もる子とシェアハウス2
「シェアハウス」
「は?」
「シェアハウスさせてくださいって頼んだら、いいよって」
「...えー...七億兆万院さん、お金持ちなんだから家あるでしょ...消しゴムインゴットで家買えるでしょ...」
「買えない。あとあんまり家にはお金かけないタイプ」
「人んちのことお金かけないとか言わないでくれない?」
七億兆万院さんから飛び出たシェアハウスの一言。あまりにもフットワークの軽いお婆ちゃんのムーブにもる子ちゃんは少し引いてしまいました。
「というわけでよろしく」
「いや、いやいや...。おかしいでしょ」
「まあ、お茶菓子でも食べて」
「うちのだからそれ」
「ぽたぽ◯焼きは神」
「私のだからそれ」
七億兆万院さんはマイペースにもバリバリと煎餅を貪っています。
それにしてもシェアハウス、七億兆万院さんとシェアハウス。借金型になにをされるかわかったものじゃありません。
「七億兆万院さん。なんわざわざシェアハウスしようと?」
七億兆万院さんは「うーん」と少し考えてから、言い淀んだように「なんとなく...」
と言いました。
「なんとなくでそんなこと決めないでくださいよ...それに、いくらお婆ちゃんが良いと言ったとしても、そんなに広くない家なんですけど大丈夫なんですか」
「改装しといた。きて」
そういうと七億兆万院さんはすくっと立ち上がり、もる子ちゃんの脇を抜けて玄関の方へと向かいます。
扉を開けるとまるで既に我が家かのように、「こっち」と気だるげながらも少し輝いた瞳で手招きをしました。
「まずはここ」
「何も変わってないですけど」
到着したるは玄関から繋がる廊下でした。
あるの外へ続く扉と階段、そして階段下の収納くらいです。
「靴箱を高級品に変えておいた」
「いらないでしょそれ...」
確かにいつもより靴箱がきれいになっていました。よく磨いてあるようでピカピカと輝いているようにも見えます。
「プレゼントなのに」
「よりによって靴箱って...」
「ダイヤモンド製で7000万するよ」
「いるいる!ありがとう七億兆万院さん!」
もる子ちゃんはどう見ても木製の靴箱飛びつくと七億兆万院さんに尋常じゃない謝辞を示しました。
触り心地はまるでかったいかったい岩のようでした。これからは家宝ですね。
「つぎはこっち」
そういうと素っ気なく七億兆万院さんは廊下の突き当り、先程2人がいた今とは別の扉、奥座敷兼衣装部屋を開きました。
「ここをクワガタ専用部屋にしました」
置いてある洋服棚などはそのままに部屋一面がふかふかの腐葉土、まるで原生林を思わせるような樹木の数々、どこか懐かしい夏の香りがする、まるで外にいるかのようになっていました。
「待て待て待て待て!自由すぎる!自由すぎるだろ!」
「次は」
「なに次進もうとしてんだよ!」
「? クワガタ部屋」
「そんな限定的部屋ねえよ!虫かごにでも入れとけ!そもそもこれ部屋か!?アマゾン奥地かと思ったわ!」
「オウゴンオニクワガタのヒジキも喜んでるから」
「独特なネーミングセンスだな!どうするんですかこれ!先に送ってた私の制服樹液でダバダバじゃないですか!」
「1番染みそうだったから」
「ここまで原生林作り出せるなら他の選択肢あっただろ!もっと気遣え!」
「バスタブもこっちに移動しといたよ」
「原生林にバスタブ置くんじゃねえ!!畳腐るだろ!!広がるんだよ腐葉土がよ!」
「まあこんなもんかな」
「こんなもんで済ませられる改築じゃないんですよ...というよりもよく学校から帰ってここまで済ませられましたね...もとより改装してほしくないんですけど...」
「コンコルドで登下校してる」
「そこまで距離ねえだろ!」
「ちなみに家の裏手が飛行場になってる」
「なってる、ですむ工事量じゃねえ!近隣住民よく許可したな!」
「市中全戸に2億ずつ配った」
「その金銭力を別のことに使え!原生林以外に!」
「今度こそ大きいとこは終わり」
「もう疲れましたよ...」
そんな愉快なやり取りをして、2人はもとの居間へと戻りました。
「ということでよろしく」
「はあ...」
七億兆万院さんはマイペースにも再び新聞を読みながら茶菓子を食べ始めました。
もる子ちゃんは半ば諦めてシェアハウスを許容しかけていました。もっとも7000万の靴箱がを貰っていますからそこまで嫌だなあと思っていないのかもしれません。
いやいやながらも3人の共同生活が始まってしまいそうです。
3人...?
「七億兆万院さん」
「なに」
「お婆ちゃんはどこ?」