出発
村のはずれに老夫婦が住んでいた。
ある日、お婆さんが川へ洗濯にやってくると
上流から大きな桃が・・・・
いや、桃型の救命カプセルが流れてきた。
お婆さんはそれを家に持って帰り
お爺さんと一緒に恐る恐るハッチを開けると
中には小さな男の子が気持ち良さそうに眠っていた。
そばには手紙が添えられており、そこには
「わたしにはこの子を育てることができません
この手紙を手にした心優しいそこのあなた
どうか代わりにこの子を立派に育てて下さい
宜しくお願いします。」
老夫婦は、なんて無責任な親だと一瞬怒りがこみ上げたが
「こんな親に育てられるよりはマシだろう」と
腹を括ってこの男の子を自分たちの孫として育てることにした。
桃のカプセルに乗っていたことから「桃太郎」と名付けた。
そして早、十数年・・・。
桃太郎は立派に成長し、16才になった。
しかしながら不況で仕事が見つからず
家の畑仕事を少し手伝いながら
鬱々とした日々を過ごしていた。
ある日、暇なので町へ出掛けてみると
通りに掛けられた立札に人が沢山集まっているのが見えた。
桃太郎:「なんだ?何かあったのかな」
桃太郎は立て札に近付き読んでみた。
「鬼退治の猛者を募集中
我こそはと思うものは鬼ヶ島へ集え」
最近、近隣の町や村では鬼達による
窃盗や強盗、暴行、傷害などの被害が急増していた。
中々討伐できずにいた領主は
ついに一般人にまで範囲を広げて
有志を募り始めたようだ。
桃太郎:「鬼退治かぁ・・・仕事は見つからないし
家でゴロゴロしてるのも
じいちゃんとばあちゃんに申し訳ないしな
幸い腕っぷしには少し自信あるからな
ちょっと行ってみるか・・・」
そう呟いた桃太郎の背後から誰かが声を掛けてきた。
ポチ(犬):「アニキ、鬼退治にいくのか?
じゃあ俺も連れてってくれよ
俺だって退屈なんだよ」
桃太郎の家で飼っている犬のポチだった。
5年程前に空腹で野垂れ死にそうだったところを
桃太郎に拾われて以来住み着いている。
桃太郎:「なんだお前、また勝手に町に来てたのか?
鬼退治ってのは遊びじゃないんだぞ
命がけで鬼と戦わなくちゃならないんだ
ちゃんと判ってんのか?」
ポチ:「もちろん判ってるよぉ
絶対役に立つからさ、いいだろ?」
桃太郎:「んー、あんまり役に立ちそうには思えないけどな
でも、ま、いないよりはマシか
よし、じゃあ一緒に行くか」
ポチ:「やったぁ、そう来なくっちゃ、さすがアニキ」
桃太郎:「全く、調子のいいやつだ、でも
出掛ける前に爺ちゃんと婆ちゃんに言っとかないとな」
家に帰ってきた桃太郎とポチは
お婆さんのところにやってきた。
桃太郎:「ただいま、婆ちゃん」
お婆さん:「おー、桃太郎、なんだポチと散歩に行っとったんか?」
桃太郎:「あ、いや、町で偶然会ったんだよ
コイツまた勝手に町に行ってたみたいなんだ」
お婆さん:「おぉ、そうだったんか
ポチ、お前まさか、また悪さしとらんだろうな?」
ポチ:「(ギクゥ!)だだだ、大丈夫だよ
もう悪さなんてしないよ」
お婆さん:「本当か?
もう頭下げて回るのは嫌だからな
もし今度悪さしたら一生外出禁止にするからの」
ポチ:「わ、分かってるよぉ
もう、婆ちゃんに迷惑かけたりしないよぉ」
お婆さん:「フン、だと良いがの」
桃太郎:「それより婆ちゃん、爺ちゃんいるかな?」
お婆さん:「ん、ああ、チョット用事があってな
さっき出掛けたよ」
桃太郎:「そうなんだ・・・
じゃあ爺ちゃんには後で言えばいいか
実は俺、ポチと一緒に鬼退治に行くことにしたんだ
仕事も見つからないし
何か人の役に立つことが出来ないかなって思って」
お婆さん:「そうか、もうお前も立派な大人だしな
自分の好きにしたらいい」
桃太郎はお婆さんには反対されるのではないかと
予想していたのであっさり認めてもらえたことに少し驚いた。
桃太郎:「あ、ありがとう婆ちゃん
どこまでやれるか分からないけど、俺頑張ってみるよ」
お婆さん:「お前が鬼を退治したら婆ちゃんも鼻が高いのう
気負わず精一杯頑張って来い」
ポチ:「婆ちゃん、俺も一緒に行くからな
アニキと一緒に俺も英雄になるぞ」
お婆さん:「足だけは引っ張るなよ」
ポチ:「ひでぇよ婆ちゃん、俺だってこう見えて
結構役に立つのに」
そのとき、入り口の戸を開ける音がした。
お爺さん:「帰ったぞー」
お婆さん:「おぉ、爺さんおかえり
爺さん、桃太郎が鬼退治に行くそうだ」
お爺さん:「鬼退治? そりゃまたどうして?」
桃太郎:「俺ももう16だし
そろそろ何かしないとなって・・・」
お爺さん:「そうか・・・それで、いつ行くんだ?」
桃太郎:「うん、明日出ようかと思ってる」
お爺さん:「明日か、またずいぶん急な話だな」
桃太郎:「ごめん、一人で勝手に決めちゃって・・・」
お爺さん:「いや、良いんだ・・・
あ、そうだ、少し待ってろ」
そういうとお爺さんは外の物置小屋へいって
何かを探し始めた。
お爺さん:「おぉ、あったあった、これだ
ずいぶん放ったらかしだったからな
錆びてなければ良いんだが」
戻って来たお爺さんは古びた細長い箱を桃太郎に渡した。
桃太郎:「爺ちゃん、なにこれ?」
お爺さん:「開けてみろ」
桃太郎がゆっくりと箱を開けると中には
立派な刀が入っていた。
桃太郎:「爺ちゃん、これ・・・」
お爺さん:「鬼を退治するんなら
素手という訳にはいかんだろう
そいつを持って行け」
桃太郎:「でも、これ凄く高そうだよ
爺ちゃんの大切な物なんじゃ・・・」
お爺さん:「気にするな、物置で埃をかぶっているより
お前に使ってもらった方が刀も嬉しいだろう」
桃太郎:「ありがとう爺ちゃん
俺きっと鬼を退治してみせるよ」
翌朝、準備を整えた桃太郎はお爺さんとお婆さんに
出発の挨拶をした。
桃太郎:「じゃあ、行ってくるよ」
お婆さん:「途中で腹が減るだろ、これを持って行け」
桃太郎:「これは?」
お婆さん:「吉備団子だよ、力が出るだけでなく
疲労回復にも効果があるからの」
桃太郎:「ありがとう、大事に食べるよ」
こうして桃太郎は育ての親である老夫婦に見送られながら
愛犬ポチと共に鬼退治に出かけた。