。驚いたが、同時に察した。

 ──防衛本能が無くなってやがる!!

 ダンジョンの魔物と同じだ。力の差があっても身を護るという思考がねえから、威圧は意味がない。だったら──


 オレは魔法を使わず、力任せに、奴らをその辺の壁に放り投げた。壁にめり込んだ三匹は、もう動かない。


 くそ!時間を無駄にした!!

 また、すぐに走り出したが、「ヴオオオーン!」と、背後から犬の遠吠えが聴こえてきた。まずい!生き残りが、仲間を呼んでいるのか!?

 しかし、そんなことにはもうかまっていられない。オレは、ようやく辿り着いた家のドアを、勢いよく開けた。


 「アリス!アリス!!」


 返事がねえ。外に行ったのか!?その時、家の庭の方で大きな物音がした。

 「アリス!?」

 高く伸びた雑草だらけの庭に出る。先週帰った時に刈ったから、キレイな地面だったのに⋯⋯。


 「アリス!!」

 アリスはいた。だが、様子がおかしかった。オレに反応していない。無視してるだけならいいが、表情がねえ上に、裸足でウロウロと雑草だらけの庭を歩き回っていた。体も服も、それほど汚れちゃいねえから、アリスがおかしくなったのは、二、三日前ぐれえからかもしれない。


 魔素中毒だ。特級の魔素抗体薬でも効果が無くなったのか!?そりゃ、アリスはオレと違って魔力は微々たるモンだったが、魔素軽減の特注ペンダントやブレスレットも身に着けていた筈だ!

 だが、オレは愕然とした。ペンダントとブレスレットが無い!?


 オレは、アリスを抱えて家の中に戻った。さっきは気づかなかったが、家の中が荒らされている。魔素抗体薬は──無い!


 なんてことだ⋯⋯オレがダンジョンに戻った後に空き巣にでも入られたのか!?特区の警備の奴らは、何をしてる!?

 そこで、今さらながら気づいた。特区の門が開きっぱなしだったことに。いつもなら入る際には、警備員のチェックを受けるのに、今日は──


 とにかく、ここも安全じゃねえ。まだ頭がまともな人間がいるギルドに近い場所に行こう。オレはある程度の荷物をまとめると、呆けているアリスを背負って、ギルドへと向かった──。







 ◇◇◇◇◇


 「──もう、頭が正常なのは、儂とお主らだけじゃな」

 「でしょうね⋯⋯」

 加護持ちの最高齢であるドモスの爺さんと、いつもの会話をする。爺さんといっても、外見は四十代にしか見えないが、心は確実に老いているのだろう。最近は、同じ会話しかしていない。


 あれから三年──魔素抗体薬の備蓄が底をついた頃から、このギルド街の冒険者たちでさえ、頭がおかしくなっちまった。そりゃ、そうだな。魔素が少しも薄まらねえんだから。

 マトモなのは、加護持ちであるオレと、ここのダンジョンのギルドマスターのシュオレンさん、そして、元将軍のドモス爺さんだけだ。


 その軍も警察も──国でさえ、もう機能していない。かといって、物語や映画なんぞでよくある無法世界でもねえ。というか、そっちの方がまだマシだったかもな。

 人間は廃人化してゾンビのように彷徨い、動く物をとにかく攻撃してくる巨体化した動物や虫たちが徘徊し、ビルの如く高く伸びた木や大量の草や花が地表を覆う、もう混沌としか言いようのないこの状況よりは。


 ⋯⋯アリスのペンダントとブレスレットは、二年ほど前に見つけた。

 警備員の服を着た中年男の死体に寄り添いながら座っていた十代の少女の首と腕に、それらはあった。薬がきれ、ペンダントやブレスレットだけでは、もうダメだったのだろう。彼女もまた、自我を失っていた。

 オレは、男の死体を埋めてやった。思うところはあるが、オレがこいつの立場だったら、同じことをやっていただろうから。




 「では、私は、外で食料を探してきます。これまでよりも遠くに行くので、しばらく戻ってこれませんが──もし、一月経っても帰ってこなければ、死んだものとして下さい」


 外見は二十代半ばで、長身ではあるがやたら顔がいいシュオレンさんがそう言って、ギルド本部の建物から出て行った。

 外は危険だが、ダンジョンの魔物に比べればってレベルなので、当然、オレたちは一人でも平気だ。だが、過剰魔素で変異した動物の中に魔物並みの強さになったヤツもいて、近頃は絶対に無事だとも言えなくなってきた。

 それでも外の──火事や台風なんかであっという間に廃墟となった街々で、食料探しをしなきゃならねえ。オレたちは過剰魔素中毒者()()()()から、食いモンや睡眠が必要なのだ。


 そう。まさか過剰魔素中毒者が、食料と睡眠を必要としないとは思わなかった。

 今でも生き残っている中毒者たちは、アチコチで徘徊したり、奇声を上げたり、うずくまったりしているが、体だけはピンピンしていた。シュオレンさんの推測によると、過剰魔素で魔素を取り込む器官が急速に発達し、魔素を栄養として得ているのではないかというのだ。

 ただ、雨水を口にしていることから、生命維持には水が必要不可欠らしい。そこだけ、人間のままなんだな。


 「アリス⋯⋯」


 アリスは相変わらず、ボーッとしていた。奇声を上げることもないが、声を発することもない。ただ、唯一、風呂だけには反応した。水やお湯を張っとくと、中に入って水をすくう動作をするのだ。


 何処かにホンの少しだけ自我が──魂が自由になる部分があるのかもしれない。この頃にはもう介護職員精神になっていたオレは、妹の裸体に関しても無になっていたから、こまめに風呂に入れてやった。

 食料調達と妹の世話、それ以外は暇だった。もう金を稼ぐ必要もねえから、ダンジョンに潜ってもねえ。だから何となく、アリスが愛読していた小説を読んでみた。


 ⋯⋯恋愛モノ?復讐モノ?⋯⋯どっちだ??

 婚約破棄されて捨てられた令嬢が、もっと権力のあるイケメンに惚れられて幸せになり、元婚約者や横取り女が破滅する──


 ⋯⋯いや、まだ婚約段階でフラれるんだから、別にいいだろ?人には好みつーもんがあるからな。てか、なんで貴族や王族モノばっかなんだ?君主制なんて、何百年も前の時代だよな。ああ、女の服がフリフリの華やかなドレスだから、憧れがあんのか?


 次の本も、その次の本も──同じパターンの物語だった。

 なんでそこまでやるんだろう?オイ、オイ、コッチは二人まとめて処刑かよ。男アホ過ぎ、略奪女の思考は⋯狂人クラス?

 アリスは面白いと言っていたが、オレにはどれも理解できねぇ。特に、悪役どもの処罰には、やり過ぎの理不尽ささえ感じるのだが?

 おっ、これはちょっとテイストが違うな⋯⋯死に戻りねえ。あ、内容は似たようなモンだな。どっちにしても、女って怖えぇ。


 なんだかんだで、暇つぶしにはなった。






 ◇◇◇◇◇


 それからまた一年──食料を求めて外に出たオレは、化け物を見てしまった。


 直立歩行の、やたらに尻尾がデカい⋯あ、リスか!リスの化け物だ!しかも体中が花だらけ──オレはまた、魔獣化した動物が過剰魔素で進化したのかと驚愕した。

 だが、そいつは何かブツブツと言葉を発しながら、フワリと宙に浮いた。⋯⋯魔法を使ってやがる。魔物!?


 いや、でも、ここは地上だし──あ、もしかして、宇宙人!?そうか、とうとう宇宙人がこの星に⋯⋯


 オレの頭がおかしくなった訳ではない。

 実は、オレは半年ほど前、少し離れた街の倉庫で食料(カンヅメ)を漁っていた時に、十五センチほどの小人を見たことがあり、それもあって常識のハードルがかなり低くなっていたのだ。


 小人伝説は世界各地にあるから知っていたが、まさか本当にいるとは思っていなかった。だけど、今のこの世界の状況だってあり得ねえだろ?数年前までの常識なんて、嘘っぱちばっかだ。

 だからか。それとも、この生活に疲れて絶望していたからか──オレは、隠れていた建物の中から出て、花まみれのリスに話しかけた。


 「ようこそ、この狂った世界へ!!」

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