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初めての戦争

あれから2ヶ月が経って、アレンはアリスに呼ばれて副学長室を訪れていた。

「今日は急にどうしたんですか?」

この2ヶ月、実に平和だった。普通に学校に通い、たまに兵隊に顔を出して、副学長とラーメンを食べた。

この世界のラーメンは美味しいもので、豚骨ラーメンが1番美味しかった。豚を見た事は無いので何の骨かは気にしない事にはしている。

ソファに座り、目の前に置いた紙に包まれた少しネチョネチョした甘い食べ物を食べながら聞いた。

なんだろう。これおばあちゃんの家で食べたことがあるな。

「2ヶ月前、イリスが言っていたことを覚えているか?」

イリスが言っていたこと?

「そういえば、バゼルの兵隊がどうとか言ってましたね。」

「そのバゼルと、近々戦争になるかもしれない。」

やっぱりこの世界にもあるんだな。

戦争。いつかの人達はこれを無くそう。なんて言い出して止まらなかったな。

戦争が無くなることには賛成の意だが、それが果たして何を産むのか。考えるとゾッとするかもしれない。

「大変なことですが、それを俺に言ってよかったんですか?」

「あぁ、その事なんだが。ちょっとこの後私の家に来て欲しい。」

副学長の家?どうしたのだろうか。

「副学長の家ですか?わかりました。」

そう答えて、1つ思い出した。

あれ、副学長って、王族だよな?

王族の家に行くって俺は今言ったのか?

いや、言ったよな。わかりましたって。軽々しく。ノリで。

城に?ノリで行くの?

アリスのニコニコな顔を見て、アレンは苦笑を零した。





ギーッと大きな木製の2枚扉が開く音がした。

2人の騎士に開けられた扉の奥には、漫画で見たお手本のような王室が広がっていた。

真ん中にはレッドカーペットが敷かれ、その先には1つの大きな椅子があり、王であろう人間が座っている。

王の横には執事が立っており、険しい表情でこちらを睨んでいる。

アリスの後ろを着いていく。

部屋に入ればレッドカーペットの外に何人かの騎士であろう鎧を着た人間が立っており、一目見て強いことが分かる。

玉座の前に来たアリスは片膝を立て、それを真似してアリスも片膝を立てる。

「父上、例の子を呼んできました。」

ふむ。と王が続けた。

「そこの子。名をなんという。」

「はっ。アレンと申します。」

そうか。と王が頷いた。

「アレン。お主をここに呼び出したのは他でもない。バゼル国との戦争についてだ。」

「アリス様からお話は聞いております。」

「そうか。なら話は早い。我々カーナ国兵隊の兵として、此度の戦争に参加して欲しい。」

参加して欲しい。なんてまるで自主制のように思えるが、その実こちらに拒否権は無い。

国王にこうしろ。と言われればそれを遂行するのが王国に生きる国民の義務だ。

死ねと言われれば死に、殺せと言われれば殺す。

それが絶対王政のこの世界で生きる唯一の術だ。

「はっ。喜んで参加させていただきます。」

そう言った瞬間、先程までアレンがいた場所に煙が立った。

アリスが何が起きたのかを分からずに煙を見ていると、段々と煙が晴れてきて全貌が見えてきた。

「これは、どういうことてしょうか?」

煙の晴れた場所には、太刀を人差し指と中指で挟んでいるアレンの姿があった。

アレンの問に王は答えない。

勿論、太刀を振った人間も、周りの人間も何も言わない。

アレンは太刀を折り、2つになった太刀の片方を拾って太刀を振った男の首に当てた。

「殺して良いですね?」

その言葉に、王は笑って答えた。

「分かった。儂の完敗じゃ。」

先程の雰囲気と違って、笑った王は親戚のおじいさんのように見えて、少し安心する。

「父上!何の真似ですか!」

アリスが血相を変えて王に向かってそう言うと、王が答えた。

「儂とて、1人の王国の王じゃ。まだ13歳という若い者を無闇矢鱈に戦場に立たせる訳には行かない。」

つまり、実力を測られたということで良いのだろうか?

「てすが、このやり方はあまりにも!」

その反応を見て、本当にアリスは知らなかったんだと知った。

その顔はあまりに焦っており、今まで見た事ないほどに目を見開いている。

「アリス。君の客人を傷つけるようなことをしたことは詫びよう。だが、これも必要な事だ。分かってくれ。」

その言葉に、アリスは口を噤んだ。

なにか言いたそうなことを、必死に押えて、勢いで立ったその体の片膝を地面にもう一度つける。

「アレンくん。その男は王族直属騎士団でも屈指の男だ。解放してくれないか。」

そう言われ、アレンは自身の握っていた太刀を手から離した。

「ラス。下がって良いぞ。ありがとうな。」

「はっ。」

そう言って、男は王室を出ていった。

「さて、アレンくん。改めて、お願いさせてもらおう。」

王が咳払いをして、続けた。

「此度の戦争、力を貸してくれないか。」

その言葉に、アレンはワクワクして答えた。

「はっ。喜んで。」

そのワクワクは、不謹慎なものだろう。

許されることでは無いだろう。

だが、今は自分が活躍出来る機会が、嬉しかったんだと思う。

浮かぶべきでない笑顔を下げた頭で浮かべた。

これから始まるのは、血で血を洗う泥沼の戦いだ。それは神聖なものでも、由緒正しきものでもない。

勝者が全ての、正義をかけた正義の戦いだ。

人が死に、悲しみ、尊ぶ戦いだ。

もし、その事実の恐怖よりも、この承認欲求に似た何か、もしかしたら承認欲求なのかもしれない。

それが勝つのなら、この欲求は恐ろしいものなのかもしれない。

或いは、素晴らしいものなのかもしれない。






カーナ国と、バゼル国は戦争状態に入った。

バゼルからの宣戦布告で始まった戦争は、硬直状態から始まる。

その理由は、他でもない黒龍の存在だった。

バゼルとカーナの国境に接する山は黒龍が巣食う。

その存在がある限り、バゼルも大きく兵を動かすことはできない。

戦争の後なのか前なのかの話になるが、この宣戦布告は、カーナから見てみれば異質なものだった。

カーナとバゼルの交友関係は悪くなかったのに対して、急な宣戦布告。

そして、バゼルも王位継承してからまだ1年しか経ってないという。

何をそんなに急いでいるのか、この戦争の意味は何なのか。

なんてことを考えても、意味なんてものは後に着いてくる。

とにかく今は、戦うしかない。ただただ、馬鹿みたいに。ただただ、アホみたいに。ただただ、テスカトリポカみたいに。






宣戦布告から、1ヶ月が経った。

その間、特に何も目立った事件はなかったが、ここにきて国民同士のぶつかりが出てきている。

それは戦争に対する恐怖から来るもので、不安定になるのも無理は無い。

「きゃー!!!」

アレンが王都を歩いていると、そんな悲鳴が聞こえた。

何だ?また喧嘩か?

そう訝しみながら、アレンは声のなった方へ足を運んだ。




アレンが足を運んだ地は、地獄というべきだった。

辺りには血が散らばり、血の中心には必ず人間の死体がある。

いや、これを地獄というのなら、戦場はどう表そう。

なんて余計なことも考えたが、そんなこと今はどうでもいい。

辺りに6人ほど転がっている人の中から1人だけ選び、呼吸を確認する。

呼吸はしていない。脈は?心臓は?

手首と首に手を当てて脈を感じようとしたが、本来波打つはずの血が通っていない。

心臓。

胸に耳を当てて確認する。弱々しい命の鼓動がまだ聞こえない訳でもない気がするが、これでは風前の灯火だ。

腹部から出血した血は留まることを知らずに開放されたことを喜ぶように外に出ていく。

回復魔法は、この世界に無い訳では無いが、それを使えるのは神の寵愛を受けたものだけ、つまり神父のみだ。

賢者というスキルは万能ではあるが、神の寵愛とはまた別のスキル系統であるため回復魔法を使うことは出来ない。

「名前は?!」

「ブラウンです。」

その現場を見ていたのか、発見したのか分からない女性が弱々しい声で言った。

「ブラウン!聞こえるか?!」

ブラウンの顔を見ながら尋ねる。

血色の悪い顔を見ていると具合が悪いが、仕方ない。

「ハンカチありますか?」

「え、あ、はい!」

そう言って女性は慌ただしくハンカチをポケットから取り出してアレンに渡した。

「ブラウン!しっかりしろ!」

出血した部分を露出させ、ハンカチを当てて圧迫する。

「人呼んできて!早く!」

人が少なければ助かる命も助からない。ほかの5人に関しては脈も呼吸も測ってない。

女性は走ってその場を去った。

「ブラウン!ブラウン!しっかりしろ!大丈夫だからな!」

時々胸に耳を当てて胸の鼓動を確認する。

ない訳では無いが、当たり前のように鼓動が回復したりはしなかった。

それから、薄暗い閑静な関所に、ブラウンの名前を呼ぶ声が何回も鳴り響いた。



それからしばらく。何分経ったかなんて分からない。何度名前を呼んだかも、何度鼓動を測ったかもわからない。

ただただ、必死にして、しばらくたった。

「呼んできました!」

遠くの方からそんな声が聞こえた気がする。

疲れているわけでも、精神的に参ってる訳でもないが、今はその声が聞こえずらかった。

辛うじて聞こえたその声の方を向くと、2人の神父と女性が見えた。

よかった。近くに教会があったんだな。

「腹部からの出血!呼吸無し、徐脈!」

アレンがそう叫ぶと、神父は驚いたように顔を見合せた。

しかしすぐに驚いた顔を引っ込めて、アレンに言った。

「君はそのまま圧迫止血!俺らは他の数人の脈と呼吸を測りトリアージ後治療に移る!」

その言葉に、返事はしなかった。

ただただ無言で、圧迫し続けた。




しばらくも経っていない気がする。

神父のトリアージが終わり、アレンは圧迫止血していたその手を離した。

5人のうち3人は既に簡易的ではあるが死亡が確認され、優先順位を下げられた。

残りの2人とブラウンは、辛うじて脈を取っており、神父の魔法で治療が開始された。

こんなことがあっても、頭は何だか冷静だった。

思ったより神父が来て安心したお陰なのかもしれない。

6人も刺されて、ただの喧嘩だとはどうも思えなかった。

喧嘩では無い、別の何か。

「あの…」

一番最初に現場にいた女性がアレンに話しかけた。

「あぁ、神父さんを連れてきてくれてありがとうございました。」

「あ、いえいえそんな、呼んできただけですので…」

「所で、何があったんですか?」

そう尋ねると、女性は答えて良いのか困ったようにオドオドしていた。

それも当然のことかもしれない。体は13歳なのだから、何があったのかを詳細に伝えるのは気が引けるだろう。

「大丈夫です。これでも兵隊の教官です。」

その言葉を、どれだけ女性が信じたのか分からない。全く信じてないかもしれないし、信じてくれたのかもしれない。

どちらにせよ、女性は事の顛末を語り始めた。

「この関所で、私の夫が働いていました。関所で働いてる人数は6人のみ、小さな関所です。今日、夫が弁当を忘れたのでそれを届けに来たのですが、関所に着いた頃にはこの惨状で…」

なるほど、それで弁当を持ってるわけだ。

それにしても、6人のみの関所であるなら、この中に夫がいるはずだが、よくそんなに冷静でいられるな。

「失礼ですが、旦那さんは?」

「そこの男です。」

と女性が指さした。

その指の先には、トリアージから外れた遺体のようなものがあった。

え?

「なんでそんなに、冷静なんですか。」

ここまで、人間に恐怖を持ったことは無いかもしれない。

旦那を失って、その時の状況説明ができるほどの精神力があるのなら、それは恐ろしすぎることだ。

「私の夫、DV癖があって。正直、死んでくれてせいぜいしました。」

そう言った女性の目は、生気がなく、涙を浮かべていた。

その涙が、別れからの涙なのか、解放からくる喜びの涙なのか、よく分からないが、間違いなく、今流すべき涙でないことだけは分かった。

「弁当を持ってきた意味がありました。」

その意味は、良くない意味なんだろう。

命を侮辱する、後悔すべき恥ずべき意味なんだ、きっと。

だが、意味なんて後から着いてくるもので、彼女にとってそれは良い意味だったのだろう。

後から意味を見出す人間の悪い癖だ。

ドタドタと足音がして、その方向を向いてみると、救援に来た人が走ってきていた。

後はこの人たちに任せよう。

そう思って、その場から歩を進めた。

それは、言い訳のようなものだったのかもしない。

その場から離れるための、いや、違うな。

その女性から離れるための、言い訳だったのかもしれない。





アレンは先程あったことを報告しようと、副学長室を訪れた。

副学長室をノックすると、毎回必ず聞こえるはずの妙に落ち着く声が聞こえなかった。

しばらく待ってみたが、一向に返事が来る気配が無いので、アレンがドアノブを握って、それを引いた。

中には誰もおらず、閑静な机とソファが目に入る。

アリスがいつも座っている机の後ろの窓が開いており、白いカーテンがヒラヒラと舞っている。

アレンが長机に目を向けると、置き手紙があるのを見つけた。

その置き手紙を手に取って、丁寧に書かれた文字を読む。


『王城で待ってる。門番に話はしてあるからすぐ来るように。』


毎日来てるからもう来るものだと思ってるなこの人…







門番に本当に話を通してあるようで、すんなりと城の中に入ることが出来た。

王城に顔パスってすごいことじゃない?

城の中に入ると、先日王室で太刀を振ってきた男が出迎えてくれた。

「ようこそおいでくださいました。感謝申し上げます。」

初対面で太刀を振ってきた時とは打って違った雰囲気で、少し戸惑ってしまう。

「え、えーと…」

となんて言えばいいのか分からずに言葉が吃ると、男が口を開いた。

「王様がお呼びでございます。私に着いてきてください。」

そう言われ、男の背中を追いかけて行った。






案内された場所の扉の上には、会議室と書かれたプレートが貼ってあった。

その扉を開けると、中では長机を8人の人達が囲っていた。

扉を開けた音を聞いて振り向いたのか、全員の視線がこちらを向いている。

「来たか、アレン。座りなさい。」

アレンを案内した男が椅子を引いた。

その場所に座ると、シワのないスーツ姿の男が話し始めた。

「初めましてアレンくん。ホントにまだ幼いんだね、ビックリです。本当は皆さんのことを紹介したいのですが、後にしましょう。さて、今回皆さんに集まってもらったのは他でもない、最近街を騒がせている事件についてです。」

「事件?」

1人の男が口を挟んだ。

「はい。最近、少数の関所を狙った殺傷事件が頻繁に起こっています。被害こそ少ないものの、その件数はすでに10件以上。バゼル国との戦争状態にある今、これ以上の看過は許されません。そのため、兵隊長の皆さんにはこちらで割り振りした地区の警備を行って欲しい。」

関所を狙った殺傷事件…

さっきの関所の事件もということだろうか。

てか待て、そんなことどうでも良くて、今なんか兵隊長の皆さんと言ったか?

そんな大事な会議なんて聞いてもないし、俺はそんなに大事な役職に居ないだろ。

いや王様と副学長がいる時点で大事であることは確定してるんだけど…

「こちらがその割り振りです。」

そう見せられた地図には、カーナ国の地形が書いてあり、6つの区画分けがされている。

その区画を指さしながら男が話を続ける。

と言っても、この区画はどの兵隊が、だとかそんな話だけだ。




それから、30分は参加出来ない会議が続いていた。

そりゃそうだ。13歳の子供に任せるにはあまりにも酷な仕事だ。

基本的には説明、質問の繰り返し。

たまに提案が混じってもいたが、保護法益を考えて却下されていた。

「さて、そして、アレンくんについてですが。」

ぼーっとしていたものだから、急に名前を呼ばれて地図を見ていた目を勢いよく正面に向ける。

「アレンくんには、これら全ての区画の巡回を基本的には行ってもらいます。」

「分かりました。」

しかし、とアレンが続けた。

「私のようなものにそんなことを任せて良いのでしょうか?私はただ教官の身であり、兵隊長の皆様と同じような立場では決して…」

その言葉を聞いて、話を進めていた男の横にいる男が口を開いた。

「なんだ?アリス様説明しなかったのか?」

「あぁ、そういえば忘れていたね。」

アリスがそう言って、続けた。

「アレンくん、実は教官というのはこの国では身分が高くて、兵隊長が基本的にその任を受けるんだ。勿論人数の関係上他の教師を選んではいるが、教官という立場は兵隊長と同じような立場であると言っていい。」

おいおい待て待て。おかしくないかなんか急に?

「君が賢者であることはすでに兵隊長の中では知れ渡っている。特に心配もしていない。異様に精神年齢が高いこともな。」

そう言われて悪い気はしないが、違和感というか本当にそれでいいのかと尋ねてしまいそうになる。

「まぁ、そういうことです。私たちは貴方に心配はしていない。関所の人間を3人も助けてもらったことだしな。」

知ってたのか…

司会をしていた男が懐中時計を開いて、言った。

「さて、そろそろ時間ですので、皆さん各兵隊よろしくお願いします。今回の会議はこれにて終了とします。」







「どういうことですか。」

普段は置かれもしないお茶と多めのお菓子が長机に置かれている。

会議が終わってアレンは副学長室へと足を運んだ。

目的は決まってアリス副学長。

教官をする。と言ったのは俺自身だが、その教官の立ち位置がそれ程だとは聞いてすらいなかった。

俺が不機嫌なのを察したのか、アレンは使用人にお茶を作らせて俺の前に置いた。

「ごめんってアレンくん…」

恐らく王族に謝らせた平民は俺が最初で最後だろう。

自信を持って言える。

いや、でもこの人なら謝りそうだな。

「それにしても、何でこんなに俺は信頼を置かれてるんですか?」

あぁ、とアリスが続けた。

「先代の賢者様が国民に愛されてるからかな。それから賢者は現れていなかったし、賢者っていうだけで聞こえがいいものだよ。スキルは女神様からのギフトだしね。」

なるほど。女神様が認めたから大丈夫って事なんだろうか?

そうなんだとしたらこの国いつか滅ぶんじゃないか…なんて思ったが、それは口にはしないで心の奥底にしまっておくことにした。

「そういえば、アレンくん最近ずっとここに来てるけど、学校は?」

鋭いところを突かれた。

正直、学校というのはあまり好きじゃない。

知らなかったことを知ることは楽しいが、その空気とか、雰囲気が好きになれない。

「…出た方がいいですかね。」

「まぁ、いいんじゃない?学校なんて無駄な人には無駄だからね。僕の授業中に君がいないのは少し悲しいけれども。」

正直、ここで本を読んでる時間の方が楽しみではある。

それに、俺はこの人が好きだ。

いや別に恋愛とかそんな感情じゃなくて、保護者のような感じ。

「そういえば、君は関所の殺傷事件を発見したようだな。」

発見というか、発見したのは俺では無いが…

「まぁ、はい。」

「何があった?」

「俺にもよく分かりません。ただ、6人のうち3人が死亡。残りの3人は神父の元で処置を受けています。」

「様態は?」

「全員腹部に魔力による攻撃を受けた跡があり、出血していました。誰にしても呼吸なし徐脈です。」

なるほど…とアリスが顎に手を当てた。

「わかった。ありがとう。それより、パトロール行かなくていいの?」

そういえばそんな仕事あったな…

「そうですね、そろそろ行きます。」

「うん。気をつけて。」

ありがとうございます。と言ってアレンは副学長室を出た。






パトロールと言っても、特にこれといって面白いものでは無い。

ただ街を歩くのは退屈だ。

平和なのは良い事だが、正直何かやることが欲しくなってきてしまう。

警察もこんな気分でパトロールしてたのか?もはやいっその事この世界で世界初の職質でもしてやろうか。

誰を職質するかを考えながら街を歩いていると、急に目の前に王城で太刀を振ってきた男が現れた。

「アレン様。」

ビックリしたなぁ…何の予兆もなく急に現れるじゃん。

「どうしたんですか?」

男は先程までは持っていなかった太刀を携え、答えた。

「会議の後に大変お疲れであることと思いますが、今1度王城まで来ていただくようにお願いします。国王様がお呼びでございます。」

国王が?なんの用だろう。会議で話すことは全て話し終わった気もするが。

「わかりました。」

そう言って、今歩いてきた道を辿り、王城へと足を動かした。






「おう、来たか。」

王城に入ると廊下で話し込んでいる王と会議にいた男の1人がそう言った。

「遅れて申し訳ございません。どう言った御用でしょうか?」

「あぁ、まずはこの手紙を見てくれ。」

そう言われ差し出された手紙には荒々しい文字でこんなことが書かれていた。



『子供を誘拐した。返して欲しければ三番倉庫に殺傷事件の犯人を連れてこい。』



「うーむ…まだ見つかってもない犯人を連れてこいと言われてもな…」

と王が口を開いた。

それもそうだ。だが、かと言ってまだ見付かっていないなど言えば誘拐犯は何をするか分からない。

子供を殺すかもしれないし、自ら命を絶つかもしれない。

どちらもできればさけてと通りたい道ではある。

「三番倉庫というのは?」

「あぁ、王都の外れにある倉庫だな。大きめの倉庫なのだが、今は使われていない。」

凄いな、今から仮面ライダーでも出てきそうなシチュエーションだ。

何なら俺が仮面をつけて変身して訪れてやろうか。

「なるほど。どうしますか?」

「とりあえず、俺とアレンを含めた数人で子供の奪還と誘拐犯の捕獲を行いたいと思う。そのために君を呼んでもらった。」

思ってたより思い切りがいいんだな。もっと交渉とかでグダグダするものだと思ってたが…

まぁでも、それも日本では憲法も刑法も法律が暴力を封じてきたからだったからかもしれない。

「馬車も手配できるが、どうする?」

王が口を挟んで言った。

それはもう答えが決まっている。

「大丈夫です。」

だって走った方が速いんだから。






三番倉庫は思ってたより綺麗な外観をしていた。

赤レンガで纏った大きな体は他の倉庫と並んで特に目立ってはいない。

倉庫の扉は左右に開けるタイプになっており、真ん中が少しだけ開いている。

おあつらえ向きに入ってこいと言っているようなものだった。

「どうしますか。えーと…」

「あぁ、そういえば名乗ってなかったな。俺の名前はルリだ。」

「ルリ…様?」

「ルリでいいよくすぐったい。」

「それは流石に…」

「んー…ならー…さん?」

その言葉にアレンは頷いて返事をした。

それを見て笑うルリは若い見かけのせいか、お兄さんのような雰囲気をしていた。

「それで、どうしましょう、ルリさん。」

「そうだねぇ…」とルリが考える素振りをして口を開いた。

「そうだ、アレンさ、1回一人で行ってみない?俺らも後ろからバレないようについて行くからさ。」

この人サラッと恐ろしいこと言ってないか?

「一人…ですか?」

「ほら、アレンまだ子供でしょ?俺でも流石に子供が目の前に来たら驚異のある敵だとは思わないよ。」

なるほど。そう考えれば理にかなっている。

「わかりました。殺す必要がなければ殺さないでいいですね?」

もちろん。とルリが微笑んで言った。

なんだか軽い言葉で信じられないと言えば信じられないが、信じないことには何も始まらない。






「ルリ様、本当に大丈夫なんですか?子供にそんな役…」

第2兵隊の兵士がルリに尋ねた。

その言葉に、ルリはとうに歩いていったアレンの背中を眺めながら真面目な顔で答えた。

「多分彼、俺より強いよ。」

その言葉に、第2兵隊の兵士らは笑った。

その笑いに対して、ルリは特に何も言わなかった。

それでも、本当にルリはそう思っている。

13歳が教官になると聞いた時、俺は目が飛び出そうなくらいにビックリした。飲んでいたお茶をリアルに吹きこぼして。

13歳に務まるような大役では無いし、それをはいそうですかと易易うけいれられるわけもない。

だからずっと疑っていた。

今日、会議で会うまで。

会議で会った時、久しぶりに鳥肌が立った。

寒かったわけでも、疲れていた訳でもない。

たたただ、純粋な恐怖に駆り立てられた。

正直のことを言えば、あの会議で例の13歳の教官が来ると聞いた時、彼が来る前の会議室は殺気に満ちていた。

そりゃそうだ。あの会議室にいる教官兼兵隊長らは1人を覗いて途方も無い努力を積んであそこにいる。

そんな人達が、何処の馬の骨かわからないぽっと出の13歳を許すわけが無い。

かく言う俺もそうだった。

会議中ではあるが、どうやって彼に現実を教えようかを考えていた。その役職は君に相応しくない、と。本来もっと努力を詰んだものが持つものだと。

他の兵隊長もそう思っていたんだろう。だから彼が来る前の会議室は空気が不味かった。

だが、実際に入ってきた13歳は、化け物のような子供だった。

対峙してわかるレベルの、圧倒的な魔力量と、圧倒的な自信。それが才能だったとしても、その才能を認めて自信にするのは13歳には早すぎる。

だから、俺はようやくそこでアリス第2王子の言葉を信じることにした。

いや、違うな。するしか無くなったんだ。

賢者のスキル持ち、圧倒的な魔力量、そして、13歳とは思えぬ精神年齢。

蛇が鳥に勝てないように、うさぎが蛇に捕食されるように、人間が神に勝てないように、その差は大きかった。

そんな存在を、否定はできなかった。

否定してしまえば、自分を見失ってしまいそうで、そっと心の中で納得した。

こういう化け物なんだと。

あるいは、神なんだと。

「とりあえず俺らも行こうか。彼を1人にすると泣いちゃうからね。」

そんな言葉は、ただの詭弁だ。

詭弁だと思っていても、愚かだと思っていても、どこか強がる自分がいる。

まだ、彼より優れている部分を探している俺がいる。

どこも勝てるとこなんて無いと言うのに。






アレンが倉庫に入ると、案外中は広かった。

倉庫と言うにはものが多積みされているかと思ったが、そんなことは無く綺麗に片付けられていて、1面よく見えた。

真っ直ぐ前にいる、男の姿もよく見えた。

「ねぇ。」

そう言うと、倉庫の天窓から入る光に照らされた男はビックリしたように目を見開いて言った。

「坊や、なんでこんな所にいるんだ。」

その言葉は、至極当然の言葉だったが、彼の口から出る言葉としては違和感を覚えてしまった。

立場のせいなのだろうか。

「道に迷っちゃって…その子は?」

木製の椅子に縛られた女の子を見て尋ねた。

「あ、あぁ。倒れてたから保護してるんだよ。」

どう見てもそうは見えない。

手足はロープで縛られ、口はテープで閉ざされている。

慣れてないな。

そう言いながらこちらに少しずつ歩いてくる男に尋ねた。

「おじさん、お茶、いる?」

その言葉に男は戸惑いながら答えた。

「え?あ、あぁ…今は大丈夫かな。それよりさ、おじさんは森のくまさんが好きだな。」

それから、男は森のくまさんを語った。覚えている限りの全力だったのだろう、目立った間違いはなかったが、細かい表現や文がおかしくなっていた。

大人だからだろうか、その文の違和感は、くまに恐怖心を持っているようだった。

本来、童話の中の森のくまさんに恐怖を抱くのは序盤で終わる。

少女が忘れた貝殻のイヤリングを渡すまで、その恐怖は少しばかり続いていく。

ただ、その男の語りでは、終始女の子はクマに対しての恐怖心を持っていた。

それは男の先入観から来るものなんだろう。

クマが凶暴で強くて、人を殺すことがあるという先入観を持っているからこその、文の改変だったんだろう。

その改変が意図したものでなくても、間違いなくそこに意図はあった。

「いい話だね、感動しちゃう。所で、童話を聞かせてくれたお礼にお茶を上げたいんだけど、いる?」

男は困惑しながら答えた。

「あ、あぁ、貰おうかな。」

ここで貰おうかな、と言えるのは、こちらを舐めている証だ。

だが、こちらとて茶を渡す時に近づくのを狙っているわけじゃない。

アレンが少し微笑むと、男が口を開いた。

「あれ、ここは?」

「僕の家だけど、おじさん、誰?」

アレンがそう言うと、男は困惑が解けないまま言った。

「あ、あぁそうだったね。ごめんねお邪魔しちゃって。おじさんの家はどこだったかな…」

そう言いながら苦笑する男は、見苦しく見えた。

「おじさんの家は隣でしょ。早く帰りなよ。」

「そうだったね。じゃぁまたね。」

そう言いながら、男は出口に向かって歩いていく。

その言葉に、アレンは女の子のロープを解きながら答えた。

「あ、待っておじさん。」

その言葉に、男は振り返る。

その時、アレンが手を叩いた。

すると、男は急に顔を真顔に変え、一言呟いた。

「え。」

男の見た景色は、何の変哲もない倉庫の景色だ。

ただ、彼が見た中で違ったのは、ロープの解かれた少女と、その近くにいる子供だけだった。

いや、どちらも見覚えはある。ただ、場所がおかしい。

「おじさん、明日の天気はなんだろう?」

「明日の天気…知らない。」

その瞬間、男の右足から不意に力が抜け、地面に片膝を着いた。

何が起きたのか分からず男が混乱していると、意識が飛んだ。

意識の飛んだ男は地面に横になって倒れ、アレンは男を女の子を縛っていたロープで縛り始めた。

「大丈夫?」

女の子にそう尋ねると、女の子は小さく頷いて答えた。

よかった。と微笑みながらアレンが言う。

「ルリさん、この男をお願いします。30秒経ったら意識が戻ります。」

倉庫の外に向かってそう言うと、ルリ含め第2兵隊の皆々が目を見開きながら入ってきた。

「アレン、今、何をした?」

ルリがそう尋ねると、アレンはロープを縛り付けている手を離さず、男の背中を見ながら答えた。

「理想の戦争を。」

それは、血のない戦い。

一方の圧倒的な蹂躙。

始まるまでもなくただただ知らされる圧倒的な力の差。

話し合いなんてものが通じないのなら、黙らせればいい。

それが、理想の戦争だ。

血も涙も流れない、理想の弱肉強食。









外で待機していたルリとその他の兵士は、中の様子を伺っていた。

男は間違いなくアレンを警戒していないし、アレンも疑われないようにする演技が地味に上手い。

中の会話は、聞こえない訳では無いが注意して聞かないと時々分からなくなる。

男がアレンに近づく姿を見て、アレンの動向を伺った。

この作戦は、この先のカーナにとって大事な作戦になる。

もしこの作戦が成功するのなら、戦術の幅は大きく広がり、それだけで大きな価値になる。

と言うか、このアレンという存在はあまりにもズルすぎる。

圧倒的な力を持った子供、それより恐ろしいものはあるだろうか。

油断させるには子供を使うのが1番いい。そしてその子供はあまりにも強すぎる。

これより厄介な存在を俺は見たことがない。

いるだけで兵器のようなものだ。

なんて考え事をしていると、話を聞き逃してしまった。

もう一度注意して聞くと、中から聞こえたのは会話ではなく童話だった。

これは…森のくまさんか?

なぜ、森のくまさんを?

分からない。どれだけ考えても、答えなんて出ない気がする。

そして、森のくまさんが終わると、次は男は混乱したように少し会話をしてこちらに歩いてきた。

その男とすれ違いアレンがロープを解き始める。

「え?」

そんな言葉が兵士から聞こえてきた。

いや、わかる。その気持ちも分かる。え?と言っていいシチュエーションだ。

説得したのか?今の一瞬で?

森のくまさんを語っている時間の方が交渉より長かったぞ。

有り得るのか?そんな事が…

分からない。どれだけ考えても、何を考えても。

一体何が起きたというのだろう。男は何を感じたのだろう。

「突撃…しますか?」

兵士からそんな声が聞こえた。

タイミングとしては丁度いい。こちらに歩いてくる男を捕獲するだけでいいのだから。

ただ、分からないことが多すぎる。

もしこれもアレンの策略で、まだ続いているのだとしたら?

俺らの存在は邪魔になるだろうか。

突撃することで失敗することは間違いなくない。

ただ、もう少し、アレンの物語の幕を見たい気もした。

不思議な彼が、何をするのか。

それは、好奇心なのだろう。

知りたい。彼の全てを。

何から何まで、思考まで隅々と。

例え彼の魔法が使えなくても、彼の動向一つ一つを監視していたい。

それを真似して、あわよくば本人と間違われてしまいたい。

「いや、まだこのままにしておこう。」

それは、まだ突撃しない。という意味では無い。

突撃を、辞めるんだ。

彼の壇上に上がるのは、彼の物語の幕に必要ない。

俺は、要らないんだ。

その瞬間、アレンが手を叩く音でハッとした。

彼の幕が終わったのかと思ったが、そうでも無いようで安心した。

「あの子、何者なんですか。」

それは、俺も聞きたい。

人間なのか、神なのか、或いはハーフなのか。

その瞬間、男は意識を失ったように倒れた。

その咄嗟のことに全員困惑して、目を見開きながら倉庫に入った。






「理想の、戦争?」

ルリがアレンに尋ねる。

「はい。何か気になることが?」

いや、と言って続けた。

本当に、どこまでも規格外なんだ、この子は。

「戦争に、理想も何も無い。」

それは、本心だ。

彼の舞台にケチをつける訳では無いが、戦争は戦争というもの自体が理想とかけはなれた存在なんだ。

理想は、戦争のない世界。

戦争という言葉が必要なくて、廃れて皆の記憶から無くなった世界。

それが、世界の理想で、戦争の理想だ。

「どういうことですか?」

その言葉に、今思ったことを素直にぶつけた。

「戦争に、理想なんてない。無いことが、理想だ。」

そう言うと、アレンは微笑んで言った。

「戦争は悪いことじゃありませんよ。それが最善手の時だってある。

ただ、皆、その使い方を間違えているだけだ。

暴力が1番というわけでも、人の命が失われることが良い事だと思ったことは1度もありません。本当に。

ただ、戦争という手段はある時は最善手になる。

みんな、使い方を知らないから殺し合いが起きるんです。

本当に戦争を使うべきなのは、神と人間、微生物と大型動物です。

勿論どちらがいなくなってしまっても困りますが、それだけ大きな戦力差があれば、弱者は攻撃を辞める。

その戦いが何かを殺すためのものであるなら、それは戦争とは呼ばない。虐殺だ。

戦争というのは、本来、話し合いの手段なんです。言葉と言葉の殴り合いが、いつの間にか武器になっていたもの。」

理解ができないわけじゃない。

そう言われればそうだな。なんて思ってしまうし、でも心のどこかでそれは違うだろと否定したい自分もいる。

難しい問題だ。

「とりあえず、この話はまた今度ゆっくりお茶でも飲みながらにしましょう。男をお願いします。女の子は家に返してあげましょう。」

「あ、あぁ、そうだな。」









それからトントン拍子に事は進んで行った。

男は殺傷事件に巻き込まれた関所の従業員の生き残りだったようで、精神的に不安定だったんだろう。

女の子の方は無事に家族の元に帰ることができ、手を繋ぎながら仲良く帰っていった。

「ブラックドラゴンの時もそうだったが、アレンくん、なにか隠してるでしょ。」

副学長室でアリスにそんなことを尋ねられた。

「別に隠してるわけじゃないです。誰も聞かないから言ってないだけです。」

「なら聞いたら教えてくれるのか?」

「嫌です。」

「ほら。」

はぁ…と副学長がため息をついて言った。

「別に言わないのは勝手だが、そんなに信用されてないのか俺は?」

「信用してますよ。」

「なら教えて。」

何ともめんどくさい。メンヘラの才能がありそうだ。

「賢者のスキルで作った魔法の1つです。『ドミノ』この魔法は洗脳系の魔法で、自分で設定した項目を対象者が行うとその効果を発揮します。」

「なんだかピンと来ないが…つまり?」

「そうですね…例えば、ドミノ1番の設定項目はこうです。

『天気に関する質問に答えなかった場合、2番に進み、答えなかった場合3番に進む。』また、2番は『右目の視力を30秒奪う、4番に進む。』と言った具合に、1個の設定項目がクリアされれば後はドミノのように勝手に魔法が発動します。」

その説明に、アリスは苦笑いして答えた。

「なんか…結構チートじゃない?」

「いや、そうでも無いですよ。1人にしか使えないし、無視されてしまえば発動する効果も発動しないので。それに、暇なんですよね、この魔法。」

正直、強いと思って作った魔法は、馬鹿みたいに強かった。

だが、それゆえの弊害もあった。

無双するという目的ははたしているのかもしれないが、正直これだと果たしている気がしない。

暇すぎるんだよ。

だから使うのは相手を殺したくない時だけにしている。

それに魔物相手には意味無いしね。

あっ。とアリスが何か思い出したように手を叩いた。

「そう言えば、第4兵隊長が最近殺傷事件が多いから第4区画に来て欲しいって言ってたよ。」

「第4区画ですか?確かすぐ近くでしたよね?」

「そうだね、ここから東に真っ直ぐ行けばすぐ隣の都だね。」

隣の都、都アバリス。

「第4兵隊長のことよく知らないんですけど、どんな方なんですか?」

そうだね…とアリスが顎に手を当てて答えた。

「サヤと言うんだけど、唯一女性の兵隊長だが、男より男気があるというか、アホというのか…ちょっと困るかもしれないな。」

なんだか面倒くさそうな人がいるんだなつまり。

正味行きたくは無いが、仕事である以上行かないという選択肢は無いし、この事件が解決しないことにはゆっくりご飯すら食べられない。

アレンが苦笑しながら言った。

「ま、まぁ…とりあえず行ってきます…」






第4区、都アバリス。

人口200万人ほどの都で、冒険者ギルドが多く、それに伴い冒険者が多いことから冒険者の都とも呼ばれることがある。

アレンは都アバリスの王都側の端にある第4兵隊駐屯地に訪れていた。

コンコンッという音が響く。

その扉の音に反応して中から一人の女性がドアを開けた。

「あぁ、アレンくん。待ってたよ。」

待ってたよ?という事はこの人が第4兵隊長だろうか?

副学長によると第4兵隊長は女性ということだし、恐らくそれであっているんだろう。

いやでも兵隊長がわざわざ自分で扉開けたりするか?

でもでも待ってたよって言ってたし…

いやでも兵隊長だぞ?

そんなことを考えていると、扉から出てきた女性が言った。

「何考え事してるんだ。早く中に入れ。」

「え、あ、はい。すみません…」





中は以外に綺麗で一瞬副学長室に似ているかなと思ったが、本が置かれてなかったり長机の真ん中が横長にガラスだったりと、趣味とか何だとかが少し違っていた。

「えっと…サヤ第4兵隊長…ですか?」

そう尋ねると、長机を挟んで反対側の椅子に座った女性が答えた。

「そうだ!私がサヤだ!アレンくん、歓迎するよ。ようこそ第4区へ!」

今まであったどの人よりも元気で少し困惑してしまうが、これくらい元気があった方がなんとなく気持ちが楽な気もする。

「所で、殺傷事件が多いと聞きましたが、今どのような状況ですか?」

アレンがそう尋ねると、サヤは真面目な顔に切り替えて言った。

「ここ2週間で4回だ。うち17名が亡くなった。」

4回…兵隊がパトロールしてるのにその回数は多すぎるな。

「発生場所など何か共通項は見つかりましたか?」

「今はまだ詮索中だ。ただ、本当に少人数の関所だけを狙っているようで、配備していた兵士達も諸共やられてしまった。」

兵士まで…結構手練がいるんだな。

「第4区の殺傷事件が起きた場所を印した地図を貰っていいですか。」

「あぁ、もちろん構わないよ。」

そう言って、自身の机の引き出しから地図を出して長机に置いた。

「この赤いバツ印が発生場所だ。1回目は北西の関所。2回目は1回目の関所に1番近い関所。3回目は最東の関所。最後は南西の関所だ。」

これだけ見ると、全くもって手がかりなんてない。

ただ、狙っているのが都アバリスと他の都との境界部の関所が多いということだけだ。

ただ、都アバリスは冒険者の都でもあるため、他の都に行くための関所が明らかに多い。

このせいで次の関所の場所が分からずにいるんだろう。

そもそも、目的は何なんだ。関所だけを狙った連続殺傷事件。

ただ一つわかるのは、殺しを楽しむだけの事件ではないということ。

何者かが確実になにか目的をもって行っている。

待てよ。もしかすればそれ自身が目的じゃないのかもしれない。

考えろ。頭を動かせ。

熟考した後に、アレンが口を開いた。

「そうか。そういう事か。」

「なんだ?なんか分かったのか?」

もし本当にそうであるのなら、やることは決まっている。

「北東の関所に向かいます。案内をお願いします。」

「北東?何故だ?」

「理由は後で!とりあえず早く!」

時間に余裕があるか分からない。だからとにかく、とにかく早くしないといけない。

サヤが頷いて答えた。

「分かった。行こう。」






北東の関所に着くと、まだそこは何も起きていなかった。

「お疲れ様、何か変わったことはあるかい?」

「いえ、特には。」

サヤが関所の人間の近況報告を聞き終わると、アレンに話しかけた。

「特に何も異常はないみたいだよ。どうしたんだ急に?」

何もないということは、まだこれから起きるのか、俺の考察が間違ってたのか。

「西には何がありますか。」

「西?カーナの?」

「はい。」

「山があるね。西から北東にかけて。それから少し進むと王都だ。」

そう。それが問題なんだ。

「バゼルはその西側ですよね。」

「あぁ。そうだが。」

「バゼルの予想される進路は、山を少し迂回して入ることなくカーナに攻め入ることです。最初に西の関所が狙われていたことから、特にそれに対して疑問を持つことは無かったです。ただ、それにしては分かりやすすぎる。

この関所の殺傷事件が防衛力の低下や偵察部隊の行動のしやすさを目指しているのなら、無くす関所は1つでいい。ましてや軍隊がで来るとなれば、少人数の関所なんて無視してしまえばいい。

ただ、恐らくバゼルが狙っているのはそうじゃない。

バゼルが通る道は、西の山の端なんかじゃない。北東の山の端だ。

ただ、大勢で移動するのも時間がかかる。そのために少人数にしなければいけない。

そして、少人数であるならできるだけ奇襲できることが好ましい。

だから西の関所に攻撃を集中させた。西に戦力を偏らせるために。」

あぁ。とサヤが言った。

サヤが見ていたのは、アレンではなく、窓の向こう側に見える草原から歩いてくる集団だった。

「君の言っていたことは正しかったようだ。」

その草原の先にあるのは山。

つまり、先陣部隊だ。

ただ、気がかりなのはもう1つの部隊だ。

連続殺傷事件を起こしたはずの部隊がまだ都にいる。

とりあえず、今やるのは目の前の敵と戦うことだ。

「よっしゃやるぞ!」

そう言ってサヤが飛びして行った。

動くのが早いな…もう少し中にいてもいいのに。

「皆さんはここで待機です。俺らが死にそうだったら逃げてください。決して目を離さないように。」

その後を追ってアレンも外に出る。







草原に立つ人数はアレンとサヤを抜き8名。

2vs8。

「久しぶりだねゼノ。」

真ん中にいた男に向かってサヤが話しかけた。

「久しぶりですね。ホントに。」

なんだ?知り合いなのか?

「彼は元々第4兵隊の兵士だ。ただ、2年前、急にバゼルに寝返った。」

サヤがアレンに向かって言った。

「強いんですか?」

「強いよ。私よりは弱いけど。」

「ならよかった。俺一人で8人は泣けちゃいます。」

「余裕なくせに。」

バレた?なんてことは言わないでおいた。

「ゼノ、今ならまだ間に合う。引き返せ。」

その言葉に、ゼノは笑って答えた。

「引き返せ?何馬鹿なこと言ってるんですか。貴方と子供一人に私たちとどう戦うんって言うんですか?」

なんだか舐められているような気もする。

「すぐわかるよ。」

その瞬間、先程までサヤがたっていた場所に土煙が立った。

見るとサヤとゼノが剣を互いに交えている。

「アレン!他は任せた。こいつは、私がケジメをつけないといけない。」

そりゃそうだ。第4兵隊長としての責務だ。

「分かりました。」






『身体強化・極』

この魔法もだいぶ慣れてきたな。

何回やっても視界がクリアになる感じが楽しくて飽きない。

アレンの目の前にいるのは、本当に7人の敵兵だった。

子供相手に丸々7人かよ…

それでも、相手は大分舐めているようで、こちらを見て笑いながら言う。

「僕、ここは危ないから帰ろーねー。」

「そうだよー。ここにいると死んじゃうよ〜。」

中学生か?

戦場では舐めるな油断するなって言われなかったのか。義務教育で習うことだろ。

「何でもいいからさ、おじさん達早く。暇だよ俺。」

そう言うと、1人がアレンに向かっていった。

「僕、そんな言葉使っちゃダメだよ。ほんとに死んじゃうよ。」

ここまで来るとほんとに心配されているのかと不安になってくる。

焦れったいのでアレンが敵の1人の男を殴った。

その男が飛んで行ったのを追いかけて、追いついた時に地面に向かって叩き落とす。

敵兵達は何が起きたのか理解できないような顔でこちらを見て、は?と言葉を零していた。

「だから早くって言ったじゃん。」

「お前ぇぇぇぇぇ!!!!!!」

叫んだ男から魔法が飛んでくる。

中等か。

『創造魔法、インタフィア』

その瞬間、敵が放った魔法が消滅した。

え。と言う声が聞こえてくる。


『ドナー』


その瞬間、魔法を放った男は雷に撃たれた。

雷と言っても、その実は魔力の塊で、性質上そう見えるだけだけど。

あと5人。

敵兵の3人が少し広がりながら同時に走ってくる。

アレンも同時に走り、真ん中にいる男に拳を振ったが避けられ、右から剣が振られる。

その剣を魔力弾で打つと刀身が2つに折れる。

後ろからも剣が飛んできたので、それをしゃがんで避け、剣を振ってきた男の足を払う。

遠くにいた2人の敵から魔法が飛んでくる。

『グレイス』

『フレア』

2つの魔法を相殺し、足を払って転んだ男の首を手刀で払う。

あと4人。

すると最初に拳を避けた男と刀身を折った男が左右から挟んで剣を振る。

刀身が折れていない方の刀身を捕まえ、体を90度回転させて刀身をおった男に刺す。

その剣は男の首に刺さり、抜くと血が吹き出た。

あと3人。

仲間を自分の意思ではなくとも殺してしまったからか焦った男が再度剣を振ってくるが、その剣を避けてお腹に1回魔力弾を当てると、苦しそうに腹を押えながら倒れた。

その姿がなんだか面白くて笑ってしまいそうになるが、まだ3人いる状況で笑える状態でも無いので、目の前で倒れている男を蹴り飛ばし気絶させる。

あと2人。

先程魔法が飛んできた場所に目をやると、1人しか居なかった。

1人?もう1人はどこいった。

その瞬間、後ろに気配を感じて咄嗟にしゃがんで拳を避けた。

しゃがんで反撃できないことを良い事に、敵がアレンを蹴るために足を動かした。

『ドナー』

その足を吹き飛ばし、男が倒れたところで先程の1人から魔法が飛んできた。

その魔法を防ぐことはなく、衝突し土煙が舞った。





「やったか?!」

先程まで子供がいた場所には土煙が蔓延し、中の様子がよく見えない。

ただ、先程使った魔法は上等魔法だ。まともに食らって生きていられるわけが無い。

自身で敵を殺したということに今は恐怖ではなく快感を覚えた。

戦場という地獄で、唯一の娯楽を見つけたようだった。

別に人を殺すのが好きなわけじゃない。というか嫌いだ。

どうも血生臭くて、どうしても無駄に思えてしまう。

だが、今はあの子供を殺せたことが嬉しかった。

あの子供に、最低でも5人は殺された。

足を吹き飛ばされているのは生きているか分からないが、恐らく生きているだろう。

とりあえず、今は彼の止血だ。

そう思い、土煙が立っている場所に近づくと、右足が動かなくなった。






土煙の中から伸びた一縷の魔法が男の右足を貫通する。

それが痛かったのか、男は悲鳴をあげながら倒れ込んだ。

「おま…え…!!!」

そんな声が掠れながら聞こえた。

何だ?勝ったとでも思っていたのだろうか。

アレンが男に向かって歩き、髪を掴んで頭を上げる。

男の目に映ったのは、子供ではなかった。

いや、子供なのだが、それは子供に見えなかった。

そして、その奥には頭が無くなっている死体が転がっていた。

残り1人。

「殺せよ。」

男が髪を掴まれたままそう言った。

「うん。殺すよ。ただその前に。お前らはどれだけ油断すれば気が済むんだ。馬鹿なのか。敵を舐めて今何人死んだ。戦場で敵を舐めるな。蟻1匹ですら脅威だと思えよ。」

それは、八つ当たりのようなものだったんだろう。

死ぬことに変わりは無いが、油断さえしていなければもっといい死に方を出来た兵士だっている。

それは、恐らく悔いるべきことじゃない。

死した人間が、こうするべきだったと思うことはできない。

だから、悔いる前にできるだけ最善策を取っておくんだ。

それが欠けていた敵兵に、正直言えばイライラする。

やらなければいけない殺し合いだった。

いつかは衝突する2勢力のぶつかり合いだった。

ただ、ただ。

ただ、もっとマシな形があった。

「そうだな。」

そう言う兵士の顔からは、涙が流れていた。

その涙は、色々あるんだろう。

家族とか、後悔とか、恐怖とか。

人間には制御のしようも無い感情の全てがそこにあるんだろう。

だから、なるべく。なるべく丁寧に、



首を跳ねた。












「ゼノ。君には尋ねたいことがいっぱいあるよ。」

そう言うと、ゼノは微笑んで言った。

「何でも聞いてください。」

その言葉に、深く考えるつもりは無い。

だから、淡々と、事実を確認する。

「君は、カーナを裏切った。そうだね。」

「はい。間違いないですね。」

「君のしていることは、到底許されることじゃない。処分は、分かるね。」

「はい。もちろん。」

どちらの言葉も淡白で、浅い言葉が飛び交う。

そうか。とサヤが深呼吸をして今度はできるだけ丁寧に言った。

「カーナ王国第4兵隊、隊長サヤ・ハリイの名において、ゼノ・チャールの死刑を執行する。」

そう言いながら、サヤは刀を抜いた。

「はい。よろしくお願いします。」

それを見て、ゼノも刀を抜いた。


『身体強化・極』


サヤがゼノに向かって走る。

刀と刀がぶつかり合う音が辺りに響き渡る。

「なぜ、裏切った。」

サヤが刀を交えながら尋ねる。

それにゼノは刀を弾いて、何回もサヤの攻撃を受け流しながら答えた。

「特に理由は無いです。」

「そんなことがあるわけが無いだろ。」

人間、行動するには何かしらの理由がある。

それが気分であれ何となくであれ、それが理由になる。

今まで防戦一方だったゼノが攻めに転じて、サヤが後ろに飛んで距離を取る。

「そうですね…確かに理由がないというのは妙な話だ。」

その瞬間、ゼノがサヤに向かって刀を振る。

速いな…2ヶ月でこんなに成長するのか。

右からも左からも来る刀を一つ一ついなしていると、ゼノが口を開いた。

「強いて言うのなら、天気が晴れていたからですかね。」

「は?」

そんな言葉がサヤの口から零れた。

今、なんて言った?

天気が晴れだからって言ったのか?

「天気が晴れなら、裏切るのか。」

喋りながら振ってくる刀一つ一つが重く速い。

何だか、兵隊長を相手してるみたいだ。

元々、ゼノは強かった。

第4兵隊でも指折りの強者だったが、これほど強かった記憶は無い。

それと、昔から何を言っているのか分からないやつではあった。

「俺に意味なんて分かりませんから。」

それから振ってくる刀は先程よりも更に重く、辺りに大きな音が鳴り響いた。

「どういうことだ。」

「そのままの意味です。意味なんてものはあとから着いてくるんですよ。今はまだ何も終わってない。俺がしたことに意味があったか。それは未来が決めます。」

難しい話はよく分からない。

生まれてから今まで、そんなに難しく物事を考えたことなんてなかった。

何でもなるようになると思っていたし、それについて一々うじうじ考えているのは性にあわなかったんだろう。

意味が先なのか後なのか。人を殺す理由は何なのか。戦争が産むものはなんなのか。

そんなことを色々無視してきた。

サヤがゼノに向かって走る。

振った刀をゼノは刀を縦にして受け止め、いなしてからジャンプする。

そのジャンプした足を掴み、地面に向けて思いっきり振り回す。

ゼノが倒れた場所に土煙が上がった瞬間、まだろくに上がってもない土煙の中から刀が一直線にサヤに向かって伸びる。

その刀を体を傾けて避けると、避けた方向に合わせて刀が振られる。

その刀を刀を縦にして防ぎ、吹き飛ばす。

「あれ、向こう終わっちゃいましたね。」

その言葉に反応してサヤがアレンの方を向く。

そこに広がっていたのは、わずか13歳という幼い子の周りに出来た血の湖だった。

本人も返り血で濡れ、静かに空を見ている。

手を出しに来ないのは、彼の優しさかな。

それはとても有難い。

彼は、彼だけは私が殺さなければいけない。ケジメとして。

はぁ…とため息が聞こえ、サヤがゼノの方を向く。

「なら、僕はそろそろ帰りますね。彼とはできればやりたくない。」

「おいおい逃げるのか。」

「えぇ。全力で。」

「私から逃げられると?随分生意気になったものだな!」

そう言って振った刀をゼノは片手で持った刀で受け止めて言う。

「またすぐに。」

その瞬間、辺りに煙幕が炊かれ、視界を奪われる。

ぶつかっていた刀の感覚が抜け、ゼノが逃げたことが理解出来た。







「アレン。お疲れ様。」

空を見ながら呆ける13歳の少年は、そう声をかけられてもその目をやめなかった。

「アレン?」

2回目に声をかけてようやく気がついたようで、アレンがサヤに目を向けて言った。

「あ、あぁ。お疲れ様です。大丈夫でしたか?」

「怪我という怪我はしてないが、すまない。逃げられた。」

「そうですか。なら王都に報告しに行きましょうか。」

そう言って王都に向けて走ろうとすると、あ…とサヤが言ったので振り返る。

「ん?どうしました。」

「あ…えっと…アレンは何も気にしないのか?7人も相手にしてもらったのに結果逃げられるって…」

なんだ。そんなことを気にしていたのか。

副学長が言ってた人柄と全然違うな、誰かと間違えてたのか?

「別に、何も気にしないですよ。サヤさんが生きていてくれて良かったです。」

それは、本心だ。

味方が死ぬのは正直めんどくさいし、それが兵隊長となるともっとめんどくさい。

それに、ゼノという男は強かった。見て分かる。

きっと、サヤさんよりも。

「さ、帰りましょう。」

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