もる子とシェアハウス1
満身創痍、疲労困憊、百孔千瘡、精疲力尽。高校デビューさながらギリギリ犯罪者デビューを逃れたもる子ちゃんは疲れ果てていました。
今は初登校を終えて帰り道、クソでかい川に沿って土手を歩いている真っ最中。
ホームステイ先のお婆ちゃんの家は学校から近からず遠からず、歩くには少しばかり嫌な距離です。
授業中に現れたデモの団体はいつの間にか身を引いていて、家の前をディスコにされる心配はなくなりましたがまだまだ心配は止むことがありませんでした。
「つかれた...」
転校初っ端から国宝を破壊し、250億円の借金を負わされ、廊下に立たされ、悪目立ちをし、オウゴンオニクワガタを見せられれば誰だって早く家に帰って泥のように眠りたいに違いありません。
1時間目を廊下で過ごし、やっとの思いで教室内へと戻れた2時間目以降もクラスメイトは妙によそよそしく、誰からも話しかけてもらうことはありませんでした。
もしかしたら皆さんSNSやニュースサイトを見ていたのかもしれませんね。
やっぱりもる子ちゃんの転校デビューは失敗に終わってしまったようです。
ですが幸運にも明日は土曜日です。ゆっくり休むことができれば良いですね。
今日あったことを振り返りながらもる子ちゃんは家路につきました。
「ただいま。おばあちゃん。」
久々の祖母の家は昔と変わらず古臭く、どこかノスタルジックを感じるごくごく普通の一軒家です。
不用心にも鍵のかかっていない玄関を開けると、もる子ちゃんはお婆ちゃんに声をかけました。
しかし返事はありません。
田舎の不用心だからといって鍵を開けたままお出かけするほど平和な土地ではありません。
あれ?と思いながら靴を脱ぎ、もる子ちゃんは居間へと向かいます。
畳座敷の八畳間、キッチンと客間と繋がったそこでは誰かが座って新聞を読んでいました。
「おかえり」
「...うん...ただいま」
お婆ちゃんに久しぶりに会えたのにもる子ちゃんはなんだか少し怪訝そう。
それにせっかく久々に訪れた孫娘を喜ばしく迎え入れることもなく、そっけない態度のお婆ちゃんですね。
「ねえお婆ちゃん」
「なに?」
「お婆ちゃんはどうしてメガネをかけているの?」
「それはね。視力が悪いからだよ」
「ねえお婆ちゃん」
「なに?」
「お婆ちゃんはどうしてそんなに小柄なの?」
「それはね。濃縮されているからだよ」
「ねえお婆ちゃん」
「なに?」
「お婆ちゃんはなんで今日転校してきたのは私の隣の席に座ってる子に似てるの?」
「それはね。お婆ちゃんでなく七億兆万院だからだよ」
「なんでだ!!!」
そうです。もる子ちゃんが怪訝そうにしていたには居間に座って新聞を読んでいるのがお婆ちゃんでなく七億兆万院さんだったからでした。
「今日のコ◯ちゃん、先見の明があるね」
「そんなのどうだって良いんだよ!ねえよ先見の明なんて!てか、どこやった!うちのお婆ちゃんを!」
「それはね、」
「もうその赤ずきんムーブいいんだよ早くしろ!」
七億兆万院さんは新聞をきれいに畳んで正座に座り直してから、立って激昂している愚かな女こともる子ちゃんに向き直りました。