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もる子とクソみたいな出会い

春爛漫。

彼女が17を迎える春、いつも見慣れた東京の風景とは違った、寂れた駅舎に走る単線の電車から幕は開きます。

何本も電車を乗り継いで、野を越え山を越え、谷を越え海を越えやっと到着した新天地は、寂れた商店街とそこまで豊かとは言えない自然の織りなす言わば中途半端な田舎の土地でした。

人が住んでいるのかどうかも分からない静かな住宅街。ガソリンスタンドを改装したであろうラーメン屋さん。クソでかい川。電車は30分に1本も来る。後は田んぼそんな土地です。

でも、そんな落ちぶれた辛気臭い雰囲気には飲み込まれない、一人の少女がいま降り立とうとしています。


「ここが私の暮らす街かぁ~!」


春にも劣らない天真爛漫花盛り、乙女盛りの高校2年生。通称もる子ちゃんです。

今のもる子ちゃんはウキウキわくわくの最高潮。彼女は一目見れば並みの殿方なら卒倒必須の爆裂笑顔と、時代が違えばかぐや姫の代わりに求婚されること間違い無しの鮮やかさを放ちながら、寂れたシャッター通りがまるで全てキレイなお花屋さんでもあるかのように振る舞っています。朝の絶望顔に打ちひしがれたサラリーマンもなんだか少し嬉しそう。


「たくさん友達作れるかな?」


なんて呑気に言い放ちながら、その愚鈍な足を学び舎に向けて一歩ずつ前進させるのでした。

もる子ちゃんは転校生。都会の喧騒から離れて田舎の学校に今日から通うため、朝早くから3時間かけてこのクソショボいほぼ無人駅同然の何もないホームへ舞い降りたのです。

まるでその姿は格好の獲物を見つけた涎溢れんばかりの獅子を教育番組風にもっちりリメイクしたようだと例えるのが一番に思えますね。

いつもはちょっぴり冷ややかで冷徹な、まるで他人に強制アイスバケツチャレンジをゴリ押し試行するような彼女、「わくわく、うきうきという緊張とは激遠い感情をしていますよ?」「ほんわかほんわかしていますが何か?」と愚かなりにも猫の毛皮をおよそ400枚ほど被ったかの如く理想のゆるふわガールを目指して、転校先の高校で遅めの2年生デビューをしようと目論見を立てているのでした。


目下計画進行中、味方を騙すなら常々周囲を騙し続けるがモットーなもる子ちゃんでしたが、あまりにも能天気を演じすぎることに夢中で、ドスン、と何かにぶつかりました。


「わっ」


いてて、と可愛こぶりながら彼女は慌てて足元に目をやると、そこには1人の女の子がうずくまっていたのでした。


「すみません!私うかれていて...!怪我はありませんか?」


絵に描いたように汗を飛ばす彼女の心配の言葉に、うずくまっていた少女はすっくと立ち上がりました。

もる子ちゃんに背中を向けて立ち上がった少女はくるりと振り向きます。そしてゆっくり振り返り一言小さく


「大丈夫」


と言いました。


「すみません。全然気づかなくって...ごめんなさい」


もる子ちゃんはそう言ってペコリと頭を下げました。


「うん。へいき」


そう言われたもる子ちゃんはスッと頭を上げました。


もる子ちゃんの前に立っているのはメガネをかけたセミロングの大人しそうな女の子でした。


「ありがとうございます」


もる子ちゃんはもう一度頭を下げます。


「靴紐がほどけちゃったから結んでた。こんなところで結んでたのも悪いから」


「そうだったんですか。でもすみません。私ももっとよく周りを見ていれば」


「大丈夫、あっ」


眼鏡の地味な女の子は、何かに気づいたように足元を見ました。

もる子ちゃんもその視線の先を追います。

そしてあることに気づきました。


「あっ...」


眼鏡の地味な女の子の靴紐が、自分のぶつかった衝撃か、プツリと切れてしまっていたのです。


「靴紐...!すみません、弁償します!」


もる子ちゃんはもう一度、先程よりも深く、勢いよく頭を下げました。


「いいよ。大したものじゃないから」


「そんなわけには行きません!弁償します!」


もる子ちゃんは頭を上げてグイッと眼鏡の女の子に詰め寄りました。

詰め寄られた側の眼鏡の女の子はグッと顔を寄せたもる子ちゃん動じることもなく、直立不動を保っています。

そして少し考えた後にひとことだけ呟きました。


見ず知らずの人のものを壊してしまった罪悪感から「弁償します」と声を上げたもる子ちゃん。人として正しいことですね。人間の鑑や、と声が上がるのも仕方がありません。ですがここでこう言ってしまったことが


「じゃあ......250億」


もる子ちゃんの高校生活の始まりでした。





最新話までのキャラ紹介は1話に載ってますのでよかったら。

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