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世界平和連合

それは、唐突だった。

あまりに唐突で、あまりに壮大で、あまりに小説のようだった。


ボンバ国が、一夜にして消えた。


もっと細かく言えば、違うのだろうが、きっと簡単に言うのならそういう事だ。


その代わりに、新しい国がボンバ国の領土に誕生した。


『世界平和連合』






ボンバ国が唐突に消えて、世界は混乱に陥った。

元々、ボンバは国交を好まない国だったため、他国と関わりのない政治を行っていた。

貿易は最小限に行い、不可侵条約だけを多く結んでいた。

そのため、世界一平和な国とまで呼ばれ、国民自給率は常に90%を上回っていた。

しかし、前回の襲撃以降、国内の戦力は明らかに麻痺し、傍から見ても少し叩けば壊れてしまうガラスのようだった。

そんな国でも、普通国を落とすには段階を踏む。

それは、国と国の対決だからだ。

莫大な兵士を動かすには莫大な時間が必要だ。

ボンバとて馬鹿じゃない。

襲撃された後にそれなりの対応はしていた。

しかし、それでも一日で壊されたのだ。

それは、国と国の戦争なんかじゃない。

国と宗教の戦争だ。

『世界平和連合』

この実は、魔王崇拝の宗教のようなものだ。

ミサンガを手に入れた世界平和連合は、1度撤退し、少し日時を置いてからまたボンバに攻め入った。

これが領土が急に必要になったからなのか、元からそういう作戦なのかは分からない。

ボンバからの避難民を対処するので各国は手一杯になり、少しの間貿易が麻痺していた。

しかし、これはもしかすれば良いことなのかもしれない。

今までどこにいたのかも分からなかった敵が自ら姿を晒し出してくれたのだ。

それは幸運なことなんだろう。

少なくとも、ボンバの時のように奇襲はされない。

それだけで、少し恐怖は和らいだ気がした。




「世界平和連合に動きは?」

「以前ありません。」

昨日、アリスが「教官なのに自室がないのは立場的に良くないから、作っといたからね。」と急に言ってきた。

以前から、その件について何度か副学長と話していたが、寮があるから十分という結論に落ち着いた。

最後の話をしたのが、賢者だと世間にバレる前だったから、きっと賢者がバレたことで、世間的な堤体も含まれてるんだろう。

部屋には寮で副学長から緊急招集される時に伝えに来てくれる女性が常に在中してくれている。

名前はエランというらしい。

彼女が持っているスキルは特殊なようで、電報係を務めているらしい。

今思えば電話もないこの世界になぜ戦争中の情報がすぐ出回るか謎だったが、気にもしなかった。

電報係のスキルはバラバラで、それぞれに役割があるらしいが、それを一括りに情報係と呼んでいるようだ。

また、情報係は体で情報を手に入れに行くのではなく、端末を使って情報をやり取りするようだった。

エランに見せてもらったが、情報係系のスキルを持っていないと見えないようで、何が書いてあるのかは書いてなかった。

使い方も非常に多様化するらしい。

例えば、スキルで遠隔的に一時的に弱体化魔法を与えられるスキルもあるらしい。

しかし、それとは逆にそのスキルを妨害するスキルもあるようで、本当に多種多様だった。

「そういえばさ、エランの情報系のスキルって何なの?」

そういった後に、しまったと思った。

恐らく、情報係にスキルを聞くのはダメなんだろう。

聞いた感じ、情報係のスキルが好き放題に野放しにされていると、それはアシストにおいて最強になる。

そのために妨害を繰り返し、その間に戦闘系のスキルが勝負を終わらせる。

だから、スキルを教えてしまうと狙われる可能性がある。

それが強力なスキルであるほど、安全な保証なんてものはない。

「スキルですか?ノイズです。」

案外あっさり教えてくれたもんだから驚いて目を丸くする。

「ノイズってどんなスキル?」

「アリス様から聞いてないんですか?私のスキルのこと。」

「え、うん。」

はぁ…とエランがため息をついてアリス様…と呟いたように聞こえた。

「ノイズというのは、俗に言う妨害です。汎用性が情報系スキルで1番高くて、ブースト阻害や、情報探索阻害ができます。」

へ〜…強いな。

「情報系のスキルって最近初めて知ったんだけど、何であんまり目立たないの?」

さっきからすごいノンデリな気がするが、もうここまで来たら引き下がれもしない。

「情報系のスキルは、作戦室とは違う場所で作業をします。その作業で得た情報は伝言系のスキルを持った人を介するので、情報係の名前はあまり作戦室では出ないんです。

それに、戦場にスキルで介入しようとしても、魔法使い同士の戦闘って激しくて、妨害を掻い潜って更にスキルを使うなんてほとんど不可能なので、情報係のスキルで目立つのはノイズだけなんです。ほかのスキルは全てノイズを取っ払おうとしますが、その前には戦闘終わってますし…」

もしかして、と思って尋ねた。

「俺の戦闘も見てたの?」

その言葉にエランは言葉ではなく首を縦に動かして答えた。

つまり、今まで俺が普通に戦闘できていたのは彼女のおかげだったってことだ。

「そっか…ありがとね。いつも助かってます。」

そう言って頭を少し下げると、エランは慌てた様子で言った。

「そんな!ただスキル使ってるだけですから、気にしないでください!てか頭早くあげてぇぇぇ!」







扉がなる音がした。

見ていた本を見るのをやめて、扉に向かっていった。

「はい。どうぞ。」

そうして扉が開くと、その向こうには水月がいた。

予想外の来客に驚いていると、水月が手に持ったものを首辺りまで持ってきて言った。

「部屋ができたと聞いて、来ちゃいました。」




「誰から聞いたんですか?」

お茶を起きながらそう尋ねる。

「アリス様からですね。アリス様が「やっと部屋作らせてやった!」と喜んでいたので。」

水月が微笑みながら言った。

作らせてやったって…強制だったじゃん…?

それで遊びに来ちゃう水月も結構フッ軽なんだな。

なんだか、最近水月も副学長も段々素を出してきたのか、2人がイメージと全然違うことが分かってきた。

「要らないとは言ってたんですけどね…」

苦笑しながら言うと、水月が笑顔で返した。

「これから定期的に遊びに来ますね。」

「楽しみにしてます。」

水月のことは嫌いじゃない。

そればかりか彼の雰囲気が俺は好きだ。

懐中時計というレトロな物も、いつもスーツなのも、イケメンなのも全部が羨ましい。

嫉妬なんてしないし、それに対して格好つけてるとも思わない。

だってかっこいいんだから。それは正義でしょう。

「それで、本題なんですが…」

と急に水月が切り出した。

本題?と首を傾げて尋ねた。

「世界平和連合から対談のお誘いが来てます。」

その言葉に、一瞬時が止まった気がした。

世界平和連合が?対談?

何のために?

「誰にですか?」

「私と、貴方に。」

俺と、水月に?

尚更、何の用だ。

素直な感想は、罠だ。

そんなの罠に決まってる。

カーナ引いては世界においての最高戦力を2人同時に同じ場所に集めて、俺らを殺すか、その間にどこかを攻め落とすかだ。

「行くつもりですか。」

その言葉に、水月は首を動かさなかった。

「行ってもいい気がします。恐らく、本当に普通の、対談です。」

それは、きっと彼の直感なんだろう。

「何でですか?」

「これと言って、強い根拠はありません。ただ、こんなすぐ罠だと分かることを、わざわざするかどうか分からないんです。だから、貴方に聞きに来た。」

なるほど。詰まるところそれが本題なわけだ。

実はこの対談、理論だけで考えるのなら行くべきだ。

世界平和連合が敵の勢力であることはほとんど確定事項だ。

しかし、世界平和連合がどこかに宣戦布告をしないと、他国は戦争を始められない。

自ら宣戦布告をしても良いが、ボンバを一晩で落としきった戦力相手に、自らメンチを切ることは厳しいだろう。

だから、どうしても受け身になってしまう。

もし、対談の途中で他の国への侵略が始まれば、対談相手をそこで殺せばいい。

しかし、その代償に多くの命が伴う。

ただ、そんなことを言っても結論は決まっている。

「行きましょう。彼らが何がするようなら、殺せばいい。」

その言葉をわかっていたように水月は席を立ち、部屋を出ながらアレンに行った。

「30分後、出発します。」

これは、世界をかけた戦争だ。

1つの国で魔王のマジックアイテムが守れるなら本望。

マジックアイテムがあと一つでも相手に渡れば世界は終わりだ。

それだけ、それだけは阻止しないといけない。







「来てくれて嬉しいよ。」

世界平和連合 中枢。

かつてはボンバの王城だった城は、今や世界平和連合の物になっていた。

賑わっていたはずの下町は静かで、静まり返っている。

長机が食卓の部屋に通され、そこには料理が置かれてある。

部屋にはアレンらを除いて5人。

中でも長机の短いところに座って如何にも長っぽい人間は、メガネをかけている。

部屋の隅に4人が配置されていて、とても戦闘が想定されている配置には見えない。

「初めまして。私は世界平和連合当主 ロトだ。よろしく。2人のことはよく知っているよ。水月と、アレンだね。」

「はい。」

アレンが警戒しながら返した。

「まぁまぁそんな警戒しないでくれ。今回は戦闘がしたい訳じゃない。」

そんなこと言われても、敵国に招かれてはいそうですかとなるわけが無い。

「それでしたら、本日のご要件は?」

まぁまぁ。とロトがなだめて手を叩く。

すると、ロトの後ろの壁が動き、中から箱が出てくる。

その箱はガラス製で、中のものがよく分かる。

あれは、ミサンガだ。

予想はしていたし確定事項になりつつあったが、これで確定した。

こいつらは、魔王崇拝者だ。

「さて、これは分かるね?」

「ミサンガですね。」

そうだ。とロトが言う。

「これは、我国がボンバ国から丁重に頂いたものだ。」

何が丁重に頂いただ。

ただの強奪だろうが。

「わかってはいると思うが、我々はこの後も髪飾りと指輪を貰いに行く。」

「それは、我が国に対する宣戦布告と受け取っても?」

「いや、それはまだ早いな。こちらも準備というものがある。」

そうですか。と水月が言った。

「俺が君たちを呼んで伝えたいことは一つだけだ。

こっちに来てくれないか?」

何を言い出すのかと思えば、くだらないな。

「それに俺達が承諾するとでも?」

「勿論、そんなこと思ってないよ。だから、条件をつけよう。」

「条件?」

アレンが尋ねると、ロトが続けた。

「魔王様が治める世界で、平和に暮らす権利を送ろう。」

は?

その言葉に、今までないほどに苛立った。

どうしようも無い嫌悪感。

息をしていることすら許せない。

目の前にいるのが人間なのかすら、今は許せなかった。

アレンが魔法陣を構築しようと魔力を動かし席を立つと、水月がいつの間にか隣に来てアレンの前に手を出して止めた。

アレンが水月の顔を見ると、見たことない顔をしていた。

憎悪と嫌悪、怒りに悲哀。その全てが混ざったような、そんな顔。

「魔王の治める世界に、興味はありません。」

その全てを抑えて、水月が言った。

その言葉に、ロトは興奮したように答えた。

「何故ですか?!あれほど素晴らしい存在が治める世界…!それはこの世界の境地です!この世界の完成系です!我々はかの存在のために存在し、かの存在のために生きるので…」

そこまで聞いて、水月が魔法を放った。

その魔法は壁にあたり、その壁をえぐった。

「そうですか。ですが、生憎お断りさせていただきます。」

ロトがメガネを直して尋ねた。

「なぜですか?」

その言葉に、答える言葉は一つだけだった。

きっと、俺が答えても、水月が答えても同じことを言うんだろう。

「俺ら、負けないんで。」

その言葉に、そうですか。とロトがメガネを抑えながら言った。

あ、そうだ。とロトが続ける。

「水月。君はきっとこちらに来るよ。」

部屋を出ようと扉を潜る水月はその言葉に振り返り、言った。

「俺は晴れが好きなんですよ。」

その言葉に、どこか既視感を覚えた。

その言葉を、以前どこかで聞いたことがある。

もう、随分昔の、遠い昔の話し。

どこかで。







2人の対談中、急襲を受けた国も地域も無かったそうだ。

本当にアレンと水月を引き抜くための対談だったらしい。

「水月。君はきっとこちらに来るよ。」

この言葉がまだ引っかかって離れない。

頭の奥底で反復してずっとリピートされている。






それから、1ヶ月が経った。

その後特に世界平和連合の動きはなく、今日はアレンの誕生日だった。

自室で椅子に座り背伸びをする。

まぁ、誕生日と言えど特にすることもないからな〜

大学生で一人暮らしを初めてから、誕生日というものは気にしなくなっていった。

いや、もしかしたら、姉がいなくなった日からかもしれない。

まぁ、そんな辛気臭い話は気分じゃないな。

「エラン〜、何かどっかで戦争してたりしないの?」

机に伸びた手を置いてエランに尋ねる。

「そんな不謹慎なこと言わないでよ。何も無いよ。」

あれからエランはずっと俺の自室に来ている。

最初こそ、『いや、仕事ですから。』みたいな感じだったが、慣れてきたのか舐められてるのか分からないがいつの間にかタメ口は外れ、普通の友達のようになっていた。

その時、扉がコンコンと鳴る音が聞こえ、エランが部屋の扉を開けた。

開いた扉の先にいたのは、水月だった。

「こんにちは。」

「あれ、訓練は終わったんですか?」

「はい。なのでくつろぎに。」

水月も、最近やたらと部屋に来る。

それでも、兵長という立場上、自分の兵隊の訓練だけ終わらせてからなので、来る時間はチマチマだ。

くつろぎに。と言いながら対談用のソファーに座る水月に「そこ対談用ですって。」

「なら対談しに来ました。」

笑いながら水月がそう言った。

対談用のソファーがよほど気にいったのか、この会話ももう何回もしている。

「水月さんも飽きませんよね。」

エランが水月に向かってそう言う。

エランもまだ水月に対して緊張はあるけれど、大分慣れてきたように接している。

「なんか懐かしいんですよね、この部屋の雰囲気。」

懐かしい?とエランが尋ねると、水月が続ける。

「なんて言うか、凄く昔の親友の部屋に似てるんです。」

へ〜、水月にも親友とかいたんだ。

兵長の人たちってそんなイメージ無いからな…

「え〜!どんな人なんですか?!」

エランも意外だったのか興奮気味に尋ねる。

「そうですね〜…」

と続けようとした時、扉がコンコンと鳴る音がまたした。

今日は来客が多いな…

今度はエランが開けることなく、扉が勝手に開く。

開いた扉を見れば、そこにいたのはアリスだった。

手に何か持っている。なんだろう?

「あ、アリス様!お疲れ様です!」

「お世話になっております。」

そういえば、エランも情報系のスキルの中で随分地位が高いようで、副学長に対しても友達みたいに接している。

いつも寮まで来て招集を教えたくれていた人とは全く思えない。

水月はまぁ、いつも通りだ。

「副学長、どうしたんですか?」

と言っても、副学長は頻繁に来るわけじゃない。

最近何かと忙しいようで、自室に籠りっきりになっている。

どうしたって…とアリスがため息を着く。

「ほら、今日、アレンの誕生日でしょ?」

持っていたものを少し上にあげてアレンに言う。

その言葉に、エランが勢いよく振り返って、「ええぇぇぇぇぇぇ!?!?」と大きな声を響かせた。




まぁ、誕生日と言えど盛大にパーティーをするわけじゃない。

アレンは王族でも無いし、そもそも誕生日のことを誰にも言ってないしな。

副学長が知っているのは、入学の時に必要な書類に書いてあったからだろう。

机にアリスから貰ったケーキを広げ、それを囲んで皆で食べる。

それだけで充分だった。

「何歳になったの?」

エランがアレンに尋ねる。

「14だね。」

あ、そうか。とエランがケーキを頬張りながら言った。

え、14?14…14か。14歳って何?とエランが急に我に返ったかのように自問し始める。

「随分内容の濃い1年間だったね。」

アリスが言った。

確かに、今まで体験したほどないくらいには内容の濃い1年間だった。

アカデメイアへの入学と教官になり、初めての冒険者任務でブラックドラゴンの撃退、カーナの戦争。

ビネットとの決闘、そして世界平和連合との1件。

本当に1年で起きたのか疑ってしまうほどの内容だ。

「結局学園には全然行けてませんしね…」

そう言うとアリスは「はは…」と苦笑いで返した。

「アレンくん、学園生だったんですね。」

水月が意外なように尋ねる。

「一応、肩書きだけは?」

アリスの方へむくと、アリスが頷いて「肩書きだけはね。」と笑って返した。

あ、そうだ。とエランが口を開いた。

「誕生日プレゼント、何がいいですか?」

誕生日プレゼント?あぁ、そういえば誕生日ってそんなのあったな。

と言っても、ただの14歳とは違って金はあるし特に買えないものもないからな…

いいの?と遠慮がちに聞くと、エランは胸を叩いて

「任せてください!」と自信満々に言った。

そうだなぁ…とアレンが考える素振りをした時、扉が勢いよく開いた。

こういう時は、なんだか嫌な予感がする。

経験だけがものを言うものだが、ろくな事じゃない。

「アレン様…!」

そこまで言って、水月とアリスがいることに気づいたのだろう。

姿勢を正して、息を上手くまとめようとしていた。

「これは失礼しました…水月様とアリス様もいらっしゃったのですね…」

そう言うと、アリスが言った。

「今は礼儀などどうでも良い。緊急なのだろう?何があった?」

は…はい!と兵士が続ける。


「世界平和連合が動きました!現在、ライラ国に向けて進行中!」


やっぱり。ろくな事じゃなかった。

ふざけやがって。

机を叩いて、その場に立った。

そうか。そんな早くにもう動くんだな。

ならいい。

最悪な誕生日プレゼントだ。









「奴らの目標はこの髪飾りだ!死んでも守り通せ!」

「「「「「「「はっ!!!!!!」」」」」」」


ライラ国、第2師団。

ライラ国の兵士は師団事に分けられ、その団体で動くことを良しとする。

第2師団団長 ノルカは世界平和連合との戦争の先頭を任せれていた。

世界平和連合…ボンバを一夜にして滅ぼした国との戦争か…

いいだろう。面白い!

情報係に敵兵の勢力を今解析してもらってる最中だが、恐らくその数は我々の兵力の数倍はあるんだろう。

ボンバとて、弱小じゃない。

そんな国が一夜で滅ぶんだ。どれだけ人がいたって何ら不思議は無い。

「情報係、結果届きました!」

「何だ、申してみよ。」

「総勢、6名!真っ直ぐこちらに向かっています!」

な……………

総勢、6だと?

聞き間違いか?

いや、そんなことは無い。しっかり、6名と言った。

どういうことだ。索敵か?

いやでもだとしても、6なんて少数で行うわけが無い。あまりに非効率な処刑方法だ。

舐められてるのか?

いや、待てよ。

そもそも、世界平和連合は、ここ1ヶ月、ノイズが強すぎて探知が一切できなかった。

カーナから報告もないということは、あのホルンすら解析できないレベルのノイズ。

そんなの、誰が越えられるって言うんだ。

ホルンは、カーナの最高峰のサーチャーだ。

スキル《サーチ》は一般的なもので情報系のスキルではよく見るものだが、それを彼以上に極めた人間はこの世界に居ない。

圧倒的な情報処理に、圧倒的な魔力量。

カーナのノイズ、エランも随分化け物だが、ホルンも肩を並べるほどの化け物だ。

そんな奴らがサーチできないほどのノイズを貼る情報系のスキル持ちが、向こうにいる。

もし、本当に6人しかいないのなら、それは、圧倒的な個々の力だ。

主戦力にないにしろ、強いことに変わりはないってことだな。

ライラが第1防衛戦に選んだのは、離の平原だった。

そこに第2師団が陣取っており、戦闘態勢が既に整っている。

さぁ…来いよ。

その瞬間、目の前に土煙が走った。

土煙…なんだ?敵の攻撃か?

その煙から出て、こちらに向かってくる影がある。

その影を観察していると、気がついた。

「子供…?!」





そうだなぁ…どうすればかっこいい登場になるだろうか?

土煙を炊いて、誰かわからなくさせてから出てくるのは強者感があってとても良かったが、言葉が思いつかない。

どうしようか…

そんなことを考えながら歩いていると、気がつけば先頭にいる大きな男の前まで来ていた。

筋骨隆々で、前世だったらボディビルダーかと疑ってしまいそうだった。

まぁ、言葉なんてなんでもいいか。

ボディビルダーの顔を見るために上を向いて、言った。

「カーナ国第1兵隊副隊長、アレン・リーファです。援護に来ました。」





その言葉を聞いて、少し場がザワザワし始めた。

第1兵隊所属というのは、嘘では無い。

今後、水月の外交に同行する時、肩書きが教官だけでは示しがつかないからと、水月が兵長を務めて以来1度も作らなかった副隊長の座をアレンに送った。

「アレン…と言うと、あのアレンか?」

「どのアレンを想像しているのか皆目分かりませんが、そのアレンです。」

そう言うと、ボディビルダーはその大きな体の片膝を地面に着け、王室で王の前にするポーズを取り、頭を下げた。

それに合わせて、後ろの兵士たちも数千人が一斉に頭を下げる。

「アレン様。お話は聞いておりました。会えて光栄です。」

なんだ、これ。

なんかいいな。

いや、違う違う。そうじゃないだろ。

「と、とりあえず頭をあげてください!」

アレンがそう言うと、ボディビルダーが頭を上げた。

「今はそんなことしてる暇無いです。どういう状況ですか?」

「はっ。現在、世界平和連合の勢力、総勢6名がこちらに向かっております。ここはライラ国の第1防衛線で、我々はライラ国第2師団です。」

6名…やはりそうか…

あの後、ホルンという男の前に通された。

カーナ国随一のサーチャーだそうで、ホルンに敵の総勢を尋ねた際も、同じ回答が帰ってきた。

冗談かと思ったが、どうやら本当らしい。

6人の意味がわからないな。

何が目的なのか。

振り返ると、真っ平らな草原に、6個の影が見えた。

やっと来たか。遅かったな。

「戦闘態勢へ。2人は俺が殺します。4人お願いします。」

「はっ!」

アレンが敵に向かって走り始めると、それに呼応して後ろから気合い入れの声と共に足音が聞こえ始める。

いいね。動くのがとても早い。

死の恐怖に立ちすくまないのは良い事だ。


『創造魔法、アポリア』


6人のうち、端にいた2人を壁を使って隔離する。

第2師団は理解したのか、4人の方へ歩を進めていく。

さて、こっちもやるか。

目の前に立っているのは、20代ほどに見える若い男二人だった。

「こんにちは。」

その言葉に、2人は何も返さない。

どうやら俺のことを知っているみたいで、一向に警戒を解くつもりは無いようだ。

まぁ、そもそも戦場で子供相手だからと警戒をとくならそれまでだ。

「世界平和連合の人達だよね?悪いんだけどさ、帰ってくれないかな?」

その時、アレンに魔法が飛んでくる。


『創造魔法、インタフィア』


その魔法をインタフィアで打ち消す。

「話す気は無いって事でいいかな。」

その言葉に、反応はなかった。

もしかしたら緊張しているだけかもと思い、5秒ほど待ったが、一向に言葉が出てくる気配は無かった。

アレンが右側の男に向かって魔法を放つ。


『創造魔法、シュテーレン』


右の男がそれを避けている間に、左の男に走り出す。


『創造魔法、アポリア』


手に剣を創造して、その剣を男の首目掛けて振った。

その剣を男は首を逸らして避け、後ろから拳が飛んでくる。

その拳を体を回転させて蹴りで相殺し、首を逸らしている男に向かって魔法を放つ。


『エーテル』


その魔法を男は魔法で相殺し、蹴りで拳を相殺した男からもう一度拳が飛んでくる。


『創造魔法、アポリア』


その拳を、手首から切断した。

この1ヶ月で、アポリアの使い方にも随分慣れてきた。

アポリアの本質は、魔法と変わらない。

つまり、それはイメージということだ。

イメージできるのなら、それはアポリアで実現が可能となる。

だから、イメージすることにした。

空気を部分的に圧縮して、刃のように発射する方法を。

イメージだけでいい。

それができるか出来ないかは、地球の物理法則とは関係ない。

そもそも、この世界が地球と同じブレーンにあるかどうかすらも怪しい状況で、アレンが確定で正しいと言えるのは物理法則の中でも重力に関する法則だけだ。

それなら、頭の中で新しい法則を作ってしまえばいい。

この世界の法則を知らない、俺だけができることだ。

魔力という地球に無かったものが溢れている世界で、それは難しいことでは無いはずだ。

だからこそ、なんでも出来る魔法だ。

先代賢者が辿り着けなかったアポリアの境地へ、また1歩足を踏み出した。


手首を切られ、もう片方の手は蹴られて上手く動かせないのか、それ以上の追撃はなかったので、もう一人の男に集中する。

剣を捨てて拳を突き出すと、拳をいなし、男が頭を地面につけるギリギリまで下げ、頭の位置に蹴りが飛んでくる。

その足に魔法をぶつける。


『シュテーレン』


すると、魔法陣を構築した時に魔力で気がついたのか、魔法陣が見えていないはずなのに足を引っ込めた。

その時、後ろから横腹に蹴りが飛んでくる。

それを避け、男の後ろに回り込み、魔法を背中に打ち込む。


『グレイス』


男は良けれず魔法に当たって、吹っ飛んでいく。

もう一人の男は、何が起きたのかわかっていない様子だった。

よくアニメとかで早すぎて瞬間移動しているように見えるでしょ?あれと同じ感じ。

水月とか見てても、追えるけど、普通の人から見ればあれは早すぎて瞬間移動しているように見えるらしい。

急に見えないほどに加速したアレンを見て、今までが遊ばれていたことに気がついたのか、男は少し笑って、戦意を失ったようだった。

「なんだよ、賢者。来るの早すぎるだろ。」

「うちの情報係は優秀でね。」

その言葉に、男は目を見開いた。

「情報スキルが、通ったのか?」

なんだ?そんなに驚くようなことか?

「何か意外なのか?」

いや…と男が少し考えて、そうか…と納得したように言った。

「利用されたのか。」

その言葉が、存外意外だった。

世界平和連合の奴らは、魔王のためなら利用されるのも厭わないと思っていたから、その少し可哀想な目を見て、少し感情移入してしまう。

「ずっと聞きたいことがあったんだけど、いいかな?」

もう、こいつに戦う意思は無い。

だから身体強化の魔法を切っているんだろう。

魔力が、感じられない。

「あぁ、なんだ?」

「なんで、6人で来たんだ?」

あぁ、そんなことか。と男がつぶやいて答える。

「ただの、偵察だよ。俺ら一人一人も、カーナで言う副隊長くらいの実力はある。捨て駒にするのにも、丁度いい戦力だったんだろう。」

捨て駒?副隊長を?

普通、副隊長は捨て駒になるような役じゃない。

それが意味することを、考えたくはなかった。

それはあまりにも絶望で、凄惨だったから。

だからこそ、確認すべきことがあった。

「世界平和連合の、兵士の数は。」

それは…と口を噤んだ。

腹に拳を入れてもう一度尋ねる。

「お前らの、兵士の数は。」

だから…と苦しそうな声をしながら言う。

その瞬間、アレンが首をはねた。



アレンが魔力を解除して壁を無くすと、そこに広がる景色は最悪なものだった。

いや、見慣れてないと言えば嘘になるが、見慣れたくも無い。

敵はもう居ないようで、兵士らはその場にぐったりしている。

「大丈夫か?」

アレンがノルカに近づいて尋ねる。

構えている剣には血がついており、その下には世界平和連合の死体が落ちている。

「こちらは何とか。アレン様こそご無事で何よりです。」

賢者信仰が強いとは言えど、ここまで貴族のような対応をされると歯がゆいものがあるな。

「とりあえず、俺はカーナに戻ります。」

「はっ!お気をつけて。」






「なんだこれ…どうやって書けばいいんだ…」

カーナに戻ったあと、報告書を渡された。

今までは俺だけではなく水月やアリスと一緒に行っていたから、報告書を書いたことはなく、何をどう書けば良いか全く分からない。

「何か困り事ですか?」

その声で頭を上げると、いつの間にか部屋に入ってきていた水月が見えた。

「いつの間に…ちょっと、報告書がよく分からなくて…」

?と言うような顔をして水月が報告書を覗いた。

その報告書を見て少し笑って言った。

「なんか、天文学者の論文みたいな書き方をしますね。そこはそうじゃなくて〜…」



それから何度も何度も訂正をしてもらい、ようやく報告書が完成した。

「疲れた〜」

「お疲れ様です。」

「ほんと、助けられてばっかですね、俺。」

アレンが少し俯きながら言うと、水月が言った。

「悪いことじゃないですよ。人間らしくていいじゃないですか。」

人間らしい。そんな言葉が妙に引っかかった。

そして、あの言葉を思い出した。

『人を殺してはいけないのか。』

それは、いつ聞いたかなんてもう忘れた。

トリガーに世界平和連合の敵と戦った時の名残があることだけは分かる。

けど、細かい表現の違うこの言葉を、いつ聞いただろうか。

小説だったかもしれない。あるいは。

そしてこの言葉を、俺は神崎に問うた。

水月さん。とアレンが言う。

「人が人を殺してはいけないのは、何故ですか。」

表現なんて、この際どうでもいい。

昔に忠実に、そして、誠実に。

水月が口を開く。

「人の善悪を、決められないから。」

あぁ、久しぶりだな。

きっと、色んな意味で。

その言葉を聞いたのは、今から20年程前だ。

西暦で言うなら幾つになるか分からないが、俺の中では、間違いなくその時間。

そして、君にまた会えた。

神崎俊哉。

君にまた会えたなら、言いたいことが五万とあったんだ。

この口じゃ抱えきれないくらい、葉が水滴の重さに耐えきれずにしなるように。

君に言いたいことが、いつしか止まらなくならなそうだったんだ。

水月ーーーー神崎俊哉。

君は、地球の前に、何を経験したんだ。

何を経験して、何に絶望して、死んだんだ。

亮は、開きそうになった口を閉じる。

いや、まだ今じゃない。

まだ、水月すらも気づいていない。

きっと、今じゃないんだ。

根拠もない、とんでもない勘だが、俺の勘がそうやって叫ぶんだ。

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